【優生思想】 強制不妊手術関連のこの間の動き
■兵庫県に要望書を提出しました
さる5/22、兵庫県の井戸知事あてに「強制及び「同意」による優生手術に関する緊急要請について」連名で(障問連、DPI日本会議、自立生活センターリングリング、メインストリーム協会、自立生活センター神戸Beすけっと)要請を行ないました。旧優生保護法による障害者への不妊手術の謝罪、補償、調査を求めるほか、兵庫県がかつて行った「不幸な子どもの生まれない運動」についても問いただしています。
以下、要望書と新聞記事を掲載します。
兵庫県知事 井戸 敏三 様
平成30年5月22日
認定NPO法人DPI日本会議
代表者 議長 平野 みどり
障害者問題を考える兵庫県連絡会議
代表 福永 年久
自立生活センターリングリング
代表 中尾 悦子
メインストリーム協会
代表 廉田 俊二
自立生活センター神戸Beすけっと
代表 石橋 宏昭
強制及び「同意」による優生手術に関する緊急要請について
日頃から障害福祉の推進及び障害児・者が暮らしやすい社会づくりに向けた取り組みに厚くお礼申し上げます。
DPI日本会議は、障害の有無に関わりなく、誰もが分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するための取り組みを進めている障害当事者団体であり、私たち4団体はDPI日本会議に加盟する兵庫県内の当事者団体です。
さて、旧優生保護法(1948~96年)の下、「優生手術」として知的障害者や精神障害者らへの強制不妊手術をされた方は、全国で16,475人という数字が示されており、これまでにも20年以上被害を訴えてこられた方もいました。すでにマスコミ報道等でもご承知のとおり不妊手術を強制された宮城県の60代女性が今年1月30日、不妊手術を強制されたのは個人の尊厳や幸福追求権を保障した憲法に違反するなどとして、国家賠償を求める訴訟を仙台地裁に起こしました。その結果、5月17日には北海道、宮城、東京で追加提訴され、さらなる追加提訴や被害者を掘り起こすため、5月21日に全国38カ所弁護士ホットライン窓口が開設され、同月27日に全国弁護団の結成が予定されていますが、厚生労働省は、3月28日に仙台地裁で開かれた第1回口頭弁論では、請求棄却を求め、争う姿勢を示しました。
一方、北海道をはじめとする一部の地方自治体では、独自調査の実施と資料の保管と公開等を進めています。その結果、強制不妊手術は、拒否する保護者等へも強く求めるとともに、その対象は10歳にも満たない少女や、外国人も含めていることが明らかになってきました。更に、任意による優生手術の推進も明確になってきています。
こうした中、国会では、強制不妊手術に関する実態調査やヒアリングを行い、被害者に対する具体的な支援の仕組みを検討し、人権の回復を目的として、超党派の国会議員によって構成される「優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連盟」が発足するとともに、自民、公明両党による与党ワーキングチーム(WT)も設置されました。そして、今後は、来年の通常国会に謝罪と補償の具体的な形を示した議員立法の法案提出を目指すとしています。なお、厚生労働省は、こうした国会の求めに応じて、6月下旬を期限とした全国調査を実施しています。
この強制不妊手術についてDPI日本会議は、1998年と2014年に関係5団体と共に国連・規約人権委員会にレポートを提出しました。このレポートにより同委員会は1998年と2014年の2回、日本政府に対して被害者の補償に向けて必要な法的措置をとるよう勧告を出し、これを受けての国会答弁で「被害者がいることはまぎれもない事実」としながらも国は何もしてきませんでした。
また、2016年女性差別撤廃条約日本政府審査において、DPI女性障害者ネットワークや他の女性団体と共にDPI日本会議のスタッフをジュネーブに派遣し、同年3月に加害者への処罰にまで言及した厳しい勧告を引き出しました。
私たちは、障害当事者として、この問題は、障害者の存在を認めない優生思想に基づく犯罪行為であり、すべての障害者の存在、人権及び尊厳を否定することであり、国は被害者への謝罪と賠償等を早急に実施すべきと思っています。
