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【報告】 兵庫県が「ユニバーサル条例」を2月県議会に提案 ~何が問題か?~

栗山和久(障問連事務局)

昨年の夏から突然始まった「ユニバーサル社会づくりの推進に関する条例」の検討、昨年度兵庫県交渉でも2回にわたり障問連として話し合い、当事者や関係団体の意見聴取も十分に行わず拙速な進め方を止めるようにと再三にわたり申し入れましたが、すでに1/9~1/29締め切りでパブリックコメントが実施されました。障問連として意見(例)を作成し、ネットも活用して拡散し多くの人に急きょ呼びかけました。

1月23日には複数の県会議員と懇談し、県議会の状況や今後に向けて相談しました。差別解消条例や手話言語条例に対して否定的な議員が多く、ユニバーサル条例になったこと等お聞きしました。ユニバーサル条例は「障害者・高齢者・外国人・女性・児童」と非常に多様な幅広い者を対象とし、「みんなが共に支え合う」との理念自体は誰も反対するものではありません。しかし条例化するからには何等か実効性があり、またそれぞれの立場の人の人権や差別禁止と言う観点が非常に重要であるにもかかわらず、意図的にそこに重点を置くのではなく、啓発的な色合いが濃く、また県政150周年のイベント的な取り組みに過ぎないと思われ、さらに私たちが危惧することは、この条例により差別解消条例がさらに実現が困難になるという点です。東京都、三重県、大阪府の茨木市では現在差別解消条例の制定へと動いています。以下、経過上の問題、骨子案への批判をお伝えします。

 

■「ユニバーサル社会づくりの推進に関する条例」制定の経過上の問題

○今回の条例は「知事提案」とされるが、井戸知事は2017年2月県議会において、差別解消条例や手話言語条例を制定すべきとの県会議員の質問に対して、「理念的な条例は制定しない」と答弁した。また私たち障害者団体の何度にもわたる要望に対しても同様の理由で拒み続けてきた。

しかし、今回示された「ユニバーサル社会づくりの推進に関する条例」は、12月1日兵庫県障害福祉審議会配布「資料2-1」でも、「理念条例」と位置づけられており、これまでの知事答弁ならびに兵庫県関係部局の見解と全く矛盾するものである。

11月19日開催の兵庫県関係部局と「障害者問題を考える兵庫県連絡会議」の意見交換会において、担当部局担当者は、具体的な内容は「ユニバーサル社会づくり総合指針」の中で盛り込むとの答弁があったが、そうだとするなら具体的施策の中身の極めて不明なまま、しかも検討期間が極めて短く、理念だけの条例を成立させる必要はどこにあるのか、具体的な内容を示す総合指針と理念条例を一体のものとして議会に提案するのが、誰が考えても当たり前の在り方ではないのでしょうか。根本的に見直し、2月県議会での提案を取り下げられ、再検討されたい。

 

○「ユニバーサル社会づくりの推進に関する条例」は、障害、高齢、児童、外国人等(文化の違い)という非常に幅広い人を対象する条例とされているが、そのような幅広い当事者(団体等)は十分に行われていない。

また、非常に幅広い人を対象とした条例を制定するにあたっての検討経過が拙速であり、あまりに杜撰といえる。例えば、11月19日兵庫県関係部局と「障害者問題を考える兵庫県連絡会議」の意見交換会において、「外国人からも意見を聞いていると言うが、どこの国籍の人なのか。外国人の多数を占める在日中国人や韓国人の意見を何故聞かないのか」についても全く説明がされなかった。

また、障害分野だけでも、障害種別によりユニバーサルの在り方は、それぞれ大きく異なるものであり、誰にとって、どのようなあり方がユニバーサルと言えるのか、大いに議論検討されるべきものであり、最低限、兵庫県の障害者施策の審議機関である兵庫県障害福祉審議会内での意見聴取、別途施策検討会を開催しての検討は行われるべきではなかったのか。2015年度に行われた障害者差別解消条例の制定に向けても複数回、施策検討会が開催され、一定の当事者委員が参画して開催されているのに比べ、極めてずさんである。根本的に見直し、2月県議会での提案を取り下げられ、再検討されたい。

 

○「ユニバーサル社会づくりの推進に関する条例」を是非制定してほしいとの多くの県民の意思が示されているのか、どのような団体、人数、経路を経て、どのような内容の要望が県にあげられたのか、それらを踏まえて県として検討したのか。それが仮にないのであれば、県知事の独断により進められているのなら、県民に意思を無視したであり、下記の理由と共に、2月県議会での提案を取り下げられ、再検討されたい。

 

○兵庫県ホームページで公表されているのは、「ユニバーサル社会づくりの推進に関する条例」の骨子案に過ぎないこと、また実施条例と位置づけられ議員提案とされる「情報アクセス及びコミュニケーション手段の確保に関する条例(仮称)」については何ら説明がない。これでは何ら評価、意見の仕様がない内容となっている。各条例との関係イメージが示されているのに、肝心の一方の内容が不明なままでは、このパブリックコメントの内容自体が欠落していると言わざるを得ない。拙速さのあまりの不備であり、2月県議会での提案を取り下げられ、再検討されたい。

 

○12月1日、兵庫県障害福祉審議会配布「資料2-1」では、「(4)障害者差別解消法の内容については、独立して記載せず、差別解消は施策で行う」とされている。その理由は何かが全く説明されていない。改めて説明していただくとともに、2015年度に検討された障害者基本条例の趣旨や内容を、この条例の中で、最大限盛り込むこと。それができないのなら、今後、障害者差別解消条例の制定について積極的に検討するとともに、県民ならびに県議会において、障害者差別解消条例についても今後、積極的に検討していく事を明言してください。

 

