障害者春闘

【報告】 4/6障害者春闘 「今後の障害者施策の動向~障害者運動が果たすべき今後の役割」

障問連事務局

4月6日(土)、神戸市勤労会館で障問連主催の30回目となる「障害者春闘2019」を開催した。約60名の参加となった今年は、内閣府障害者制度改革担当室政策企画調査官で、DPI日本会議副議長の尾上浩二さんをお迎えして「今後の障害者施策の動向~障害者運動が果たすべき今後の役割」というテーマで講演いただいた。日本政府や世界の動きと、私たちの地域での運動・各種取り組みとを切り結ぶという内容であった。

 

■尾上浩二さんの講演 ~ 求められる障害者制度改革の「地域での実態化」 ~

14年ぶりに東京から大阪に戻られた尾上さん、自己紹介も交えながら、表題をテーマに1時間半にわたって講演された。以下、感想、補足も交えながら報告します。

 

◆2020年には国連から日本政府に勧告

21世紀に入り激動の障害者施策、障害者権利条約に批准し一定の制度改革も図られながらも、なぜ大きく変革されないのか、その背景として・・・

・〈権利条約の理念に沿った法制度への転換〉

・〈社会保障の財源問題~強い抑制の方向〉

この両者が絡み合っているのが現在の状況。一方、権利条約をめぐっては、日本政府には批准して2年後に「政府報告書」を国連に提出が求められ、並行して民間障害者団体からのパラレルレポートが報告され、そして今年2019年9月には国連「障害者権利委員会」から報告に対する「事前質問事項」が出され、日本政府また障害者団体からの回答、双方向的対話を経て、2020年には国連から日本政府に対して「総括所見(勧告)」が公表され、勧告に基づき日本政府は改善の義務を負うこととなる。

尾上さんが副議長を務められるDPI日本会議でもこの間パラレルレポートの作成に尽力され、とりわけインクルーシブ教育に関して国連からどのような勧告が出されるのか、障問連が昨年度主要な課題として取り組んだ高校入学の課題も注目されるところである。講演では、隣国の韓国では原則インクルーシブ教育が実施され、支援教室はあるが学籍は通所学級、先進的なイタリアやカナダの状況にも触れられ、「高校=後期中等教育」をめぐって、アメリカでは障害児が社会に出る準備として21~22歳まで高校で学ぶ権利が保障され、韓国では障害児だけ高校は義務教育になっている事例が紹介された。

「日本では選抜試験が壁となって、定員を満たす義務も果たされず、高校問題が落とし穴のようになっている」と尾上さんは話されていた。

 

◆立ち遅れている各法制度の見直し

権利条約のこのような今後の動向に対し、国連からの勧告の1年後の2021年には障害福祉サービス等の報酬改定が行われる予定である。本来なら国連の勧告や障害当事者団体の要望を真摯に受け止め、制度の改善や報酬の見直しをするべきだが、後で述べるよう財務省の意向を背景に社会保障削減を基調とした報酬改定が行われるだろう。

そして各種法律の見直しが立ち遅れ、DPI日本会議でも試案を作成し、各法の改訂を求めている。

○障害者虐待防止法・・・2012年~施行され3年後の見直しもとっくに過ぎている。病院や学校でも通報が義務化されるよう対象拡大が求められる。

 

○障害者差別解消法

当日配布資料では東京都・大阪府茨木市・滋賀県での差別解消条例が紹介された。とりわけ滋賀県の条例は全国トップの水準で、差別の定義として「間接差別・関連差別」も含まれる事、行政や民間事業者だけでなく、例えば地域の自治体などを「その他の者」として条例上の義務とされている。

滋賀県条例「骨格の概要」の「問題意識」の項には、「①障害者差別解消法の実効性の補完 ②障害者と同様に社会的障壁により様々な生きづらさを抱える人に対する課題」とされ、「条例の必要性」の項には「・・・滋賀の実践者が大切にしてきた福祉の思想の流れを受け継ぎ、共感の輪を広げながら、県民が一体となって『一人の孤立も見逃さない』共生社会づくりを目指すため」とメッセシー性が込められている。講演ではあまり触れられなかったが、現在明石市では「インクルーシブ条例」制定に向けた検討会が行われ、尾上さんは部会長として参画されている。

 

○障害者基本法

改正が必要な理由として・・・

・障害者権利条約の批准を踏まえ、条約の内容を反映させる必要がある

・基本法附則には3年後見直し規定があるが、すでに8年も経過している。

・2011年以降に新設・改正された他法との整合性を取る必要

・・・などが説明された。そして改正のポイントとしては・・・(以下、資料よりDPI日本会議試案3)

