優生思想

【尊厳死法案】 院内集会行われる・関連新聞記事

【尊厳死法案】 院内集会行われる・関連新聞記事

野崎泰伸(障問連事務局)


前号に引き続きということになります。去る522日(木)、参議院会館にて「「尊厳死」法制化を考える院内集会」が行われ、法制化に懐疑的、批判的な人たちが集まり、議員たちにレクチャーを行った模様です。議員からは、山井和則議員(民主党)、川田龍平議員(結いの党)、山本太郎議員(新党ひとりひとり)、阿部知子議員(みどりの風)、福島みずほ議員(社民党)らの参加があったようです。

集会では、フリーライターの児玉真美さんが講演を行われ、海外の安楽死・尊厳死の動向も参照しながら、死なせることの根底にあるのは「どうせこのような状態なら生きていても仕方ないのだから、治療を行わず死なせるほうがよい」という考えであることを述べられたようです。障問連としても、尊厳死法制化が優生思想につながるものとして、懐疑的な観点から注視しています。尊厳死法制化への流れを「説得力あるもの」として、この間の社会保障削減、医療介護の切り捨て、難病患者の自己負担増など一連の政策が行われているととらえたとき、これらの「狙い」が「生きるに値しない者」の生を早くに終わらせるためのものとして考えるのは、そううがった見方でもないように思われます。

《参考》

・「尊厳死」法制化を考える院内集会 ~海外の動向から日本の法制化議論を見る~ 20140522)に関するつぶやき http://togetter.com/li/670486

・尊厳死法制化を考える院内集会に出席/NPO法人 筋痛性脳脊髄炎の会(ME/CFSの会)

http://mecfsj.wordpress.com/2014/05/25/尊厳死法制化を考える院内集会に出席/

・録画ライブ 尊厳死を考える会密着ライブ映像 http://twitcasting.tv/yamamototaro0/movie/65413567

 

新聞記事

■尊厳死法案 免責事項に「延命措置中止」盛る 自民PT (MSN産経ニュース、2014.5.18

自民党のプロジェクトチーム(PT)がまとめる尊厳死に関する法案に、医師の免責事項として「延命措置の中止」が盛り込まれることが17日、分かった。尊厳死を望む患者に対し、新たに延命措置を施さないことだけでなく、着手した延命措置の中断も認める踏み込んだ内容となる。

医師の免責事項をめぐっては、人工呼吸器装着などの延命措置を新たに開始しない「不開始」に限定するか、すでに実行中の措置のとりやめを含む「中止および不開始」にまで拡大するかがPTでの議論の焦点となり、素案の段階では両論併記になっていた。

ただ、医療関係者に対するヒアリングなどでは「実行中の延命措置の中止に踏み込まなければ、尊厳死の法制を作る意味が薄れる」との声が強く、「中止および不開始」の案を採用した。

条文には、免責事項として「終末期にある患者に対し現に行われている延命措置を中止すること」との文言を明記する方向だ。

これにより、患者の意思表示があれば、人工呼吸器を取り外すなどの処置をしても医師は法的責任を問われなくなる。

法案は「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法案(仮称)」。15歳以上の患者が延命治療を望まないと書面で意思表示し、2人以上の医師が終末期と認めた場合に、延命措置の中止や不開始を認める。

自民党PTは条文化の作業を終え次第、公明党、民主党、日本維新の会などと協議し、議員立法として今国会への提出を目指している。



■(命の選択)ALS患者の現場から:上 人工呼吸器、迫られる決断 (朝日新聞201458日朝刊)

人は自身の“命の選択”にどこまでかかわることができるのか。患者本人の意思を尊重して延命治療の中止を認める「尊厳死法」が、超党派の国会議員により検討されている。ひとたび人工呼吸器をつければ、最期まで外すことができない難病「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)の患者の葛藤を通して考えたい。

*家族に迷惑をかけたくない。でももっと一緒にいたい

昨年12月3日正午すぎ、滋賀県守山市の県立成人病センターに救急搬送された明美さん(60)は、肺炎で呼吸不全に陥っていた。

意識もうろうのままストレッチャーに乗せられ処置室へ。廊下に立ちつくす長女千菜美(ちなみ)さん(33)に男性医師が早口で尋ねた。

「呼吸器のこと、ご本人はどう言ってるんですか」

「お母さんはつけないって……。でも私はつけてほしい」

「ご本人はつけないと言ってるんですね」

明美さんは2006年2月、ALSと診断された。

治療法はない。運動神経の異常で徐々に筋肉が動かなくなる。横隔膜など呼吸に使う筋肉も例外ではない。呼吸が十分にできなくなり、やがて死を迎える。

診断を下された患者は、自発呼吸が難しくなると、生命を維持する人工呼吸器をつけるか否かの決断を迫られる。

専門医によると、発症後の生存期間は個人差があるが、呼吸器をつければ10~20年、つけなければ3~4年といわれる。だが装着すれば二度と呼吸器を外せない。医師など外した人は、現行法では殺人罪に問われかねないからだ。

