【介護保障問題】 神戸市:居宅系サービスの支給量審査基準等の見直しに関する意見書
2019年7月9日
障害者問題を考える兵庫県連絡会議
代表 福永年久
神戸市障害者支援課は5月30日開催の「神戸市障害者施策推進協議会」で「居宅系サービスの支給量審査基準等の見直し」について、その検討過程と今後のタイムスケジュールを発表、並行して推進協に加盟する各障害者団体に「見直し案」の説明と協議が行われ、6月4日、障害者支援課室において、私たち障問連に対してその内容が説明されましたが、とても容認できる内容ではありません。
~ はじめに ~
「第5期神戸市障がい者福祉計画・第1期神戸市障がい児福祉計画」の「はじめに」で、久元喜造神戸市長は、以下のように述べています。
「・・(中略)・・障がいのある人を取り巻く社会的環境は大きく変化しています。障害者基本法の改正をはじめ、障害者虐待防止法、障害者優先調達法、障害者差別解消法などが相次いで成立しました。
こうした状況の変化に的確に対応するため、本市では『障がいのある人が、自らの意思決定に基づき、一人ひとりに応じた支援を受け、個人として尊重され、地域の中で安心してともに暮らし、活躍できる「こうべ」をみんなでつくっていく』ことを基本目標とした「神戸市障がい保健福祉計画2020」を障害者基本法にもとづき平成28年3月に策定し、障がい者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進しているところです」。
久元市長が記すよう、障害のある人を取り巻いて、様々な法改正等の社会的環境の変化が大きくありました。障害のある人と障害のない人との平等、地域での共生、社会的障壁の除去、これらの理念が改訂された法制度の基本として位置付けられています。
今回、「居宅系サービスの支給量審査基準等の見直し」の理由として様々な法制度の改正が背景にあると神戸市障害者支援課は述べていますが、そうであるならば、10年前には法制度には位置づけられていなかった、これらの理念をベースとし、その他の制度変更、特に「障害福祉サービス等利用計画」および「セルフプラン」の義務化といった本人中心支援および意思決定支援に基づく地域生活のより一層の推進、それらを如何に支給量基準に反映させるのか、それが最も重要な課題であるにもかかわらず、今回示された改定案には、そのような内容は一切含まれていません。
また神戸市長が述べている、法制度に対応するためには「障がいのある人が、自らの意思決定に基づき、一人ひとりに応じた支援を受け、個人として尊重され、地域の中で安心してともに暮らし・・・」、まさにこの言葉を具体的に実現していくために、とりわけ障害の重い人の地域生活を最低限保障し、より一層推進していくためには、安心して地域生活が送れる支給量基準の水準が求められます。しかし現実的には他都市でも見られるよう、増加する障害福祉サービスの費用、国庫負担基準を上回る際の市としての考え方や方針、そして「基準」はあくまで基準であり個別性をいかに柔軟に反映させる仕組みはどうあるべきなのか、多方面の課題を重層的に検討する必要があります。
しかし今回、神戸市障害者支援課が提示した「居宅系サービスの支給量審査基準等の見直し(案)」には、そのような課題認識や改定目的自体が極めて不透明な内容です。以下、今回示された見直し案のどこの問題があるのか、述べていきます。
(1)当事者不在で進められた見直し/当初の検討予定からの大幅な逸脱
2017年10月20日神戸市障害者施策推進協議会で公的に初めて、今回の「居宅系サービスの支給量審査基準等の見直しについて」の見直しの方向性とタイムスケジュールが示されました。そこでは以下のように示されていました。
「居宅系サービスの支給量審査基準等の見直しについて」
1.背景と目的
障害者自立支援法施行後、10年余りが経過し、障害者施策関連の法令が改正・整備されると共に障害者を取り巻く社会環境は変化している。
本市では、介護給付費等の支給決定を公平かつ適正に行うため、支給の要否や支給量については「神戸市支給量審査基準」を定め運用してきたが、今後、地域移行が進展するなか、障害者が住みなれた地域で生活していくうえで必要不可欠なサービスである「居宅介護」や「重度訪問介護」を中心に「神戸市支給量審査基準」の見直しを行う必要がある。
2.進め方
行政内部(障害者支援課、関係課、区役所障害担当、障害者地域生活支援センター)で検討会を設置、現状把握や課題抽出、他都市の事例調査等を行ったうえで、当事者や医療機関を含む関係機関等の意見も聞きながら見直し(案)の検討を進める。
