精神障害者

【精神障害】 病棟転換型居住系施設、基本容認で合意されてしまいました

【精神障害】 病棟転換型居住系施設、基本容認で合意されてしまいました

障問連事務局

すでにご存じのとおり、7月1日に開かれた第4回「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会」のとりまとめにおいて、精神科病院の敷地内に生活の場を設け、そこに「長期入院」患者を移すことによって「地域移行」を果たすことにするという方向が推進されてしまいました。6月26日、精神障害当事者を中心に3200名もの人々が集まり、この方向に反対しましたが、その声を軽視する形になってしまいました。

多くの声がその問題点を指摘するように、同じ敷地内に別の棟を使って、そこに移転させることで「地域移行」が果たせた、などと言うのは誤りです。それは「病院内施設」に他なりません。また、別の棟の別のスタッフが担当するとはいえ、病院内における医者と患者の主従関係が完全になくなるわけでもありません。そして、まさにそういった懸念を持って過ごさなければならないことが、障害者権利条約第19条で保障されている「自立生活と地域で誰もがあたりまえに生活できる環境」を達成させないものです。つまり、この「病棟転換型居住系施設」の発想そのものが、障害者権利条約に違反していると言えます。

この決定を受け、7月10日には和歌山弁護士会では、「社会的入院の解消は喫緊の課題であるが、入院患者の退院は、本人がかつて暮らしていた地域社会へ現実に移行することが最も重要である。精神科病棟を居住系施設に転換しても、入院患者の居場所は変わらず、結局、地域社会と隔離された状態が続く可能性が高い」として、病棟転換型居住系施設に反対する会長声明を出しています。障問連としても、一連の厚労省の動きに対して、精神障害者の本来の「地域移行」のあるべき姿とはかけはなれたものとして、反対の声を挙げ続けていきたいと思います。

 

緊急声明

病棟転換型居住系施設について考える会    2014年7月3日

厚生労働省で昨年来開かれてきた「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会」(「精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会」から改称)は、2014年7月1日、精神科病院への患者の囲い込みを続ける、きわめて深刻な人権侵害であるという強い意見を圧殺し、ついに病棟を転換し居住施設にすることを容認する具体的な方策を取りまとめた。

今回検討会でまとめられた具体的な方策が病床削減を実現するものとする考え方は、まったくの誤りである。病棟を転換し「病床を削減した」などということは絶対に許されてはならない。提案された病棟転換施設が精神科病院へ患者の囲い込みを継続させ、障害者権利条約、例えば第19条“自立した生活及び地域社会への包容”、特に同条(a)“特定の生活施設で生活する義務を負わないこと”等々数多くの条項に違反するものであることは明白である。当会では、本年5月20日の議員会館で院内集会、6月26日には日比谷野音にて3,200人の障害当事者や家族、現場の関係者を中心とする参加者と共に緊急集会を開催し、病棟転換に反対する緊急アピールを採択して厚生労働省に申し入れを行ってきた。しかしながら、構成員の大半が医師やサービス提供者で占められた検討会において病棟転換を容認する「具体的方策」なるものの取りまとめは強行された。私たちは、このことに対し厳重に抗議する。

検討会取りまとめの文書では「障害者権利条約に基づく精神障害者の権利擁護の観点も踏まえ」、「不必要になった建物設備等の居住の場として活用」することが記載された。そもそも「障害者権利条約に基づいて病棟を転換する」ことなど論理上有り得ないことであり、「病棟を居住の場にすること」はあってはならない。権利条約はそのようなことを求めていない。私たちは国際社会から一層の非難を重ねることになる人権侵害の道を歩み始めるこの政策について断固として中止を求める。

それはいかなる条件付けを行おうとも歩み出してはいけないものであると確信する。

また「検討会取りまとめ文書」で提案された試行事業について「この事業を自治体と連携して試行的に実施し運用状況を検証すべき」と記載されたが、試行事業そのものも実施すべきではない。

