介護保障

【介護保障】 「理由付記裁判」10/22 Aさんが勝訴しました!!

障問連事務局

昨年9月20日に原告Aさんが提訴した「理由付記裁判」の判決が10月22日神戸地裁で下され、全面的にAさんの主張が認められました。

被告兵庫県は・・・

・「Aさんの提訴を受け間違いに裁決書の不備に気づき職権で書き直したので、今回の提訴の意味はなく裁判所はAさんの訴えを棄却すべき」

と主張しましたが、今回の判決で裁判所は県の主張を以下のように明確に否定しました。

(以下、判決文からの引用)

・「審査請求に対する裁決は、実質的に見ればその本質は法律上の争訟を裁判するものであるから、他の一般行政処分と異なり、特別の規定がない限り、裁決行政庁自らにおいて取り消すことはできないと解するのが相当である」との「最高裁判所昭和29年1月21日第一小法廷判決」を引用し、続けて・・・

・「そうすると、裁決行政庁である兵庫県知事がした職権取消しは無効であると解さざるを得ず」

と明確に否定しました。

Aさんの審査請求に対し兵庫県は・・・

「2年以上も裁決まで長引かせ」

「長期間要したにもかかわらずAさんが求める理由附記に関する記載を裁決書に欠落させ」

「提訴されて初めて不備に気づき慌てて職権で書き直した」

しかし、「審査請求は裁判と同じ意味を持つものであり勝手に書き直すことなど認められません」と判決で県のしたことは否定されたのです。

なぜこのような失態を県が行ったのか。障害者の命と生活に関わる審査請求の在り方が根本的に正されなければならないと私たちは考えます。今回の判決を受け、下記のよう兵庫県に対して緊急要望書を11月6日に提出しました。Aさん以外にも「考える会」の仲間が審査請求しています。他府県に比べ、兵庫県の不服審査会の在り方には大きな問題があります。兵庫県は判決を真摯に受け止め、私たちの要望に前向きに検討することを強く求めます。

判決公判と報告集会の報告は次号で行います。以下遅くなりましたが前回第2回裁判の報告を紹介します。

 

■【理由付記裁判 第2回裁判報告(8/20)】       村上真一郎(NPO法人ウィズアス)

まだ寒い今年の1月に行われた第1回公判に引き続き、兵庫県を相手に行ったAさんの理由附記をめぐる審査請求の在り方を問う裁判の第2回公判の傍聴に行ってきた。

春先からの全世界規模の新型コロナ感染症の感染拡大の影響を受け、この裁判の日程も随分とずれ込んでしまったが、令和2年8月20日にようやく第2回の期日を迎える形になった。新型コロナ感染症対策もあり、傍聴人数の制限等もあったが、それでも第2回の公判には障害当事者も含め多くの傍聴人が訪れ、前回にもましてこの裁判の関心の高さがうかがえた。

裁判そのものは、事前に提出された書面の確認を行っただけで、結審という形になった。裁判長からは次回の期日で判決を述べるという旨の話が行われた。

裁判終了後に、会場を移動して行われた報告集会においては、今回の裁判の振り返りと今後の展望の説明が弁護団からの話を中心に行われた。今回の兵庫県を相手にした裁判は、勝訴の可能性が高いという見立てが弁護士からは述べられた。また、今回については勝訴だとは思われるが、兵庫県の審査請求の裁決の甘さを指摘した上で、理由附記についてきちんと判断するように求めるという兵庫県の裁決の内容にまで踏み込んだ形で判決文が書かれることが理想だという話もあった。

しかし、支給決定をめぐるAさんの裁判は今回の勝訴をもって終了というわけではない。弁護団からも今後の展開についての説明が行われた。「拒否処分を行った際に理由を附記しないことが行政手続法に違反している」という問題や、「限られた時間しか支給決定を行わずに障害当事者の生活を脅かす支給決定の在り方」をめぐる問題については。まだまだこれからの課題となっている。Aさんが目指す道は長く険しい。