当事者や医療関係者、関係機関等の意見を効果的に反映する方法については、今後検討していく予定であり、また、見直しの進捗状況については、適宜「神戸市障害者施策推進協議会」等で情報提供を行っていく。
3.スケジュール(予定)
平成29年11月~平成30年2月 内部検討会の開催
平成30年3月~8月頃 当事者等の意見聴取
平成30年9月頃~ 基準改正作業
平成30年冬頃 (新)基準の市民意見募集と意見反映
平成31年度~ 新基準での運用開始予定
上記「3.スケジュール」に示されていた運用開始の「平成31年度」は既に始まっており、大幅に予定が遅れています。遅れ自体を私たちは批判するものではありません。しかし、単なる遅れでなく、検討過程自体に大きな問題が孕まれ、そこに今回の見直し案の大きな不備自体に通底する問題があるのです。以下、指摘します。
◆当初示された「改定目的」の削除
上記当初の見直しの「背景と目的」がどのように変節したのか。2019年5月30日開催の「神戸市障害者施策推進協議会」で配布された資料では、「障害者施策関連法の改正」を背景としている事は同じですが、目的にあたる「・・・今後、地域移行が進展するなか、障害者が住みなれた地域で生活していくうえで必要不可欠なサービスである「居宅介護」や「重度訪問介護」を中心に・・・」との文言は削除されています。単に省略しただけなのか、何か意図があるのか、については障害者支援課の説明を求めたいと考えますが、しかし、この一文を消去すれば、単に関連法の改正といった背景だけになり、最も必要な、法改正を背景としつつ、どのような目的で改定するのか、どのような方向性で見直すのか、それは極めて重要なものです。後述する「そもそも、見直しの目的は何か?」で改めて指摘しますが、今回の見直しの在り方として、これまでの支給量審査基準のどこに問題があるのか、運用上どのような問題が生じているのか、それを踏まえ、どのような方向性で検討するのか、そのような内容は一切示されず、そして、私たちが最も願う「より一層の地域生活の推進」、それを表す当初示された目的「・・・今後、地域移行が進展するなか、障害者が住みなれた地域で生活していくうえで必要不可欠なサービスである『居宅介護』や『重度訪問介護』を中心に・・・」、この一文の削除は到底容認できません。
◆当事者の意見を無視して作成された見直し案
そして、更に大きな欠落点は、当初予定では・・・
・内部検討会・・・3か月
・当事者の意見聴取・・・6か月
とされていたのが、しかし2019年5月30日開催の「神戸市障害者施策推進協議会」で配布された資料では、内部検討会に1年半近く費やし、そして当事者等の意見聴取は下記のようにわずか3か月です。
・2019年5月~ 当事者等の意見聴取
8月 市民意見募集と意見反映
そして、更に重要な事は、内部検討会と当事者等の意見聴取を踏まえて基準改正作業という予定であったものが、内部検討会のみで基準改正案が作成されるという、単なる遅れではなく、当事者の意見を全く取り入れない検討の在り方は、根本的に当初予定から逸脱しています。
様々な障害者関連法の改正は何故行われたのでしょうか。それは日本政府が「国連:障害者権利条約」への批准に伴う国内法の改正が求められ、それを根拠としながら障害者制度改革が行われた結実として様々な法改正や新たに障害者差別解消法の施行が行われました。その障害者権利条約の成立へと至る世界的な障害者団体のスローガンが「私たち抜きに私たちのことを決めないで」であり、障害者基本法においても当事者参画は欠かすことはできません。今回の「居宅系サービスの支給量審査基準等の見直し」に関連して言うなら、当然、居宅介護や重度訪問介護の利用者の意見を十分に聞くことが求められます。
しかし、そのような当事者の意見を聴くあるいは当事者が参画しての検討は一切行われないままに「見直し案」が作成されています。あまりにも公平性に欠け、検討の過程自体が、当事者の参画を一切無視したあり方であり、下記の札幌市での検討の在り方と比べれば、歴然と違いが分かります。
そして支給量基準(通称ガイドライン)に関して、指し示す資料として、2013年8月30日に「障がい者制度改革推進会議総合福祉部会」によって取りまとめられた「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言~新法の制定を目指して~」があります。同「骨格に関する提言」は日本の主要な障害者団体と有識者が鋭意検討されたものであり、現在の「障害者総合支援法」制定の基礎となり、その提言を踏まえ現在も総合支援法が毎年のように見直されています。同提言では、「支給量基準(通称ガイドライン)」について、以下のように記されています。
