国/県の制度

【国の制度動向・2】 前回(平成27年4月)の報酬改定の分析

宗保榮(NPO法人飛行船)

 

1.前回の改定のベースとなった発想

平成27年4月の報酬改定はそれに先立って、財務省が民間企業では収支差率が5%程度なのに比べて介護事業者の収支差率は10%超と高過ぎる、と指摘し、安倍総理が呼応して見直しを表明するという経緯が伏線となっている。

その際、障害福祉サービス費の中で31.7%(H29.5.31報酬改定検討チーム資料2)と圧倒的に比率の高い生活介護の収支差率が13.4%、施設入所支援が4.6%というデータを出している。つまり生活介護は儲かり過ぎており、施設入所支援は収支差率が低くて経営的に苦しい、と言うわけである。

平成27年の報酬改定においては処遇改善費の増額が柱の一つだが、配分の見直しについては前述のデータが下敷きになっていると思われる。

そこで生活介護を減額するという方針が出されることになるのだろうが、H26.11.25の社保審において施設側委員から看護師配置が大変だ、という趣旨の見解が出されている。

それを受けて、前回改定では、生活介護における看護師配置を評価する、との論理で生活介護の本体を減額し、常勤看護職員等配置加算を新設することとなった。こうして生活介護を減額し、入所施設支援に対しては、以下4で示すように様々な形で増額されるという配分の見直しが行われることになった。

 

2.上述の発想の問題点

以上については幾つかの問題がある。

①   収支差率が高いというが、障害福祉分野では人件費が低く据え置かれることによって、辛うじて収支差を生み出しているに過ぎない。かつ、ここで生み出される収支差(=黒字額)は事業者の利益ではなく、大部分は今後の事業展開や施設や備品の更新のため再投下するための原資である。民間のそれ自体が利益を生む内部留保とはそもそも性質が異なっている。

②   施設入所支援の収支差率が4.6%と極めて低い。後述するがにわかには信じがたい。

③   生活介護における看護師配置を評価して加算を新設し、本体を減額する、という改定がなされた。しかし、入所施設ではない生活介護事業所の平均利用者数は20.4人程度であり、この規模で常勤看護師を配置できるとは考えられない。つまり、入所系でない生活介護は減額をこうむり、入所系の生活介護は加算で保障される、ないしはむしろ増額されることになった。

 

3.生活介護報酬の減額

生活介護は前回の報酬改定でかなり減額された。たかだか20単位強だが、入所系でない定員20.4人規模の事業所の場合、年額で100万円弱の減額となった。この減額の比重はかなり重いものであった。

 

資料1.給付費の変遷
  生介6 生介5 生介4 就労A 就労B 共同生活介護 療養介護 施設入所支援
H18 1262     460 504 444 904 400
H21 1288 973 697 585 585 639 896 447
H24 1299 981 703 589 589 645 903 451
H27 1278 959 680 584 584 668 906 453

 

4.入所施設は相対的に厚遇されている

一方、療養介護や施設入所支援はH27年度の改定において微かながらも本体報酬が増えている。

前者は病院内で「医学的管理のもとにおける介護」を提供するものであり、後者は入所施設で「夜間・・・介護・支援を行う」ものである。つまり、医療機関や大規模な社会福祉法人が運営する入所施設への報酬は減額されずむしろ微増となっている。

入所施設の夜間体制がかなり手薄な人員体制で行われていることは一般に知られているところである。総合支援法の指定基準では定員が60人以下の場合、夜間職員の配置基準は驚くことに生活支援員1名以上、以下40人ごとに1名となっている。

津久井やまゆり園の事件の場合、神奈川県の検証報告書によれば、事件当日、8ホーム、計157人の入所者に対し、夜勤職員は1ホーム1人の計8人、従って1ホームあたり1人でほぼ20人に対応する体制だった。これでも指定基準なら4人以上なので大幅にクリアしていることになる。

つまり入所施設は夜間人員配置を限りなく低水準に据え置いて運営することが許されている。1の②で施設入所支援の収支差率が4.9%と低いことがにわかに信じがたい、述べたのはこの点である。福祉事業は労働集約産業と言われる業種である。つまり人間の労働力が業務の多くの部分を占める業種であり、当然ながら必要経費のうち人件費の割合が7,8割になると考えられている。

施設入所支援はその人件費部分を抑えることを許す基準になっているので、収支差率が4.9%と生活介護の1/3程度との数字は理解しがたいとする所以である。経費として生活介護とかぶる部分も算定するのでなければこのような数字になることは考えがたいと思われる。