Aさんが矢面に立つ形で今回の裁判を行っている意義は、自身のためだけを考えての行動ではないということは、前回の報告でも述べさせていただいた。今も尚、「支給決定」という障害当事者にとって生死の問題や個人の尊厳の在り方を巡るとても大切な決定が、明確な理由を述べられることなく行政から一方的に行われている。この一連の裁判の結果がどうであれ、例え行政という権力が相手でもあっても「おかしいことはおかしい」というAさんの姿勢と、そしてAさんの想いを受け止め一致団結してそれを支える弁護団と支援者の姿には本当に頭が下がる。この揺るぎない姿勢こそが、数多くの障害当事者やその支援者たちに、「おかしいことはおかしい」という勇気を与えるものであることは言うまでもない。

まずは10月22日の判決を期待して待ちたいと思う。

 

 

兵庫県知事 井戸敏三 様                              2020年11月6日

兵庫県障害福祉審議会 様

兵庫県企画県民部管理局文書課 様

緊急要望

障害者の介護保障を考える会

代表   凪 裕之

関西介護保障弁護団

代表   中井 真雄

障害者問題を考える兵庫県連絡会議

代表   福永 年久

 

兵庫県におかれましてはユニバーサル社会、共生社会の実現に向けご尽力されていることと存じます。

2020年10月22日、神戸地方裁判所において「令和元年(行ウ)第72号裁決取消請求事件」の判決が下されました。その内容は、同事件の原告Aさんが2016年12月29日付で提起した「介護給付費等に係る審査請求」に対して、2019年3月27日付で被告兵庫県が行った「棄却する旨の裁決」を、今回の判決は「取り消す」と判断されました。

Aさんの請求の適否を実質的に判断し協議し裁決したのは「兵庫県障害福祉審議会」ならびに同審議会に付属される「不服審査部会」です。裁判において「取り消される」という杜撰な裁決がなぜ行われたのでしょうか。「不服審査部会」を所管する兵庫県及び兵庫県障害福祉審議会として今回の判決を重く受け止め、介護給付という、障害者の生命や生活に深く関り、Aさんについては多くの自己負担を強いられる経済的な損失をも伴う重要な事柄に対し、裁決が判決により取り消されるという事態は、県民から負託された審査会の在り方そのものが問われていると認識され、なぜこのような事態を招いたのか真摯に反省し、今後、不服審査会をあるべきあり方に改変されるとともに、以下の私たちの要望を誠実に受け止められ、12月初旬を目途に話し合いの場をもって回答していただくか、または文書により回答していただくことを要望いたします。なお期日については別途、協議させていただきます。

 

(1) 兵庫県として今回の事態を反省し早急に不服審査部会の在り方を見直して下さい。

以下、兵庫県障害福祉審議会ならびに不服審査部会の在り方について以下、要望いたしますので、各項目ごとに誠実な回答をお願いします。

① 兵庫県における審査請求体制の不備について

審査請求とは、裁判類似の準司法的手続であり、その手続を預かる兵庫県は裁決手続の中で当事者の主張を遺漏、無視するなどあってはならないことです。今回のような事態は極めて初歩的なミスであって、兵庫県の審理員及び兵庫県障害福祉審議会が、行政不服審査法に基づく審査請求を司り、審理判断するに足りる能力を備えていないことを露呈したといわざるを得ません。

今回、理由付記という行政手続法上極めて重要であったはずの争点について、兵庫県及び兵庫県障害福祉審議会がこのような判断遺脱に至ったことにつき、兵庫県としてどのように受け止めているのですか。

また兵庫県及び兵庫県障害福祉審議会は今後、審査請求手続において行政不服審査法が求めるクオリティを確保するため、どのような改善策を考えているのか、例えば障害者総合支援法に基づく介護給付費についての審査請求も審査請求一般と同じく兵庫県行政不服審査会に付議する、現行のまま兵庫県障害福祉審議会に付議するとしても弁護士が審理員を担当するようにする、兵庫県障害福祉審議会に弁護士を増員する等の策を考えているのか、明らかにして下さい。

② 不服審査部会の在り方について

9月4日、「障害者問題を考える兵庫県連絡会議」より兵庫県障害福祉課に資料提供し説明させていただきましたが、他道府県の不服審査会では開催日時と審議の概要、委員氏名、審査にあたっての考え方など詳しくホームページで公開されています。兵庫県の不服審査部会についての情報公開が極めて不十分です。敢えて指摘させていただくなら、県民への情報公開による説明責任を欠落した密室の審査の在り方により、今回のような杜撰な裁決が生じたのではないかとの疑念を有さずにはおられません。今後、審査する障害当事者並びに県民への説明責任を果たすべく、早急に不服審査部会の情報を公開して下さい。

