オールラウンド交渉 優生思想 精神障害者

新たな第三者機関の設置検討に関する要望と相模原事件に関わる兵庫県としての取組みに関する要望書

兵庫県知事

井戸敏三 様

2016年11月2日

障害者問題を考える兵庫県連絡会議

代表 福永年久

 

新たな第三者機関の設置検討に関する要望と相模原事件に関わる兵庫県としての取組みに関する要望書

 

2016年8月1日、定例記者会見における相模原市の障害者施設での事件に関する知事の受け止めとして記者から質問された事に対する兵庫県知事の発言の内容、その後の9月16日補正予算に関する知事会見における「医師が判断する前に第三者機関の意見を聞く仕組みができないか」との発言、そしてその後の各新聞紙掲載の「精神障害者に対する措置入院の解除の時期や治療方針について、診断する医師に助言する第三者機関を設置する第三者機関を設置する方針を固めた」(毎日新聞9月27日)等の報道、以上の動向に対して、「障害者問題を考える兵庫県連絡会議」(以下略、障問連)は強い懸念を持って注視しており、慎重に検討していただくよう、以下、要望させていただきます。

 

(1)本人の意思によらない強制入院は最小化すべきです

国連障害者権利条約第14条「身体の自由及び安全」では、障害者に対し、他の者との平等を基礎とする事を前提に、「身体の自由及び安全についての権利を享有すること」「不法に又は恣意的に自由を奪われないこと、いかなる自由の剥奪も法律に従って行われること及いかなる場合にも自由の剥奪が障害の存在によって正当化されないこと」とされ、2014年2月に日本政府は同条約に批准しました。

措置入院であれ医療保護入院であれ、本人の意思によらない強制入院は厳格な手続きを経て最小化されるべきであり、本人の意思決定支援が十分に図られるなど、精神障害者の権利が擁護される事、まずそれを前提として施策を行って下さい。

 

(2)拙速に判断せず、新たな第三者機関設置の検討を見あわせて下さい

8月1日の定例記者会見では、神奈川県相模原市の津久井やまゆり園での殺傷事件に関する受け止めについて、記者からの質問に対して兵庫県知事が応えられました。事件発生は7月26日、それから1週間も経ず事件の経緯等が明らかにされていない段階で、なぜ井戸知事が同事件に関連して兵庫県の具体的な施策にまで言及されたのか、あまりに拙速な判断であると思われます。

国、厚生労働省においてですら、8月8日に同事件を受けての再発防止策の検討チームを発足させ、塩崎厚生労働大臣は「犯人が精神障害者だったのかどうかを含めて検証しないといけない」とし、そして9月14日同検討会の中間報告がまとめられましたが、そこでも同事件容疑者が精神障害者であったのかどうか根拠を持った説明はされず、具体的な再発防止策はまだまとめられていません。

また、専門機関である日本精神神経学会法委員会は8月29日、「精神保健福祉法が患者管理の法律として再強化され、精神医療が特殊な医療へと逆戻りすること、精神障害者差別が助長されることは許されない。今回の事件が措置入院制度の不備で起きたと断ずることはできない」旨を表明しています。さらに同事件については、同事件容疑者が施設名を挙げ襲撃を予告し、予告を知った同施設の業務の日常業務に支障が生じたのに、なぜ警察が業務妨害あるは脅迫行為として逮捕しなかったのか、同事件発生に大きく関わる警察対応に対して疑問の声が上げられており、同施設が所在する神奈川県が設置した再発防止検証委員会も警察対応を疑問視し、10月5日神奈川県警の担当者に報告を求めています。

このように同事件に関わり、時間を費やし厚生労働省や地元神奈川県でも慎重な議論が今なお継続して行われているにも関わらず、同事件から数日後の8月1日に、井戸知事が兵庫県独自の施策にまで言及された事は、あまりに拙速な発言であることは明らかです。

同事件発生から8月1日まで、土曜日曜を除けば3日しかなく、その期間に兵庫県障害福祉部局内で新たな第三者機関に関して検討したとは考えられません。井戸知事が慎重さを欠き、拙速な発言をされたのであれば、勇気を持って撤回され、国、障害者団体、他自治体等の様々な動向や県内の障害当事者団体、関係団体からも十分に意見を聞いた上で検討されるべきではないでしょうか。それまでの期間、措置入院解除の際の新たな第三者機関についての検討は見合わせて下さい。

 

(3)定例記者会見における井戸知事の発言内容にはらまれる問題

井戸知事は「退院、退所といった時には、客観的な第三者機関などできちんと判定がなされた上でなければ社会にカムバックさせないというような安全装置をきちんと作る必要があるのではないかと感じました」と発言されています。

