差別禁止条例

シンポジウム報告 どうなる? 障害者差別禁止法と人権侵害救済法 ~国政での動向と地域での取り組み/課題

加盟団体である部落解放同盟兵庫県連合会書記長の橋本貴美男さん、DPI日本会議事務局長の尾上浩二さんを招き、表記のシンポジウムを開催しました。

○国際的にも遅れる日本の人権施策

国際的な人権水準から遅れる日本・・・国連を中心として成立した31の人権条約のうち、日本は13しか批准していない。また国連から20数ページにも及ぶ多くの勧告を受けているにも関わらず誠実な対応をしていない。とりわけ、現在「人権侵害救済法」⇒「人権委員会設置法」は政府から独立した人権救済機関を設置するものであるが、人種差別~公民権運動の歴史のあるアメリカでは1960年代、ヨーロッパ/アジア諸外国の多くの国が1990年代には既に設けられており、再三にわたり日本政府は国連から勧告を受けている。1998年の国連勧告には・・・「委員会は、人権侵害を調査し、不服に対し救済を与えるための制度的仕組みを欠いていることに懸念を有する。当局が権力を濫用せず、実務において個人の権利を尊重することを確保するために効果的な制度的仕組みが要請される。委員会は、人権擁護委員は、法務省の監督下にあり、また、その権限は勧告を発することに限定されていることから、そのような仕組みには当たらないと考える。委員会は、締約国(日本政府)に対し、人権侵害の申立てに対する調査のための独立した仕組みを設立することを強く勧告する。」とされ、その他「可及的速やかな政府から独立した人権機構の設立」が何度となく求められている。私たちが障害者の人権擁護そして差別禁止法制定を求めていく中でも、このような日本政府の壁に直面せざるを得ないだろう。また、尾上さん報告の中でも、イギリスでは「障害者の機会均等法」が1995年に成立したが、障害者も含めたあらゆる差別禁止法が成立し、現在はその機関の中の「障害者部会」として取り組まれている。まさに日本でもそういった在り方が求められるだろう。

○部落差別の現状

橋本さんの話で、2002年に同和対策特別措置法が終了したが、一定環境面での改善はされたものの、部落差別を取り巻く環境は厳しい。当事者と面と向かっての露骨な差別発言、行政が話し合いを求めても居直っての拒否。かつては「地名総監」であったのが、現在は司法書士/弁護士(八士業)などが本人の知らない所で無断で戸籍を不正取得し部落出身者であるかどうかを調査しその情報が金で売買され、さらに戸籍だけでなく携帯電話、ハローワーク等でもあらゆる個人情報が売買されている事、県民意識調査にも表れている結婚に際しての差別意識の悪化等。以下、橋本さん作成の当日資料から抜粋して紹介します。

 

1 「人権委員会設置法」をめぐる状況

2012年8月29日に、民主党法務部門会議を開催し、「人権委員会設置法案」を了承する。しかし、滝実・法務大臣が「今国会での提出は断念する」との判断を示し、国会閉会後の9月19日の閣議において、法案内容が閣議決定された。

9月21日に行われた民主党代表選挙で野田佳彦首相が再選される。9月26日に行われた自民党総裁選挙では、これまで「人権委員会設置法案」に反対してきた安倍晋三元首相が選出された。10月1日に野田第三次改造内閣が発足し、田中慶秋法務大臣が就任したが、23日に辞任。24日に滝実前法務大臣が再起用された。

10月29日に第181回臨時国会が開会され、会期は11月30日までとなった。

11月9日に野田内閣は、「人権委員会設置法案」の国会提出を閣議決定。11月14日衆議院第1委員会室においておこなわれた党首討論で、野田首相は「後ろに区切りを付けて結論を出します。16日に解散をします。やりましょう」と解散を明言した。そして、11月16日衆議院は解散し、「人権委員会設置法」は廃案となった。

過去の経緯として、「人権擁護法案」が2002年の第154回国会に小泉内閣が提出し、その後継続審議を経て、2003年10月の衆議院解散により廃案となった。廃案後も法務省や自民党、民主党内などで引き続き検討が行われた。2005年の第162回国会に民主党が「人権侵害による被害の救済及び予防等に関する法律案」を提出したが、審議未了廃案となっている。

 

2 12月16日第46回衆議院選挙が予定されているが、政界は混沌としている。

安倍自民党の政策パンフレット「国民と自民党の約束」のなかで、「人権委員会設置法案について、民主党の『人権委員会設置法案』に断固反対。自民党は個別法によるきめ細かな人権救済を推進します。」と規定。

 

3 人権侵害救済法の必要性 → あいつぐ部落差別事件の現状

①     なりすまし差別はがき事件

2011年3月、部落解放運動・解放教育に協力している人の名前をかたったなりすましはがき事件が起こった。部落と解放運動に対する偏見を助長するもので、なりすまされた人の自宅と勤め先住所・電話番号、携帯番号などを記載した嫌がらせ事件。

 

② 土地差別調査事件

2007年から、関西を中心に250件を超す不動産取引に関わる「土地差別調査事件」が明らかになる。マンション建設に関わって、立地点周辺の調査を行ったリサーチ会社が、同和地区や在日外国人居住地域、精神病院や障害者施設の所在地域などを「敬遠されるエリア」「地域下位地域」などと表記した報告書を作成し、広告会社が開発業者に提供していた事件。兵庫県内でも阪神間を中心に差別調査がされていた。

問題は、差別調査結果を必要とする購買者のニーズ(意識)があること。業界団体の中には「顧客がそのような情報を求めているから」とする声もあった。住民の被差別部落を忌避したいという意識に迎合した、人権侵害事件である。

* 「大阪府宅地建物取引業における人権問題に関する指針」では次のように規定された。 → 宅地建物取引業者は、その取引物件の所在地が同和地区であるかないか、または同和地区を校区に含むかどうかについて、調査及び報告並びに教示をしないこととする。 → 消費者から、人権問題に関する質問等があったときは、その消費者に対して、人権問題について理解を求めるように努力する。 → 人権に配慮した本籍地や国籍欄のない標準的な入居申込書の使用に努めることとする

 

③ 戸籍謄本等不正取得事件

2011年11月13日、愛知県警がプライム法務事務所の関係者5人を逮捕。逮捕容疑は偽造有印私文書行使、戸籍法違反、住民基本台帳法違反などで、司法書士が本人の了承なく戸籍謄本等を取得できる「職務上請求書」を偽造し、架空の依頼人名を記入し、愛知県名古屋市内の区役所などに郵送し、無断で不正に取得した疑い。

偽造された「職務上請求書」は2万枚に及び、うち1万枚を不正使用。兵庫県連で各自治体に情報公開を求めたところ、県内で358件がプライム法務事務所関係者によって不正取得されたことが明らかとなる。

 

* 戸籍謄本等不正取得の問題点。戸籍は現在、

原則非公開。戸籍に記載されている人しか請求

できない。不正をしてまで他人の戸籍等を入手

したいニーズ(意識)がある。

* 本人の知らないところで戸籍謄本等が請求され、交付されている。8士業は職務上必要であれば本人の了解なしに戸籍等を請求できる。(戸籍法、住基法)

戸籍や住民票が結婚や就職時の身元調査に使われるだけでなく、最近は犯罪にも使われている。

「今、戸籍が危ない」→ 個人情報の漏えいが商いになっている社会状況がある。

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