オールラウンド交渉 優生思想 精神障害者

退院時の第三者機関、継続医療についての質問と要望

兵庫県知事

井戸 敏三 殿

退院時の第三者機関、継続医療についての質問と要望

船橋裕晶(精神当事者)

 

平素より精神障害者の地域移行、支援体制の確立、人権回復などについて尽力頂いてありがとうございます。

先日、知事より神奈川県相模原市の障害者殺傷事件を受け、措置入院解除の仕組みについて第三者機関を設けることが発表されました。また淡路島で起きた措置入院経験者の殺人事件に発し、措置入院解除後の継続医療を強化することが進められています。

しかしこのことは精神障害当事者として自分もしくは友人を含め全ての精神障害者の病院への隔離・収容が強化され自由と人権が奪われる危険性があると非常に強い危機感を抱いています。このようなことのないよう要望と質問をまとめました。以下にお答え願いますようお願いします。

 

質問・要望

1 知事の会見にありました、措置入院解除のための第三者機関の導入について、どれだけ具体的になっているか教えてください。

2 第三者機関の設置により措置入院解除が厳しくなることが懸念されます。入院が長引くことはそれだけ地域生活の機会を奪い、隔離・収容政策を強化することになります。これは地域移行に逆行することになります。すでに第三者機関が設立されているのであれば取り消しを求めます。

3 措置入院解除後の継続医療について、本人の知らないところでその人の治療の内容、転居先などの生活状況を医療、健康福祉、行政、警察、ピアサポーターなどに情報を流すことは個人情報の漏洩であり、個人を管理・監視することにもなります。   精神障害の当事者として強い苦痛とストレスを感じます。人権侵害にあたるのでやめてください。

4 相模原事件の根本は優生思想の問題であり、地域に障害者の収容施設があることに問題があります。優生思想の問題を解決せずに、安易に措置入院解除を強化することを目的とした第三者機関を作ることはやめてください。優生思想に対する知識を市民に伝えるための具体的な啓発・教育を行って下さい。

5 措置入院をしている人にのみ「事件を起こしそうだから管理・監視が必要」という意味合いでも第三者機関の設置は直ちにやめてください。説明のない治療、監禁、拘束は人権侵害にあたります。絶対におこなわないでください。

6 継続医療をシステム化する以前に、医療が本人の人権を守れていたか、専門家が本人の気持ちを無視していなかったか、保健福祉、行政の担当などと良好な関係を築き、それぞれが信頼できる支援者となり得ていたかなど再度チェックしてください。

第三者機関、継続的な強制的医療(管理・監視)システムを安易に作る前に、現行のシステムで出来ることを再度検討して下さい。

 

概要:

 

相模原の事件後の行政の動向については様々な疑問があります。措置入院解除後のことがとりざたされていますが、そもそもこの事件は根本に強い優生思想があることに大きな問題があり、そのことに手をつけずに措置入院解除の強化や強制的な継続医療を推進、個人情報を共有することは、問題の根本を理解していないばかりか精神障害者の収容政策を安易に強め人権を奪うことになります。

知事の会見では相模原の事件は「非常に例外的な事件」と話されていますが、これは表面的なところでしかこの事件を捉えていません。優生思想は残念ながら誰もが持っている思想です。根本を正さない限りこのような事件は起こり続けます。単に措置入院経験者が起こした特殊な事件ではなく、誰もが起こしうる事件です。ですから精神障害者だけ病院に隔離しておけばいいという話ではありません。これは安易なものの見方です。健常者でも起こしうる事件に対し、なぜ精神障害者だけが不利益を被るようなシステム作りをしなければならないのでしょうか。そこには知事の精神障害者への偏見や差別心を感じないではいられません。優生思想の問題、地域での自立生活、施設の解体などに着手しない限りこのような事件は再び起こり得ます。また安易な病院への隔離は地域住民へ精神障害者の偏見と差別を生み、精神障害者はさらに地域で自立していくことが難しくなります。

優生思想は医療で治療することは当然なことながら出来ません。思想を治療することは無理です。優生思想に関しては近年の政治状況や特定の人種や障害者に対してのヘイトスピーチが行われているような状況の現在、街中でも障害者に対する差別感情、優生思想が強くなってきていると感じます。私自身、先日街頭でアピール活動をしましたが、通行人からの無言の圧迫や「精神障害者は病院に入ってろ」と言われる恐怖などがあり、差別感情が強くなっていることを感じます。相模原事件の報道や、今回のような第三者機関の設置、強制的な医療の継続などは市民に精神障害者は危険だという誤解と偏見を産み、差別感情を助長させてしまいます。差別解消法が制定されたにも関わらず、市民に対する優生思想、差別、人権教育について国や行政が十分な対応をしているとはいえず、市民は差別解消法があることすら知らない人も数多くいます。差別意識はなんら変わることなくむしろ潜在化し分かりにくい形での差別が強くなってきていると感じます。