③ 兵庫県障害福祉審議会の在り方について

同審議会は障害者基本法及び障害者総合支援法を根拠とし主要に基本法と総合支援法に基づくそれぞれの障害者計画に関し、障害当事者及び関係事業所、有識者等により、策定および計画の進捗をチェックする等の兵庫県の障害者施策全般に関して審議される重要な機関です。しかし、審議会の回数自体が少ない上に、極めて限られた時間内に「兵庫県障害者差別解消支援地域協議会」、「兵庫県地域自立支援協議会」も兼ねて開催されるため、報告も十分できず審議する時間も取れない問題がずっと以前から存在していました。その点について、9月18日、2020年度第一回兵庫県障害福祉審議会において、一部委員から以上のような審議会の在り方の不備が指摘され、「これまでにも毎年要望してきた、もういい加減に改めて欲しい」と強い要望が上げられました。この委員からの指摘に対し兵庫県障害福祉課事務局から何らの説明も行われず、言わばスルーされた状態です。障害当事者等の参画が名ばかりの審議会の協議の在り方自体が極めて形骸化したものであると言わざるを得ません。審議会自体のこのような状態の中では不服審査部会も十分な審議が行われているのかどうか疑念を有さざるを得ません。以上を踏まえ、下記の事項に誠実に回答して下さい。

(ア)  上記のような兵庫県障害福祉審議会自体の在り方の不備について、今後どのように改善されていくのか説明して下さい。

(イ)  不服審査部会がどのように開催されているのか説明されるとともに、Aさんが2016年12月29日付で提起した「介護給付費等に係る審査請求」が2019年3月27日付裁決されるまで、いつ、何回審議されたのか、私たちに情報公開して下さい。

 

④ 審査請求の迅速化を図ってください。

Aさんの事案では審査請求から裁決まで約2年4か月もかかっています。裁判ですら迅速化が図られている今日、まして障害者の日々の生活に密接に関わる内容に対して、簡易迅速な権利救済という審査請求制度の趣旨を完全に損なっており、あまりにも時間がかかり過ぎていることは明らかです。Aさんの事案について約2年4か月もの長期間を要したのはなぜか、その原因を明らかにすると共に、その反省に立ち、今後の審査請求手続の迅速化を図って下さい。

⑤ Aさんの請求に対する審議の経過及び議事録または審議の概要を情報公開して下さい

Aさんへの裁決に、それだけ長期間審議しながら、理由付記に関する請求に対して裁決書では一切記述されなかったのは一体なぜなのでしょうか。今回の訴訟でその点について兵庫県は「理由不備について双方から明確に対立する主張がなされている中で、審査庁として、審査請求をしたのは理由附記がなされなかったことを違法とすることはできない旨を判断したからであるが、その旨の判断を示す部分が裁決書から遺脱してしまった」(被告第1準備書面6項より引用)としています。しかし本当に審議がなされたのであれば、「遺脱」するなどあり得ないはずです。私たちはまともに審議が行われなかったのではないかとの疑義を感じずにはおれません。Aさんの請求に対する審議の経過及び議事録または審議の概要を示して下さい。

⑥   「職権による取り消し」された経緯を具体的に説明して下さい

さらに本訴訟で兵庫県は「・・・遺脱してしまった。本件訴訟提起により、本件裁決に理由附記にかかる判断が示されなかったことについては、審査庁として問題があったことを認識したことから、本件裁決を令和元年12月26日付で職権により取消し、同日付けで新たな裁決を行った」(被告第1準備書面6項より引用)としています。しかし今回の判決で裁判所は「審査請求に対する裁決は、実質的に見ればその本質は法律上の争訟を裁判するものであるから、他の一般行政処分と異なり、特別の規定がない限り、裁決行政庁自らにおいて取り消すことはできないと解するのが相当である」(判決文より引用)との「最高裁判所昭和29年1月21日第一小法廷判決」を引用し、「そうすると、裁決行政庁である兵庫県知事がした職権取消しは無効であると解さざるを得ず」と明確に否定しています。以上を踏まえ、下記の事項に回答して下さい。