明美さんは装着を拒否した。現在の医療現場では、本人の意思を最大限に尊重して処置する。しかし患者が意識不明に陥ったらどうするのか。装着すれば、明美さんの呼吸は戻る。千菜美さんは装着にこだわった。

決着をつけたのは、あとから駆けつけた次女(30)だった。「母からの言づてです」。医師に告げた。「万が一、お母さんが『苦しい』『助けて』と言っても、病院には呼吸器はつけないと話していたと伝えるように」

夫(60)も加わり容体を見守るなか、明美さんは呼吸器をつけないまま回復。2カ月後に退院して自宅に戻った。

家族に迷惑をかけたくない。でも愛する人ともっと一緒にいたい。ALS患者は命の選択に揺れる。

患者は全国で9千人超。日本ALS協会によると、全国の保健所を対象にした04年の調査で呼吸器を装着する患者は26・8%だった。現在も3割が装着し、7割が非装着のまま時を過ごしているといわれる。

*取り外しは困難、法制化の動きも

ALS患者が装着する人工呼吸器に限らず、胃ろうや人工透析など、医療技術の発達で多くの人が当面の死を遠ざけられる時代になった。しかし、あえてそうした治療の中止を選ぶ患者の権利を認める国内法はない。だから患者は、治療を選択するそのときに重い決断を迫られる。

実際の医療現場では、本人の意思を受けて胃ろうや人工透析を中止するケースは珍しくない。しかし呼吸器の取り外しには、医師の抵抗感が強い。

「人工呼吸器は中止が死に直結し、刑事責任の対象になりうるから」と、静岡大の神馬(じんば)幸一准教授(医事法)は言う。08年、富山県射水(いみず)市民病院の医師2人が末期がん患者ら7人の呼吸器を外したとして、殺人容疑で書類送検された。不起訴となったが、罪に問われる懸念が医師を縛る。

こうした現状を変えようと、一度装着しても外すことができる「尊厳死法案」の提出が自民、民主など超党派の「尊厳死法制化を考える議員連盟」で検討されている。

患者の対象は15歳以上で、2人以上の医師が回復の見込みがない「終末期」と判定し、書面などで本人の意思表示があれば、延命措置を中止できるという案が論じられている。議連会長の増子輝彦参院議員(民主)は「自分の死に方を選択できるようにしたい」と話す。

一方で、慎重論も根強い。日本ALS協会の川口有美子理事は「装着しない患者の中には、家族に負担をかけるのが嫌だという人もいる。公的なサポート不足を棚上げして、人間の生死が左右される現実を放置することにならないか」と話す。(久永隆一)


(耕論)尊厳死法は必要か 周防正行さん、鈴木裕也さん、安藤泰至さん (朝日新聞201459日朝刊)

・死への誘導にならないか 鳥取大学医学部准教授(宗教学)・安藤泰至さん

現代医療には、正反対の二つの方向性が混在しています。ひとつは「不死」へのベクトルです。新しい臓器に取り換えられないか。老化を止められないか。「死なせない」ための研究には巨額の予算が割かれます。

一方で、必要な治療すら受けられない患者がいる状況は深刻です。経営的に割が合わなければ重症でも追い出される。そのうえ「尊厳」の有無で線引きをし、 それ以下は切り捨てようとしています。これらは「死なせる」ベクトルです。仮に「尊厳のない状態」というものがあるとして、じゃあ、死なせてしまうしか尊 厳を保つ方法はないのでしょうか。医療やケアの問題点をそのままにして、死にたい人を死なせてあげるのが人道的という考えは危険です。

もがき苦しむ。チューブだらけで延命させられる……。「悪い死」のイメージばかりが共有されるようになっています。「そうなったら死んだほうが幸せ」と いう幻想を、医師も患者側も信じようとしているかのようです。早い段階で割り切ってしまい、「苦悩する力」が弱くなっていないでしょうか。

尊厳死というレトリックは「たちの悪い宗教」のようなものです。脅し文句みたいに「そんな姿で死にたいですか」「事前に自分の意思を表示しておけば悪い 死に方はしなくてすみますよ」とささやく。一方の手で人の不安をあおり、もう一方の手で救いを約束するわけです。意図的ではないにせよ、結果として死への 誘導になっている。

尊厳死を肯定する側は「死の自己決定権」ということを言います。米国の一部の州や欧州の中にはすでに、安楽死や医師幇助(ほうじょ)自殺を合法化したところがあり、さらに「自殺権」の主張にまで議論は拡張されています。

もともと自己決定権は米国の公民権運動のように、社会的に弱い立場の人たちが生きるうえでの選択権として勝ち取ってきたものです。それは患者の権利運動 と結びついていきました。ところが「死」を選ぶというのは、自分の可能性を開くのではなく、閉ざす決定です。しかも医療者が「死なせる」方向で患者や家族 に恣意(しい)的な説明をする恐れも捨てきれません。

