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【報告】 不備のある裁決書を出し続ける兵庫県の判断の是非を問う

村上真一郎(NPO法人ウィズアス)

 

(※この原稿は「理由付記裁判報告レター2号」から転載させていただきました)

 

「一度しか言わないので、ちゃんと聞いといてください」と前置きして、裁判長が今回の裁判の判決を伝えた。

「兵庫県の出した裁決を棄却します」

それだけを聞かされると、この判決文の意味が即座には伝わってはこなかった。「棄却」という使い慣れない言葉のマイナスイメージに引っ張られて、敗訴したのではないかと多少の動揺を感じたのは自分だけではなかったようだ。いずれにせよ、この裁判に関して、Aさんの主張は全面的に認められるという、実に喜ばしい、当然と言えば当然の結果になった。この裁判の結果、兵庫県がAさんに出した裁決書は棄却され(この裁判の期日直前に自らで取り消しているような裁決書である以上、県としても納得の結果だろうが)、未決という状態に戻る形になった。単純にスタートの地点に戻った感じではあるが、この裁判を経たということ、そしてその結果として勝ち取った成果がある以上、その意味は全く異なる筈だ。

この裁判の結果を受け、自分の手元にある他の方の裁決書のコピーを見返した。私自身、自分が支援している利用者の審査請求のお手伝いをしてきた経緯もあり、Aさんと同じような裁決書が何通もある。

これまでに、他の方のケースにおいて、Aさんと同様の趣旨の審査請求を行ってきた。しかし、兵庫県は、理由附記についての行政手続法違反の訴えに関しては全くのノーコメントを貫いてきた。5回もの審査請求を行った方のケースでは、1回目の審査請求の裁決書で行政手続法違反については判断されていないことを受け、2回目以降の審査請求の理由書や反論書の書面には「この審査請求において審理員が判断すべきことは、拒否処分であるのは明らかであるのに書面による理由附記がなされていなかったことに対する、行政手続法違反であるかどうかだ」と、明確に書いてきた。しかし、審理員が裁決書に書いた言葉は一向に変化がなく「審査請求人は書面による理由の説明を強く求めているので、処分長は丁寧な説明をするように申し添える」というものだった。「求めているのはそういうことではない」と繰り返し訴えてきたが、その思いが届くことはなかった。そして、この判決である。

その当事者に最初の審査請求の裁決が出された平成29年8月から考えると、実に3年以上もの間、兵庫県は行政手続法違反について判断をしないという状態を放置し続け、幾度となく繰り返し不備のある裁決書を出し続けていたということになる。この件について、兵庫県としては一体どのように考えているのだろうか。

しかし、まだこれから、である。

この裁判の結果を受け、兵庫県は理由附記がなされていない支給決定が、行政手続法から判断して適法であるかどうかの判断を迫られることになった。しかし、兵庫県はこの裁判の期日直前に自らが出した裁決を職権で取り消し(この職権による取り消しは裁判で否定されたが)、この判断を適法だとする裁決書を一旦は出している。しかし、この裁決は職権による取り消しと同日に出されたものあり、本当にきちんとした議論が行われて出された裁決であるか甚だ疑問である。今回の裁判を経たことで、この判断が変わっていることを強く望むが、もし、判断として変わっていないのであれば、今度はその判断の是非を、これ以降の裁判を通して司法に問うていくことなになる。

Aさんと支援者を見ていて感じたのだが、やはり、裁判を続けていくのに想像以上の体力が必要だ。判決がでるまでに期間はかかる。もちろん費用もかかる。更に言えば、相手方は行政という公権力である。それらの負担を個人として引き受けているAさんと、それを支援する弁護団や支援者には様々な角度から応援が必要なのは間違いない。一人でも多くの方に、この裁判が意味していることをご理解していただき、これからも応援をお願いしたいと心から願います。

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