(ア)   Aさんが本訴訟を提起しなければ、裁決書の不備が放置され続けたことを兵庫県が自ら認めています。極めて無責任な、また障害のあるAさんに対し非礼なことではないでしょうか。Aさんに真摯に謝罪されるとともに、何故このようなことが生じたのか明らかにしてください。

(イ)   兵庫県が今回の判決を真摯に受け入れられるならば、引用した判決文にあるよう「審査請求に対する裁決は、実質的に見ればその本質は法律上の争訟を裁判するものである」との新たな認識に兵庫県は立つことになります。違う言い方をするなら、今回の職権取り消しを兵庫県として行えたのは、審査請求は「実質的には法律上の争訟を裁判する」と認識されなかったからこそ行われたものとしか考えられません。なぜなら60年以上前の最高裁判決という過去の判例や基本的な法解釈は当然認識されていたはずだからです。以上のよう、新たな認識に立たれるなら、今後、どのように兵庫県の不服審査の在り方を見直されるのか、説明して下さい。

(ウ)   2019年9月20日にAさんが本訴訟を提起することにより、理由附記にかかる判断を裁決書から遺脱したことに問題があると県は認識されたと言いますが、同日以降、何月何日にどこで不服審査会が何回開催され、職権による取り消しを行うにあたってどのような協議が行われたのか、特に先に引用した「最高裁判所昭和29年1月21日第一小法廷判決」を認識していなかったのか、あるいは認識していてもなお職権取消しは行うべきであると、どのような審議を経て結論付けられたのか、不服審査部会の議事録または審議の概要を説明して下さい。

 

(2) 新たに裁決されるにあたり、拙速に裁決せず、以下の内容を踏まえ審議して下さい

本年10月22日下された判決に基づき、Aさんへの2019年12月26日付職権取消しによる裁決は無効となり、兵庫県として新たに裁決をされることと思います。上記(1)で述べたよう、多くの様々な兵庫県不服審査部会としての組織的および基本的な法認識の瑕疵が存在し、不服審査の在り方そのものが問われています。それを踏まえ、拙速に結論付けられることなく、私たちの以下の意見・要望等を踏まえ慎重に審議されることを強く要望するとともに、以下の要望ならびに質問に真摯にご回答下さい。

①   兵庫県障害福祉審議会、不服審査部会の全ての委員に、今回の訴訟の判決や原告側の主張等、全ての情報を提供して下さい。それが判決を真摯に受け入れる証であり、第三者機関である同審議会及び不服審査部会の独立性を担保し、今後とも有効な役割を果たしていくスタートになると私たちは考えます。

②   障害者本人の希望する介護支給量は「勘案事項の1つに過ぎず拒否処分ではない」との兵庫県の認識を改めてください。

Aさんの審査請求の審議の過程で、処分庁である神戸市は弁明書の中で以下のように主張しています。「申請の際の支給量を含む障害福祉サービスの利用に関する請求人の意向は、処分庁が介護給付費等の支給の要否を決定する際の勘案事項の一つであって,請求人が希望する支給量とは異なる支給量を決定したことをもって,『申請により求められた許認可等を拒否する処分』となるものではない」としたうえで、神戸市は行政手続法8条1項の(一部)拒否処分ではないと判断し理由附記も必要はないと主張しています。

そして兵庫県も、Aさんへの2019年12月26日付職権取消しにより書き直した裁決書において全く同じ主張をしています。これらの点について以下質問並びに要望させていただきます。

(ア)  上記の「申請の際の支給量を含む障害福祉サービスの利用に関する請求人の意向は、処分庁が介護給付費等の支給の要否を決定する際の勘案事項の一つ」との考え方は、兵庫県障害福祉審議会及び不服審査部会の委員が全員周知された上での共通認識ですか。共通認識に至った過去の協議の経過と内容について情報公開または何らかの説明をして下さい。

(イ)  障害者本人が希望する支給量が「勘案事項の一つ」に過ぎないとするなら、障害福祉サービスの利用申請書や更新申請書に署名、押印し、例えば「重度訪問介護月○○時間」との申請は一体何なのでしょうか。勘案事項の一つに過ぎないなら「申請内容」とは言えません。またそうであるなら審査請求するという不服を申し立てる余地はなくなります。裁判により取り消されたとはいえ一旦正式に兵庫県が出した裁決書で主張した内容について、今要望書末尾に掲載している「平成19年9月18日福島地裁判決」では「申請に対する一部拒否処分であると認定」され、末尾に示すAさんの請求と同類型の多くの介護保障裁判での確定判決でも、全て裁判所は一部拒否処分として取り扱って判決を下していますが、これらの過去の判例等も不服審査部会及び兵庫県障害福祉審議会の全委員が周知した上でもなお、障害者本人が希望する支給量は「勘案事項の一つ」に過ぎず拒否処分ではないと認識されているのでしょうか。事実をもって私たちに説明して下さい。

