優生思想

【尊厳死】 京都市で「事前指示書」に関するリーフレットを配布

野崎泰伸(障問連事務局) 

以下の新聞報道にあるように、京都市が「事前指示書」を市民が作れるように、いわゆる「終活」のためのリーフレットの配布を始めたようです。障害者や難病患者が生きるために、これは非常に問題であると感じ、報道をまとめました。問題点は記事を参照いただければと思いますが、きわめて健常者的な発想で、治らない患者を死へと誘導しているような感を受けます。医療費の削減や、家族など近親者の負担を考えて、生きるという選択を困難にするものではないでしょうか。

このようなことを行政主導で行っていることにも問題があります。昔、兵庫県でも「不幸な子どもを産まない運動」というものがありましたが、それと同じような意図を感じます。相模原事件のような風潮があるなか、こうした流れは病や障害を得て生きるということそのものを根底から拒絶するような動きに思えます。

抗議活動を行っている日本自立生活センター(JCIL)のブログもぜひご覧ください。

*終活リーフレット・事前指示書配布(京都市)に抗議

https://blogs.yahoo.co.jp/jcilhontai8484/14777054.html

 

□「延命治療諾否」冊子が物議 京都市配布に抗議も

京都新聞 2017年04月24日 09時00分

http://www.kyoto-np.co.jp/politics/article/20170424000013

 

京都市は、人生の終末期の医療に備えて自らの希望をあらかじめ書きとめておく「事前指示書」を市民が作れるよう、関連リーフレットと併せ、各区役所などで4月から配布を始めた。人工呼吸器をはじめ、胃ろうなど人工栄養法や看取(みと)りの場所といった希望を事前に医師や家族らと共有する目的だが、終末期医療に詳しい医師や法律家から「人工呼吸器を使って生きる選択を難しくする」と撤回を求める声が上がっている。

市の事前指示書はA4判1枚で、リーフレット「終活」とともに3万部を配布している。意識のない状態や重度認知機能低下の場合、「家族に延命治療の判断が求められる」とし、胃ろうや「延命のための人工呼吸器」、点滴による水分補給、最期を迎えたい場所など計10項目について希望する・しないなどを選択式で記す。「法的な拘束力はなく、内容はいつでも修正・撤回できる」と注釈を付ける。

「尊厳死法いらない連絡会」の冠木克彦弁護士は「市の配布に大変ショックを受けている。事前指示書の押しつけは、差別や弱者の切り捨てにつながる。尊厳死や安楽死思想と同じ流れだ。胃ろうや人工呼吸器を使って長く生きる人はおり、生きている生命にこそ価値がある」とし、市に近く抗議文を出す構えだ。

終末期医療を巡っては、治療の不開始(尊厳死)を書面で意思表示した場合、医師が殺人罪や自殺ほう助罪などに問われることを免責する法律はない。終末期の定義もあいまいだ。尊厳死の法制化を求める動きもあるが、日弁連は「終末期における医療・介護・福祉体制が十分に整備されていることが必須」で時期尚早とし、日本医師会も慎重意見を表明し、国レベルで決着が付いていない。

■病状説明なしあり得ぬ

厚生労働省の「終末期医療に関する調査等検討会」委員だった川島孝一郎医師の話 意思決定には十分な情報提供が大事。病状と介護支援の説明もない「事前の指示」はあり得ず、京都市のパンフレットは厚労省の終末期医療の決定プロセスに関するガイドラインと矛盾している。胃ろうで暮らす人への生活支援情報もない一方、「延命治療」など使うべきでない言葉もある。国で決定されたもののように誤解を与える。

■行政が旗振りに違和感

難病や終末期医療に詳しい国立病院機構新潟病院の中島孝院長の話 事前指示書に関し、行政が旗振りするのは違和感がある。「患者のため」「命の尊厳のため」という言い方をするが、実際には医療費削減や家族の負担軽減のため、治らない患者の治療をしない、社会全体で延命させない流れを加速させかねない。患者から医師に一方通行の事前指示書を用いる前に、患者と医師がまず十分に話し合う事が必要で、対話で作りあげる事前ケア計画の導入の方がましだ。

 

 

□京都市長、終活「事前指示書」撤回せず 法的拘束力ない

京都新聞 2017年04月25日 16時21分

http://www.kyoto-np.co.jp/politics/article/20170424000161

 

京都市が配布する終末期医療の「事前指示書」と関連パンフレットについて、終末期医療に詳しい医師や難病団体らから撤回を求める声も出ている件で、門川大作市長は24日の記者会見で、「終末期の医療などを元気なうちに考えてまとめる『終活』に取り組みたい、という世論の声は大きい」と述べ、撤回には否定的な見解を示した。

市の事前指示書は、4月から3万部を区役所などで配布を開始。人工呼吸器をはじめ、胃ろうなど人工栄養法や看取(みと)りの場所といった希望を事前に医師や家族らと共有するのが目的。終末期医療に詳しい医師や法律家らから「人工呼吸器を使って生きる選択を難しくする」「国のガイドラインに反し、国も書面による尊厳死を容認しているかのような誤解を生じる」といった意見が出ている。

これに対し、門川市長は事前指示書について、法的な拘束力がなく、いつでも修正・撤回できるという点を説明し、「読んだ市民からは肯定的な意見も多い。延命治療を否定する内容だ、という意見は聞こえてこない」と強調した。

また、終末期医療に関して、市民が事前指示書を使って医療機関と相談できるような態勢を地域の医師会などと築けていない点には「心配していただく必要はない。関係者とともにこれから考える」と述べ、6月17日に下京区の市長寿すこやかセンターで市民向けの関連講座を開く方針も示した。

 

 

□終末期「事前指示書」回収を 京都、障害者団体が市に意見書

京都新聞 2017年04月27日 23時17分

http://www.kyoto-np.co.jp/local/article/20170427000165

終末期医療の事前指示書などの配布中止や回収を求める意見書を市の担当者に提出した日本自立生活センターのメンバーら(京都市中京区)

 

京都市が配布している終末期医療の「事前指示書」と関連リーフレットに対し、障害者団体「日本自立生活センター」(南区)は27日、「上から目線の一方的なもので、あまりにも安直で不適切」として、配布の中止と回収を求める意見書を市に提出した。

事前指示書とリーフレットは、人工呼吸器や、胃ろうなどの人工栄養法に関する希望を医師や家族らと共有できるよう、4月から区役所などで配布している。

意見書は、「早くから遺言を書いておきなさいと督促するもので、元気な健常者の発想以外、何ものでもない」と指摘。若い頃から人工呼吸器や胃ろうを使う重度障害者は医師や家族、支援者とともに悩みながら生きてきたとして、「行政が行うことは、拙速な死への勧めではなく、すべての市民が尊厳ある生活を送り続けることの支援ではないか」と訴えている。

同センターの矢吹文敏代表らは「かかりつけ医や家族、宗教家らから考えようと言われるのはまだ分かるが、行政から言われる筋合いはない。障害者の意見を聞くなどして丁寧に仕上げた形跡もなく、対応を求めたい」と話している。

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