・策定にあたっては、当事者(障害者、家族及びその関係団体等)と行政、相談支援事業者、サービス提
供事業者等の関係者が参画し、地域のその時点での地域生活の水準を踏まえ協議しなければならない。
・この策定過程を通して、当事者、行政、事業者の協働が生まれることが期待される。
・ガイドラインは障害者が住み慣れた地域で生活していくために必要な支援の必要度を明らかにすると共に、その人の生活を支援する支援計画を作成する過程において、何が公費により利用できる福祉サービスであるかを明らかにすることを目的に作られるものである。
・ガイドラインで示す支給水準は、障害者権利条約に規定されている障害者の「他の者との平等」や「地域生活の実現」を基本原則にするべきである。この基本原則に基づき、障害者の支援の必要度を類型化し、類型ごとの標準ケアプランに基づく支給水準を示すべきである。
以上のように、「当事者・事業者等の参画」の重要性、そのような策定過程を通じた「当事者、行政、事業者の協働」、そして「障害者権利条約に規定されている障害者の他の者との平等や地域生活の実現を基本原則にするべきである」とされています。
しかし、神戸市の今回の見直し過程自体が、同提言から大きく逸脱している事は明らかです。
(2)目的不在の見直しの在り方/一体、誰のための見直しなのか
◆神戸市と札幌市との比較
北海道札幌市でも居宅系サービスの支給慮基準、とりわけ重度訪問介護の支給量および審査基準を見直すため、「重度障害者に必要な在宅介護の在り方検討会」が設置され、神戸市の内部検討とほぼ同じ時期に検討が行われました。同じ政令市として、その検討過程にどのような違いがあるのか、下記を参照ください。
神戸市 | 札幌市 | |
検討会への設置 | △(内部検討会) | ○ |
検討会の構成 | 支援課・区障害担当・地域生活支援センター | 障害当事者/家族8人
学識経験者/事業者4人 |
検討会への当事者参画 | 無 | 有 |
検討会の公開性 | 非公開 議事録も非公開 | 議事録、資料全て市のホームページで公開 |
検討にあたっての調査 | 無 | 重度訪問介護利用者全員と各事業者にアンケート調査 |
◆一体、誰のための見直しなのか!? 当事者を置き去りにした検討の在り方
神戸市の内部検討会は2017年11月に第1回、2018年11月まで計6回開催されましたが、検討会の構成は「神戸市障害者支援課・関係課・区役所障害担当・障害者地域生活支援センター」で、有識者・家族そして何より当事者が一切参画しない、非公開で議事録すら公表されていない密室での検討会です。
上記の表のように、札幌市の「重度障害者に必要な在宅介護の在り方検討会」では、委員12人中、8人もの当事者及び家族そして4人の学識経験者と事業者が参画した検討会であり、さらに重度訪問介護利用者や事業者へのアンケート調査も実施され、それらも踏まえ意見書がまとめられ、何より当事者の声を根拠としての見直し作業が行われ、市のホームページにもしっかり公開されています。
同じ政令市でありながら、なぜここまで違うのでしょうか。障害者制度改革の10年間、当事者参画は必須の課題であるにもかかわらず、それを無視した検討の在り方自体に大きな問題があります。検討会自体が、まさに「行政内部」の各区役所担当が中心となって、行政サイドの意向を根拠とし、区役所担当者が支給決定しやすいよう、すなわちいくら当事者や家族が支給量を希望しても、断るために基準をより明確に示す必要がある、そうとしか思えない内容が満載されています。まさに一体、誰のための見直しなのかと言わざるを得ません。
◆そもそも、見直しの目的は何か? 全く不明な神戸市障害者支援課の説明
「施策推進協」での配布資料には、見直しの理由がこう記されています。
「障害者自立支援法以降、10年余りが経過し、障害者施策関連法令の改正・整備が進むと共に障害者を取り巻く社会環境も変化している事から、本市において介護給付費等の支給決定を公平かつ適正に行うために定めた『神戸市支給量審査基準』についても居宅介護・重度訪問介護を中心に見直しを行うこととし・・・」。見直し理由は要するに「基準を定めて10年が経過した、そして法制度の改訂等の社会環境が変化した」、わずかそれだけしか述べられていません。
