障害者春闘

【報告】 障害者春闘  障害者差別解消法の見直し~私たち・地域の課題とは~

障問連事務局

 

4月3日神戸市勤労会館において尾上浩二さん(DPI日本会議副議長)を講師に招き、表記をテーマに2021年度障害者春闘が開催された。3月に緊急事態宣言が終息したが再び感染者が増加し第4波が始まったのか、そんな中で広い部屋に集まりプラスZOOMでの参加により開催し、1月人権シンポジウムに続き、部落解放同盟兵庫県事務局の皆さんに会場設営に大変お世話になりました。ありがとうございました。開催に先立ち8月判決を控えた旧優生保護法裁判への署名の協力が呼びかけられました。

 

 

◆差別解消法改正の現在の状況~今国会で成立の見込み~

今回のテーマは「差別解消法の見直し」、春闘の時点では廃案にならないよう改正案の早期成立を尾上さんは指摘されていましたが、その後、当初5~6月に見込まれていた審議が、4月16日には衆議院内閣委員会で質疑と採決が行われ、20日には衆議院本会議で可決し、おそらく5月の後半に参議院での審議が行われて成立する見込みです。今後の流れとしても重要な場面が続き、内閣府障害者委員会で「改正法案成立」を受け→「基本方針見直し」が審議され、「差別の定義(間接差別・関連差別)」、「ワンストップ相談窓口の設置」、「法の対象として家族・関係者も加えること」、「障害女性の複合的差別」・・・等が盛り込まれるかどうかが課題です。その後は、各省庁ごとに民間事業者が行うべき内容をまとめた「対応指針の改定」が行われ、具体的に差別解消法が実効性をもって機能していくのか今後も注目が必要です。

 

◆尾上さん講演 「障害者差別解消法と私たちの暮らし~障害者権利条約審査を追い風に!~」

尾上さんはコロナ禍でも、みんなとしっかりつながっていくことを呼びかけられ、最初に今回の法改正の中身を評価するために、まず歴史を振り返られました。

差別解消法は障碍者権利条約に批准するために必ず必要であった法であること、権利条約は「インクルーシブな社会、分けられたり排除されない社会、そのために差別の禁止が必要」とし、「施設や病院にずっといなければならないのは差別であり地域生活が必要、共に学ぶ教育などを権利条約は提唱している」とし、「その観点からは日本には多くの課題がある。2010年からの制度改革、当時私は東京にいました。まず基本法の改正や総合支援法の制定そして差別解消法の制定が2013年まで行われ、そして2014年に権利条約に批准した。この法律ができてきた順番を見ると、どうしても差別解消法が批准には必要だった。その意味でも権利条約とは切り離せないものである」。

 

〇法成立後も続く差別事件

「法律ができてからも様々な事件があった。2016年ALS参考人拒否事件。時間がかかるから国会審議に差し障りがあると拒否された。今ではALSの国会議員名も出て大きく変化した。そして相模原事件。優生思想むき出しの事件。2017年6月にバニラエアという航空会社が介助しないという差別事件、人を人として思っていない事件。2018年には岐阜県でガードマンしていた知的障害者が成年後見を使ったらそれを理由に失職した事件。2018年大阪府で手話通訳の派遣拒否事件。聴導犬のブリーダーの研修に手話通訳を拒否された、拒否した職員は懲戒解雇された。そして中央省庁での障害者雇用の水増し、明らかに偽装としか思えない事件・・・」。

「しかし同時に法律ができたことによって私たちの暮らしに影響を与えている面もある。航空会社の約款では『補助犬や盲導犬は飛行機に一匹だけ』と決まっている。視覚障害者の仲間が同じ大会に行くのに1人しか認めないと乗車を拒否され、他の人は次の日に行かなくてはならなかった。約款と言われあきらめたが、差別解消法の窓口に行って相談したところ、その約款が撤廃された。何の合理的な根拠もなかったのです。法がなければ撤廃はされなかった」。

「もう一つは、車いすトイレ。普段鍵がかかっていて守衛さんに開けてもらう。差し迫っているのに待たされる状態が続いていた。差別解消の窓口に相談した。路上生活者が中にこもったり破損があることを理由に鍵がかけられ障害者に不便をもたらしていたが、改善された」。「抽象的なあいまいな理由で正当化されていた事が法によって変わりつつある」とし、制定当時から存在した法の弱さという課題を前に進めていく、そのために今回の法改正があると尾上さんは話された。

 

〇国連による日本政府への勧告

日本は権利条約に2014年に批准、2年後には必ず権利条約の内容がきちんと実施されているのか国連から審査を受けます。コロナがなければ去年の夏には国連から勧告が出る予定でした。早ければ今年の夏に出る予定ですが、ヨーロッパでも感染が拡大しており、オンラインで審議されるのか、来年の春まで延期されるのか、時期がわからない状況です。権利委員会による審査の状況は、「事前質問事項」まで進んでいます。藤原久美子さんたちがスイスのジュネーブに行かれ日本の実情を訴えました。差別解消法の事も質問事項に入っています。今回の法改正には国内の動きもありますが国際的な動きも影響しています。差別解消法の事前質問には、・・・

①  複合差別・・・女性と障害の差別が絡み合っているが、差別解消法にはきちんと書かれているか?

