介護保障

【介護保障】 Aさんの「理由付記」裁判報告

Aさんの介護支給量をめぐる「理由付記」裁判が、1/16に神戸地裁で行われました。以下、報告として、Aさんの口頭意見陳述、弁護士の長岡健太郎さんによる本裁判の意義を掲載します。 

〇 口頭意見陳述 1/16  兵庫県は、本人が希望する介護支給量を認めない場合には、

行政手続法に則り「理由付記」することを認めよ!!

原告A

 

私は脳性小児まひで生まれ、さらに首の病気で症状が悪化し入院、手術しましたが車いす生活になりました。5年前の春に退院して仲間や知人を頼り、神戸でヘルパーを使いながら一人で地域での生活を始めました。

 

◆私には24時間の介護が必要です

私はほぼ24時間介護が必要です。コミュニケーションはできますが、身の回りのことはほとんどできません。健常者が何気なく自然にできている行為の一つ一つが、私には介護者がいなければできません。介護者がいなければ辛抱するか苦しむしかないのです。常に介護が必要なので、神戸市に重度訪問介護を申請しています。しかし支給決定は私が必要とする時間には全く足りていません。本当に人が限られていますが、協力者にボランティアを頼んだり、ヘルパーを使ってでも自己負担も含め、その負担金も尽きるかというので協力も求め、そんなことを気にしながら、今の生活が続いています。

介護の状況により、私の生活が振り回されています。障害者の私がわがままなことを言っているだけ、無理な要求をしているだけだと言うのでしょうか? 何も好き好んで介護を付けているのではありません。私は介護に振り回されずに当たり前の生活ができることを望んでいるだけです。障害者として当然の権利であるし、そもそも常に介護なくして、私は生きていけません。

 

◆理由も示さず棄却する兵庫県

審査請求で、神戸市の支給決定が不服だと申し立てているのに、兵庫県は全く認めません。認められないのであれば、なぜ認められないのか、その理由もよくわかりません。県が裁決書を出すでに3年近く待たされました。その間にも私の生活は続いています。限られた支給量の中で制限されている私の生活が続いているのです。しかし、神戸市とやり取りしてきた介護の状況や理由がないことに対して、兵庫県は触れずに棄却しました。審理の内容が、棄却という結論がわかっただけでした。なぜ棄却か、よくわからない裁決でした。

 

◆私が裁判をする理由

私はこの裁判を起こすことに決めました。神戸市が私の不足した支給量に理由も示さないことに対し、県が十分な審査を行うことを強く望んでいるからです。いったい、3年近くもどんな審理をしたのか、疑問しかありません。

さらに、裁判の2週間ほど前の昨年末に県は「職権」により裁決を一旦取り消し、神戸市が「理由を書かなくても違法ではない」と再度の棄却の裁決をしてきました。3年近くも裁決を待たされた上、今度は急に兵庫県も神戸市のように私には全く足りない支給量に対して何の理由も示さないことはそれで良いとしただけなのです。待たされた挙げ句、今度は急に一方的に何の前触れ、断りもなく取り消し、再度の棄却、市の決定に対し県も追随しただけの内容です。こんなことが許されることなのでしょうか?

 

◆兵庫県は何をどのように審査したか?!

時間で切り刻まれたままでは、私の生活は成り立ちません、生活できません。そのために県に審査請求したのに、兵庫県が何をどのように審査したのか全くわかりません。全く誠意が感じられないのです。県が神戸市に十分な支給量を認めさせるかどうか以前の問題なのです。私が生活していけるかどうか本当に考えたのでしょうか? 私に審査した最もらしい理由も何もない、ただダメだと、そんなことが許されますか? 許されるならば、多くの障害者にとっても、行政の思うように従うしかなくなります。そんなことが許されるのでしょうか?

障害者が一人の人間として、この社会で暮らしていくことができなくなります。私と同じように審査請求した時に、訳のわからない理由で審査が棄却ということが許せません。棄却という結論ありきだけで、県は障害者である私の生きていく手足を奪っているだけです。私だけでなく、他の障害者にとっても、こんなことが許されていいのでしょうか?

私は兵庫県が今回と同じような対応を二度と繰り返さないよう、強く訴えます。

 

 

〇 報告集会発言内容 今回の「理由付記」裁判の意義について

弁護士 長岡健太郎

 

1 理由付記裁判

この裁判は、支給量申請を行政が一部でも拒否する場合、却下通知書に拒否の理由を書かなければならないとすること、即ち「理由付記」を求める裁判である。

 

2 Aさんに対する支給決定には一部拒否の理由が記載されていない

⑴ 神戸市による支給決定に理由付記がないこと

裁判の原告、Aさんには生まれつきの脳性麻痺のため、体位調整や水分補給等のため常時介護が必要である。そこで神戸市に対し、平成28年8月7日、重度訪問介護月694時間の申請をした。

これに対し、神戸市は平成28年10月7日、月507.5時間のみを認める、一部拒否の決定をしたが、その決定書には支給決定内容が書かれているだけで、月694時間の支給量を認めない理由については何も記載がなかった。