なによりも、このような精神障害当事者に関る重要施策が、25人の構成員のうち精神障害者2人、家族1人、一方で医師は半数以上の13人という偏った構成の検討会において決定がなされたことについて、その正当性につき重大な疑義が生じている。今後、国や自治体において障害者施策を検討する委員会等においては、少なくとも半数以上を当事者・家族委員とし、当事者・家族の意見が反映されるよう強く求める。

私たちは、引き続き、わが国の大多数の良識ある普通の人々と共同し、過剰な病床を抱える精神科病院の延命と福祉の名を借りた新たな隔離施設をつくり出そうとする本事業が撤回されるまで行動を続けることを決意する。

 

新聞記事

福祉新聞 201477日「病棟転換に反対 当事者抜きと批判も」

http://www.fukushishimbun.co.jp/topics/4713/2

 

長期入院解消のため、精神科病棟を居住施設に転換する案を含む報告書が厚生労働省の検討会で取りまとめられるのを前に、6月26日、全国から約3200人が集まる反対集会が都内で開かれた。集会後は「病棟に手を加え看板を『施設』と掛け替えても、そこは地域ではない」と反対するアピール文を厚労省に提出した。

呼び掛け人の一人、長谷川利夫・杏林大教授は「入院している人たちを、そのまま病院に居住させることになる」と転換案を批判。転換によって、数字上は入院が減り地域に帰れた人が増えたかのように見えても、根本解決にならないという。障害者団体や家族会も「病院は家じゃない」「地域に帰るための支援態勢こそ整えて」などと反発している。

集会中、リレートークでは、長期入院の経験者らが思い思いにステージで発言。「もっと早く退院できていたら人生はもっと楽しかっただろう。電車の乗り方もインスタントラーメンの作り方も分からなくなっていた」「入院生活はプライバシーや自由がないのがつらい」などと語った。

厚労省での議論が、入院を経験した人や今も退院できずにいる人の意向を十分に踏まえず進んだことに対する批判も強い。検討会委員25人のうち2人しか精神障害当事者はおらず、精神科病院の経営者らの声が大きかったからだ。

議論の材料にするため厚労省が5月に提示した患者意向調査の結果では「病院の敷地内にある住まいになら退院したくない」「退院して良かったのは自由があること」という回答も多く挙がっていた。

 

 

福祉新聞 201477日「精神病床を削減へ 病棟から居住施設への転換を容認」

http://www.fukushishimbun.co.jp/topics/4713

 

長期入院する精神障害者の地域移行に向けた具体策を考える厚生労働省の検討会(座長=樋口輝彦・国立精神・神経医療研究センター総長)が1日、退院を強く促し病床を削減する方針の報告書をまとめた。批判の強まっていた精神科病棟を居住施設に換えて使う案については、認める条件を厳格にした上で試行的に実施することにしたが、容認すること自体が障害者権利条約に反するのではないかという指摘が残った。

検討の背景には、2004年に「社会的入院の解消」を掲げて改革ビジョンを策定したものの約32万人が入院、うち1年以上の長期入院が約 20万人も占める現状がある。毎年、約5万人が退院しても、入院が1年を超え新たに長期入院となる人も約5万人いる。高齢者と死亡退院も増えている。

検討会がまとめた将来像は、入院している必要がない人たちを地域に帰す働きかけを強めること。退院意欲を喚起し、外部との交流を進め、地域生活に慣れるため の訓練も充実させる。この取り組みによって、増えすぎた精神病床を減らす。

一方、病床削減により不要な病棟が出てくるため、これをグループホームなどの居住施設に転換することを条件付きで認める。

精神科病院経営者などは「どう働きかけても退院できない人は残る。地域移行のステップとして転換施設は選択肢の一つ」と主張したが、精神障害当事者や家族などは「病院が患者を抱え込むことになり、隔離収容政策が続く。病院敷地内に住まいを造ることは権利条約違反になる」と最後まで強く反発。

紛糾の結果、まとめ方としては「今回の措置は現在長期入院している人を対象とした例外的なもの」「権利条約に違反しないよう、認める条件は厳格にする」「まずは試行的に実施し、運用状況を検証する」などとした。