兵庫県下で近年、支給量基準を見直したのは尼崎市と宝塚市です。宝塚市は平成28年10月に見直され、公開された「宝塚市障害福祉サービスガイドライン(支給決定基準)」の冊子の冒頭には以下のように述べられています。「(要約)年問支給決定者数および利用時間数の増加、国庫負担基準額を上回る市の負担、制度の持続を可能とするため」と見直しの大きな理由が記され、同時に「支給決定の根拠を利用者や家族・支援者・市民の方が共通認識できるよう策定した」とされ、さらに「ガイドラインに示している標準支給量は、あくまで標準であり上限ではありません」とされています。尼崎市での改訂理由も主に国庫負担基準を大幅に超過する市の負担が問題にされ見直されました。これら他都市の見直し理由や方向性の内容についての是非は議論がありますが、見直し理由は市民に対して説明されています。
また、先ほど紹介した札幌市では、「札幌市の場合は可能な限り個々の障害状況や生活状況を勘案した定型の審査基準を定めており、定型の支給量も他都市と比べて高い水準にあることから、現在、非定型の判断基準は設けておらず、すべて定型の審査基準により決定しています」。しかし、その在り方では、必要とされる対象者要件に合致しない方や関係者から不公平、適当ではないという意見が寄せられたため、見直すこととなったとされています。それを踏まえ札幌市の検討会の目的は、「重度訪問介護の個別的な支給決定(非定型)の在り方を検討する」、その一点に絞られています。
このようにそれぞれの市として見直す場合には、当たり前のことですが、その理由と根拠、そして方向性が明確に示されなければなりません。しかし神戸市の場合は、そもそもの目的自体が極めて不明確であったこと、そして見直す方向性については当事者等の意見は全く聞かず、行政内部の関係者だけで方向性を決めている事、根本的に出発地点から大きな間違いを起こしているのです。
6月4日の協議で神戸市は「今回はとりあえずこの内容で改訂したい、今後とも見直す」と説明しました。しかし、結果的に部分改定はあり得たとしても、まず重要なのは、何を根拠とし、どのような目的・方向性で改定するのか、その全体像やロードマップが、まず示されなければならないのではないでしょうか。配布された資料にも、協議での説明にも、そのような理念や目的は一切示されず、行政サイドの意向だけが先行しています。
そもそも私たちは、障害者が地域で暮らし続ける上で必要な重度訪問介護等の支給量が区役所から提示されず、地域生活を継続できない障害当事者や家族の叫びが、今回の見直し要望のきっかけであり
支給量審査基準(ガイドライン)がその弊害になっているからこそ見直しを求めたのです。障害者の地域生活の実現と継続を形にする支給量基準(ガイドライン)見直しという目的は欠かすことはできません。
まだ詳細な内容は未定稿とされていますが、私たちに提示された資料では、各項目ごとに繰り返し強調され、新しい表記として、「支給量を定めるにあたっては、客観的かつ合理的で、他の類似事例と比較して妥当と言えるか等を勘案して、適切な支給量を定めることとする」とされています。
「客観的かつ合理的」とは一体何を意味するのでしょうか。「当事者本人の希望」を主観に過ぎないと切り捨てるのでしょうか。そして「他の類似事例との比較」とは一体何なんでしょうか。同程度の障害状況を「類似」と見なし個別性は切り捨てられるのでしょうか。「他の人は○○時間だから我慢してください」と、今までも区役所から言われた心無い言葉がガイドラインで明確に示されようとしているのです。これらの新たな文言には、従来より「審査基準を明確にしたい」との審査する側としての行政側の意思が表れており、当事者や家族にとっては冷酷な響きしか感じられない言葉です。
また、仮に「客観性」を求めるのであれば、現在義務化されている「サービス等利用計画」あるいはセルフプランにより必要な支給量の根拠は示されています。
(3)法制度の改定が理由、としながら欠落している課題
「障害者関連法の改正」が今回の見直しの理由とするなら、どのような法改正がなされたのか、それをいかに反映させるのかが大きな視点になるはずです。以下、あくまで例示として2点について、今回の見直しから欠落している課題を指摘します。
◆支給量の根拠としての「障害福祉サービス等利用計画」「セルフプラン」について
法制度の改訂を背景と言うなら、「障害福祉サービス等利用計画」作成義務付けが行われました。それは週間プランの作成、イコール支給量決定に関わる重要なものです。あるいは「セルフプラン」も厚労省も認めているところです。
