【優生思想】 旧優生保護法訴訟で不当判決! 仙台地裁よりも後退
野崎泰伸(障問連事務局)
6月30日、東京地裁で、旧優生保護法に関する裁判の判決が言い渡されました。結果は、原告の訴えを全面的に棄却すると言ってよいほど不当なものでした。
判決要旨を読むと、1980年代には国際障害者年などで障害者に対する国民的関心が深まり、1990年代にかけて優生条項に対する問題意識が与党や厚生省内にも出てきた、1996年には優生条項が障害者に対する差別だったと真正面から認め、優生保護法から母体保護法に変更されたので、1996年には提訴できたのではと書かれています。また、優生思想については、19世紀末には広まり、20世紀初頭には各国で立法化された、だから被告が障害者に対する差別を作り出したものではなく、その除去も容易ではない、と書かれています。
私たちの先輩が、どれほどまでに優生思想や障害者差別と闘ってきたのか、この判決要旨はその歴史をことごとく無視しているのではないでしょうか。差別意識の除去が、容易ではないことぐらいは、身をもって体験され、死を賭して運動に携わってこられた、その歴史から学んだ判決であるとは到底言えないと思います。旧法の違憲判断もなされず、仙台地裁判決よりも後退しています。
兵庫県でも、旧優生保護法による強制不妊手術に対する裁判が提訴されています。次回裁判日程は7月30日15時~17時、神戸地方裁判所1階101号法廷で行われます。
■旧優生保護法訴訟 原告側の賠償請求棄却 東京地裁判決 仙台に続き
毎日新聞2020年6月30日 14時13分(最終更新 6月30日 19時11分)
https://mainichi.jp/articles/20200630/k00/00m/040/165000c
旧優生保護法(1948~96年)下で不妊手術を強制されたとして、東京都の北三郎さん(77)=活動名=が国に3000万円の国家賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は30日、請求を棄却した。
原告は57年に強制的に不妊手術を受けさせられた。原告側は、手術は憲法13条が保障するリプロダクティブ権(性と生殖に関する権利)の侵害に当たり、国は賠償義務を負うと主張。さらに、国と国会は、被害回復のための立法が必要だったのに怠る立法不作為があったとも訴えていた。
これに対し国は、手術から60年余が経過しており、不法行為から20年で損害賠償の請求権が消滅する「除斥期間」が経過していると反論。立法不作為についても、原告は国家賠償法に基づいて被害回復を求めることができたため、別の補償制度の立法が必要不可欠だったとはいえないと主張していた。
同種訴訟の判決は2019年5月の仙台地裁に続いて2例目。同地裁は旧法を違憲と判断したが、賠償請求は棄却していた。【遠山和宏】
■旧優生保護法訴訟 賠償求めた原告の男性 敗訴の理由は
NHK News WEB 2020年6月30日 21時10分
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200630/k10012490181000.html
およそ2万5000人が不妊手術を受けさせられた旧優生保護法をめぐる問題。手術を強制された東京の男性が国に賠償を求めた裁判で、東京地方裁判所は訴えを退けました。裁判所はどのような理由で男性の訴えを認めなかったのでしょうか。
〇“意思決定の自由を侵害” しかし憲法判断は
全国で起こされた一連の裁判では、去年、仙台地方裁判所で初めての判決が言い渡され、賠償は認められませんでしたが、旧優生保護法は憲法に違反していたという判断が示されました。
全国で2件目となった東京地方裁判所の判決でも、その判断が注目されました。
30日の判決では、原告の男性が強制された不妊手術について、憲法13条で保護された「自分の子を持つかどうかを意思決定する自由」を侵害するものだったと指摘しました。
しかし、手術の根拠となった旧優生保護法がそもそも憲法に違反するものだったかどうかについては明確な判断を示さず、手術が誤りだった以上は国に賠償責任があるという判断を示すにとどまりました。
仙台地裁は「リプロダクティブ・ライツ」とも呼ばれる「子どもを産み育てるかどうかを決める権利」が憲法上保障される基本的な権利だと位置づけ、その権利が侵害されたと認めましたが、東京地裁は「リプロダクティブ・ライツ」という権利の存在についても明確に判断しませんでした。
〇“除斥期間” というハードル
東京地裁は、国に賠償責任があることは認めましたが、なぜ訴えを退けたのでしょうか。
その理由は、改正前の旧民法にあった「除斥期間」と呼ばれる規定でした。
不法行為があったときから20年が過ぎると、賠償を求められなくなるという規定です。
これまでの裁判を通じて、原告側は、不妊手術を強制された際の人権侵害だけでなく、その後の人生でも、妻との間に子どもを持てなかった苦しみや、手術を受けた事実によってさまざまな差別の被害を受けかねない状況にあるとして、精神的な苦痛はいまも続く「人生被害」で、除斥期間は適用すべきでないと主張していました。
しかし、30日の判決では、国による不法行為があったのは不妊手術を強制された昭和32年の時点だとして、除斥期間はすぎていると判断しました。
原告が訴えた「人生被害」については認めたものの、手術による被害と別のものではなく、除斥期間の起算点を遅らせることはできないという見解を示しました。
さらに、仮に、除斥期間の起算点を遅らせる余地があるとしても、旧優生保護法が改正された平成8年までだとして、原告が裁判を起こしたおととし(平成30年)の時点ではすでに除斥期間がすぎていたという判断を示しました。
〇手術後の救済策めぐる国や国会の責任も認めず
東京地裁は、手術後の救済策をめぐる国や国会の責任も認めませんでした。
原告側は、国や国会が手術を受けた人たちを事後的に救済する措置を怠っていたと主張しました。
しかし30日の判決では、国の責任については「日本においては『優生思想』そのものは国が作り出したものではなく、その思想の排除は必ずしも容易ではなかった」としたうえで、平成8年に法律を改正したことを踏まえ、国(=厚生労働大臣)には救済措置を取る義務があったとはいえないという判断を示しました。
また、国会の責任についても「法律が改正された平成8年の時点で、不妊手術を受けた人への補償を行う法律を作る必要性や明白性があったとは言えない」として、認めませんでした。
〇今後の裁判への影響は
旧優生保護法をめぐる裁判は、全国9か所で起こされています。
今回の東京地裁も含めて2件の判決では、いずれも「除斥期間」が高いハードルとなり、賠償を求める訴えは退けられました。
一方で、憲法に詳しい慶応大学法学部の小山剛教授は、NHKの取材に対して、裁判官が異なれば別の判断もあり得るという見方を示しています。
今後の各地の判決でどのような判断が示されるのか、注目されます。
7月 7, 2020