(ウ)  支給量の決定にあたる根拠として、勘案事項調査とともに制度的に義務付けられている「障害福祉サービス等利用計画」や「セルフプラン」があります。特に「障害福祉サービス等利用計画」は第三者である相談支援専門員による客観的な評価を伴い、かつ障害者本人の地域での自立した生活をどうやって実現していくのか重要な施策であると兵庫県も認識し各市町に推奨し兵庫県障害福祉審議会でも「相談支援部会」報告が毎年上げています。しかしAさんが居住する神戸市では「障害福祉サービス等利用計画」により算定される支給量が市基準を超える場合には時間抑制を神戸市担当課が相談支援事業者に命じ相談支援事業者が困窮している実態があります。また神戸市当局は例えばAさんに対しても「なぜこの時間は一人で過ごせないのか」「排泄はオムツでできないのか」と執拗に問い続けます。これが実態です。「障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであること」「全ての障害者及び障害児が可能な限りその身近な場所において必要な日常生活又は社会生活を営むための支援を受けられることにより社会参加の機会が確保されること」と示される障害者基本法や障害者総合支援法の理念に反していないと言えるでしょうか。Aさんについて言えば生まれながらの脳性麻痺障害に加え、頚椎症による二次障害によりあらゆる行動に介護を要する重度障害者になるまで何年間も働き続け、その間に蓄えた貴重なお金を、この数年間、不足する介護時間に対し自己負担により蓄えを切り崩して介護を受けられています。必要でなければそんな事はしません。だからこそ止むを得ず兵庫県に審査請求しているのです。しかし障害者が切実な思いで行う請求を審査する兵庫県が「本人が希望する支給量は勘案事項の一つに過ぎない」と本当に考えているなら審査請求する意味はありません。この考えを撤回して下さい。

(エ)  今回のAさんが提起した訴訟の判決で「審査請求は法律上の争訟を裁判する」ものと判断されました。裁判するということは公平に、かつ事実に基づき、そして根拠法である障害者総合支援法の目的や理念に沿って判断されるべきものです。今回の訴訟は裁決書の不備を理由に取り消しを求めた訴訟であり、理由附記すべきかどうかの判断や支給量の適否については判断されていません。今回判決により取り消された上で改めて裁決される際に、もう一度上記の事実を再度認識され、Aさんが納得できる裁決をしていただくよう強く要望します。

③   介護給付の支給決定に対する審査請求は全国的にも数多く行われ、請求が認められず数多くの訴訟が提起され、多くの確定判決があることは周知のことと思います。障害者本人が求める支給量を認めない支給決定を行政庁が行った場合に理由を示さなければいけないのかどうかまで厚生労働省は示していませんが、理由附記については下記のようにすでに多くの判例で示されており、兵庫県として理由附記に関する判断は、その判例等を参考にするのが妥当だと私たちは考えます。それを踏まえ、以下質問並びに要望させていただきます。

(ア)  兵庫県は本訴訟で「審査庁として、審査請求をしたのは理由附記がなされなかったことを違法とすることはできない旨を判断した」(被告第1準備書面6項より引用)としていますが、この点は兵庫県障害福祉審議会の全委員が認識され全委員が同意した判断なのでしょうか。その判断に至る審議の過去の経緯も含めた審議の内容を情報公開または説明して下さい。

(イ)  また下記の確定した判例や他自治体の判断を同審議会の全委員が十分に認識されているのでしょうか。周知されていないのなら、下記の判例や他自治体の判断について、改めて同審議会の全委員に対し資料または情報提供し、各委員からの意見を求め最終的な見解を明らかにし、私たちおよび県民に対しその内容を後日説明または情報公開することを約束して下さい。

 

※(上記に記した【判例及び他自治体の判断】)

◆平成19年9月18日福島地裁判決(賃金と社会保障1456号52頁)