行政、福祉や医療の担当者にも優生思想があるということへの気づき、そして市民一人一人にも意識的にも無意識的にも優生思想は刷り込まれるように私たちの心にあるということを踏まえ、それぞれの機関に対し、また市民に対し障害者への思いやり教育、啓発などではなく、正しい人権の知識を日常の場でも教育の場でも伝えていくことを求めます。

また障害者が集団で収容する形の施設がまだまだありますが、障害を持つ人それぞれが地域で暮らしていたらあのような事件は起こりませんでした。相模原の事件はそれを明らかにしました。早急に施設ではなく誰もが地域で暮らせるような制度、所得保障、介護などをさらに充実させていくことを強く要望します。

また容疑者が衆議院議長あてに名指しの犯行声明が出されていたにも関わらず、警察は威力業務妨害などの対処をとりませんでした。警察がしっかりと対応していれば今回の事件は起こりませんでした。警察は本人の刑事責任能力の欠如などをあげているようですが、しっかりと対処できなかった弁明のように聞こえます。本来は医療ではなく警察で扱うべき課題を医療に押し付けることは誰にとっても良い結果を産みません。

さらに兵庫県知事の記者会見でもあるように、措置入院解除のための第三者機関の設置が検討されているようですが、これは措置解除の強化、長期収容につながり、「危険そうな人を隔離・拘束しておく」という国が40年以上も前から行ってきた隔離・収容政策となんら変わりがないと考えます。第三者委員は措置入院者の日常の状態をよく知るわけでもなく、面談などが行われたにしても、本人が本当のところ何に困っていて、何に不安や焦りがあり、不満があるかなどは本人のそばで毎日向き合って支援してきた人でないとわかりません。結局のところ第三者機関を設置するということは措置解除の規制を厳しくし、それが入院期間の長期化に繋がる恐れが大いにあります。せっかく地域移行へ進み始めた歩みを後退させてしまい、そのことが精神障害者の人権の侵害に当たると考えます。これは許されないことであり、怒りを抑えることが出来ません。

そもそも、退院の基準を強化する以前に、入院中に本人と医療関係者や行政・福祉関係者、支援者などとどれくらいかかわりが持て本人と信頼関係が築けるかはとても大きなことです。ほとんどの医療機関、福祉の窓口ではそのような関係を築くことはなかなかありません。専門家が良好と思っていても本人にとっては悩みなどを打ち明けることが出来ずにいるケースも多々あります。本人にとって気持ちをしっかり聴いてもらったり、相談できたり、心を許せる人がいること、またそのような関係を築くために出来ることがまだまだ圧倒的に足りないと感じます。私自身、専門家の中にはそれほど心を許せる人はいません。まずは医療関係者、健康福祉の窓口、行政、各種専門家など様々な機関で人権教育と押し付けでない、本人が本当に力を取り戻して地域生活が出来るような相談と支援を確立することを望みます。

医療を本人の合意のないところで行政や医療側が継続するためのシステム作りは、精神障害者への人権侵害にあたります。また転居後に行方が分からなくなることの解消に本人の住居場所の情報、病状を医療、行政、事業所、警察、関係機関などで共有するということもプライバシーの侵害だけでなく、精神障害を持つ人への人権侵害であり、継続医療というより社会防衛のためには精神障害者の人権は犠牲にしても構わないというシステムであると感じ恐怖と怒りを感じます。精神障害者本人が大事にされているとは思えません。国連の障害者権利条約でも障害を理由に住むところを限定されてはいけないとあります。転居は自由だけれど住所は管理するということは精神障害者の人権はおろか気持ちをまったく考えない行為だと考えます。誰にも教えず転居するというのはそれだけその人が人間関係などにおいて追い詰められているという現れではないでしょうか。トラブルの原因が「調子が悪いから」という表面上の見方ではなく、原因をしっかりと把握して下さい。原因は医療関係者かもしれないし、福祉、行政の担当者かもしれません。大人が病気があるということで指導され続けることは、それだけで大きなストレスであり人間関係を悪化させる要因になります。専門家にかこまれるということはそれだけ本人の力を奪うことになります。原因を精神障害者にだけ求めるのではなく、医療や福祉の専門家、担当者の問題として受け止めてください。

継続医療、第三者機関の設置が本人のためということが言われますが、本人のためというより、重度の精神障害を持つ人から一般市民を守るための社会防衛システムという側面が強く出ていると感じます。知事の会見はまさしくそのようなニュアンスが感じられます。強制的な治療を継続して行うということは退院後も本人を管理、監視し、本人の意思や自由を奪っていく危険性があります。これでは町全体が巨大な病院化していくことになり底知れぬ恐怖を感じます。自由や自立が名ばかりになり、これはすべての精神障害者に対し物理的にも精神的にも圧力となります。

以上のことを踏まえ、第三者機関の設置、継続医療については取りやめるとともに現行の制度内でさらに充実した支援が出来るように求めます。

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