優生思想

【報告】 旧優生保護法下での強制不妊手術は人権侵害~国は過ちを認めよ

障問連事務局

 

◆全国各地で次々に提訴が広がる~兵庫県でも~

今年1月に仙台地裁での初の提訴に続き、5月に第2次提訴、5月27日に全国弁護団が結成、弁護団を中心に全国各地での被害者への電話相談が行われ、また「全日本ろうあ連盟」として聴覚障害者に対する強制不妊手術の全国調査が取り組まれ、中間報告では少なくとも全国で70人の聴覚障害者が不妊手術や妊娠中絶を強制されていると報告されています。兵庫県でも聴覚障害者のご夫婦が今後、提訴される予定です。そして6月28日には北海道と熊本でも提訴され、多くのマスコミも注目する中、被害者の方々が次々と提訴されています。

 

◆マスコミによる情報開示により明らかになった凄まじい実態

マスコミの中でも毎日新聞は精力的に連日報道し続け、以下のような事実が明らかにされている。

○「強制不妊手術 再審査骨抜き」・・・強制不妊手術は優生簿審査会で手術の適否が決定されますが、「適」と決定されても、本人や保護者は再審査請求ができます。しかし再審査請求の2週間の期限を待たずに「和歌山県では少なくとも68人に対して手術が行われていた」、さらに「手術後に審査したケースが和歌山県と京都府で1件ずつあった」と明らかに法を逸脱した運用が行われていたのです。

 

○「強制不妊手術 GHQが批判」・・・旧優生保護法が国会で審議された1948年、当時の日本はGHQ(連合国総司令部)の占領下にありました。GHQは「・・・法案に強制不妊の対象として盛り込まれていた大半の疾患の遺伝性について再三にわたり医学的根拠が不明だと批判し、ナチス・ドイツの断種法以上に問題視していた」、さらに1952年、サンフランシスコ講和条約が発効しGHQの支配下から日本が独立した途端、「・・・GHQに厳密化を求められていた遺伝性を無視し、強制不妊の対象を遺伝性を問わず、精神・知的障害者に広げ・・・さらに差別意識をあおる法律に塗り替えた真相も見えてきた」。

 

○「強制不妊 1973年に旧厚生省局長が疑義」・・・旧優生保護法を所管した旧厚生省衛生局長が、1973年、「学問的に非常に問題があり、再検討の必要がある」、また「法の条文に強制手術は公益上必要とした条文も問題がある」と日本医師会の講習会で発言し事実上、優生保護法を否定する発言をした。

 

・・・現在、裁判で被告・国は「強制不妊手術は適法、厳格に運用されていた」としているが、それがいかに事実と異なるのか、新聞社を上げて事実を持って反論しています。特に上記「旧厚生省局長が疑義」については、少なくとも、1973年に「間違い」だと認識しながら、1996年優生保護法が廃止されるまで継続していたのは、明らかな「立法不作為」であり、裁判上でも重要な争点になると思われます。

 

しかし、仮に強制不妊手術が法に基づき「適正」に運用されていたとしても、決して許されるものではありません。毎日新聞ではこの半年間、全国各都道府県自治体等に資料開示を行い、その調査取材のまとめとして、6月25日には4面ぶち抜きでの特集記事が組まれ、各地の情報開示資料からすさまじい被害の実態を明らかにしています。以下、抜粋して紹介します。

 

○入所施設での実態・・・多くの都道府県の資料で、同じ日付、同じ医師の診断書により複数の知的障害者(中には児童も含む)が審査会に諮られ手術を強制されている。明らかに施設側が「まとめて」申請した事実に他なりません。

 

○精神科病院での実態・・・広島県での資料では、精神科病院に入院中の障害者、「治療は良好」と症状は落ち着いているにもかかわらず、「退院し家庭生活が可能」だから「子どもを産む可能性があるので手術の必要がある」と病院側が申請し、しかも「手術は申請者〈精神科病院〉が施す」と精神科病院自らが手術を行った可能性が高い。また北海道では「精神科病院の入院患者は医師の診断を理由に、手術実施が『スイスイ』と決まった」と、かつて道優生保護審査会の委員を務めた弁護士の証言が紹介されている。さらに北海道では道が各保健所に「積極的に患者を発見するよう求め、年に2件の申請のノルマを課した」とあり、また北海道で手術が最も多く行われた時期~約5年間で精神科病院数が15カ所から31カ所に倍増しているのです。読んでいると背筋が凍る思いになった。行政、保健所、病院が一体となって、各地域から精神病者を見つけ出し、入院させ、症状が落ち着かなければ長期入院、退院できる者には強制不妊手術する、そのような恐るべき事が堂々と行われていたのです。しかも北海道では、行政自らが手術した件数が1000件を達したことを記念して『優生手術〈強制〉千件突破を顧みて』(記念誌)まで作成している。同記念誌には、精神障害者の生活トラブルや犯罪行動を列記して「誤ったヒューマニズムがかえって家庭や社会に大きな負担になる」と正当化している。