 

また、施設入所支援には以下のような特別の加算ほか優遇措置と考えられる対応がなされている。

 

施設入所支援への特別な加算
1 入院・外泊時加算 320単位 8日を限度とする
2 191単位 9日~82日を限度とする
3 入院時支援特別加算 561単位 4日未満の入院への準備
4 1,122単位 4日以上の入院への準備
5 栄養マネジメント加算 12単位 常勤の管理栄養士配置
6 療養食加算 23単位 療養食を配置した場合
7 夜勤職員配置体制等加算 36~49単位 夜勤職員体制が手厚い場合
8 常勤看護職員等配置加算 6~28単位 生活介護に新設
9 夜間看護体制加算 60単位  
10 重度障害者支援加算(個人加算) 180単位 強度行動障害者への支援
11 夜勤職員欠如減算 95%を算定 夜勤職員が基準以下の場合

 

前回の報酬改定で5は2単位アップし、ちなみに60人規模の入所施設で試算すると5+6で年間813万円強となる。

また5、6は施設入所支援のみに設定されている加算だが、日中の生活介護には食事提供体制加算が42単位支給されている。

従って、入所施設は管理栄養士を日中配置すると、生活介護部分で食事提供体制加算を受けたうえで、夕食を提供することによって5,6の加算も支給されることになる。

7の夜勤職員配置の加算だが、設置基準では前述のように極めて低い職員配置を許している。従って実際に運営するにあたっては基準以上の配置をすることになるものと思われ、多くの事業所は受けることが可能かと思われる。

8の新設された看護師配置に対する加算だが、これは生活介護に対する加算ではある。しかし2の③で述べたように入所系ではない生活介護事業所が常勤介護職員を配置できるはずはなく、事実上入所施設のみが受けることのできる加算を意味するだろう。

さらに11の減算だが、前述のようにそもそも手薄な人員配置を基準としながら、その基準にすら達していないケースでの減算がわずか5%だということである。

ちなみに生活介護の場合、サービス提供職員欠如減算は30%だし、他の幾つかの減算も30%である。元来手薄な夜勤職員配置の基準を満たさなかった場合も5%の減算で可という制度設計は、入所している障害者への配慮をさておいて、入所施設の運営への配慮のみが優先していると言われても仕方ないのではないだろうか。

これ以外にも平成26年までは生活介護等日中活動のみに手当されていた視覚・聴覚源吾障害者支援体制が前回改定から、施設入所支援にも拡大されている。

こうして前回の報酬改定を分析すると生活介護部分を減額し、夜間体制に配慮するというレトリックで入所施設に厚く再配分しようという意図が明白かと思われる。

こうした大規模施設を運営する社会福祉法人は政権の支持母体であるケースも少なくなく、したがって圧力団体として力を持っていると思われる。

一方、小規模作業所から生活介護に移行したNPO法人は、自立支援法施行以後、大規模法人と同じくくりの「生活介護」事業所になってしまい、独自の要求を吸い上げ、まとめあげる回路を失っているのではないだろうか。

文末の資料2から判るように、全国レベルで見れば、入所施設を持たない、従って相対的に小規模な法人が運営するものが多いと考えられる生活介護事業所は年々増えている。

全国区レベルで見ると、施設入所支援事業者がすべて支援法体系への移行を完了したH25年移行事業所数は頭打ちになっている。しかし、先に神戸市オールラウンド交渉の生きる場・作業所の要求案で示したように、神戸市では人口比あたりの数が全国と比べても極端に少なく、かつ増加が期待しがたい情勢である。神戸市では、今後、入所施設を運営する社会福祉法人による生活介護事業所ばかりが新設され、地域の中で生きていくことをめざす小規模な生活介護事業所は相対的に埋没していく、つまり施設化の方向に進むことが懸念される。

小規模なNPO法人等が運営する事業所が再度自らのアイデンティティを見直し、連帯してこの流れに抗する時期に差し掛かっているのではないだろうか。

 

資料2

    H22 H23 H24 H25 H26 H27 H28
1 生活介護事業所数 3,998 4,726 6157 7,945 8,336 8,801 9,240
2 〃  :利用者数 111,207 138,305 192177 245,221 250,673 260,169 266,446
3 施設入所支援事業所数 937 1,247 1,892 2,630 2,627 2,626 2,617
4 〃  :利用者数 51,940 68,828 102,820 132,247 132,816 132,296 131,565
5 生活介護単独概数(1-3) 3,061 3,479 4,265 5,315 5,709 6,175 6,623

各年の厚生労働白書より作成

 

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