この発言だけで知事の真意を断定することはできません。しかし、「社会にカムバックさせない」との言葉は不適切です。精神保健福祉法第29条「措置入院」は、「医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自信を傷つけ他人に害を及ぼす恐れがあると認めた時」にのみ適用されるものです。「恐れ」という本来、予測が困難な理由により、場合によれば誤った適用の可能性があります。また、措置入院の目的の前提として、本人が医療を受けられるよう、本人を保護するために行われるべきことであり、(1)に記した原則から見ても、また表現として適切さに欠いています。

また、「安全装置」という言葉には、これは本人の安全ではなく、社会の安全という社会防衛思想が色濃く反映されています。8月20日京都新聞社説には「・・・退院の判断を厳しくし退院後の監視を求める風潮が強まらないかと心配する。医療は患者との信頼関係が第一であり、犯罪予防を期待するのは筋違いとの指摘もある。措置入院が犯罪の予防拘禁に使われてはなるまい。精神障害者に対する人権侵害の歴史を踏まえて、慎重な議論を求めたい」と報じられています。この論評の真偽を今要望書の中で指摘するつもりはありません。しかし、歴史的にも長らく議論されてきた保安処分、現行の医療観察法の制定、制定後も法の本質的な在り方に関する議論は多数存在していることは事実であり、人権を制限しかねない施策を、特に法律の枠を越えて自治体として実施することについては、極めて慎重な検討が求められます。安全装置という言葉を安易に使用され、あたかも措置入院から退院する精神障害者が危険であるかのような印象を社会に与える、井戸知事のこの発言は、極めて適切さに欠くものです。

 

(4)相模原市津久井やまゆり園での障害者殺傷事件について

8月1日記者会見での井戸知事の発言は、津久井やまゆり事件に関する受け止めについて、記者からの質問に兵庫県知事が応えたものであり、知事は「非常に例外的な事件」との認識を示しています。

一方、10月26日、同事件から3カ月目の月命日に近隣の大阪府ならびに大阪市はメッセージ(別に添付資料)が発せられています。そこには同事件が直接の被害者のみならず、多くの障害者、家族、関係者に対して大きな衝撃を与えたことを想像し、励まし、改めて大阪府ならびに大阪市として、誰もが排除されない共生社会実現への決意が表明されています。

また9月2日に神奈川県障害者差別解消地域フォーラムに出席した加藤内閣府特命大臣の挨拶の中には「・・・・今回の事件を通じて、障害のある方あるいは家族の方々、また関係者の方は、心の耐え難い傷を負われているわけであります。さらに様々な不安も感じておられると思います。特に、被疑者から障害者の存在を否定するような発言があったという報道もございます。そうした発言は、我々は断じて許すことはできない。容認することはできない。このことをはっきりとしておかなければならないと思います。全ての命は、等しく尊く、かけがえのない存在であります」

(以上、抜粋)。

兵庫県に在住する多くの障害者、家族にとっても、同事件により傷や強い不安感が与えられたことは容易に想像できます。私たち障問連に集う障害当事者、家族、支援者も、同事件発生後、言いようのない不安感や心苦しさを抱えています。県内の多くの障害者県民、関係者もまた同様の思いではないでしょうか。

また、同事件の根底には優生思想があります。かつて兵庫県は、1966年~1974年に「不幸な子どもの生まれない県民運動」を推進し、障害児を不幸な子どもと見なし、1970年には対策室まで設けられ、障害のある子どもの出生を予防することが全国に先駆けて行われ、障問連の加盟団体である兵庫青い芝の会などの障害者団体からの抗議を受けて廃止されました。また、兵庫県が「優生手術の申請書」の配布を行っている事が発覚し、1989年~1990年に障問連として兵庫県に対して中止要望した経緯もあります。社会の様々な場面で優生思想は今なお息づき存在しており、同事件の被疑者の言動が世間にある差別意識、優生思想を顕在化させる恐れがあります。だからこそ、内閣府や他自治体において、優生思想という言葉は使われていませんが、強いメッセージとして発せられているのです。

兵庫県としても、相模原市の同事件を受け、例えば「優生思想を克服し、共生社会に向けた力強いメッセージ」を県民に向けて表明していただくようお願いします。

 

以上、4項目にわたり説明しましたが、まとめとして以下のように要望いたします。2016年内に形式は問いませんので、知事から誠実に回答していただくようお願い致します。

 

一、        精神障害者本人の意思によらない入院は最小化できるよう、地域社会での支援体制を手厚く構築し誰もが排除されない共生社会に向け、積極的な施策を推進して下さい。

二、        措置入院解除の際に新たな第三者機関の検討については見あわせて下さい。

三、        今年8月にまとめられた「精神保健医療体制の推進~措置入院者等が退院後も必要な支援を中断することなく、地域で暮らせる支援体制の整備に向けて~」が、隔離強化にならないよう地域で本人中心支援として構築できるように推し進めて下さい。

四、        地域との隔離につながらないような施設の防犯対策を行って下さい。

五、        相模原市の事件を受けた兵庫県の取組みを検討され、「共生社会に向けたメッセージ」を県民に向けて表明してください。

 

以 上

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