日本には、患者が尊厳を持って生きる権利を保障する法律もありません。それなのに尊厳死法なんて本末転倒です。いまの医療のあり方や制度を前提にして発想してはいけません。広い意味での医療文化を根本から変えていくことが先のはずです。(聞き手・磯村健太郎)


■医療介護の制度改正案 野党抗議のなか可決 (NHKニュース、514日)

一定以上の所得がある高齢者を対象にした介護サービスの自己負担の引き上げなど、医療・介護分野の制度改正を盛り込んだ法案の採決が衆議院厚生労働委員会で行われ、審議が不十分だとして野党側が抗議するなか、自民・公明両党の賛成多数で可決されました。

14日の衆議院厚生労働委員会では、一定以上の所得がある高齢者を対象に、介護サービスの自己負担を今の1割から2割に引き上げることや、医療事故で患者が死亡した場合に、国が指定した民間の第三者機関が調査を行うことなど、医療・介護分野の制度改正を盛り込んだ法案の審議が行われました。この中で、安倍総理大臣は、「いわゆる『団塊の世代』が要介護対象者となっていくなか、さまざまな改革を行う必要がある」と述べるとともに、医療事故の調査に関連して、「同じ原因で人の命が失われることがあってはならない」などと指摘し、法案の重要性を強調しました。

このあと与党側が質疑を打ち切るよう求める動議を提出し、民主党など野党側が審議が不十分だとして抗議するなか、採決が行われた結果、法案は自民・公明両党の賛成多数で可決されました。


■難病助成、安定へ道筋 対象300疾患、150万人に 新法きょう成立 

(朝日新聞デジタル、2014521日)

難病患者の医療費を助成する難病医療法案が21日の参院本会議で可決、成立する見通しだ。研究事業の一環で患者の医療費を助成している現行の制度を法律で明確に位置づけ、財源を安定的に確保する。助成対象の病気は56から約300に広がる。来年1月に施行される。

新制度は、治療法が確立しておらず、長期の療養が必要などとする難病で、さらに患者数が十数万人(人口の0・1%程度)以下の病気が助成の対象となる。今後、厚生労働省の第三者委員会が対象の病気や患者の認定基準を決める。

軽症患者は対象にならないが、対象の病気が増えることで、助成対象の患者は78万人(2011年度)から150万人(15年度)に倍増する見込みだ。自己負担は患者の所得や症状によって違うが、原則月1千~3万円。高額な治療が長期間になる患者は軽くなる。これまで助成を受けていた患者で自己負担が増える場合も出てくる。

医療費助成は国と都道府県が半分ずつ負担。15年度は1820億円の支出を見込んでおり消費増税分をあてる。今の制度は対象の病気や患者が次第に増えて予算確保が課題となり、42年ぶりに抜本的に見直した。

また、新制度は全国どこでも適切な治療が受けられるように「難病医療支援ネットワーク」をつくり、医療機関に情報を提供する。子どもの難病や慢性病の医療費助成を見直す改正児童福祉法案も21日に成立する見込みだ。

*患者団体代表「今回は通過点」 対象外の患者「国は実態見て」

「新法成立まで長い時間がかかった。これで難病制度が安定したものになる」

20日の参院厚生労働委員会。東京都内在住の岡部宏生さん(56)は全会一致で可決されるのを傍聴席で見届けた。岡部さんは手足やのどの筋肉が弱っていく難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」で、車いすの生活を送る。現在、医療費の自己負担はない。新制度では月千円になるが、同じような難病を抱えた多く の仲間が救済されると喜ぶ。

患者数が約200万人とされる線維筋痛症は助成対象外となる見通し。患者団体代表の橋本裕子さん(59)=横浜市在住=は「まれな病気でなくても、治療法がなくて苦しむ難病患者が大勢いる。国は患者の生活実態をみて、救う方法を考えてほしい」と訴える。

難病制度は1972年、当時原因不明の「スモン」が全国的に発生し、研究と医療費助成を始めたのがきっかけだった。制度の法制化の議論は09年ごろから 本格化したが、助成対象の難病の選び方や自己負担の額をめぐって難航。負担増を軽減し、対象の病気を大幅に増やすことで、患者側も歩み寄った。

患者の立場から厚生労働省の検討会に参加してきた日本難病・疾病団体協議会代表理事(JPA)の伊藤たておさん(69)=札幌市在住=は「今回はゴールではなく、通過点」という。

4歳のころに全身の筋力が低下する重症筋無力症と診断された。2歳下の妹を同じ病気で亡くした。治療の地域格差を痛感し、72年に患者会を立ち上げた。 翌年に北海道難病連、05年に全国組織のJPAを結成、治療だけでなく就労も含めた総合支援の必要性を国に訴えてきた。

伊藤さんは「難病はいつ、だれがなってもおかしくない。誇りをもって地域で生きていくための支援が必要だ。走りながら変えていくしかない」と話す。(田内康介、北林晃治)

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