支給決定にあたっては、一定、標準支給量を意識しながらも、重要な事は、その人が希望する暮らしの実現、同じような障害状況があったとしても置かれた環境の違い、生活の多様性等の個別性があるのが当たり前です。だからこそ、相談支援事業者による「サービス等利用計画」が非常に重要な意味を有しています。しかし神戸市の現実を見るなら、「サービス等利用計画」の達成率は兵庫県下でもかなり低位の状況にあります。本人が自分の力で自らの暮らしを計画するセルフプランの意義は重要です。しかし、現在、「サービス等利用計画」を希望しても相談支援事業者が限られる中、望まないセルフプランも神戸市には多いと聞きます。この点については、改善に向け神戸市としての今後の努力を期待するしかありませんが、しかし、このような状況の下で、下記に具体的に指摘するような支給量審査基準だけがより細分化してしまうと、本来支給量の算定根拠となるべき「サービス等利用計画」は重視されず、審査基準だけが強調され、結果として本人の望む暮らしが実現されないことになります。
◆重度訪問介護の対象拡大
今回の見直しの理由として「法制度の様々な改定」と言うなら、法制度の改訂の一つとして「重度訪問介護の対象拡大」が上げられます。
重度訪問介護は肢体不自由者だけが対象でした。しかし障害の重い知的障害者、精神障害者が地域生活を送る上で、常時の見守りが必要なため、長時間の支給が受けられる重度訪問介護の利用が可能とすべきであると、先に紹介した「骨格に関する提言」でも盛り込まれたため、2013年4月の障害者総合支援法の施行時には間に合わなかったものの、2014年から対象拡大できるよう制度改正されました。
〈2017年度上期の状況)・・・県下 計36人
西宮市 | 15人(知的12人精神3人) | 芦屋市 | 1人(知的) |
伊丹市 | 10人(知的) | 加古川市 | 1人(知的) |
尼崎市 | 2人(知的1人精神1人) | 高砂市 | 1人(知的) |
明石市 | 2人(知的1人精神1人) | 赤穂市 | 1人(知的) |
豊岡市 | 2人(知的) | 佐用町 | 1人(知的) |
兵庫県下でも制度改正して以降、年々、重度訪問介護を利用する知的障害者・精神障害者は増加しており、2018年10月31日に兵庫県障害福祉課から障問連への回答として上記の状況が示されました。
しかし、神戸市はいまなおゼロ人のままです。兵庫県下で最も人口の多い都市部の神戸市で、なぜこのような状況が生じているのでしょうか。客観的なデータからも県下、他市町との比較の上でも遅れがあることが明確に示されています。障害の重い知的障害者や精神障害者が入所施設・精神科病院・グループホーム以外の地域生活にあたっての選択肢として、見守りも含め長時間の一対一の支援を可能とする重度訪問介護の利用が推進されていない事は、当事者が本来受けられるべきサービスが利用されていない、それは結果、家族に大きな負担が生じている事を意味しています。
その一方で、神戸市は特に高齢を迎えた知的障害者には入所施設のニーズが高いとし、新たに入所施設ができない事を踏まえ、特別養護老人ホームへの入所を推進しようと、神戸市独自の予算も充て推進しています。「高齢を迎えた知的障害者の入所施設のニーズの高さ」、果たしてそれは知的障害当事者が願っている事なのでしょうか。私たちはそう思いません。背景として、長年にわたって知的障害者の介護を家族に依存した結果として、高齢の家族がいつまでも知的障害者の介護をせざるを得なくなり、家族がさらに高齢を迎え、行き場がないという厳しい現実を招いているのです。
にもかかわらず、下記(5)で「いつまで家族に介護の責任を負わせるのか」と指摘しているよう、これまでよりも更に厳格な基準を「介護環境区分」として新設することは本末転倒と言わざるを得ません。
そして重度訪問介護の対象拡大という国が制度改正した目的と理由を理解しているなら、それらのニーズが神戸市にも当然あるだろう、しかしなぜ神戸市では推進されていないのか、当事者や家族は困窮していないのか、また推進されていない背景として、支給量審査基準が障壁になっていないのか、運用上に問題はないのか、様々に検証しようという姿勢が果たして障害者支援課にあるのでしょうか。
今回の見直しにあたり、例えば、このような県下市町との比較に基づく客観的なデータからも明らかになった、重度訪問介護の対象拡大が、なぜ神戸市では推進されていないのか、今回、「居宅介護・重度訪問介護を中心の見直す」とされながら、改定案には一切触れられていません。
