精神障害者 優生思想

【相模原事件を考える・5】 国の最終報告が出されました

野崎泰伸(障問連事務局)

 

2016年12月8日、厚生労働省は「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム」の報告書をまとめ、公表しました。報告書の概要版と全文は、厚労省のホームページからダウンロードできます。

 

報告書の副題にもなっている「再発防止策の提言」ですが、ほぼ「措置入院解除後の精神障害者への支援の強化」という内容です。本ニュースにおいて精神障害当事者の声を取り上げているように、こうした「支援」が「監視」にならないように注視していくことが肝要かと考えます。「検討の経緯」でも触れられているように、「先進的」な取り組みとして、2016年10月24日には、兵庫県精神保健福祉センターを視察しています。前号での県交渉報告のように、兵庫県も退院時の第三者委員会の設置、退院後の地域生活の支援の早期システム化を目指しています。もとをたどれば、措置入院とは、犯罪を起こしそうな人を予防的に拘禁させる制度です。精神医療のあり方を問題にするなら、まずはここから問わねばならないのではないでしょうか。また、「支援」という聞こえのよい言葉によって、精神障害者の自由が奪われたりするようなことがあってはなりません。そうしたことをあいまいにしたまま、拙速な議論の終結になってしまっていると考えます。

容疑者の精神鑑定留置が1月23日まで、検証・検討チーム立ち上げからわずか4ヶ月での最終報告は、あまりにも短すぎると思います。

以下、2016年12月26日に出された、DPI日本会議の声明を掲載します。

 

厚生労働省相模原事件検討会報告書に対するDPI日本会議意見

特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議

議長 平野みどり

 

2016年7月26日に相模原市の障害者施設で19人もの命が奪われ、27人が重軽傷を負うという痛ましい事件が起きた。

厚生労働省は、容疑者の精神鑑定の結果も待たずして「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム」報告書(12月8日)を公表した。

同報告書は結語で「今後、厚生労働省に設置された『これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会』等において、詳細な内容の検討を行っていく」との意向を示しており、おそらくそこでの検討内容が今後、精神保健法改正3年後の見直し(2017年)に盛り込まれるのではないかと危惧される。

私たちDPI(障害者インターナショナル)日本会議は全国各地の93の障害当事者団体から構成され、精神障害の当事者団体も会員に含まれる、障害の種別を越え障害のある人もない人と共に生きられる社会に向けて運動を行っている団体である。

以下、今回の厚労省検討会報告書に対するDPI日本会議としての意見を発信する。

そもそも、容疑者は現在精神鑑定中で、容疑者の心身の状況や、ましてや薬物依存や精神障害と事件との因果関係は不明な状況にある。前提となる情報が出ていないにもかかわらず、精神医療に焦点化した検討自体が問題である。いかに偏っているかは、その構成からも明らかである。

すなわち、報告書には3つの視点として、

1.共生社会の推進、

2.退院後の医療等の継続的な支援を通じた社会における孤立の防止、

3.社会福祉施設などにおける職場環境の整備

があげられている。

しかし、1、3が各2ページずつに対して、2が9ページで構成されていて、精神医療に関する部分が本文の8割近くをも占めている。

「3つの視点」と言いながら、実質的には精神医療に大きく偏り、一方、共生社会の推進や社会福祉施設のあり方などについては一般的な方向だけで具体性に欠けている。

また共生社会の推進は、内閣府などで行っている啓発・広報が記述され、学校教育における「心のバリアフリー」も項目としてあげられているだけである。

さらに、警察の対応については、「なお、容疑者については、その手紙の内容等から、刑罰法令を適用して検挙することは困難であり、また、これらの一連の対応は法令に沿ったものであった」(p.15)と木で鼻をくくったような記述があるのみだ。

なぜ事件を防げなかったのか、警察の具体的な対応はどうだったのか、何ができて、できなかったのか、そもそも措置入院通報としたことは適切だったか等については全く検証されていない。

「地域で孤立することなく安心して生活を送ることが可能となる仕組み」(p.8)は、措置入院に限らず、一般的に必要な地域での支援体制のはずである。

しかし、それは通院者および任意入院者も含めた総合的な医療や福祉の支援にかかる課題である。

ところが、ことさらに「措置入院」を取り上げて「退院後のフォロー」が強調されることで、それは否応なく監視の役割を担うことになる。

また「児童虐待防止の例も参考に、制度的な対応を検討する必要がある」(p.12)などと、措置入院者が犯罪者と同等に扱われている。

「措置入院の過程で認知された犯罪が疑われる具体的な情報の共有化」(p.15)など、精神医療が事実上、警察行政の一端を担わされることにもなりかねない。

そして、「通報後の措置入院決定のばらつき」(p.15)を問題視するかのような記述がある、前述の「警察の無謬性」が前提とされれば、「警察から通報があったにもかかわらず措置入院決定をしないのは問題」と、結局、措置入院の強化の方向での見直しになるのではないかと危惧される。

容疑者がその優生思想や「意思疎通ができない障害者」「車いすに縛りつけられて一生を過ごす」と表現した障害者観を持つに至ったことと、入所施設での障害者の生活状況やスタッフによる支援のあり方はどうだったかについても全く検証されていない。

以上のように、分量的にも内容的にも精神医療の問題に収斂させた内容となっており、共生社会の推進を阻害している社会のあり方を問うものになっていない。

日本の精神障害者に係る法制度がライシャワー事件(1964年)や大阪教育大学附属池田小学校事件(2001年)など、こうした不幸な事件を契機に精神障害者の隔離・分離を強める方向に変わってきた歴史を再び繰り返してはならない。

私たちは、「措置入院の手続き(症状消退届の記載に関する)と退院判断の仕方を厳格に、また退院後、通院継続をしなくなった際の保健師等の連携について等」に重点を置いた今後の検討に反対する。

DPI日本会議に加盟する精神障害の当事者団体は精神科病院に入院している人への訪問活動や地域における電話相談・勉強会・交流会など、精神障害のある人たちが他の人びとと同様に地域で生活を行えるよう活動を粘り強く重ねてきている。

私たちは他の障害者団体と共に9月26日「相模原障害者殺傷事件の犠牲者を追悼し、想いを語る会」に集い、亡くなった19人ひとりひとりに思いを馳せ追悼の機会を持った。

この会において、事件の容疑者が話していたと言われる「障害者はいなくなればいい」という考えに抗議すること、事件を契機に精神科措置入院の強化や施設や病院の閉鎖性を高めることに抗議すること、障害の有無によって分け隔てられないインクルーシブな社会を目指して地域生活支援の飛躍的拡充を求めることが参加者の一致した意見として確認された。

あらためて、この事件を生み出した背景、社会のあり方について、障害当事者の立場から提起し続けていく決意を明らかにするものである。

以上

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