2011年8月 教育集会 栗山和久さんからのアピール
インクルーシブ教育から逆行する兵庫県の障害児教育
県教委は、定時制高校を存続させ、特別支援学校の増設を直ちに中止せよ!!
栗山和久(NPO法人障害者生活支援センター遊び雲)
別項(国・制度の状況)での報告にあるよう、障害者基本法改正において、「可能な限り」という前提はあるものの、「障害のある子もない子も同じ学校の通常学級で学ぶ」方向性が明らかにされた。しかし、兵庫県においては特別支援学校がどんどん増設され、また高校教育全般が、インクルーシブ教育どころか、ますます能力主義による選別・競争が進められています。
また、私たちのメンバーの住田雅清さんが現在通う県立川西良元校(定時制)や川西高校も来春には募集停止、同校には遊び雲の利用者でもある幾人もの障害者が通い続けた学校であり、1990年代から阪神間で高校入学闘争が果敢に取り組まれ、当時、きんとーん作業所も積極的に支援し、日中の行き場として共に活動してきた歴史があり、それが現在でも遊び雲の様々なつながりの原点になっています。そんな学校がつぶされ、さらに新たな多部制単位制高校と同じ敷地に特別支援学校が設置され、しかも県教委はそれを「ノーマライゼーションの礎」と称することに強く抗議するものです。
すでに下記報告にあるよう定時制高校3校の募集停止は既成事実化され、新たに設置される多部制単位制高校等の校名と概要を6月県教委は発表しました。しかし、6月30日には1万名以上の募集停止反対署名の提出、そして伊丹では市立伊丹高校の生徒が一挙に移転される事に対する取り組みも継続して行われています。
★全国的にも増加する特別支援学校
「一緒が良いのに、なぜ分けるのか?」、そしてまさに現在国制度改革の中でインクルーシブ教育を目指すとされながら、下記のように全国的にも特別支援学校の増設が進められている。1979年養護学校義務化の前後から急激に増加した養護学校、そして2007年特別支援教育の本格実施の前後から再び増加する特別支援学校、まさに、約30年を経て、「第二の義務化」と称せられる状況にある。大阪でも、同様の動きがあり、障大連を中心とした障害者団体が当事者を中心として大阪府庁前での反対運動が行われている。厳しい中、全国各地で再び、共に学ぶ教育を目指した取り組みが行われている。兵庫でも微力ながら、私たちも取り組んでいきたいと思います。
年度 | 養護学校数 | 備考 |
1950 | 3校 | |
55 | 5 | |
60 | 46 | |
65 | 151 | |
70 | 243 | |
75 | 393 | 1974年、東京都全員就学 |
80 | 677 | 1979年、養護学校義務化 |
85 | 733 | |
90 | 769 | |
95 | 790 | |
2000 | 814 | |
2005 | 825 | |
2010 | 1030 | 2007年、特別支援教育本格実施 |
●県教委が新設する多部制単位制高校、特別支援学校の概要を発表
6/27県教委は、上記の両校の校名を発表した。校名は「県立阪神昆陽高校」と「阪神昆陽特別支援学校」。12月県議会の承認を得て正式決定される。そして県教委に新たに設けられた「開設準備室」は、6月「阪神地域の新設県立学校2校の概要」を明らかにした。(別資料参照)
① [設置の趣旨]
「県立高等学校教育第二次実施計画」に基づき、生徒の興味・関心や多様なニーズに応じて主体的に学ぶことができる多部制単位制高等学校を新たに阪神地域に設置する。
また、「兵庫県特別支援教育推進計画」に基づき、障害のある生徒の社会的・職業的自立を支援するための職業教育に重点を置く高等特別支援学校を、同一敷地内に新たに設置する。
両校の生徒が同じ教室や施設等において共に学ぶ学習に取り組むなど、共に助け合って生きていくことを実践的に学ぶ機会を設定することにより、触れ合いを通じた豊かな人間性を育むと共に、社会におけるノーマライゼーションの理念を進展するための礎となる学校を目指す。
② [学科]・・・(以下、特別支援学校のみ紹介) 職業科
③ [課程]
知的障害のある生徒を対象に、企業就労を目指した職業教育を主とした教育課程。高等部単独設置。
④ [定員] 1学年6学級 48人
● 辻褄合わせの県教委の計画 ~特別支援学校の再編