②  差別解消法での相談やあっせんの統計を出してください。

いずれも日本の法の弱点が指摘されています。

 

〇地方での取り組み~差別解消法と条例

差別解消法の制定、強い反対もあり8割がた難しいという厳しい状況もあったが、何とか実現できたが、100点満点ではない。「差別の定義がない」「合理的配慮の提供は事業者が努力義務」「紛争解決の仕組みがない」・・・。そのため法の不備を補完するために各地で条例が作られました。条例によって「上乗せ横出し」行われた。各地の良い条例を紹介。

・東京都・・・民間事業者にも義務付けられ、今回の法改正にも影響した。

・滋賀県・・・民間事業者だけでなく個人の差別禁止や合理的配慮も対象になった。滋賀県では差別事例を障害者団体も協力し800件集まった。「自治会の回覧板が障害者だけ回されずゴミの回収の変更も知らされなかった。自治会でこんなことしてよいのか」と議論になり対象にされた。「相談・斡旋申し立て~勧告、公表の仕組み」そして「地域アドボゲーター」として、私も施設の中で声を上げられなかったが、当事者と一緒に声を上げていく支援も盛り込まれ、これが滋賀県の特徴

引続き条例化を求めることも重要で、ぜひ兵庫県や神戸市でも条例化を進めてほしい。

 

〇法の見直しに向けて

DPI日本会議として差別事例のアンケートを実施し460件の差別事例が寄せられた。多いのは店、交通機関、映画館や劇場、学校、入居差別の事例。法律では明記されていない「間接差別」と「関連差別」。

・間接差別の例・・・視覚障害者の受験の時、障害者だからという理由で拒否はしないが、点字受験を認めず実質的に受験を認められない拒否。

・関連差別の例・・・障害者を理由に乗車を拒否していないが、車いすとか盲導犬同伴を理由とした障害者に関連したことを理由とした拒否。

また「セルフのガソリンスタンドで手伝ってほしいと頼んだが断られた」、また相談窓口の在り方として「窓口でたらいまわしにされた」、そして「明らかに女性だから見下した対応」の複合差別。

そのような障害者運動の取組みに支えられ、障害者政策委員会では、2019年2月~2020年6月まで11回の委員会が開催された。なかなか進まず15人の委員が連名で意見書も出され、かなり緊張した場面もありましたが、複合差別や民間事業者の合理的配慮の義務化などの5つの意見も入った意見書がまとめられました。DPI日本会議としては、本来、差別の定義などを明確にした障害者基本法の改正が必要だと考えていましたが、それはできなかったが、意見書の中に「障害者基本法の見直し改正」が入りました。

 

〇改正のポイントと残された課題

・「国におけるワンストップ相談窓口」が国と地方公共団体との連携協力に係る責務として追加されました。ワンストップ窓口がなぜ必要なのか、例を挙げると「映画館の問題」・・・

・車いす席がない問題・・・管轄は厚労省

・字幕がない問題・・・管轄は文化庁

・視覚障害者への副音声・・・管轄は経済産業省

→ こんな複雑な内容は地方自治体では分からないので、国にワンストップ窓口があれば整理できる。

・「相談体制等の拡充」として国も自治体も相談体制の整備として人材の育成と確保を明確化した。

・「差別事例の収集、整理」・・・当たり前のことでこれまで規定がなかった。

・「公布の日から3年を超えない範囲で施行する」・・・これが非常に問題。法律は国会で決まったら成立し、普通30日以内に官報に載ります。しかし、3年以内となったら、2024年の6月もあり得ます。何とか運動の力で、施行までの期間を知締められるような取り組みが必要です。

 

〇最後に・・・

1970年代から43年間、障害者運動に関わってきた。優生思想に反対し施設や病院への隔離、分離教育を告発し反対してきた半世紀の障害者運動が目指したものを権利条約が後押ししている。1970年代に諸外国ではインクルーシブ教育にかじを切ったが日本は分離にかじを切った。1つは教育の問題。そして「地域」も「施設」もという日本の政策の誤り。権利条約が求める「脱施設」は施設をなくしていくこと。なぜ日本で進まないのか?? 国も自治体も施設をなくすとは言わない。このような話をすると、ある自治体の担当者は「施設待機者、待っている人も多くいる状況で施設を減らすことは難しい」と言われる。背景として家族介護でずっと生活せざるを得ない状況がある。新規入所が続けば永遠に施設はなくならない。「新規入所制限」、国連の勧告でこの辺も指摘されるのではないか、その際にどう考えていくのか。コロナ禍での行動制限、不自由な生活、これは障害者がずっと強いられてきたこと。「地域生活、脱施設 インクルーシブ教育の転換」が必要。それに向けての差別解消法の改正 兵庫県での条例化にもチャレンジしてほしい。

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