 

○「だまして手術してもよい」・・・複数の都道府県の記録から、本人や家族が手術を強く拒否した場合にはどうすれば良いのかと厚生省に照会し、その厚生省からの回答には、「極力実施の指導に努められたい」とし「不良な子孫の出生を防止するという公益上の目的」があり、「身体の拘束・麻酔の使用・欺罔」を認めて必ず勧めるようにとの回答をしています。「欺罔」とは「だますこと」の意味。国家が「障害者をだましてでも無理やり手術を強制する」、そんな事が許されてよいはずがありません。

 

★兵庫県は過去施策を反省し、被害者に謝罪し救済取り組みに積極的な姿勢を示せ

北海道は知事自ら行政として過去の歴史を反省し、被害者の救済に向け、国に対しても「速やかに救済が開始されることが必要、記録が無くても一律に救済するよう」厚生労働省に、6月1日副知事が申し入れています、

しかし兵庫県は、5月29日定例記者会見で強制不妊手術に関して記者の質問に対して、厚労省の指示に基づく調査以外の取り組みとして、「当時の優生保護審査会委員の方々に、審査会で提示された資料等の保存がされていないか問い合わせていく方針です。そのような意味では、できるだけ関係者に幅広く確認をしていこうとしています」と回答した。しかし記者会見の冒頭で知事が強調したのは「旧優生保護法は、法律として有効に成立し、有効に運用されていました。ですから、法律を執行する立場からすると、その法律に基づいてきっちりと運用していくというのが県の立場でした」と記者に理解を求めている。

しかし、兵庫県は「不幸な子どもの生まれない運動」として、国に先駆けて県独自の施策を知事が先頭に立って展開し、旧優生保護法第12条に基づく不妊手術に対しては県が独自に費用を負担して、より積極的に展開してきたのだ。障問連として過去の同施策への反省を求めているが、障問連も共催団体として、6月30日神戸市障害者福祉センターで「不幸な子どもの生まれない運動は終わったのか」と題する集会が開催されました。次頁に同集会を取材した新聞記事を紹介します。

 

■旧優生保護法 障害者、不幸じゃない 「生まれない運動」考える集会 「県の総括と謝罪求める」 神戸 /兵庫

毎日新聞2018年7月1日 地方版

https://mainichi.jp/articles/20180701/ddl/k28/010/248000c

集会で「不幸な子どもの生まれない運動」について解説する松永真純・大阪教育大非常勤講師(右端)=神戸市内で、反橋希美撮影

 

旧優生保護法に関連し、県が先駆けて展開した「不幸な子どもの生まれない運動」(1966~74年)や背景にある優生思想を考える集会が30日、神戸市中央区橘通3の市障害者福祉センターで開かれた。障害者や研究者らでつくる市民団体が主催し、135人が参加。「今も続く『障害者は不幸だ』との価値観を問い続けなければいけない」との声が相次いだ。【反橋希美】

運動は障害児を「不幸な子ども」とし、その「出生予防」のための施策を推進。精神障害者らへの強制不妊手術や、羊水検査の県費負担を実施した。

集会では、大阪教育大非常勤講師の松永真純さん(43)が運動の概要を説明した。施策立案に主導的な役割を果たした医師が記した「国家社会の負担を減らし、個人の責任あらざる不幸を除くために、異常児の生まれない施策もやるべき」という文章を紹介。施策を進めた対策室は障害者の抗議を受けて廃止されたが「障害者が(不幸とされることに)『違う』という声を上げたことが重要だった」と指摘した。

また「優生手術に対する謝罪を求める会」の利光恵子さん(64)は「優生保護法がなくなって20年以上。ようやく被害者の人権回復が始まろうとしている。行政と福祉、医療、教育が一体となって強制不妊手術が進められた仕組みの全容を明らかにする必要がある」と強調した。

運動をめぐっては、県立こども病院(神戸市)が2016年に発行した記念誌で「ユニークな県民運動」と記載。昨年秋、県は病院のホームページから記述を削除したが、市民団体の「運動の歴史的経緯を明らかにすべき」との要求には応じていない。

集会の最後では、県に対し運動を検証したのか明らかにすることや、主催団体などと話し合いの場を要求するアピール文を採択した。「神経筋疾患ネットワーク」の石地かおるさん(50)は「出生前診断が広がる今、暴力的な思想を根付かせた県の罪は大きい。総括と公の謝罪を求めたい」と話した。〔神戸版〕

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