差別問題一般

【報告】 朝鮮学校で講演しました ~ その中で思ったこと

野橋順子(障問連事務局次長)

 

3月4日、垂水にある神戸朝鮮学校に講演会に行ってきました。朝鮮学校に講演会に行く事は初めてだったのでドキドキしました。障問連が今年の1月に開催した人権シンポジウム「コロナ禍でマイノリティーがどんな困難を強いられたか」のパネリストの中に朝鮮学校の朴先生から声をかけていただいたのがきっかけでした。

私はそのシンポジウムの中では、障害者の立場として、コロナの中で障害者がどんな差別や苦労を強いられたかを中心に話しました。例えば重度障害者が入院するのに、介助者が必要なのにコロナで、介助者をつけることができず本当に困っている現状や、知的障害者がマスクをつけることができなくて、人からジロジロ見られて、あんな障害者は外に出ない方がよいと言われたり、様々な困難や差別がまだまだあると怒りを交えながら私は話しました。

 

〇根深い偏見や差別

朝鮮学校の朴先生は、すごく爽やかで良い先生で、シンポジウムの時に話されたことが印象的で、「いろいろな差別や偏見がこの社会にはあるけども、やられたらやり返すと言う考え方ではなくて、一緒にどうやったら寄り添いながら生きていけるのかを考えていく必要がある」との発言が私の中に印象に残り感銘を受けました。朝鮮学校では様々な差別があり、例えばユニクロのマスクの配布も、朝鮮学校は対象になっていなかったとか言う話が印象的で、なんという露骨な差別をするのかと思い、差別をされているのは障害者だけではないのだと改めて思いました。また朝鮮学校の制服は昔チマチョゴリだったこともあったけど、その制服が切られたことがあって、制服を変えたと講演会の前に聞き、まだまだ偏見や差別が根深いと思いました。

朝鮮学校には、教室に行くのに20段ぐらいの階段があり、久しぶりに手動車いすで外出をして、その階段を朝鮮学校の先生に車椅子を持ち上げていただきました。すごく申し訳ないなと思っていたのですが、軽々と階段を上げてくださり、本当に感謝でした。

先生が私に講演会の依頼をしてくださる時も、階段があるけどもどうしようと言う話を相談してくださり、普通だったらややこしいから諦めるところを、声をかけてくださり、そこには何の壁も感じられず、びっくりしました。私の今までの経験上は、車椅子だから階段は無理だと思われ、声もかけてくれないことが多かった。先生がなぜそこまでして、私を朝鮮学校に誘って生徒たちに話をして欲しかったのかが不思議で仕方がありませんでした。講演会当日先生に聞くと、「朝鮮学校の生徒たちは、自分が差別されていることすら感じていない」「差別を受けても、またかと言うような感じで、あきらめに近い気持ちを持っている」、「だから野橋さんの話を聞いて、障害者の差別に関して敏感で、入院のお話に関しても、なぜ自分たちだけがなぜ障害者だけがと言う怒りにも近い話を聞いて、ぜひ生徒に聞かせて何かを感じてもらうきっかけになれば良い」、そう思われたとのことでした。

 

〇ありのままの自分で生きていく

講演会では生徒たちみんなしっかりと私の話を聞いてくれました。高校3年生30人強位の生徒の前で喋りました。私はいろいろな学校で講演会をしてきたのですが、多くの高校生とか中学生は、残念ながら私の話を真剣に聞いてくれません。大概の生徒は寝てるか、退屈そうにしているか、隣の人と喋ってるかと言う感じです。でも朝鮮学校の生徒たちは真剣に、うなずきながら私の話を聞いてくれました。私は彼ら彼女らに伝えたかった事は、私自身の経験として、障害者で生まれたことで本当に様々な差別を受けてきて、すごく苦しかったし辛かった。障害がある自分の体を恨んでしまった時もあった。しかし自分が悪いわけではなくて、その状況を受け入れてくれない社会が悪いと思う。だから朝鮮人だから障害者だからといって、何も悪いと思わなくても良い。胸を張って生きていければいいと思うと言うことと、私はずっと自分の体が嫌だった、でも多くの仲間に出会ったおかげで、自分が障害があってもいいと思えることができた。だからみんなも朝鮮人だからと言うことを隠さないでほしい。ありのままの自分自身を受け入れてほしい。でないと苦しくなってしまう。私はそう伝えました。

