精神障害者 優生思想

【相模原事件を考える・6】 施設建て替え問題/容疑者拘留延長/精神医療等

野崎泰伸(障問連事務局)

 

■「やまゆり園」建て替え問題

1/23付けの『福祉新聞』では、「相模原殺傷事件 「もっと議論が必要」 神奈川県 建替え巡り公聴会」と題された記事が掲載されています。冒頭部を引用します。

「神奈川県は1月10日、昨年7月に殺傷事件が発生した県立の障害者支援施設「津久井やまゆり園」の建て替えに関連し、横浜市内で障害関係団体などの意見を聞く公聴会を開いた。知的障害のある入所者の意見が反映されていないとみる立場などから、「もっと議論を積み重ねるべき」との意見が続出。再建後の入所者を減らすよう求める意見も上がった。県は今年3月までに基本構想を固める予定だが、再考を迫られた格好だ。」

1/12『東京新聞』によれば、建て替えに関連し、障害者団体や有識者から県の方針に対し異論が出ていることについて、黒岩神奈川県知事は報道陣の取材に対して「非常に心外」と発言したということです。ただ、1/28『読売新聞』の記事は、建て替え計画は当初の3月末までから夏ごろまでに延期したと報じており、「2~5月に論点を整理して6月に構想案をまとめる」とのことです。

1/23『福祉新聞』に戻ると、障害者当人の立場からは、「横浜や川崎の人が津久井やまゆり園にいると聞いた。もし、受け入れ先があるならば、横浜や川崎の方がいいと思う」という意見もあったようです。また、入所者100名に生活場所の希望を聞いたところ、「「意思表示できない」3割、「分からない」2割、「津久井やまゆり園」2割、残り3割が「自宅」か「グループホーム」」だったということですが、「額面通り受け取ること」はできないとし、「引き続き意思確認を模索」したいとのことです。

神奈川県知的障害施設団体連合会は、「入所定員は県全体で維持しつつ、津久井やまゆり園の定員は減らすよう要望する。グループホームでの生活には限界があり、それを支えるためにも入所施設は必要」と述べています。茨木尚子・明治学院大学教授は、「入所者の希望を聞き取ること、若い職員のストレス対応も構想に入れて欲しい」、神奈川県手をつなぐ育成会は、「大規模収容施設の再建は適切でない。家族の意向は本人の意向とは限らない。選択肢を示して本人の意思を確認すべきだ」、大熊由起子・国際医療福祉大大学院教授は、「80億円かけるのであればグループホームを80か所造れる。人里離れたところに大きな施設を造るといった体制の中にこそ、この事件の根っこがある」、日本グループホーム学会は、「地域移行は入所施設側が努力しても進まない。入所者が元の町に戻るための仕組みづくりが必要だ。本人の意向は地域での生活経験を積んだ上で聞くべきだ」と述べ、大きな流れとして施設から地域へ、という考えはわかるものの、現実問題として介護の不足する中、どのように生活を回していけばよいのか、自立生活やグループホームでの生活が現実的ではないなら、施設から再び家族介護になるだけではないのかという懸念や問題もはらんでいることがうかがえます。

 

■鑑定留置の延長

いっぽう、容疑者の刑事責任能力の有無を確かめる鑑定留置の期限が1/23から2/20に延ばされました(1/17『毎日新聞』)。「鑑定留置終了後に起訴するか決める」とのことです。また、1/26のNHKニュースによれば、「調べに対し障害者を冒とくする内容の供述を一貫して続けてい」るらしく、「障害者に対する危険な言動」、「障害者やその家族を冒とくし、みずからの行動を正当化する内容」についての「主張を一貫して供述しているということで、捜査関係者によりますと、取り調べの中でその考えは問題があると指摘されると「わかっていない」などと反論していた」ようです。

 

■精神保健福祉法の改変?

また、安倍首相は、1/20に国会で行った施政方針演説において、相模原事件に触れ、精神保健福祉法の改変に言及しています。

「昨年七月、障害者施設で何の罪もない多くの方々の命が奪われました。決してあってはならない事件であり、断じて許せません。精神保健福祉法を改正し、措置入院患者に対して退院後も支援を継続する仕組みを設けるなど、再発防止対策をしっかりと講じてまいります」。

この文言は、施政方針演説「四 安全・安心の国創り」の中の、「生活の安心」という項目に入れられています。精神障害者を治安維持の対象と考えているような言い草でもあり、「支援」などということばはあるものの、退院後の患者を「監視」することで事件の「再発防止」を図るとも取れ、看過することはできない発言なのではないかと考えます。

その理由として、精神障害者関連の法律は、精神障害者が起こしたとされる事件を契機に「治安維持の対象」として名指され、変えられてきた歴史があるからです。1964年3月に起こったライシャワー事件は、ライシャワー駐日アメリカ大使が統合失調症の少年に刺されて負傷したものであるとされますが、それが当時の精神衛生法改変(1965年)を引き起こしました。警察官、検察官、保護観察所長および精神病院の管理者について、精神障害者に関する通報・届出制度が強化されたのです。

2001年6月に起きた大阪教育大学附属池田小学校事件は、学校に乱入した男が包丁を振り回して児童と教師の23人を殺傷した事件ですが、犯人に精神科通院歴があるとわかると、政府は触法精神障害者対策に乗り出したのです。強制的な入院に関しては、精神保健福祉法においてすでに措置入院や医療保護入院という制度があったわけですが、それに加えて触法精神障害者に対する隔離をしようという法律ができたのです。これが2003年7月成立、2005年7月から施行された「心神喪失者医療観察法」です。簡単に言えば、罪を犯した精神障害者を、特別の治療施設に隔離して特別に治療し、再び罪を犯すことのないようにするという法律です。

安倍首相の演説は、こうした歴史を踏まえるならば、医療観察法をより強化する方向へと進める可能性を秘めています。事件を、精神障害者の隔離を強化する方向へと利用する可能性も秘めているわけです。実際に、「事件の発生と被疑者の措置入院歴の因果関係さえ不明な時点で、事件の再発防止と関連づけて措置入院制度の運用にのみ具体的な提案が詳細になされていることは、検討チームの成り立ち自体に翻って、政府の意図を感じさせられます」というPSW協会の見解(2016/12/14)や、「入院で精神症状は治療できるのかもしれませんが、今回の容疑者の特異な考え方は症状から派生するものではなく、治療で治るものではありません」という全国精神保健福祉会連合会の声明(2016/8/5)もあるように、再発防止策が精神医療に偏ることへの問題点が指摘されており、今後の政府の対応は厳しく注視していく必要がありそうです。

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