優生思想

【優生思想】 8月3日神戸地裁優生保護法国家賠償請求裁判報告

優生保護法における被害者とともに歩む兵庫の会 共同代表 藤原久美子(DPI日本会議常任委員)

 

8月3日の優生保護法違憲国賠訴訟神戸地裁(第2民事部 小池明善裁判長)は不当判決でした。

これまで全国で出された判決から6例目となり、このような結果は全く予想できなかったわけではありませんが、「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」と主文だけ述べた後、判決理由も述べずに裁判長が立ち去るという、あまりにも誠意のない、原告や支援者に寄り添う姿勢のない態度にショックを受け、原告さんたちの気持ちを考えると、しばらく立ち上がることもできませんでした。

 

当日の神戸は朝から雷鳴がとどろく大雨でしたが、入廷行動の時間には暑い日差しが照り付けて蒸し暑さが増していました。

そんな中、23席の傍聴券を求めて、270名の方が並び、多くのマスコミも駆けつけ、その関心の高さが伺えました。

こうしてやっと入れた一般席の他、車いすユーザー5名、優先席12名、記者席の傍聴者が注目する中、判決言い渡しが一瞬で終わり、みんなあっけに取られたという印象です。

 

その後行われた報告集会には、メイン会場一般約60名、マスコミ約30名、サブ会場約70名、オンライン120画面の参加がありました。

たくさんの方にご協力いただき、原告さんたちも勇気づけられたように思います。

本当にありがとうございました。

 

判決文では、故・高尾辰夫さん(仮名)と、小林喜美子さんの中絶及び不妊手術がいずれも家族の同意のみで本人の同意なしに行われた第3条による手術であると認めました。

そして鈴木由美さんに関して「当時未成年であったこと」、旧法では「脳性麻痺などの障害を有する女性に対し、生理の介助の負担や妊娠を防ぐことなどを目的として、旧優生保護法施行規則の定める術式ではない子宮摘出手術による不妊手術がされる事例も存在していたことからすると、旧優生保護法12条の審査による優生手術であったと確認される」としました。

この点は、手術認定がされない可能性も危惧されていましたが、優生保護法による手術であると認定されました。

また、辰夫さんが手術された時、すでに結納を交わしていた奈美恵さん(仮名)、小林喜美子さんと結婚していた寶二さんも、子をもつ権利を奪われたとして、賠償請求権があったとしています。

そして、優生保護法が幸福追求権・自己決定権を保障する憲法13条、不合理な差別的取扱を禁止する憲法14条、家族に関する事項について個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきとした憲法24条2項に違反するとし、このように違憲の優生条項を廃止しなかった国会議員の違法行為により原告ら5名の手術による損害が生じたとして原告全員に損害賠償請求権があることを認めています。

 

しかし、国家賠償法4条・民法724条後段を適用し、20年の除斥期間の経過を理由に、原告らの請求を棄却しました。

優生保護法の優生条項を削除した平成8年(1996年)の時点で、その被害に気付くことができたとしたのです。

 

裁判では、高尾さん・小林さんたちが、聴覚障害であることで、日常生活上必要な情報すら得られず辛い思いをしてきたこと、また鈴木さんが就学免除により教育が受けられず、そのことによる劣等感から家族にさえ「何の手術だったのか?」と聞くこともできなかった。バカにされると思っていたという話もしてきました。

手術されたことさえ知らなかった被害者たちが、法律が改正されたからと言って認識などできないことは、原告たちにきちんと向き合っていればわかるはずです。

 

そして判決文はこう締めくくられています。

「なお、事案の性質に鑑み付言するに、旧優生保護法の優生条項が日本国憲法に違反することが明白であるにもかかわらず、同条項が半世紀もの長きにわたり存続し、個人の尊厳が著しく侵害されてきた事実を真摯に受け止め、旧優生保護法の存在を背景として、特定の疾病や障害を有することを理由に心身に多大な苦痛を受けた多数の被害者に必要かつ適切な措置がとられ、現在においても同法の影響を受けて根深く存在する障害者への偏見や差別を解消するために積極的な施策が講じられることを期待したい」。