 

〇生徒へのメッセージ

質疑応答の時間では、やはり高校生なのか難しい質問はなくて、「好きな食べ物はなんですか」「小さい頃の夢は何でしたか」などの質問が出ました。後から「なぜ好きな食べ物は?と聞いたのか」と生徒に先生が尋ねたら、「野橋さんがハンバーグと言ってくれたら僕と同じで話が広がるかなぁと思ったから」。私は「キャベツが好き」と変な答をしてしまってごめんなさい。これからは高校生の好きな食べ物を前もって調べて講演会行こうかしら・・・(笑)。「子供の頃の夢は?」の質問には、「子供の頃も今もだけど、自分の本を出したい」と答えました。「自分と同じように悩んでいる障害者に向けてのメッセージを残せれば良いと思っているので本を出したい」と答えました。

先生方からは「今、生徒たちは高校3年生でこれから社会に出ていく。今は生徒たちは朝鮮学校という中にいて、同じ仲間たちがいる中で育っている。でも社会に出ていくと、様々な人と出会い、理解がある人ばかりではないと思う。社会に出ていく生徒たちに向けてメッセージをください」と依頼された。

私は講演会の中でも言ったけども、「社会に出ていくと、必ずきっと差別や偏見の眼差しで見る人がいると思う。その中で必ず挫折や苦労を感じると思う。でもそこで1人にならないでほしい。ここに仲間がいたということを忘れないでほしい。何かあれば同じ立場の人たち同士で話す事がすごく大事だと思う」「今回の講演会のテーマは朴先生から『共感』という素敵なテーマをいただきました。共感をしてもらうことがいかに大事なことかということを忘れないでほしい。私も今障害者の仲間同士で行っているピアカウンセリングの活動をしている。その中でお互い共感しあい元気になっている。ピアカウンセリングだけではなくて、障害者や健常者の垣根を越えて、共感してくれる人がたくさんいる。仲間がいることがほんとに大事なことだ」と伝えました。

講演会が終わった後に2人の生徒が私のところに来てくれて、「講演会では聞けなかったけど、質問です。1番嬉しかったことはなんですか?」と聞かれました。

私は「自分の障害がすごくしんどくて辛くて嫌いだったけど、障害があるままでいいと仲間に言われて、嬉しかったです!」と答えました。またもう1人の生徒は、「自分のおじさんが発達障害です。いろいろ話聞けてよかったです」と言ってくれました。講演会の中で質問できなかった生徒も、きっといろいろ感じてくれていることだろうと思います。感想文を読むのが楽しみでした。

後日感想文が届き、32人分の生徒さんたちの感想文を一気に読みました。感想文には、「朝鮮人だから障害者だからといって何も悪いと思うことはない、それを受け入れてくれない社会が悪いんだ」、「朝鮮人とか障害者とか、自分のことをカミングアウトしてありのままの自分で生きていくことが大事だ」、「いかに私たち少数派と呼ばれるマイノリティーが共感してくれる人を作っておくことが大事なんだということを学んだ」、「 障害者にとって親が一番の理解者でもあるけど、一番の差別者でもあるということが衝撃的で悲しいなと思った」と、 講演会で私がみんなに伝えたいことが本当にそのまま伝わっていると思って学校に行って良かったなと思いました。

朝鮮学校の生徒たちは多かれ少なかれ差別を経験しているのだと思いました。普通だとこんなに共感の声は聞けないです。「少数派である私たちが声を上げていくことが大事だと思いました」という言葉に、私は重みを感じました。32人分の生徒さん達の思いを受け取り、私自身もこれからもマイノリティ・少数派の人間として辛いことやしんどいことを差別だと思うことを発信したり、 辛いことだけではなく、みんなと一緒に繋がり合える幸せを発信していければいいなと改めて感じることができました。私達自身が声を上げ、 みんなと交流していくことが大事、話をしないと分からないことがたくさんある、だからこそ繋がり合えることが大切だということを痛感しました。朝鮮人と日本人、障害者と健常者、そんなの関係ない!みんなみんな一生懸命生きていて、人生を豊かで楽しむ権利がある!

でもそれを阻む差別や偏見がこの社会にはある。でもそれをなくすには、1人の力では無理でみんなで変えていく必要があると思うので、何か困ったことがあれば、一緒に力を合わせていきたいと思いました。

« »