(4)根本的な在り方の見直し、そのために当事者等の意見聴取、別途検討会の設置を行った上で見直し案を作成してください
私たちは2018年9月26日に、見直しにあたって「私たちの提言」として神戸市に資料を提出しました。その中で根本的な見直しについて以下、言及しています。
○神戸市のこれまでの「標準支給量基準」と「支給量審査基準」を一本化し、障害当事者や家族、支援事業者に公開された、「神戸市:居宅系サービス支給量基準」にしてください。
〈理由〉:支給量とは一体、誰のものでしょうか。障害者が地域生活を送るための最低限の権利を保障するものです。「審査する側」と「審査される側」といった対立関係でなく、どうすればこの人の地域生活が実現できるのか、当事者・支援事業者そして行政が対等な立場で一緒に考えていくために、その前提として関係者が共通認識するためにも公開される事が重要です。
これまでの神戸市の支給基準はホームページで公開されている時間数だけを示す「支給量基準」と、情報公開請求しなければ入手できない「居宅系サービスの支給量審査基準」の二本立てで運用されてきました。他の市では市のホームページにしっかり公開されています。今回の私たちとの協議で渋々ながら公開する方向であると回答しました。しかし、「審査基準」という元々行政内部の「審査する側」の基準として作成されたものと、本来「支給量基準」として求められる意義、すわなち「支給決定の根拠を利用者や家族・支援者・市民の方が共通認識できるもの」とは根本的にあり方が異なります。
また市民に「意見募集」を求め公開するのであれば、先に述べたような改定の理由や根拠も示す必要があります。そのためには行政として実態を十分に把握し、当事者にもしっかり意見を聴き、札幌市のようなアンケート調査等の実施も含め、慎重な検討が必要です。現在示されているような旧来の審査基準を基本とした一部見直し案の公開は、より一層混乱を招きます。
(5)今回の見直し案の具体的な問題点
◆「標準支給量」は目安であり決して上限ではないこと
先に紹介した改訂された宝塚市のガイドラインの冒頭にも、「ガイドラインに示している標準支給量は、あくまで標準であり上限ではありません」と記されています。何より厚生労働省が事あるたびに、各都道府県政令市等への通知として、「支給基準は上限ではない」と繰り返し周知を図っているところです。繰り返し周知する背景として、自治体により、あたかも基準を上限であるかのごとく運用している自治体が多いことを表しています。
これまでの神戸市の実情を見れば、目安としての基準が上限であるかのように運用されているため、障害者の人権侵害と解されるような心無い発言が各区役所担当職員から投げかけられているのです。担当職員自ら望んで、そのような発言をしているのではないでしょう。これまでの「支給量審査基準」があり、本庁の障害者支援課の許可を得なければならないという重圧のため、そうせざるを得ない事態を招き、それが障害者の心を大きく傷つけている結果となっているのです。
本来、現場である障害者や家族、支援事業者らと各区役所担当が、どうすれば本人が望む安心した暮らしが実現できるのかと、信頼関係を保ち、その前提としてご本人の意志を中心に位置づけ、前向きに、担当者がケースワークしていく事が求められます。しかし、今回の見直し案に共通して示されているのは、これまでより一層基準を細分化していく事で、そのような信頼関係を阻害しかねない内容となっているのです。それを防止していくためにも、「標準支給量は、あくまで標準であり上限ではない」ということを、強く示し徹底していく必要があります。そのような内容は今回の見直し案では一切示されず、むしろ運用面で悪化しかねない内容です。
◆「今回は支給時間数の変更は必要ないと判断」と先送りすることは認められません
私たちが支給量基準の見直しを求めた理由は、地域で暮らすことを求める障害者・家族が区役所に行って相談した際に、支給量審査基準(ガイドライン)がネックになり本人が希望する支給量が認められない現実を改めて欲しいからです。
地域で一人暮らししたいという重度訪問介護利用者、特に夜間にも介護を必要とする重度障害者が、一人暮らしを可能とする支給量が認められない、区役所担当者とのやり取りが徹底的にかみ合わない、それらに苦しむ当事者の悲痛な叫びを根拠に、私たちは約10年近く支給量基準(ガイドライン)の見直しを求め、その結果、神戸市障害者支援課として見直しを決断したのです。