 

私たちは、障害者への偏見や差別を解消することができるのが、司法の場だと考えてきましたが、まるで他人事のように国会に丸投げしていることにも失望しました。

 

一方、2019年障害者権利条約委員会から出された事前質問に対する政府レポート案(今年6月公開)では、除斥期間について「裁判所の判断による」としていて、司法の判断こそが国の姿勢を変えることができたはずでした。

 

けれど、ここであきらめるわけにはいきません。

次は大阪高等裁判所に控訴していくことになります。

またこの判決を受けての、8月11日院内集会では、国会議員に訴えていきますので、今後ともご注目とご支援をよろしくお願いします。

 

参考

【権利条約委員会からの事前質問事項】

15.「旧優生保護法」のもとで行われた事案を含め、障害者に対する強制不妊事案を調査するためにとられた措置についてお示しいただきたい。また、強制不妊を受けさせられた者が出訴期限法によって司法手続の利用を制限されるかどうかについてもお知らせ願いたい。「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」のもと行う障害者に対する賠償及び補償の提供のための措置について、補償として支払った金額についての最新情報を含め説明願いたい。

 

【政府回答案】

~略~

旧優生保護法の被害者に対しては、優生手術それ自体を不法行為とする損害賠償請求が成り立つとしても、2020年4月1日の時点ですでに20年が経過していれば、改正前の民法の規定が適用され、同損害賠償請求権は20年間の除斥期間により、その権利が消滅することになるのが原則である。もっとも、除斥期間についても、明文の規定はないものの、不法行為の時から20年が経過した後も請求権が消滅しないと判断した判例もあり、いずれにせよ、個別の事案において、旧優生保護法の被害者に係る損害賠償請求権が消滅しているか否かは、裁判所の判断ということになる。

 

以下、裁判に関する報道の一部/県弁護士会長談話を紹介します   (障問連事務局)

旧優生保護法「違憲」4件目 国会不作為、違法 賠償は認めず 神戸地裁判決

旧優生保護法(1948~96年)下で不妊・中絶手術を強いられたとして、兵庫県内の男女5人が国に計5500万円の賠償を求めた訴訟の判決で、神戸地裁(小池明善裁判長)は3日、旧法を違憲と判断した。長期間、差別的条項を廃止しなかった国会の不作為を違法と指摘。一方で、不法行為から20年で賠償請求権が消滅する民法の「除斥期間」を適用し、原告側の請求を棄却した。全国9地裁・支部で起こされた同種訴訟のうち6件目の判決で、違憲判断は仙台、大阪、札幌に続き4件目。国会の不作為を違法とする司法判断は初めて。原告側は控訴する方針。原告は、脳性まひで手足が不自由な鈴木由美さん(65)と、いずれも聴覚障害がある小林宝二(たかじ)さん(89)、妻喜美子さん(88)と80代の夫婦。このうち80代の夫は提訴後に死亡した。・・・(後略)・・・    (毎日新聞8月4日)

 

旧優生保護法違憲国賠訴訟・神戸地裁判決を受けて、この問題の全面的解決に向け、
障害者の尊厳を守る差別のない社会の実現を目指す会長談話
2021年(令和3年)8月4日
兵庫県弁護士会会 長  津 久 井 進