〈総 則〉

①    「可能な限り」を削除すべき。理念法には必要が無い。

②    「差別」「合理的配慮」の定義を明記すべき。「虐待」「ハラスメント」の禁止も追記。

③    制度の谷間を作らない包括的な障害者の定義(周期的・断続的なものも含む)。

④    身近な場所で医療・介護が受けられるよう「地域生活支援」を追記。

⑤    障害女性への複合的差別の解消に向け、新たに「障害のある女性」条文を新設。

⑥    きめ細かな制度施策立案のため、新たに「統計及びデータ収集」条文を新設。

〈基本的な施策〉

①    障害の有無に関わらず分離されない教育の実現、そのために「合理的配慮」の明記。

②    精神障害者への偏見差別が強いことから重点施策として条文を新設。

③    「相談条項」から「権利擁護」「意思決定支援」に発展拡充。

④    手話・要約・点字・字幕・ピクトグラム等、個々の障害に合わせた情報のバリアフリー化を明記。

〈推進体制

①    障害者政策委員会に条約監視機能を明文化し強化。

②    障害種別・性別等に配慮した委員構成とする旨を追記。

③    市町村における合議機関設置を義務化。

 

◆バリアフリー/法改正を追い風にした取り組みを!!

「高齢者・障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(通称バリアフリー法)は2018年11月に改正法が施行、その基本理念として「共生社会の実現」と「社会的障壁の除去」が基本理念として明記された。それに伴い下記が重点課題として説明された。

・市町村が移動等円滑化促進方針(マスタープラン)を定める制度を創設←当事者の参画を!!

・基本構想/マスタープランの定期的な評価、見直しを努力義務←自治体でも評価会議を作ろう!!

・「移動等円滑化基準の適合」が新設では義務!!←今までは「量」、これからは「量と質」。例えばエレベーターの広さは11人、パラリンピックの基準は17人。作れば良いではなく「質」が問題!!

・事業者がハード面に加えソフト面も取り組み計画を作成、報告、公表する。

 

◆国が言う「地域共生」の危うさ・・・

2016年7月に省内の縦割りを排し部局横断的に幅広く検討を行うと、「我が事・丸ごと地域共生社会実現本部」が設置、検討スケジュールとして2018年、2021年の報酬改定等に向け幅広く検討を行うとされている。そして本部に直属するワーキンググループとして・・・

・「地域力強化WG」(住民主体の地域コミュニティづくり)

※(兵庫県社会福祉協議会の機関誌を読むと、このテーマが満載され、実態化は進んでいる)

・「公的サービスWG」(公的福祉サービスや計画の総合化・包括化)

※(介護保険との統合?? 報酬改定に関わる課題)

・「専門人材WG」(医療・福祉分野の専門人材の共通家庭の創設)

※(まずは高齢・障害・こどもの相談体制を一本化、包括化の方向)

 

これらの動向に対し尾上さんは・・・

・「誰と共に生きるのか? 障害のない者との共生、平等を求めてきた。福祉サービスを必要とする者だけの共生ではないはず。労働・教育・地域住民も含めた丸ごとが必要、福祉の世界だけで障害者は生きているのではない。それがすっぽり抜け落ちている」

・「日本社会に同調圧力が強まっている状況の中で、これらの動向に怖さを感じる」

・「日本の歴史の中で官民一体となった取り組みとして、ハンセン病患者に対する『無らぃ県運動』と優生保護法下での強制不妊手術、兵庫では『不幸な子どもの生まれない運動』があった。いずれも『地域社会のため』、『みんなの幸せのため』と掲げて展開されてきた。優生思想への批判なしの官民による地域運動には危うさがある。優生思想と向き合い克服する事が共生には不可欠」

 

以上を踏まえ、改めて「地域における制度改革の実態化」そして制度改革はこれからも継続していく、そのためにも地域からの草の根的な要求や運動が必要だと強調され、講演を締めくくられました。

 

■県下の障害者より提起~デモ行進

尾上さんの講演後、各課題別の提起がなされた。小野市在住の藤本あさみさんから、県内の介護時間に関する地域格差の問題が、DPI女性ネット/Beすけっとの藤原久美子さんから県内の優生手術国賠訴訟の問題が語られ、精神障害者の立場からリングリングの船橋裕晶さんが、そして知的障害者の立場から兵庫ピープルファーストの芝田鈴さんがそれぞれ語った。

その後、会場の神戸市勤労会館前から、三宮のセンター街を通って、元町の神戸大丸前まで、「施設でなく地域で生きたいんだ!!」「障害者差別を許さないぞ!!」などのシュプレヒコールを上げながら、17時過ぎまでデモ行進をおこなった。

 

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