現在のガイドラインの何が壁になっているのか? その1つに、そもそもの支給基準の算定根拠自体に根本的な問題があります。障害支援区分ごとの標準支給量の根拠は、2006年当時の各障害程度区分ごとの「利用実績時間の平均値」を基準としているのです。
例えば「最重度な障害者に対する重度訪問介護279時間(1日9時間)」の根拠も、かつての利用実績の平均値に過ぎません。重度障害者が地域で一人暮らしするために、1日あたり9時間の支給量で賄えるはずはありません。最重度の障害者の重度訪問介護の支給量が月279時間という基準は、県内の特に阪神間各市と比較すれば大きな格差があります。
私たちは、特に夜間に介護が必要な重度障害者の1人暮らしの実現に、どんな支給量基準を設定するのか、それが今回の見直しの最重要課題だと考えています。「重度訪問区分6‐1および区分6‐2」の標準支給量の見直し作業が無ければ、見直す意味がありません。区分6の最重度障害者が1日6~9時間で夜間介護を含む生活が送れるはずはなく、そんな数値を標準支給量としている神戸市の障害者施策自体が問われているのです。
私たちは昨年、「夜間介護が必要な障害者への深夜帯加算」を設けるよう提言しました。実績の平均値を並べるのでなく、障害当事者や家族が標準支給量を見て、具体的に地域で暮らせるイメージが持てる、介護者の支援を受けて1人暮らしができるのだ、そのような現実的な支給量を基準としなければ、地域移行も地域生活の推進も進められません。
しかし神戸市は、今回の内部検討会の結論として「今回は時間数の見直しは必要ないと判断した」と回答し先送りにしたのです。とても認めることはできません。
◆標準支給量超過基準を廃止し、最低限、1.5倍を標準支給量としてください
また基準の1.5倍は区役所の裁量で決定できるという従来の手法も、今回廃止されないどころか、その条件が細かく明示されていますが、私たちの提言と反する内容です。
なぜ区役所のみの裁量で1.5倍の支給ができるという形に神戸市はこだわるのでしょうか。そこに、標準支給量自体は低く抑えたいという隠れた意思があるのではないかとの疑念を持たずにはいられません。そして、これがある事によって「標準支給量」の意味をなしていません。単なる利用実績の平均値である最重度の障害者に対する重度訪問介護279時間を基準とし、あたかもそれが本当の基準のごとく運用され、さらに区役所の1.5倍裁量が恩恵的に語られ、それ以上は絶対に認められないとの窓口対応に、どれだけ多くの障害者が苦しめられてきたのでしょうか。
標準支給量の範囲内でどんな生活が具体的にイメージできるのか、障害当事者や家族にとって分かりやすい基準が示されるべきです。先に紹介した「総合福祉部会の骨格提言」でも、「ガイドラインで示す支給水準は、障害者権利条約に規定されている障害者の『他の者との平等』や『地域生活の実現』を基本原則にするべきである。この基本原則に基づき、障害者の支援の必要度を類型化し、類型ごとの標準ケアプランに基づく支給水準を示すべきである」とされています。
兵庫県下の西宮市では、ガイドラインは公表され、その末尾に様々に類型化された週間プランが13ケース紹介されています。今回の神戸市の内部検討会では西宮市のガイドラインも他都市の事例として検討されたはずです。
重複しますが、以下、昨年度私たちが提言した以下の内容を参考に見直してください。
○週間プランに基づく支給決定
〈理由〉:希望する通常の1週間の地域生活を実現する週間プランに4.5週を乗じる算定方法により支給量を算定することが、障害当事者や支援事業者にとって分かりやすい物になります。
○区役所での1.5倍裁量は廃止し、支給量基準を増やしてください
〈理由〉:この裁量により、1.5倍の支給量が、あたかも上限のように区役所で運用されている実態があり、また、この裁量がある事により「基準」としての意味がなくなっています。様々な障害特性や生活形態により個別性はありますが、類型化された週間プランに基づく支給量基準をきちんと明示してください。また、現在の神戸市の標準支給量は利用実績の平均値を根拠とされ、地域生活実現に本来必要な支給量基準と利用実績とは意味合いが根本的に異なります。さらに、兵庫県下の複数の自治体と比べても現在の神戸市の標準支給量は、かなり低いレベルです。区役所での1.5倍裁量を廃止し、現在の標準支給量を増加した支給決定基準にしてください。
◆「介護環境区分」を廃止してください~いつまで家族に介護の責任を負わせるのか!