つきましては、他の先駆的取組を進めている自治体に倣って、厚生労働省が示す調査項目に関わらず、貴職としての取り組みを以下のとおり求めますので、5月31日(木)までに文書等によるご回答をお願い申し上げます。
記
1.優生保護法に基づく優生手術の推進及び被害状況を明確にするために以下の事項の調査と調査結果の公表及び関係資料等を保管すること。
(1)旧優生保護法に基づき強制不妊手術等を推進するために国が貴職に示した通知、指示及び協力依頼等に関する調査等を実施すること。
(2)貴職の直属機関である福祉部局(福祉事務所、更生相談所、児童相談所、障害児・者施設、母子生活支援施設、児童養護施設、救護施設等)、医療部局(病院、保健所等)、学校(幼稚園、特別支援学校、小・中・高等学校)に対して貴職が示した強制不妊等の推進に関する指示・指導状況(要綱、通知、監査指導等)及び記録(事業概要等)等に関する調査等を実施すること。
(3)貴職が障害児・者を措置していた障害児・者施設、児童養護施設等及び委嘱していた民生委員、保護司、身障・知的相談員等に対する強制不妊手術等を進めるための指示・指導等の状況及びその結果について調査等を実施すること。
(4)貴職が日本産婦人科医会、医師会、看護協会等の関係団体に対する協力依頼状況及びその結果について調査等を実施すること。
(5)旧優生保護法第三条に基づく同意の優生手術に関する行政としての取り組み状況とその結果について調査等を実施すること。
(6)旧優生保護法第十四条第一項一〜三号、および第三項に基づく人工妊娠中絶に関する行政としての取り組み状況とその経緯について調査等を実施すること。
(7)旧優生保護法第二十条に基づき設置された優生結婚相談所の取り組み状況とその結果について調査等を実施すること。
(8)貴職において強制不妊手術や人工妊娠中絶を決定した経過(審査会開催及び本人・保護者の意向確認の有無、書面審査のみの実施 等)について調査等を実施すること。
(9)障害女性に対し、月経介助を軽減するために行われていたことが多くの証言から明らかである。法の目的を逸脱して行われた、違法な手術についても調査すること。
(10)調査・検証等の実施にあたっては、優生手術の対象とされた当事者または、これまで被害者を支援してきた団体を構成員とした第三者的な調査・検証委員会を設置して進めること。
2.各都道府県の公文書館に収蔵されている優生手術に関する書類の精査を行うこと。その際、公文書館に該当史料が収蔵されていることが分かるように表示し、個人情報保護に留意した上で公開すること。個人情報保護に際しては、歴史的史料であることに鑑み、優生手術を受けた当事者や家族に関する情報以外(例えば、優生保護審査会の委員、申請医、優生手術の執刀医等)については公表すること。なお、「優性」と間違って登録されている事例もあることに留意し、「優生」、「優性」の両方で精査を行うこと。
3.被害者相談窓口を、兵庫県においては現在、健康福祉部健康局健康増進課に設置しているが、被害者にしてみれば健康な身体を傷つけられたという思いがある。あまりにも配慮のない設置ではないか?担当課の変更を検討し、その結果を公開されたい。(別紙1京都府の事例参照)また、被害者に対する救済等を進めるために以下の事項を実施すること。
(1)被害者の障害(視聴覚、知的、精神等)、性別、年齢等に配慮した相談支援体制(訪問による相談支援の実施等)を確保すること。
(2)国に対して、被害者に対する謝罪と救済措置の早期の実施を求めること。
(3)被害の認定にあたっては、被害者の障害、年齢等の状況と文書保存規定等に基づく書類等の破棄により被害証明が困難な状況及び今回の強制不妊が非人道的、犯罪的な行為等であることを踏まえて、早急且つ被害者に寄り添った柔軟な被害認定の仕組みとすることを国に求めること。(別紙1 宮城県の事例参照)
(4)弁護団と連携を取り、被害者が訴訟の手続き等に速やかにアクセスできるようにすること。(別紙2 優生保護法ホットライン一覧)また交通費の助成を行うなどの対策を講じること。(別紙1 鳥取県の事例参照)