⑵ 理由付記が重要であること

ここで、行政手続法8条1項は、「行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない」としている。

このように、拒否の理由を示さなければならないとされる理由は2つある。1つは、行政庁の恣意的な決定を抑制することである。申請を一部でも拒否する場合には、その理由を示さなければならないとすることで、行政庁は、きちんと理由を示さなければ、市民からの申請を拒否できないことになる。その結果、いい加減な拒否決定ができないようになるのである。もう一つの理由は、申請者が拒否決定に対して不服申立て(=審査請求)をするかどうかの判断をする機会を与えることである。申請を一部でも拒否する処分に対しては、申請者は上級行政庁等(本件の場合は県知事)に対して審査請求をすることができる。しかし、なぜ自分の申請が却下されたかの理由を知っておかなければ、そもそも審査請求をすべきかどうかの判断がつかない。決定書に示された拒否の理由を読んで、それに納得できれば審査請求はしないし、納得できなければ審査請求をして上級行政庁の判断を仰ぐ、というのがあるべき姿である。

このように、拒否処分に理由を示すことは、行政庁のいい加減な決定を許さないという観点から重要である。現在、全国的に、支給決定には一部拒否の理由は示されておらず、行政手続法が守られていない現実がある。

 

3 審査請求に対する県の裁決は、理由付記について何も判断していない

Aさんは、①神戸市がAさんに必要な支給量を認めていないこと、②神戸市の決定に、一部拒否の理由が示されていないこと、の2点を不服として、平成28年12月29日、兵庫県知事に対して審査請求をした。これに対し兵庫県知事は、審理に丸2年以上も費やした挙句、平成31年3月27日、①の点について、「支給量が不当であるとは判断されない」とし、②の点については何ら判断を示さないまま、Aさんの審査請求を棄却する裁決をした。

しかし、棄却という結論を導くためには、①の点のみならず、②の点についても判断を示さなければならなかったはずである。兵庫県知事の裁決は、いたずらに時間こそかけているものの、審理が十分に尽くされておらず、違法であるといわざるを得ない。

 

4 この裁判の意義

Aさんとしては、審査請求が棄却されたのであるから、神戸市を被告とする裁判を起こし、その中で本来必要な支給量を定めた支給決定の義務付けを求める方法もあった。支給量だけを求めるのであれば、その方が近道である。

しかしAさんは、理由付記にこだわる方法を選択した。②の理由付記の点について何ら判断を示さなかった兵庫県知事の裁決は違法として、令和元年9月20日、神戸地方裁判所に対し、兵庫県を被告として裁決取消の訴えを提起したのである。Aさんがこの裁判で勝訴すれば、兵庫県知事は②の点について判断を示さなければならなくなる。その結果、理由付記を欠く神戸市の決定が行政手続法違反ということになれば、神戸市や他の多くの市町村で現になされている「支給量を一部拒否する場合の決定書に拒否の理由を書かない」という運用そのものの見直しが求められることとなろう。

Aさんと弁護団は、この裁判を通して、神戸市に限らず、全国的に、「支給決定を却下する場合にはその理由を書かなければならない」という運用を定着させたい、と考えている。市町村にとって、支給量を一部でも却下する場合、必ず拒否理由を書面で示さなければならない、ということになれば、負担が増すとも考えられ、抵抗が予想される。しかし、和歌山石田訴訟高裁判決(大阪高裁平成23年12月14日判決)など、多くの裁判例でも述べられている通り、支給量は一人ひとりの事情に応じて個別に定められなければならない。そして、市町村が障害のある人一人ひとりの個別事情を考慮して支給決定をしているのであれば、拒否の理由を書くのもそう難しいことではないはずである。「支給量を一部でも拒否する場合にはきちんと理由を書かなければならない」というルールが定着すれば、市町村としても、支給決定基準を機械的に当てはめるのではなく、一人ひとりの事情を考慮した決定をするしかなくなるのではなかろうか。

Aさんの理由付記裁判は、Aさん自身の支給量というよりは、障害のある人皆にとっての、本来あるべき支給決定のルールの確立を求める裁判である。支給決定手続の適正化を図ることによって、障害のある人皆に必要な支給量が確保されることを目指す試みである。ぜひ多くの方に関心をお持ちいただき、いい結果に結び付けたいものである。

 

被告兵庫県は3月11日付けで反論の準備書面を提出しました。原告の訴えを認めず、あくまで「原告の訴えの利益は無い」と棄却を求めています。現在、更なる反論の準備を弁護団が検討しています。引き続き、ご支援のほど、よろしくお願いいたします。

 

次回裁判の案内

【第2回裁判期日】

4月16日(木) 13時30分神戸地裁前集合  14時~裁判

傍聴希望される方につきましては、以下の点、よろしくお願いいたします。

 

◆新型コロナウィルス感染予防の観点から、裁判傍聴席を一定の間隔を置く等の対策を裁判所も考えており、傍聴人数について事前に教えて欲しいとの連絡が原告代理人弁護士にありました。

そのため・・・・傍聴される方につきましては、必ず下記の連絡先にご連絡ください。

 

090-4764-0968(原告A) / kaigohosho@gmail.com(考える会)

 

◆車椅子の方で席に移れない方については、間隔を置くことを考慮すると5~6人ぐらいになると思います。遠方の方を優先します。

 

◆本当に新型コロナウィルスについては早く収束して欲しいと願います。決して無理されないようにお願いします。傍聴を見合わせた方につきましては、裁判の報告をできるだけ早く届けさせていただきますので、ご連絡ください。

 

※ 第2回公判の事前申し込み締め切りは4月6日(月)です。手話通訳のご希望がある方は、併せてお申し出ください。

 

※ なお裁判後の報告集会につきましては、現在(3月末まで)、神戸市内の公的施設は使用で きません。裁判当日も使用できるかどうかは不明です。報告集会については現時点では未定である事をご了解ください。

 

以上、よろしくお願いいたします。引き続きのご支援を!!!

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