優生思想

この人に聞く: 神経筋疾患ネットワーク・石地かおるさん /兵庫

毎日新聞 2012年10月31日 地方版

 

◇受精卵の着床前診断に反対 「命の選別につながる」−−石地かおるさん(44)

 

体外受精で受精卵を子宮に戻す前に、染色体に異常がないかを調べる着床前診断。日本産科婦人科学会は、条件を示して認める指針を出したが、神戸市の不妊治療専門のクリニックなどが学会に無断で実施していたことが判明している。染色体異常による習慣流産など、不妊に苦しむ夫婦にとっては「産むための技術」と言えるが、「命の選別」につながるとの意見もあり、賛否が分かれる。着床前診断に反対する患者団体「神経筋疾患ネットワーク」の石地かおるさん(44)に、問題点などを聞いた。

 

◇神経筋疾患ネットワークとはどのような団体ですか。

 

◆筋ジストロフィーなど、遺伝子に起因する神経筋疾患を持つ障害者でつくる団体です。日本産科婦人科学会は、04年に慶応大が申請した全身の筋力が低下する「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」で着床前診断を初めて承認しましたが、当時は好意的に受け止める意見が多く、強く反対する当事者団体はありませんでした。そこで、障害者の声を聞いてもらおうと設立しました。

 

◇なぜ着床前診断に反対するのですか。

 

◆自分たちの存在が間違っていると言われたように感じたからです。着床前診断が行われていれば、ネットワークのメンバーは誰も生まれて来ることができませんでした。

 

◇命の選別につながるということですか。

 

◆生まれてきたそのままの姿が、大切にされるべきだということです。命の選別は優生思想を助長しかねません。それに障害者は社会が思っているほど不幸ではないですよ。

 

◇不妊に苦しむ人たちにとっては希望の光とも言える技術です。

 

◆私たちは着床前診断を受けた当事者や家族を非難するつもりはありません。「女性は子どもを産むのが当然」という風潮が社会には根強く存在し、その中で差別に遭っている人たちと考えるからです。着床前診断が進んでも子どもを持てない夫婦はなくなりません。子どもを産めない人がいることを社会が認めることが重要ではないでしょうか。

 

◇障害者が生きやすい社会をつくることが必要ですね。

◆まずは生まれてくることを歓迎することです。そして、障害を持つ人も持たない人も、子どものころから一緒に過ごす事が重要です。大人になってから障害者を見かけても、どう接して良いか分かりませんよね。障害者が珍しくない社会をつくることが必要ではないでしょうか。

 

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■人物略歴

 

◇いしじ・かおる

 

1967年、新宮町(現たつの市)生まれ。1歳半で筋肉を動かす神経に障害がおこるウェルドニッヒ・ホフマン病と診断される。24時間の介護が必要だが、30歳から一人暮らしを始めた。02年に自立生活センター「リングリング」を設立。神経筋疾患ネットワークの運営委員も務める。

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