教育

普通学校に通いやすくなる?

下記に一木玲子さん(筑波技術短大/准教授)の、文科省の動向に関する文章を紹介しますが、この9月5日にも毎日新聞で「普通学校に通いやすく~従来の施策転換」と報じられました。一木さんが指摘される「嘘」が再びマスコミで取り上げられましたが、障害者諸法の改正が進み障害者権利条約に抵触しないような世論誘導と考える事も思い過しではないでしょう。それは、今夏に予定されていた就学先仕組みの改正の案は今なお提示されずパブリックコメントも実施されていません。またこの9月報道は来年度予算概算要求の文科省説明の中で取り上げられたことであり、私たちが望むような「改正」がされなくても、実質条件整備が行われる予算確保があるのではと期待しました。しかし、前年度から約13億円増の概算要求の中味は、約8億円が「特別支援教育就学奨励費」とされ、特別支援学校在籍者が3.9%増(約5000人増)も明記され、特別支援学校・学級に在籍する生徒・保護者の経済的負担の軽減策として使われるものです。評価できるのは、わずかに「医療的ケアのための看護士の配置」「教職員定数の増加(5年で2900人の増)」「弱視生徒のための拡大教科書の普及/デジタル化」ぐらい。その他は「インクルーシブ教育システム構築」のため全国で18地域、48校をモデル校とし、しかし「交流及び共同学習の活用」、「発達障害に関する専門性向上」といった内容で、現行の特別支援教育でも取り組まれている内容をほぼ踏襲するものです。

一木さんが指摘されるよう、何も変わらないのに、あたかも「施策転換」されたかのような印象で、現在「障害者政策委員会」での議論も乗り切ろう、そんな文科省の意図が示されています。別掲の新聞報道では、愛知県で医療的ケアが必要な重度障害児が普通学級で学んでいる事が報道されています。私たちの暮らす、この兵庫県でもこのような実態こそ求められるでしょう。

 

「総合的な判断」では、実質的に今と変わらないですヨ

一木玲子(「障害児を普通学校へ全国連絡会/東京都運営委員」)

■はじめに~「選択制」導入?~

7月23日、BSニュースで「中教審、障害児の学校選択可能にすべき」という見出しのニュースが流れました。「障害ある子どもの入学制度見直しへ、中教審(中央教育審議会)は、身体などに一定の障害がある子どもは、原則、特別支援学校に入学するとした、現在の法制度を見直し、子どもや保護者の意向を尊重して、一般の学校も選択できるようにすべきとした報告書をまとめました。(以下・略)」。

実は、この報道は間違っています。中教審報告の就学先決定の部分には「選択」という文字はどこにもありません。そもそも「選択」とは、例えば学校選択制にあるように、(定員等で多少の制約があるにしても)本人や保護者の意向に従って学校を選べるというものです。中教審報告で新たに文科省が提案している就学先決定の仕組みは、「本人・保護者の意向は最大限尊重する」が、「総合的判断」により、「市町村教育委員会が決定」するというものです。そうです。文科省が導入しようとしている仕組みには、「原則地域の普通学校・学級への就学」というインクルーシブ教育の観点どころか、本人・保護者が学校を選択する権利さえないのです。

■「原則特別支援学校」から「総合的な判断」へ

文科省は、2012年7月23日に中教審「特別支援教育の在り方に関する特別委員会報告《共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進》(以下、特特委報告)」を提出しました。特特委報告では、「原則、特別支援学校という現行の就学の仕組みを改正」するとハッキリと記載されています。では、原則を入れ変えて「原則、普通学級」「原則統合」「原則インクルーシブ教育」になる?? いやいや、そうではありません。「総合的判断」なるものが登場しました。「総合的判断」とは、障害の状態/障害の状態に基づく教育的ニーズ/本人・保護者の意見/瀬門下の意見/学校や地域の状況/その他の事情等や、現行の障害基準(「学校教育法施行令第22条の3」~障害名と程度が書かれている特別支援学校に就学する子どもの基準が記載されている表)を勘案して、最終的には市町村教育委員会が就学先を決定するというものです。

ここまで読んで、多くの人はこう思うでしょう。「今までとどう違うの??」と・・・。

多くの自治体では、5~6月頃から就学相談が始まり、保護者の希望が聞かれ、いろんなテストや診断評価が行われ、障害基準に該当するかどうか測られ、就学先を市町村教育委員会が決定します。ある自治体では、就学基準が厳密に守られ、普通学級を希望しても拒否されます。もしかしたら、そのような自治体では、もう少し普通学級に入りやすくなるかもしれません。ある自治体では、普通学級を希望すると就学できますが、必要な支援や配慮の予算がないという理由で保護者の付き添い等が条件になっています。報告書には、普通学級における合理的配慮等の予算措置について積極的に位置付けられていません。このような自治体は現行とほとんど変わりなく、予算がないという理由で、理不尽な要求が続くと思われます。

もしかすると、現行制度よりは希望すれば普通学級に入りやすくなるかもしれませんが、普通学級に予算が付けられ、本人が必要とする支援の下、ゆっくりと成長していこうというものでありません。

「就学先決定後も柔軟に就学先を見直していく」。学期ごとに、学年末ごとに、相談と言う名の「善意の追い出し」が続きます。「乳幼児期からの個別の教育支援計画の作成・活用による支援」・・・6歳の春をどこで迎えるのか。今後も就学先を迷う保護者の悩みは続きますし、その迷いさえも出ないように幼少期から特別な支援を志向するような心性が形作られるかもしれません。いや、今もすでにそうなっているでしょう。

■私たちが求める就学先決定の仕組みと今後の行動提起

民主党インクルーシブ教育推進議員連盟は、障害の有無に関係なく就学予定者全員に小中学校の就学通知を出す事で、インクルーシブ教育制度に向けた第一歩を踏み出すという議連改正案を提出しましたが、文科省は難色を示しているようです。しかし、今夏にも改正案のパブコメをするとしていた文科省が、その予定を遅らせました。その意図はどうあれ、私たちの運動が文科省にゆさぶりをかけているのは事実です。

新たな就学の仕組みは来年3月末までに閣議決定される予定です。ここ数カ月の行動提起としては、国会議員に文科省の改正案は現状と変わらないものである事を知ってもらうこと、そしてパブコメ対策です。就学先決定の仕組みは、今回を逃すと次はいつ改定されるか分かりません。全国連の力、結集です。

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