神戸地方裁判所は、2021年8月3日、障害を理由に旧優生保護法下で行われた不妊手術および人工中絶手術による被害者5名の国家賠償請求を棄却する判決を言い渡した。
国は、旧優生保護法を制定し、障害者に「不良」の烙印を押し、長年にわたり優生政策を推進することで、社会の隅々にまで優生思想を植え付けてきた。国は現在に至るまで責任を認めて被害者に謝罪することもなく、社会には今なお優生思想および障害者に対する偏見差別が根深く残っている。
本判決は、旧優生保護法の立法目的が非人道的であると断じ、個人の尊重を基本原理とする日本国憲法の理念に反し、憲法13条、14条1項及び24条2項に違反すると明言したのに加え、同種案件の中で初めて、違憲の優生条項を廃止しなかった国会議員の違法行為につき原告らの損害賠償請求権を認めた点で、一定の意義があることは否定しない。
その一方、国家賠償法4条・民法724条後段が定める20年の除斥期間の規定を、著しい不正義・不公平を考慮することなく適用し、原告らの損害賠償請求権が消滅したとして訴えを退けた。また、障害者を劣った者とする優生思想及び国策としての優生政策によって助長された障害者に対する偏見差別を根絶するため、国会議員が立法措置を講じなかったこと、厚生大臣及び厚生労働大臣において偏見差別の解消を図らなかったことに違法はないとした。
この判断は、裁判所が、立法と行政が生じさせた重大な人権侵害から目を背け、国の責任を免罪するものと言わざるを得ない。何よりも「私は人間として認められていない」と救いの手を求めた障害者に対し、人権の最後の砦としての司法の役割を放棄したものと言うべきである。
判決後、原告の一人は「判決には納得できません。同じ人間としての扱いをしてほしい」と悔しさや怒りを語った。被害者は引き続き司法の場で闘うとのことであるが、高齢化は進み、解決に一刻の猶予もない。当会も、旧優生保護法問題の全面的な解決に向け、誰もが人間としての尊厳が守られる一人ひとりが大事にされる差別のない社会の実現を目指し、ありとあらゆる努力を尽くす所存である。

以上

 

さらに、以下、裁判に関するニュース報道の一部です。

 

【共同通信】

<https://www.youtube.com/watch?v=FT0XlxOyhRI>

旧優生保護法、違憲4例目 強制不妊、賠償請求は棄却 – YouTube

 

【ABC】

<https://www.youtube.com/watch?v=2mfEzmqVurA>

【不妊手術強いられ】旧優生保護法訴訟「損害賠償できる除斥期間が過ぎている」と請求棄却【神戸地裁】 – YouTube

 

【サンテレビ】

<https://www.youtube.com/watch?v=Jt4gXmXJajc>

旧優生保護法 神戸地裁で違憲の判断 賠償請求は棄却 – YouTube

 

【MBS】

<https://www.youtube.com/watch?v=zVvmh7dd09E>

旧優生保護法 神戸地裁は原告の訴え棄却「時間経過で請求権消滅」 全国6例目の判決(2021年8月3日) – YouTube

 

【読売TV】

<https://www.youtube.com/watch?v=cb2zyN3bSPc>

旧優生保護法で不妊手術 「除斥期間」が壁となり…原告の訴え認めず 神戸地裁 – YouTube

 

 

集会案内

優生保護法違憲国賠訴訟神戸地裁判決(8月3日)を受けての院内集会~優生保護法問題の早期かつ全面的な解決に向けて~

日時/2021年8月11日(水)15時00分~16時30分

主催/優生保護法被害兵庫弁護団・優生保護法による被害者とともに歩む兵庫の会・全国優生保護法被害弁護団

zoomによるオンライン配信

アドレス:https://bit.ly/3xcnhCk ミーティングID: 852 3913 1328  パスコード: yuseihogo

プログラム(予定)

神戸地裁判決の報告(優生保護法被害兵庫弁護団)/優生保護法問題の全面解決に向けた要請/参加国会議員からの発言/支援者・関係者からの発言

問合先 優生保護法による被害者とともに歩む兵庫の会事務局(兵庫障害者連絡協議会)

TEL:078-341-9544 FAX:078-341-9545 Email:hyosyokyo@npo-hyogo-sc.com

« »