教育

【報道/教育】  1人の人間として尊重 バクバクの会~人工呼吸器とともに生きる~

毎日新聞9月17日〈地域から〉

たんの吸引や人工呼吸器など日常的に医療的なケアが必要な子どもと家族を支援する「医療的ケア児支援法」が18日、施行される。国や自治体の支援策を「責務」としている。医療的ケア児を取り巻く環境は現在、どんな状況なのか。人工呼吸器をつけて暮らす人と家族でつくる「バクバクの会~人工呼吸器とともに生きる~」(大阪府箕面市)事務局、平本美代子さんに聞いた。【まとめ:桜井由紀治】

 

■人工呼吸器をつけ

私の娘(歩さん=1月、35歳で死去)は4歳の時に、在宅生活を始めました。当時に比べ、現在は医療機器が発達してきたおかげで、人工呼吸器をつけた子の在宅生活が増えています。医療関係者でなくても研修を受ければ、たんの吸引ができるようになり、機器類も小型化や軽量化され、新幹線や飛行機に乗ることもできます。当時は自費で数百万円かかった在宅用の人工呼吸器も保険適用され、経済的負担も少しは軽減されました。

子どもも親も家族も、自宅で一緒に暮らしたい。当然の思いです。人工呼吸器をつけた子が、地域で生活する姿が見られる一方で、社会は受け入れる環境が十分整っているとは言えません。

「バクバクの会」には、本人や家族はもちろん、保健師や福祉関係者らからの相談も多く寄せられます。在宅の子の生活をどう支えていいのか分からないという内容です。子どもが入院していた病院の医師も、退院してしまうと自宅でどんな生活を送っているのか把握できていないことも多いです。

「バクバクの会」は、人工呼吸器をつけていても、一人の人間として、社会の中で生きていこうよというスタンスで、活動してきました。家に閉じこもらず、地域に出て旅行にも出かけます。しかし、そうした人工呼吸器使用者の生活が十分認識されておらず、社会にはいまだに物理的なバリアーはもちろん、心のバリアーも感じます。

在宅で育った子どもが、次は地域の学校に行くのを望むのも、必然的なことです。ところが、人工呼吸器をつけていると、地域の学校を希望しても実際に就学できる児童は少なく、特別支援学校や教師が自宅を訪れて授業する「訪問教育」を勧められるケースがまだまだ多いのが実情です。

相模原市では、人工呼吸器をつけた男の子が地域の学校への就学が認められず、集団登校の中に自主的に入り、毎日その学校へ一緒に登校しています。でも、その子は校舎には入れない。校内に入っていく児童たちを見送る男の子と親の心中を察すると、切なくて涙が出てくる取り組みで、非情な教育行政に憤りを覚えます。

 

■親の付き添い

地域の学校に就学できても、条件として、親の付き添いを求められることが多々あります。私の娘は、地域の小中学校から兵庫県立高校に進学しましたが、父親は仕事を辞めて娘に付き添いを続けました。今も状況はそんなに変わっていません。

人工呼吸器をつけていると、24時間のケアが必要です。付き添いを求められた親は学校でもケアをし、家庭に帰れば、家事や他の兄弟の世話、深夜帯のケアなどで睡眠時間が極端に少なく、体力的にも精神的にもギリギリの状態です。親が疲労困憊して夜間の呼吸器トラブルに気づかず寝込んでしまえば、最悪の事態も招きかねません。

また親が常時そばにいることで、同級生が子どもと接することを敬遠します。子どもは子ども同士のやり取りの中で人間関係を学び、成長していくのに、これでは自立の妨げになります。医療的ケアの必要な子は親が付き添って当然という差別意識を植え付ける恐れもあります。付き添える条件のない家庭は、一体どうしたらいいのでしょうか。共稼ぎ家庭は、仕事を辞めざるを得ません。

国会で成立した「医療的ケア児支援法」で、こうした問題が解消されるよう期待したいが、一方で法律ができたからといって、状況が一変するとは思えません。支援法では、学校の設置者に対し、保護者が付き添わなくても学校に通える看護師の配置などを求めています。しかし、看護師が配置されても「命に関わる問題だから」などと、親の付き添いを求めてくるケースが現実にあります。

医療的ケア児は患者ではなく、1人の人間です。教育を受ける権利は基本的人権の1つです。「バクバクの会」は会員同士、支えたり、支えてもらったりしながら、発足から32年になりました。一家族だけで背負い込まず、一人一人の問題としてみんなで考えていきたいと思います。

◇バクバクの会~人工呼吸器とともに生きる~

1989年、大阪市内の同じ病院に入院する人工呼吸器をつけた子の7家族で、院内家族の会として発足した。平本美代子さんは発足当時からのメンバー。

現在、全国に15支部、会員約400人。

電話・FAX(072-724-2007) 電子メール(bakuinfo@bakubaku.org

 

【医療的ケア児童支援法】

同法は9月17日~施行されました。法第3条「基本理念」には・・・「本人・家族の意思を最大限に尊重」「本人・家族の生活全般の支援」し、関係機関団体との連携により切れ目のない支援(インクルーシブ教育の支援等)を行い、「高校卒業後の生活にも配慮」し、そして現存する地域格差をなくすよう「居住地域に関わらない等しく適切な支援」と謳われています。

しかし、これら理念は医療的ケアの有無にかかわらず障害児者全てにとっても必要な理念であり、平本さんが「法ができたからといって状況が一変するとも思えない」と指摘されるよう、教育・福祉の各制度・施策が各地域で、当事者・家族、現場の要望を踏まえ具体的に実施していくのかが重要です。

同法「第4~8条 責務規定と財源措置」では・・・「これまで国と地方自治体の支援が『努力義務』であったが、「『責務』に格上げされ、政府による財源措置によって、地方自治体は予算を確保し実行しやすくなった」とされるが、交付額は今後検討されるという。

2022年度障害保健福祉予算の概算要求での医療的ケア児関連の予算で、法成立も踏まえ2倍超の4億7000万円が計上されている。しかし学校での看護師配置は文科省の管轄になり、法に対応した予算措置は聞こえてこない。また西宮市教委関係者に聞くと、「これまでも看護師配置の費用は国から一部補助されている。法施行により補助額が引き上げられれば良いが、今まで通りなら厳しい」とのこと。

また特別支援学校でも保護者付き添いやスクールバスに乗れない課題、通学時の看護師配置など多くの課題もあり、文科省の予算措置が不十分であれば、自治体の裁量により、特別支援学校等に手厚く措置され地域の学校の看護師配置が不十分なまま放置されることも危惧される。

同法の理念には「共に学ぶことに最大限配慮する」とある。これを各自治体教委がどのように推進していくのか、兵庫県においては中核市である尼崎市や姫路市での地域校での看護師配置はされず、神戸市では週10時間の上限がある。障問連として同法施行を踏まえ自治体への要求を行っていきたい。(K)

« »