兵庫県はかつて「不幸な子どもの生まれない運動」(1966〜1974)を他県に先駆けて実施し、全国30の自治体に波及して、手術数の増加を推進したという責任があります。また実施においては、第12条に基づく手術や出生前診断において、県独自で予算をつけて手術を推奨してきました。これらを踏まえ、単に国の施策を忠実に実行しただけとは言えない事実があります。当時の社会風潮として終わるのではなく、上記に示した要望項目を実施することにより実態を明らかにし、心からの反省と県独自での被害者への謝罪および救済を求めます。
以上
【回答送付先】
〒653-0805
神戸市長田区長田町5-3-22
自立生活センター神戸Beすけっと
事務局長 藤原 久美子 宛
E-mail:bescuit_fujiwara@yahoo.co.jp
(なお、視覚障害があるため、同じ内容のものを
E-mailでword版添付ファイルにてお願いします。)
電話:(078)641-6618
FAX:(078)641-6632
◎旧優生保護法の実態調査を 障害者団体が要望書
神戸新聞NEXT 2018/5/22 21:40
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201805/0011282266.shtml
旧優生保護法(1948~96年)下で障害者らへの不妊手術が繰り返された問題で、兵庫県内の障害者団体などが22日、被害実態の調査を訴える要望書を県に提出した。県が相談窓口を健康増進課としている点を「健康な体を傷付けられた被害者への配慮がない」と指摘し、変更も要請した。
この問題を巡っては、宮城県や北海道などで手術を強制されたとする男女計4人が国に損害賠償を求め提訴。厚生労働省は都道府県などに個人が特定できる資料の調査を依頼している。
要望書は「障害者問題を考える兵庫県連絡会議」(神戸市東灘区)や「自立生活センター神戸Beすけっと」(同市長田区)など5団体が提出。国が県に示した通知や不妊手術の適否を判断した優生保護審査会などの調査、当事者らを交えて実態を検証する第三者委員会の設置などを求めた。
県は66~74年、不妊手術の費用負担や羊水検査などを行う「不幸な子どもの生まれない県民運動」を展開。Beすけっとの藤原久美子事務局長(54)は「生む生まないの決定権を奪われたことが最大の問題。県民運動も含めて反省し、被害者への謝罪と救済をしてほしい」と語気を強めた。
県健康増進課は「内容を精査し、対応を考えたい」としている。(田中宏樹)
◎強制不妊件数 神戸市と姫路市の統計、県上回る
神戸新聞NEXT 2018/5/28 06:00
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201805/0011300160.shtml
旧優生保護法(1948~96年)に基づき障害者らに不妊手術が繰り返されていた問題で、神戸市と姫路市がまとめた当時の統計の件数が、兵庫県の統計と食い違うことが神戸新聞社の調べで分かった。理由は不明だが、神戸や姫路単独の件数が県全体を大幅に上回っている年があり、兵庫を網羅しているはずの県統計より、実際はさらに多くの手術が行われていた可能性がある。ただ基礎資料となる統計が定まらない上、手術を受けた個人を特定する記録も県内各市町で見つかっておらず、行政による実態解明は進んでいない。(まとめ・田中陽一、田中宏樹)
旧法では知的障害や精神疾患、遺伝性疾患などを理由に不妊手術を容認。本人同意がない場合も医師が必要と判断すれば、各都道府県の「優生保護審査会」の決定に基づき強制手術を可能としていた。
厚生労働省の資料と県の「衛生統計年報」を基に神戸新聞社が集計したところ、県内では49~78年の30年間に少なくとも349件の強制手術が行われていた。しかし、当時保健所のあった神戸、姫路両市の年報を調べると、76年は神戸で「26件」と記録されていたが県の年報では1件、56年は姫路で「23件」だったが県では15件-と大きく矛盾していた。両市の記録が正しければ、県全体の件数はさらに増えることになる。
