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どうなる?!今年7月~運用が始まる「生活保護法『改正』」

【報告】 どうなる?!今年7月~運用が始まる「生活保護法『改正』」

栗山和久(障問連事務局)

2013126日に国会で可決・成立した「生活保護法の一部を改正する法律案」は戦後最大の制度改正と言われているが、何がどう変わるのか。障害者の自立生活にも大きく影響し、さらに社会全体の社会保障の抑制、自助・自己責任の強調という流れは、障害を持つ者も持たない者にとっても決して看過できない事態である。今回の改正法案の提出理由には・・・・不正受給を防止する事 就労による自立を促進する事 によって「国民の生活保護制度に対する信頼を高める事」とされている。しかし、「信頼を損ねる」ように世論を誘導したのは一体誰なのか。2年前のお笑いタレント親族の保護受給を不正受給ではないにもかかわらずマスコミを始めとしたバッシングを一部自民党議員が悪質に誘導し、さらに大阪市では橋下市長の下、公務員親族の保護受給の一斉調査と扶養義務強化の動き、これらが連動して「国民の信頼を損ねるような」世論を誘導/形成したのではないか(実際に信頼が損なわれているのかどうかは不明)。下記のように、418日、「生活保護問題対策全国協議会」による声明が発表された。詳しくはこの声明を読んでいただきたいが、改正省令案に対する多くのパブリックコメントによる批判を受け、根本的な修正が図られたとされている。しかし、障問連としても昨年末開催の人権シンポジウムでも生活保護問題を取り上げたが、多くの参加者から実際の生活保護行政の窓口対応の不備が指摘されていた。具体的にどのように運用されるのか、今後とも注視する必要があり、障問連としても加盟団体である自治労兵庫県本部にもご協力いただき、現場ケースワーカーとの共同学習会を開催していきたい。


「改正」生活保護法にかかる省令の公表にあたっての声明

生活保護問題対策全国会議


1 はじめに

本年2月28日に公表されパブリックコメントの募集が開始された「生活保護法施行規則の一部を改正する省令(案)」(以下、「省令案」という。)には、「改正」生活保護法に関する国会答弁や参議院厚生労働委員会附帯決議に反する重大な問題があったため、当会を含む多くの個人・団体が批判や懸念の声をあげた。本日、パブリックコメントの結果と厚生労働省令(以下、「省令」という。)が公表されたが、1166件に及ぶ大量のパブリックコメントの結果を踏まえて、次のとおりの根本的な修正が加えられている。

2 省令案からの修正点など
(1)申請手続について

省令案は、「申請等は、申請書を・・実施機関に提出して行うものとする」としており、「申請=申請書の提出」としか読めない内容であったが、省令では、「申請等は、申請者の居住地又は現在地の実施機関に対して行う」という、法律上当たり前の内容に修正された。
また、省令案は、口頭による申請が認められる場合が、身体障害で字が書けない場合やそれに準じる場合に限られるように読める内容であったが、省令では、この部分がすべて削除され、誤解が生じる余地がなくなった。
なお、「改正」法24条2項本文は、「申請書には、厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない。」と規定しており、これが「水際作戦」を法制化するものであるとの強い批判を浴びた。しかし、今回、厚生労働省は、「改正法第24条2項に基づく厚労省令で定める書類として規定するものがない」「改正法第24条第2項に関する規定については、省令に規定しない」としている。すなわち、「厚生労働省令で定める書類」という法律の文言に対応する省令の定めがない以上、「改正」法24条2項は何も定めていないに等しい「空文」となったのであり、この点も運動の大きな成果である。

(2)扶養義務者に対する通知や報告の求めについて
国会答弁等では「極めて限定的な場合に限って行う」と説明されていたが、省令案は、実施機関が扶養義務者に対して家庭裁判所の審判を利用した費用徴収を行う蓋然性が高くないと認めた場合、DV被害を受けていると認めた場合、その他自立に重大な支障を及ぼすおそれがあると認めた場合以外は、通知等を行うものとして、原則と例外を逆転させていた。
しかし、省令では、実施機関が扶養義務者に対して家庭裁判所の審判を利用した費用徴収を行う蓋然性が高いこと、DV被害を受けていないこと、その他自立に重大な支障を及ぼすおそれがないことの、すべてを満たす場合に限って通知等を行うものと修正され、「極めて限定的な場合」に限られることが、省令上も明確にされた。

(3)不正受給にかかる徴収金の調整(相殺)について
省令案は、「実施機関は、徴収金の徴収後においても被保護者が最低限度の生活を維持することができるよう配慮する」と、「配慮」さえすれば許されるように読める内容となっていた。
しかし、省令では、徴収金額の上限基準までは設けなかったものの、「徴収後においても被保護者が最低限度の生活を維持することができる範囲で行う」と修正され、「配慮」だけでは許されないことが明確にされた。

3 評価
以上のとおり、本日発表された省令は、省令案とは異なり、国会答弁や附帯決議の内容に沿った内容に大きく是正されている。
この点について、厚生労働省は、「心配する数多くの御意見をいただいたことから、国民の皆様に無用な心配、混乱を生じさせることのないよう、国会での政府答弁等での説明ぶりにより沿った形で修正することとしました。」とし、もともとの省令案も「国会での政府答弁に反する趣旨のものではない」としている。しかし、2で述べたとおり、省令案と省令には、天と地ほどの大きな違いがある。パブリックコメントを経て、省令案にこのような根本的修正が加えられることは、おそらく前例がないか、極めて異例のことである。
これは、もともと提出された省令案にいかに道理と正義がなかったかを示すとともに、生活保護制度に対する異様なまでのバッシングと逆風の中でも、あきらめることなく声を上げ続ければ、政治もこれを無視することができず、正義が回復され得るということを示しており、運動の大きな成果である。
当会は、こっそりと国会答弁等を骨抜きにする省令案を通そうとした厚生労働省に対して猛省を促すとともに、パブリックコメントを寄せた多くの個人・団体の方々に敬意と感謝の念をお伝えしたい。
「改正」生活保護法は、本年7月から本格施行されるが、当会は、国に対して、真に保護を必要とする人々が排斥される事態が生じないよう、全国の実施機関に周知徹底することを改めて強く求める。また、当会は、憲法25条の生存権保障の理念に基づく生活保護制度の運用がなされるよう、心ある市民とともに違法不当な生活保護行政を監視する運動をさらに強めて行くことを改めて決意するものである。

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