今後、厚労省は、病院との明確な区別、本人の選択や外出の自由の保障、利用期間の制限、プライバシーの尊重など具体的な条件や、障害福祉サービスの15年度報酬改定でどう対応するかなどを検討する。

 

 

読売新聞 2014713日社説「精神医療改革 社会的入院の解消を図りたい」

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20140712-OYT1T50153.html

 

入院中心の治療から、在宅療養を支える体制へと、精神医療を転換させることが急務である。

経済協力開発機構(OECD)が、日本の精神病床数は、人口当たりで加盟国平均の4倍に上っているとする報告書をまとめた。先進諸国で在宅療養が広まる中、「脱施設化」が遅れていると指摘している。

国内では、34万の精神病床に32万人が入院し、このうち20万人が1年以上の長期入院だ。入院期間は平均約300日で、2週間前後の先進諸国との差が大きい。

入院の必要性が低いのに、退院後の行き場がないため、病院にとどまる患者が少なくない。長い入院で生活能力が低下し、退院が困難になる例も多い。こうした社会的入院を解消する必要がある。

日本では戦後、隔離収容型の精神医療政策の下、補助金を出して民間の精神科病院の開設を促した。少ない医師数で多数の入院患者を受け持つ特例も設けた。社会的入院が増加した背景である。

政府は、2004年に「入院から地域へ」の転換を打ち出し、10年間で7万床の病床削減目標を掲げた。だが、この間の削減数は1万床程度にとどまる。収入減を嫌って病院側が消極的なためだ。

今年4月には、新規の入院患者を1年以内に退院させる体制や、在宅患者の支援体制の整備を掲げた精神医療の指針が示された。

入院は重度患者に限り、他の患者は住み慣れた地域で暮らし続ける。その方向性は適切である。

課題は、長期の社会的入院患者の退院をいかに促進するかだ。

厚生労働省の検討会は、病床の一部を居住施設に転換することを認める報告書をまとめた。退院の意欲が低い患者の受け皿にして、病院の経営にも配慮しながら病床削減を進めるのが狙いだ。

しかし、居住施設への転換には、「看板の掛け替えに過ぎない」といった批判が強い。病院の敷地内に囲い込まれるという患者や家族の懸念は、理解できる。

報告書では、患者本人の選択の自由を確保し、入居期間の規定を設けることなどを転換の条件とした。利用者を現在の長期入院患者に限定する案も示した。

あくまでも例外的な施策と位置づけ、患者が確実に地域社会に戻れるよう制度設計すべきだ。

患者の地域生活を支えるには、生活保護費などの金銭管理の支援や相談体制の充実が欠かせない。アパートやグループホームなどの確保も重要だ。自治体と医療・福祉機関の連携が求められる。

 

 

中日新聞2014728日朝刊 精神医療「脱施設」進まず

http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20140728165144584

 

先進34カ国が加盟する経済協力開発機構(OECD)は、各国の精神医療に関する報告書をまとめ、日本の精神科病床数はOECD平均の4倍で「脱施設化」が遅れていると指摘した。

報告書によると、2011年前後のデータに基づく人口10万人当たり精神科病床数は、OECD平均で68床。それに対し日本は269床と突出しており、加盟国中で最も多い。

多くの病床が長期入院者で占められていることにも触れて「患者の地域生活を支える人的資源や住居が不足している」と指摘。精神障害者に対する社会の認識を変える必要があるとした。

年間の自殺率も、OECD平均の10万人当たり12.4人と比べて日本は20.9人と高く、「要注意」と警告。地域医療を担う全ての専門職に精神分野での能力を向上させるよう検討を求めた。

報告書は、厚生労働省が今月決めた精神科病棟の居住施設への転換容認には触れていないが、エミリー・ヒューレット担当分析官は「どんな 変更であれ、患者の意思が何より大事だ。病床削減は多くの国が苦労してきたが、長期入院の患者であっても支援態勢があれば、自立して地域で暮らせる可能性がある」と指摘している。

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