■「ユニバーサル社会づくりの推進に関する条例」骨子案の内容に対する意見

○骨子案「2条例の概要」の「(4)施策」の中で、13項目にわたって「促進させること」「整備すること」と項目末尾に文言がある。誰(責任主体)が、どのような責任(財政的含む)により、どのように推進するのか、極めて不明確である。具体的な内容は総合指針であったとしても、理念(あるべき形)としてこの条例を制定するなら、努力義務でなく、明確な義務規定として位置付けなければ、実効性は確保できない。2017年2月県議会での井戸知事の「実効性ある施策・条例しか制定しない」との答弁を踏まえるなら、またあえて条例を急いで制定するなら、全般にわたって明確な義務規定として記載するべきである。

 

○骨子案「2.条例の概要」の「(4)のアの(イ)」について・・・「家庭、自治会その他の地縁による団体等と連携して、障害のある児童及び生徒の社会性を養い、自立して社会参加するための基盤となる生きる力を育むこと」とあるが、「障害児童」が「社会性、自立する力」を形成するのが、なぜ、学校ではないのか。また、「家庭」を入れることで保護者等家族の責任を、なぜ強調しなければならないのか。障害のある児童だけが、なぜことさら強調されて「社会性や生きる力」を養い育むとされなければならないのか。障害のない児童には必要がないのか。ユニバーサルと言いながら障害の有無によって分離する考え方が如実に表れています。残念ながら今の時代においても、障害児童の大きな責任が家族に課せられ、苦しい思いを持つ保護者は多く存在している。そのような現実をさらに追い打ちをかけるような内容は必ず削除または変更してください。

 

○「1条例制定の趣旨等」では「高齢者及び障害者をはじめ、年齢、性別、障害の有無、言語、文化等の違いを問わず、全ての人が包摂され自信と尊厳を持って暮らすことができるユニバーサル社会こそ豊かな社会であり・・・」とされている。障害児童においては兵庫県内でも特別支援学校の急増があり、2017年12月1日兵庫県障害福祉審議会でも複数の委員から、インクルーシブ教育の必要性、地域の学校で共に学ぶ在り方について言及されている。「全ての人が包摂され自信と尊厳を持って暮らすことができるユニバーサルな学校」こそが、この条例の目的を達成するために必要な礎である。それは「2条例の概要」の(2)基本理念の「ア」の実現にも必須である。②の内容も含め、インクルーシブ教育の推進を明確にした文言に修正されたい。

 

○また、同項目の(ア)と(イ)の関係性について不明確であり、(イ)では障害児童だけ特化して記載されているが、この内容では障害児童以外は学校等様々な場で「基本理念の理解を深める」主体であり、障害児童は自らを高め自立しなければならない主体として位置づけられている。この内容では、それ自体が分離的な差別的な発想であり、(ア)(イ)合わせて全面改訂されたい。

 

○「(4)施策」の「イ」の(ウ)について・・・この記述は障害者差別解消法の目的とも共通しているが、「相談機関の設置」とは、既存の「障害者差別解消相談センター」とは別に、ユニバーサル担当部局内に設置するのか、また「障害者雑解消相談センター」との役割の相違、分担をどうするのか、極めて不明確であるため、より具体的な内容に修正すべきである。

 

○この条例は県が主体となって制定するものであるなら、財政的措置も含めた県の責任を明確にするような内容にしなければ、実効性は伴わない。県知事自らが「理念的な条例は意味がない」とするなら、自らの言葉通りに、「ユニバーサル社会づくりの推進に関する条例」において、県の責任を明確にしなければならない。県の責務として明確にしているのは「2条例の概要」の「(3)責務」の「エ」にある「総合的施策の策定し実施する」と、末尾の(5)のみである。これでは単なる声掛け運動、啓発運動に過ぎず、むしろ具体的な各施策における障害者、高齢者、児童、外国人の権利性について、より不明確になってしまう可能性があるため、全面的な改訂を要望する。

 

○「2条例の概要」の(3)責務の「オ」・・・市町は総合的な施策の策定と実施については、「努める」とされ、義務とはなっていない。県がいくら音頭を取っても、具体的には各市町地域で施策を展開しなければ全く意味がありません。この点、なぜ市町は「努める」になったのか、条例提案にあたって、各市町とのコンセンサスが図られているのか説明を求めるとともに、本条例を提案するなら、速やかに各市町と協議の上、義務規定に修正してください。

(なお、あえて付言するなら、具体的には何をするのか極めて不明確な条例が、各市町に更なる業務負担だけを強いることになる事が予測され、本条例そのものを撤回することを要望する)

 

○基本理念の中に以下の内容を入れる事。

「障害のある人、高齢者、児童、女性、外国人、LGBT等の県民が直面する、様々な無理解や社会的障壁や差別を除去し、その人権や尊厳の確保に努める事」

また、これらの実現にあたって、差別解消に向けた課題解決のための紛争解決のための機関を設置することを総合指針に盛り込むことを条例の中に盛り込んでください。

 

兵庫県障害福祉審議会資料2-1(2017年12月1日実施)

https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf08/documents/houkoku_29_2.pdf

ユニバーサル社会づくりの推進に関する条例(仮称)について

■条例(仮称)(案)の基本的な考え方

(1)「ひょうごユニバーサル社会づくり総合指針」を有機的に機能させるための総合的な「理念と対策を盛り込んだ条例」とする。

(2)「福祉のまちづくり条例」も当該条例で位置づける。

(3)「ひょうごユニバーサル社会づくり総合指針」は条例の制定を踏まえ、6月県議会に改訂の議案を提出する。

(4)障害者差別解消法の内容については、独立して記載せず、差別解消は施策で行う。

(5)H30年2月議会の提案を目指す。

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