優生思想

「出生前診断に対する DPI女性障害者ネットワークの意見」

「出生前診断に対する DPI女性障害者ネットワークの意見」

 

2012年9月24日

DPI女性障害者ネットワーク(代表者 南雲君江)

連絡先: 千代田区神田錦町3-11-8 5F DPI日本会議気付

電話03-5282-3730 FAX03-5282-0017 dpiwomen@gmail.com

私たちは障害をもつ女性のグループです。1986年に発足し、ゆるやかなネットワークで障害女性の自立をめざし、社会に向かって意見の発信もしてきました。

障害者であることと女性であること、その差別もあわせて経験し、子どもをもつかもたないかを悩むこともある、その立場から出生前診断の新しい技術について、意見を言いたいと思います。

出生前診断の新しい技術が使われることを報道で知り、私たちはたいへん憂慮しています。この秋から始まるいくつかの病院での検査は、国内で多数の医療機関が検査を導入した場合の課題を、あらかじめ検証する臨床研究であるとのことです。そのため、対象を35歳以上に、あるいは胎児が“染色体異常”をもつ可能性のある場合に限り、件数も限って行うと聞きます。しかし、検査の精度の高さと妊婦さんや胎児にリスクが低いことは、すでに広く報道されました。今後、妊婦さんが検査を勧められる機会、受けるかどうか考える機会が増えて、問題もまた増えていくことでしょう。

私たちの社会が、今すでにある以上に出生前診断を普及させてよいのか、さまざまな立場の人が話し合う場が必要ではないでしょうか。

 

◆障害をもつ人にとっての問題

新しい技術が高い確率で診断できるのは、3種類の“染色体異常”とのことですが、名称をあげられた障害をもつ人はもちろん、他の障害をもつ人にとっても、障害をもつことそれ自体が否定されるような不安を抱きました。“障害”が生まれる前に検査対象になる、そんな社会のまなざしは、自分を大切に思う気持ちを深く傷つけます。

この検査で調べる“染色体異常”は、胎児治療の対象にならないことから、多くの報道が指摘するように、検査が普及すれば胎児の障害を理由とする人工妊娠中絶が増える可能性はあると思います。

現在の母体保護法には、「胎児の障害」を中絶の理由とする条文――胎児条項はありません。これまで何度か必要であるとの意見が述べられ、今後も提案されるかも知れません。しかし胎児条項は、国が障害をもつ胎児の中絶を認めると、法律に明記することです。それが良い結果につながるとは、私たちはとても思えません。胎児条項をつくることには反対します。

人は、偶然にさまざまな特性をもって生まれます。心身の機能が他の人と違うこともそのひとつです。それが“障害”になるかどうかは、社会の側の問題でもあるという認識――「社会モデル」が、2006年国連総会による「障害者権利条約」の採択以降定着しつつあります。障害というものは、個々人がもつ心身の機能と社会的な障壁が、相互に作用して生じると考えて、社会の側が変わろうとしているのです。

胎児の特性によって産むか産まないかの選択がなされるとすれば、障害を個人の問題に押し戻し、社会モデルに逆行していくのではないでしょうか。

 

◆子どもをもとうとするカップル、とくに女性にとっての問題

子どもを望んでいたのに、胎児の検査をして、産むか産まないかを考えなければならない、出産を断念する場合もあるとしたら、カップルとくに女性にとって大きな悩みとなります。妊娠・出産、出生前診断を経験した女性への調査では、検査に肯定的な意見もある一方、検査を受けることやその結果の受け止めに、多くの戸惑いと不安が語られています。女性が検査を“選択”する背景に、目を向ける必要があります。

今の社会では残念ながら、障害はマイナスのイメージを与えられています。生まれる子の障害は、妊娠・出産する女性にその責任があるように見られることもしばしばです。子育てに対する責任も女性に多く問われ、社会の支援は決して充分ではありません。

障害をもつ子の子育てが、そうでない場合に比べて困難な中で、検査の方法だけがあり、産むか産まないかの決断を女性が迫られるなら、子が障害をもって産まれることを女性に回避させる圧力となります。自由な意志での選択とはいえません。それでも、女性が望んだことと解釈され、選択の結果を引き受けるのも女性。辛すぎることです。

子どもを産み育てたいと望む人に必要なのは、生まれる子の障害の有無にかかわらず、同じように祝福されて、同じように育てることができる支援ではないでしょうか。

障害への偏見がとりのぞかれるとともに、障害があってもなくても、育てようとする人を支援する社会制度が充実してほしいと思います。

 

◆求めること伝えたいこと

出生前診断はすでにたくさんの技術が開発され、使われています。私たちの社会は、もっと充分にこの問題を話し合ってくるべきでしたが、残念ながらその機会がないまま技術の導入が先行してきました。この検査については、今からでも、導入の是非を広く話し合うことが必要です。

議論が充分でないままに、この検査がマススクリーニングとして行われる――妊娠した誰でもが受ける検査となってしまわないよう、強く希望します。

 

〈医療従事者の皆さんへ〉

日本産科婦人科学会は、出生前診断に関する指針を作る方針と聞きます。その作成にあたって、障害をもつ人の声を、ぜひ取り入れてください。

また、妊娠・出産にかかわる医療に従事する方たち、あるいはカウンセリングにあたるなど検査に携わる方たちの、養成や研修の課程に、障害当事者と直に接する機会を設けてください。

医師から妊婦さんへの説明、カウンセリングにおいて、障害について偏りのない情報を提供してください。その障害とともに暮らしている人たちの団体があれば、妊婦さんに紹介してください。

 

〈これから子どもを産み育てようとする皆さんへ〉

これから子どもをもとうとする人、とくに女性に伝えたいことがあります。検査をどう感じるか、違和感や戸惑いがあるとしたら、どうぞ表明してください。安心して妊娠・出産できるためには何が必要か、考えて、社会になげかけてください。

障害をもつ子の親の皆さんは、その経験や新たな検査の導入に感じることを、社会に、これから子どもをもとうとする人に、どうぞ伝えてください。

 

〈障害当事者の皆さんへ〉

障害をもつ私たちは、自分たちが、思われているよりもずっと充実した人生を生き、社会をよくしていく力があることを発信しましょう。

検査は万能ではありませんし、出生前には分からない障害もあります。人の作為にかかわらず、障害のある人は必ず生まれてきます。生まれたあとに障害をもつこともあります。また、高齢社会の今日、個人の人生においても障害のある時期とそうでない時期があるでしょう。障害のある人もそうでない人も共に生きる時代をどう作るか、それこそが課題ではないでしょうか。

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