上記[設置の趣旨]には、「兵庫県特別支援教育推進計画に基づき・・」とあるが、同計画には、「高等部を中心に在籍者の増加が著しい阪神地域の規模過大校への対応」とされているだけである。県教委が「ノーマライゼーションの進展」とし、「共に学ぶ必要性」を語るなら、この特別支援教育推進計画全体の基調として、ノーマライゼーションの推進・「共に学ぶ」事が位置付けられていなければならないが、一切そのような計画は語られていない。結局のところ、過密化する特別支援学校への対策として、特別支援学校を新設するより、旧武庫之荘高校跡地を利用することで安上がりになること、結果として多部制高校と同じ敷地内になったことを受け、その後付けの理由として「ノーマライゼーション」と位置付けているに過ぎない。また、多くの伊丹市民・在校生らの反対、議会での反対意見を押し切り移転予定とされている市立伊丹高校(定時制)も、この多部制単位制高校の校舎の中に移転される予定であり、同じ敷地内に、「新設される多部制高校の生徒」「市立伊丹高校の生徒」「特別支援学校の生徒」と三つの学校の生徒が共存することが、果して正常な状況と言えるのでしょうか。
また、県教委は、「県立盲・ろう・養護学校」全般について、それまでの障害種別の養護学校でなく、特別支援学校として「複数の障害種別に応じた教育」へと再編していく。神戸市においても、肢体不自由生徒が通っていた友生養護学校(東灘区)の移転建て替えに伴い、兵庫区の菊水小学校跡地に「友生特別支援学校(仮称)」(2013年開校予定)に、知的障害部門が設置され、小中高等部で計140人の通学が予定されている。また、神戸市北区にある県立神戸特別支援学校(知的障害)にも2013年から肢体不自由部門が設置、2012年からは神戸市立青陽須磨支援学校に肢体不自由部門が設置されるなど、特別支援学校も大きく再編されていく。それまで遠隔地の学校に通っていた障害児が通学に際して近距離になる場合もあるだろう。しかし、「複数障害種別への対応」と言うが、現場教員の負担を考慮した十分な人員配置がなされるのか、スクールバスでも、淡路島での事例では、多くの知的障害児童の中に医療的ケアが必要な児童が同乗する事の危険性が指摘されるなど、とりわけ障害の重い児童への教育保障が、このような再編の中で十分検討されているのか、危惧せざるをえません。そして何より、本来「身近な場所」で学ぶというなら、地域校区の普通学校に通う事こそが求められるのではないでしょうか。
● 県教委の言う「ノーマライゼーション」の嘘
「これまでの交流・共同学習を越え・・」と県教委は言うが、何ら具体的には語られていない。仮にそうであるならば、先ほども述べたが、県下のあらゆる学校で「共に学ぶ」形を実践していくために特別支援学校の縮小を計画として位置付けるべきである。また、今回の概要発表を見て驚いたことは、多部制高校と特別支援学校の玄関は別にされているのだ。そして真中のB棟と「交流広場」等が共同利用とされている。現在、神戸市立楠高校(定時制)には、知的障害・身体障害など、約40人にも及ぶ障害を持つ生徒が、健常者の生徒と「同じ」学校で「共に」学んでいる。これこそが「ノーマライゼーションの礎」となる学校ではないのか。宝塚良元校、川西高校も、その歴史の中で多くの障害児生徒を受け入れ続けてきた。それらの定時制高校を廃校にし、新たに特別支援学校を作ることが、ノーマライゼーションの礎でも何でもないことは明らかである。
●定時制高校をつぶし障害児を排除する高校教育改革
県教委の「県高校通学区域検討委員会」は、6/30高校の通学区域を、現行の16から5に統合する素案を発表した。10月に最終報告、来年2月に実施計画をまとめ、遅くとも2014年度から実施される。兵庫県高等学校教職員組合によると・・・・「1990 年代後半から始まった高校再編・統廃合の動きが、第二・第三段階を迎えています。『少子化による生徒数減』や『多様化・個性化する生徒への対応』、『小規模校では切磋琢磨できない』等を理由に、行政主導ですすめられるケースが多く見られました。背景に財政効率化への対応があるのは明らかです。加えて、『学校選択の自由を保障する』ことを理由とした学区の拡大・撤廃は、学校間競争による再編をすすめ、学校間格差の拡大や郡部など過疎地の小規模校の定員割れに拍車をかけ、再編・統廃合の動きを加速させる要因となっています。」
本来、インクルーシブ教育とは、障害者だけでなく、多様な生徒が同じ場で一緒に学ぶこととされている。しかし、上記のように高校においては、学校選択を口実とした学区が大幅に改変されようとしています。新たに再編される学区とは、それまでの「伊丹」「宝塚」「西宮」「尼崎」「丹有」の5つを一つの学区に、そして「神戸・芦屋・淡路」が一つの学区など、極めて広範囲な地域が一つの学区にされます。複数志願制の導入や総合選抜制の廃止により混迷する中学校での進路指導が、さらに混乱し生徒集めのため高校は競争を煽り、「地域で共に・・」どころか、ますます能力主義に偏重していきます。私たちの要求は、そんな有り様に対する息の長い取り組みであることを自覚し、点在する当事者・親・支援者がつながっていく事が求められます。
9月 16, 2011