【優生思想】 県立こども病院移転記念誌問題
野崎泰伸(障問連事務局)
兵庫県立こども病院の移転記念誌に、1960年代から行われた兵庫県の「不幸な子どもの生まれない運動」を称賛するような文章がホームページ上で掲載されました。このことに関し、障問連からも県オールラウンド交渉において口頭で抗議、申し入れを行いました。現在は、文章は削除されていますが、何の説明もなく、市民団体である「わたしたちの内なる優生思想を考える会」(以下「考える会」)も抗議されました。県からは、「考える会」の要望書への回答と合わせて障問連の申し入れへの回答を行うという返事がかえってきています。以下、簡単に経過を報告します。
■「考える会」の要望
「考える会」は、2017年11月1日付で、「「不幸な子どもの生まれない運動」への称賛を公言してはばからない兵庫県立こども病院と、それを容認する兵庫県に抗議し、記載の削除・訂正を求めます」と題する要望書をこども病院院長、問題の文章を執筆した名誉院長、移転記念誌編集委員会、それに県知事と連名で送りました。問題の所在は、「兵庫県が過去に実施した「不幸な子どもの生まれない運動」を「本邦では初めてのユニークな県民運動」と称賛し、…無批判に取り上げている」ことです。1966年に兵庫県衛生部が中心となって「不幸な子どもの生まれない運動」を展開したこと、それに対する青い芝の会からの批判があり、1974年には中止や名称変更を行ったこと、そうした歴史的な経緯への反省が見られないこと、いまだに障害者を隔離し収容するシステムが厳然とあること、バリアフリーの住宅が少なく施設に入らざるを得ないことなどが指摘されています。障害者は「不幸な人」であるとする決めつけこそが、障害者を「あってはならない」存在にしてしまい、「あんな姿になるぐらいなら死にたい」とする価値観を植えつけるのだと述べています。障害者虐待防止法の制定、障害者権利条約の批准、そして障害者差別解消法の制定がなされるなかで、行政機関がこのような差別を助長させるようなことに対して抗議しています。
そして、以下の質問に回答するよう、要望しています。
(1)兵庫県が過去に行った「不幸な子どもの生まれない運動」について、現在、どのように考えておられますか?
(2)「不幸な子どもの生まれない運動」を「ユニークな県民運動」と表現した意図は何ですか?上述の抗議文の中でのべたような「不幸な子どもの生まれない運動」への批判やそれをめぐる経緯を知らなかったのですか。あるいは、知っていたのに無視したのですか?
(3)『記念誌』の中の、「不幸な子どもの生まれない運動」を称賛する記述を削除し、訂正して下さい。
■県からの回答
「考える会」の要望に対する県からの回答は以下です。11月29日の日付が入っていますが、実際に「考える会」の古井さん宅に郵送されたのは12月6日、希望回答日の11月末日を過ぎたものだったそうです。
・県からの回答文
「不幸な子どもの生まれない運動」については当時、出生前から母胎と胎児を保護するという考え方が背景にあったものの、障害児を不幸な子どもとしていたこと、また、精神障害者等に対する優生手術が行われていたこと(平成8年の母体保護法改正により廃止)については、現在では不適切であると考えています。
今、県では、障害の有無などにかかわりなく、誰もが地域社会の一員として支え合い、安心して暮らし、一人ひとりが持てる力を発揮して、元気に活動できる「ユニバーサル社会」の構築を目指しています。
記念誌の「ユニークな県民運動」は、当時、他県で行われていなかった兵庫県独自の施策であることを示す表現として用いられています。
このことを含め、寄稿文には、病院設立時の時代背景として当時の歴史的事実を記載していますが、その説明が不充分でした。
このため、こども病院ホームページから記念誌を削除しました。
■再要望、その後の「考える会」と県とのやり取り
「考える会」は、上記の件からの回答に対し、質問に答えず、また真摯(しんし)に向き合っていないとして、県に対して再要望をしています。その内容を要約すれば、①行政が主導して、障害胎児をチェックし選別的中絶をすすめようとした当時の施策についてどう考えているのか明らかにし、その上で「現在では不適切」と考えるなら、被害者を調査し救済措置を講じること、②当時の「不幸な子どもが生まれない運動」に対する障害者団体からの批判も含めた、歴史的な経緯の記載とその説明、③『記載誌』そのものの削除はまったく無意味であり、訂正理由を示して訂正文を掲載すべき。そうすることで障害者差別解消への施策を進めること。以上の3点を要望しています。
その後、1月中旬になっても返事がないので、兵庫県健康福祉部健康増進課とこども病院に説明および話し合いの場を設定するよう催促したところ、1月11日に、健康増進課から電話があったそうです。県としては、上記の回答文がすべてであり、話し合いの場を持つ気はないこと、質問事項の(2)と(3)に関しては、こども病院に直接尋ねてくれということでした。「考える会」は、納得できない、こども病院も連名で答えている、不幸な子どもの生まれない運動自体、兵庫県が行政としてすすめたものであり、質問事項すべてについて、兵庫県としても答える責任があるということで、文章回答を求めました。それを受けて、県は、こども病院と協議すると述べましたが、文書回答や話し合いの場が設定できるかどうかについてもわからない、と述べるにとどまったようです。「考える会」としては、1月末まで返事を待って、兵庫県のほうに行こうかと話しているとのことでした。あと、「リメンバー7.26神戸アクション」や、「神経筋ネットワーク」も1月中に兵庫県に質問状を提出し、2月中に兵庫県との話し合いを求めているそうです。
■優生思想の中核を問う問題として
障問連としても、この問題が優生思想の根幹の問題であり、障害者差別そのものであることから、「考える会」の動きを見ながら、共同で県やこども病院の姿勢を問う必要があると考えています。「不幸な子どもの生まれない運動」、優生保護法下での強制不妊手術の問題などは決して過去の問題ではなく、障害者など価値がないと考える風潮は、今年の障害者春闘のテーマでもある相模原事件にも直結しています。ぜひみなさんもこの問題を注視してください。
2月 1, 2018