ただ神戸市の担当者は「基になった資料がなく、当時を知る職員もいない。(県統計と)食い違う原因は分からない」。姫路市も「現時点の資料としては統計が全て。正確性も含め検証できない」と話す。
神戸では56、57、65、75、76年の年報に強制手術の件数が残され、計53件。姫路では55~57年の3年間で計28件が計上されていた。これ以外に、統計の書式に強制手術の欄が設けられていない年もあるが、実際に手術が1件もなかったのか、統計の対象から外されていたのかは分からない。
厚労省は4月下旬、被害実態を把握するための調査範囲を全国の市町村に広げ、関連資料がある場合は保存を要請したが、今のところ県内全41市町とも個人の特定につながる記録は見つかっていない。多くの自治体が「かつてあったとしても、保存期限切れや自治体合併の影響で既に廃棄されている」との見方を示す。
一方で、手術を受けたとみられる個人名記載の資料が役所以外で保管されているケースもあり、東京で都立病院、茨城県では障害者支援施設から見つかった。西脇市の市立西脇病院も「当時なら紙のカルテが残っている可能性はある。指示があれば調べる」とする。
市川町は「文書の検索システムでは見つからず、保存されている可能性は低い」とする一方、「調査の要請があれば補正予算を組み、町広報やチラシで情報を募る方法なども考えられる」としている。
■全国の動き
優生手術に関する国賠訴訟のほうの動きですが、5月27日に全国被害弁護団が結成され、6月に3次提訴をされる予定とのことです。こうした動きとも歩調を合わせつつ、兵庫での運動を展開していきたいと思います。
◎不妊手術184人で弁護団 全国組織結成 来月にも3次提訴
東京新聞 2018年5月28日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201805/CK2018052802000105.html
旧優生保護法(一九四八~九六年)による障害者らへの不妊手術問題で、被害救済を国に求める全国被害弁護団が二十七日、結成された。約四十都道府県の弁護士百八十四人が参加し、高齢化した被害者への早期の謝罪、補償を求める動きを全国に広げる。新たに四、五人が六月下旬にも、国家賠償請求訴訟を起こす見通しも示された。
東京都内であった結成大会で、旧法の不妊手術に関して「人間の尊厳を冒した憲法に違反する手術であり、合法であったとの主張は許されない」との声明を発表。旧法の下で繰り返された差別の根幹を取り除くため、当事者が参加する検証委員会設置も国に求めた。
共同代表の新里宏二弁護士(仙台)は「被害者が声を上げるのはいかに困難か。その思いを全力で支えていきたい」と表明。同じく共同代表の西村武彦弁護士(札幌)は「裁判を通じて、障害のある人もない人も、一緒に歩いていける社会を目指す最初のステップにしたい」と語った。
この日は東京都杉並区の精神科医、岡田靖雄さん(87)が講演。一九六〇年代に勤務した都立の精神科病院で、不妊手術の対象者に女性の入院患者を選定し、助手として手術に立ち会ったことを告白した。
岡田さんは「関わった以上は責任を負うべきだ。関与した医師は名乗り出てほしい」と強調。夫婦ともに聴覚障害があり、妻が不妊手術を強いられた男性も発言し、「聞こえない人どうしが結婚すると、子どもが不幸になると言われた。なぜ勝手に決めつけられたのか」と訴えた。旧法を巡っては、一月に宮城県の六十代女性が初めて提訴し、五月十七日には東京、宮城、北海道の男女三人が二次提訴。五月下旬に三十八都道府県で行われた電話相談には、本人からの十九件を含む六十三件の相談があったという。 (石川修巳)
<旧優生保護法> 「不良な子孫の出生防止」を目的として議員立法で成立し、1948年に施行された。ナチス・ドイツの「断種法」の考えを取り入れた国民優生法が前身で、知的障害や精神疾患、遺伝性疾患などを理由に本人同意がない場合の不妊手術を容認していた。96年に障害者差別や強制不妊手術に関する条文を削除し、「母体保護法」に改められた。同様の法律により不妊手術が行われたスウェーデンやドイツでは国として被害者に正式に謝罪し、補償している。
6月 2, 2018