平成19年9月18日の福島地裁における判決(いわゆる「船引町支援費訴訟」判決)では,本件同様、居宅介護の支給量(介護時間数)が申請者の希望する時間(月165時間)と処分庁が処分にて決定した支給量(介護時間数月125時間)に差異があった事案であり、この場合の申請と処分に関して、申請に対する一部拒否処分であると認定し、理由付記のないことを行政手続法第8条の一部拒否処分にあたるものとして、違法性を認定している。

そもそも、次の一連の障害者介護保障訴訟判例はいずれも、支給量に関して、申請者の求める申請支給量と処分庁の下した処分支給量に差異があるという同一の類型訴訟であり、全て裁判所は、一部拒否処分として取り扱って判決を下してきた。

【第一次鈴木訴訟 東京地裁平成18年11月29日判決】(賃金と社会保障1439号55頁)

【第二次鈴木訴訟 東京地裁平成22年7月28日判決】(判例タイムズ1356号98頁・賃金と社会保障1527号23頁)

【石田訴訟 大阪高裁平成23年12月14日判決】(判例地方自治366号31頁・賃金と社会保障1559号21頁)

【和歌山ALS訴訟平成24年4月25日和歌山地裁判決】(判例タイムズ1386号184頁・判例時報2171号11頁・賃金と社会保障1567・1568合併号68頁)。

◆大阪府の裁決について

この事例は,東大阪市に住む者(以下「審査請求人」という。)が支給申請書兼利用者負担額減額・免除等申請書兼届出書に「H31.5.1以降のサービス更新 所得区分更新」,「区分変更も希望」,「家事の時間数たらない」と記載して障害支援区分の変更と支給量の変更申請(障害者総合支援法24条1項)を行ったところ,東大阪市が却下処分を行ったため審査請求をした事案である。

令和2年3月27日,大阪府知事は,行政手続法8条1項に照らして不適法ないし不当であることを理由に同却下処分を取り消す裁決をした(以下「大阪府裁決」という。)。

この大阪府裁決では,却下処分の当否の判断の枠組みとして最高裁昭和60年1月22日判決を基に,行政手続法8条1項の趣旨に照らし「付記すべき理由としては,いかなる事実関係に基づき如何なる法規を適用して申請が拒否されたかを申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならない」としている。

そして,東大阪市が,審査請求人の変更申請の対象が障害支援区分の変更のみならず支給量の変更を含むことを認識しながら,支給量の変更申請却下の理由に「区分が変更とならなかったため」としか記載しなかったことについて,却下処分の理由が「審査請求人がその記載自体から了知しうる程度に明確に提示されているとは言い難い。この点において,処分決定に至る手続きにおいて,不適法,不当性があると言わざるを得ない。」として取り消す裁決をなしたのである。

行政手続法8条1項が適用されるのは,申請に対する拒否処分である。大阪府裁決は,東大阪市に対する審査請求人の支給量変更の申請(法24条1項)に対する変更却下決定について,拒否処分ととらえていることが分かる。

◆平成29年11月13日愛知県知事裁決

重度訪問介護の支給量について市町村が一部却下決定した事案に対する審査請求で愛知県は上記平成19年9月18日福島地裁判決を引用し、「・・・一部拒否する処分とううべきであり、これに対し処分庁が理由を付記しなかったことは、行政手続法第8条第1項の趣旨に反するものであると考えられる」とし、裁決取り消しをした。

◆平成29年4月4日付山口県知事裁決

詳細は省略するがこの事例も介護給付費に係る同種の事案である。

「本件処分は、障害者総合支援法に基づく申請に係る介護給付費等に係る支給量の一部を拒否する内容であり、拒否理由が客観的に明白である場合に該当せず、また、当該処分は書面により行われていることから、処分庁は、本件処分にあたり、処分内容を書面により示す必要があった」と判示し、処分理由の記載の無い処分庁による一部却下決定は行政手続法に違反するとして取り消し裁決をした。

以上

 

【ご案内】

介護保障を考える弁護士と障害者の会 全国ネット 8周年シンポジウム

日時:11月23日(祝日)13:30~16:30 オンラインシンポ・ライブ配信予定

■ 介護保障ネットの8年      ミニ報告

共同代表 弁護士 藤 岡 毅「8年間の活動で実現できたことと課題~今後の展望~」

■ パネルディスカッション

« »