わたしたちの提言では「同居家族の有無によって支給量基準に差を付けないで下さい」と要望しました。その理由として・・・「日本においては長年にわたり、障害者の介護は大きく家族に依存し、家族の負担が時に悲惨な事件も生み出しています。家族がどこまで介護するのか、できるのかは、勘案事項調査による聞き取りで十分対応できます。障害者が家族と一緒に安心して生活していくためにも、支援が必要です」と説明しました。
しかし改定案では、「介護環境区分」と新たな文言まで設け、基準をより一層細かく規定しています。日々、家族は家族として介護をしています。しかし家族が介護して当たり前かのごとく、「介護者」と行政機関から決め付けられる覚えはありません。地域生活の推進には、家族依存からの脱却がいかに図られるのか、その環境を整備することは社会の責任であり、本人が望む自立した生活の実現には極めて重要な課題です。
家族に介護を受けたい当事者もいるでしょう。しかし、いつまでも家族に依存してはいけないんだと自立を望む当事者もいます。それを選択できる環境こそが必要です。にもかかわらずこのような細かい基準では、障害者は抑圧され、家族はより一層追い込まれていきます。家族が就労する時間数によっても細かく区分されていますが、仮に支給量が保障されても事業所が見つからず就労したくても働けない家族は多くいます。それを、「就労していないから、(あるいは)就労時間が短いから、支給量は認められません」、そんな事を当事者や家族に突き付けているのが、この介護環境区分です。ここでも本人中心支援の理念が欠如しているどころか、旧来型の家族依存の発想が根底にあるのです。このような内容は到底認められません。
◆医療的ケアが必要な重度障害者を分断し、「命の危険」にさらす「特別基準案」
人工呼吸器を使用している障害者の保護者が以下のように意見を寄せています。
【神戸市の支給基準(ガイドライン)案に対する意見】
私の娘は、24時間人工呼吸器をつけて生活しています。
今回の神戸市の支給基準(ガイドライン)案を見て、人工呼吸器を使用している障害者の生活をどれだけ知っていて、このような案が出されたのか疑問に思うと同時に憤りを感じます。
神戸市の「医療的ケアを伴い常時介護が必要な重度障害者の特別基準(案)」によると、吸引の回数によって区分されています。そして、「一人で過ごせる時間」を設定していることに驚きを感じざるを得ません。吸引は、体調や睡眠時、移動時、入浴中、食事中等によって回数も量も異なります。体調が悪くなった時、すぐに回復する場合もあれば、長引く場合もあります。それを一律に、「吸引が常時必要」、「1日のうち数回以上必要」、「1日のうち数回行えばよい」と決めることはできません。いつ吸引が必要になるか分からないのに、一人で過ごせる時間を設定していることに唖然とします。
また、人工呼吸器をつけて生活をしている場合、痰の吸引以外に様々な事態に対する対応が必要となります。人工呼吸器使用者は、ほとんどの場合、自分で声を出すことができません。急な体調変化や機器のトラブル、災害時等に、声を出して助けを求めることができない人がほとんどです。そのような状況で、一人で過ごせる時間を設定することは、命の軽視につながります。人工呼吸器使用者には24時間の見守りが必要です。一人で過ごす時間がどれだけ不安なことなのか、本当に理解されているのでしょうか。
さらに、介護環境として、家族の状況によって支給量に差をつけています。家族は、24時間365日、昼も夜もなく介護をしてきましたし、今現在も家族が介護をしている人がほとんどです。家族が疲弊して倒れ、施設や病院に行かざるを得ない人もいます。いつまで家族は介護を続ければいいのでしょうか。先の見えない状況が家族を肉体的にも精神的にもますます追い詰めていきます。家族の状況に関わらず、本人中心の支援がなぜ行われないのでしょうか。これ以上、当事者や家族を苦しめる施策にならないように、再度この案の見直しをお願いしたいと思います。
上記のように当事者の保護者が指摘しているよう、「一人で過ごせる時間」との記載、更に介護環境区分による家族介護の実質的な負担の強要など、この「特別基準案」は、当事者・家族にとって容認できるものではありません。
また私たちが知り得る範囲では、医療的ケアが必要な障害者に対しては、これまで神戸市は24時間も含め、それなりに配慮した支給決定を行っていると認識しています。それは「命に危険がある」との理由です。しかし今回示された特別基準案では、当事者の実態を理解しないまま安易に「一人で過ごせる時間」を痰の吸引回数のみを持って機械的に分類し、運用によっては逆に命の危険を脅かしかねない内容になっているのです。
さらに、この基準により、「医療的ケアが必要な人でも基準は○○時間だから、医療的ケアのないあなたには○○時間しか認められません」と、脳性まひ者等、重度の全身性障害者への支給決定に関わる問題について、当事者の希望に反する運用が行われる恐れが極めて高いと考えます。
当事者の保護者が述べるよう、この特別基準案を撤回し、他の課題も併せ、根本的に見直してください。
◆その他の見直しにあたっての要望
6月4日に障害者支援課から公的に示された改定案に対する、私たち障問連としての意見は上記の通りです。しかし、10余年を経て改定するなら、中途半端なつぎはぎ的なものでなく、繰り返し述べているよう当事者の参画と実態を踏まえた中で、将来的な法制度改正等による一部修正はあったとしても、基本は継続的に使用可能なしっかりした「利用者や家族・支援者・市民の方が共通認識できる」、そして地域生活に当事者や家族が希望が持て安心できる、そのような支給量基準(ガイドライン)として、時間を要しても作成することを最後に強く要望いたします。
そして、現在の「支給量審査基準」には、明らかに間違いがありますので、以下「意見書(補足)」としてお示しします。
そして、各サービス毎等に関する私たちの意見として、昨年9月に提出した、障問連としての「提言」を、改めて、今意見書の添付資料として提出し、今後の協議については、以上も含めて協議していただくことをお願いいたします。
7月 9, 2019