優生思想

【優生思想】 新型出生前診断拡大容認、歯止めがかからない命の選別を批判する

野崎泰伸(障問連事務局) 

以下のニュースにあるように、新型出生前診断をめぐって、日本産科婦人科学会(日産婦)が、日本小児科学会と日本人類遺伝学会の合意を取り付け、検査のできる施設を増やすそうです。日産婦としては、無認可の施設が検査を行うので、「研修を受けた産婦人科医がいれば小規模な施設でも実施できる」として新しい指針をまとめたのです。

日産婦は、これによって無認可施設の問題を解決しようとしていますが、これでは、無認可、認可にかかわらず、単に「出生前診断を受けられる施設が増えただけ」なのではないでしょうか。もとより、出生前診断がもつ「胎児に障害があるかないかがわかる」ことについての倫理的問題はまったくクリアされていないのです。また、国や厚労省も、この流れに歯止めをかけていません。

検査を受けて、胎児に障害があるとわかれば中絶する人が9割を超える世の中において、出生前診断を行うこと自体が命の選別を助長しかねません。事態を厳しく注視する必要があります。

 

■新出生前診断、拡大容認へ 小児科学会などが方針転換

日本経済新聞 2020/6/20 15:19

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60605620Q0A620C2000000/

 

妊婦の血液でダウン症など胎児の染色体異常を調べる「新出生前診断」を巡り、実施施設数の拡大を目指した日本産科婦人科学会の新指針に反対していた日本小児科学会と日本人類遺伝学会が容認する方針に転じたことが20日までに関係者への取材で分かった。合意を受けて、実施施設の拡大に向けた動きが加速する可能性がある。

一方で、厚生労働省では昨年から検討会を設置して新出生前診断の在り方を議論している。学会の合意だけで拡大を決めることにメンバーの中からは「拙速な方針決定を危惧する。指針の策定には当事者参加が必要だ」との意見が出ている。

産科婦人科学会は2013年以降、カウンセリング体制などが整った施設に限り実施を認めてきた。しかし、学会のルールを守らずに検査を提供する無認定の民間クリニックが増加。不十分なカウンセリングで妊婦が戸惑う事例が問題化した。

対応策として学会は19年、研修を受けた産婦人科医がいれば小規模な施設でも実施できるようにする新指針をまとめた。

これに対し、小児科学会などは「生まれた子どもへの医療や支援の現状を説明する機会が失われてしまう」と反発したため、厚労省が実施の在り方を議論する検討会を立ち上げた。産科婦人科学会は、指針の運用は国の議論を見極めるまで凍結するとしていた。〔共同〕

 

 

以下、毎日新聞が、「NIPTのよりよいあり方を考える有志」の記者会見を取材していましたので、その記事を掲載します。日産婦のプロセスに、女性や障害者など当事者の意見が反映されていないことを問題視しています。

 

 

■「女性や障害者など幅広く意見聞いて」新型出生前新指針に倫理学者ら「拙速な結論危惧」提言

毎日新聞2020年6月24日 18時14分(最終更新 6月24日 18時15分)

https://mainichi.jp/articles/20200624/k00/00m/040/167000c

 

妊婦の血液から胎児の染色体異常を推定する新型出生前診断(NIPT)を巡り、実施施設を診療所など小規模な医療機関にも広げる日本産科婦人科学会(日産婦)の新たな指針に関連学会が合意したことを受け、産科医療や生命倫理の専門家らでつくる「NIPTのよりよいあり方を考える有志」は24日、東京都内で記者会見し、「女性や障害者などの幅広い声を取り入れるべきだ」と慎重な議論を求めた。

メンバーの斎藤有紀子・北里大准教授(生命倫理学)は「学会の合意のみで決まったかのようなあり方は残念。妊婦の不安や葛藤に寄り添える体制をどう作っていくかが重要だ」と訴えた。

日産婦の新たな指針は、日本小児科学会が認定した小児科医と連携して妊婦を支援することなどを条件に、小規模な医療機関にも実施を認めている。これまで日本小児科学会や日本人類遺伝学会は安易な拡大を懸念して反対してきたが、こうした条件に同意して容認に転じた。

日産婦は今後、厚生労働省に新指針を報告し、運用するかを正式に決める。運用されれば、NIPTの実施認定施設は現在の109カ所から70カ所ほど増える可能性があるという。

この日の記者会見には、学者やダウン症児の親ら6人が参加した。有志メンバーの一人、白井千晶・静岡大教授(社会学)は「経済的な問題を抱えた人やシングルマザーなど、さまざまな事情で妊娠に葛藤を抱える人は少なくない。検査の入り口だけではなく、検査後の支援をどう継続していけるかを社会全体で話し合うべきだ」と提言した。

柘植あづみ・明治学院大教授(医療人類学)は「NIPTを受ける妊婦は、検査前後に相談できる場所や支援先を求めている」と指摘。「今回の新指針がどのように作られたのか、プロセスが不透明。医療界だけではなく、妊婦や障害者、福祉の専門家などさまざまな立場の意見を取り入れていくべきだ」と訴えた。

有志は17日、「拙速な結論が出されかねない状況を危惧する」としてNIPTのあり方に関する提言をまとめ、国や日産婦などの関連学会に提出。指針を決める議論に妊婦や障害者など当事者を参加させる▽妊婦に情報提供する際は医師の価値観を反映させない▽妊婦の心理や障害者の生活を学ぶ医師研修を充実させる▽検査で異常が見つかった際に妊婦の意思決定を支援する体制を充実させる――ことなどを求めている。

NIPTは、胎児のダウン症など3疾患の可能性が、母親からの採血だけで妊娠早期に比較的高い精度で分かる。ただし、胎児の異常を理由とした中絶につながる懸念もあり、国内では2013年、専門家のカウンセリングを行うなど施設の認定に厳しい条件を付けて始まった。

ところが、相談体制が不十分なままに検査結果だけを伝えるなどの認定外施設が急増。高齢出産の増加に伴いNIPTの需要が高まる中、検査の質を保ちながら、希望する妊婦の受け皿をどう確保していくか、日産婦などが話し合いを続けていた。【岩崎歩】

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