【教育】 特別支援学校の教室不足問題、さらなる分離への逆行
障問連事務局
8月24日付朝日新聞の1面に「特別支援学校開校相次ぐ」というタイトルの記事が大きく出ました。特別支援学校に通う児童生徒が、ここ10年で2割(2万7千人、そのうち9割は知的障害児)増えたのがその原因、とのことです。
少子化の時代において、どうして障害児の数だけが増えるのか? 学校自体を減らしたり、少人数学級にしたりするなかにおいて、なぜ特別支援学校だけを増やさねばならないのか? 就学前検診や3歳児検診によって、子どもが小さいうちから振り分けられてしまうからではないでしょうか? そこを問わずして、「障害児が増えたから特別支援学校を増やさなければ」というのでは、分離教育を追認していくだけです。
ご存じのように、障害者権利条約にもインクルーシブ教育は謳われています。明らかに、予算の使い方を間違えていると言わなければなりません。9月30日に行われた「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議(第10回)」でも、テーマは「特別支援学校の設置基準」と「特別支援教育を担う教師の専門性」とのことで、資料を見る限り、根本的な問題は問われずに、ICT利用等の個別性の問題、教員の専門性をいかに向上させていくかの問題に終始していたことが窺え、私たちが訴えてきた「みんなごちゃごちゃ、まぜこぜな学校、学級づくり」という視点からは大きくずれている感が否めません。
■特別支援学校、開校相次ぐ深刻な教室不足、背景通う子ども、10年で2割増
朝日新聞デジタル 2020年8月24日 5時00分
https://www.asahi.com/articles/DA3S14595953.html
少子化で子どもの数が減り、学校の統廃合も進むなか、障害のある子どもらが通う特別支援学校が次々に開校している。朝日新聞の取材では、2018年度以降の3カ年に全国で17校が開校し、さらに今後、全国で36校の新設計画がある。専門的な支援教育を望む保護者が増えたことなどで、支援学校に通う子どもはここ10年で約2割増加。深刻な教室不足が背景にある。
47都道府県の教育委員会に取材したところ、支援学校は18年度から今年度までに東京や愛知など12都道県が17校を開校。さらに来年度以降、埼玉、東京各6校、福岡3校など、19都道府県に36校の新設計画がある。ほとんどが教室不足への対応だった。昨年度、教室が足りず、会議室などを教室に転用した支援学校は、すべての都道府県にあった。
文部科学省によると、全国の小中高校に通う児童生徒数は1985年度の2226万人をピークに、昨年度は1280万人にまで減少し、学校も約4万2千校から7千校減った。一方、支援学校に通う子どもは2009年度に11万7千人だったのが、昨年度までに2万7千人増えて14万4千人に。知的障害のある子が約9割を占める。学校数は116校増え、1146校となった。昨年5月の文科省の調査では、全国の支援学校で計3162教室が不足していた。国の有識者会議は支援学校が最低限備えるべき施設などの設置基準をつくるよう求め、文科省が検討中だ。
国は障害がある子とない子がともに学ぶ「インクルーシブ教育」を進めようと、13年に学校教育法の施行令を改正。通常校か、支援学校か、子どもの就学先を決める際に保護者の意見が反映されるようにした。就学時の健診で障害を見つけやすくなったこともあり、通常校に通いながら校内の特別支援学級で学ぶ子どもも、この10年で倍増した。ただ、17年度の調査では、どちらにも入学できる障害の重さと判断された約1万人の7割が支援学校を選んだ。また、支援学校では高校にあたる高等部で特に生徒が増えている。
背景について、支援学校6校を新設する埼玉県教委の担当者は「子どもの特性にあわせた、より専門的な教育に期待する保護者が増えた」とみる。2校を新設する大阪府教委の担当者は「就労を想定した専門の授業もあり、福祉事業所などへの就職に期待する保護者もいる」と言う。こうした状況について、特別支援教育に詳しい都留文科大学の堤英俊准教授は「支援学校も保護者の大事な選択肢の一つ」としたうえで、「教室不足への対応として学校を新設するのはあくまで緊急対処。通常の学校にも、一人ひとりの個性や特性に応じた授業ができる少人数学級を設けるなど、保護者が安心して子どもを預けられる態勢を整えるべきだ」と話す。(渡辺元史、玉置太郎)
■特別支援学校に設置基準 深刻な教室不足、施設整備促す 中教審が中間まとめ
毎日新聞2020年9月28日 18時47分(最終更新 9月29日 09時41分)
https://mainichi.jp/articles/20200928/k00/00m/040/139000c
中央教育審議会(中教審)の初等中等教育分科会は28日、将来の小中学校や高校の教育が目指すべき姿について、2019年春から続けてきた議論の中間まとめを公表した。深刻な教室不足に陥っている特別支援学校の設置基準(省令)を新たに定め、生徒数に応じた校舎の大きさや備えるべき施設などを明確化して教育環境の改善を進めることを盛り込んだ。特別支援学校には小中学校や高校で定められている設置基準がなく、過密化が進んでも法令違反にならなかった。
文部科学省は中教審が示した方向性に従い、設置基準の策定作業を本格化させる。既存校が直ちに法令違反となることを避けるため、経過措置などを設けることも検討している。
文科省によると、近年は特別支援学校の需要が高まっており、19年度の児童生徒数は約14万4000人と10年間で23%増えた。きめ細かい対応や障害の種別に合わせた専門的な教育を求める保護者が増えたことが背景とみられ、特に知的障害がある子どもの在籍数が伸びている。
都道府県の教育委員会などは学校の新設や校舎の増築を進めているが、在籍する子どもの増加に追いついておらず、19年5月時点で全国の公立特別支援学校の教室不足数は計3162室に上る。教室を仕切りで二つに分割するなど、苦肉の対応をしている学校もある。
このため、中教審の分科会は「国として特別支援学校に備えるべき施設等を定めた設置基準を策定するとともに、新設や増築などの集中的な施設整備を推進することが求められる」と対応を促した。
中間まとめでは、近年人気を集めている通信制高校の一部で教育内容がずさんなケースがあるとして、教育実施計画の作成や教育活動の情報公開を義務化するなど、規制を強化して教育の質を担保することも求めた。また、教科横断型の学習などに対応するため、小中学校で教科ごとの授業時数配分の弾力的運用を認めることも盛り込んだ。【大久保昂】
中央教育審議会の分科会が示した中間まとめ(骨子)
・教室不足などの解消の必要性が指摘されている特別支援学校について、備えるべき施設を定めた設置基準を策定し、環境改善を図る
・教科横断型の学習内容などに対応するため、小中学校の教科ごとの授業時数の配分を弾力的に運用することを認める
・通信制高校の教育の質の担保に向け、教育実施計画の作成や教育活動の情報公開を義務化するなどの規制強化に取り組む
・2022年度をめどに小学5、6年生で教科担任制を導入する
・高校の「普通科」を再編し、教科横断型の学習を重視する学科や地域課題の解決に向けた学びに力を入れる学科などを新設する
10月 2, 2020