【報告/案内】 障害者の介護保障を考える会の取り組み
星屋和彦(障害者の介護保障を考える会・事務局)
■前回の例会報告
8月27日(土)に行われた「障害者の介護保障を考える会」第8回・例会の報告です。新しく相談に来られた当事者の方や、3名の弁護士の方々も交え、総勢23名での例会となり、会をおうごとに少しずつ人数も増えてきて嬉しい限りです。
●相談事案
相談ケース1
前回に引き続き、深夜時間帯に介護が必要なのに「1時間×3回」でしか支給決定されておらず困っているという方からのご相談。今回は支援者だけでなくご本人も参加となりました。その後の経過報告。支給決定の一部拒否処分(申請した時間数の深夜帯が支給されないこと)について、不服審査請求するに足る却下理由の文書での回答を行政担当窓口に求めると、口頭では出来るが文書回答は出来ないと言われる。兵庫県への審査請求で処分理由の文書回答を求めるも「申請の拒否という『不利益処分』ではなく単なる『支給決定』なので」弁明書が担当窓口から県に送られた。再び、ご本人から「反論書」を県に提出、対して担当窓口の再弁明書、ご本人から再反論書、というやり取りになっている。近々、県の審査結果が出る予定。行政の担当窓口が、弁明書において「排泄行為を含んだ、不測の事態に対応するための単なる待機には支給決定できない」と述べているところなど審査でどう判断されるか結果を待っている状態。
相談ケース2
障害サービスをずっと使ってきたにも関わらず、65歳の介護保険適用年齢になったとたん、介護保険サービスの利用を義務付けられ、そのことにより介護時間が減ったりサービスを打ち切られたりと65歳以前の生活状況から後退した状態になって困っている、ということが全国的に問題になっています。今回のご相談も、65歳の障害者はどのような生活になるのか。現在は重度訪問介護を600時間近く使っているが介護保険適用年齢になるとどうなるのか。介護状況や生活が不安。介護保険になることで大きな自己負担が発生することもしんどい、というお話でした。
弁護士からは、介護保険サービスを使い切って足らない部分は重度訪問介護の上乗せ支給ができる。重度訪問介護の上乗せは難しいと勘違いしている行政がいるけどそれは違うのでしっかり交渉したら良い。また介護保険にない移動支援などの障害サービスは、引き続き使える。
「介護保険サービスの部分だけは1割負担」という点は、自己負担の急増を不服として裁判を起こした人もいる。2018年4月から、65歳になる前に一定期間障害福祉サービスを利用していた低所得者のみになるが、実質的に自己負担をなくす障害者総合支援法改正案も成立しているそうです。
今後のご本人の対応としてはどうしたらいいのかと参加者から質問ありました。何も決まらないうちから介護保険の要介護認定を受けて、どんどん話が進んでいくのには不安がある。行政との話し合いとしては、自分から「もうすぐ介護保険の年齢になるのでどんな生活になるのか相談したい」と言いに行くのが良いのか?行政から言ってくるまで待つのが良いのか?これについて弁護士からは「その方の性格や状況によって違うから、どんな方法が自分に合っているかを決めてもらうのがいいと思う」「ただ、行政から話がなければこちらから1年くらい前には介護保険の申請もしてしまい、介護保険を使った場合の介護状況と、不足分の重度訪問介護の上乗せも含めて、時間をかけて丁寧に納得いくまで話し合いをしていくのが安心は安心。介護保険を使う意志はあるから、ちゃんと一緒に考えてと言う」。というアドバイスでした。逆に、介護保険申請を行政が言ってきたものを無視していたら、重度訪問介護をうちきられたケースも他県ではあるそうです。その方の場合は、重度訪問介護0時間というのはあまりに不当ということで、裁判になっている。
今回の相談ケースではすでに介護保険年齢まで日も迫っているということなので、話し合いは進めながら、ちゃんと先行きがはっきりするまでは重度訪問介護をこのまま使い続けていきたい、という話は出来るのではないか。準備を進めてこなかったのはそちらなのだから、と。
また、介護保険を使ったうえで生活の質を変えないという部分では、いま自分に関わっている障害サービスの事業者が介護保険事業もやっているかが大事。そして話をしっかり聞いてくれるケアマネが味方にいるかどうかも大事だと思う、というお話もありました。
相談ケース3
重度障害者で一人暮らし。24時間介助時間が必要で、医師の診断書も提出し、細かい介護内容も書いたのに588時間しか支給決定されない。一番困るのは深夜。何かあっても電話も出来ない。区の担当は連続した介護がなければ支給決定できない、見守りを認めないという見解で全然話が通じないので、市に相談にいった。市は「なんらかの命の危険があれば、見守りは必要」だと言った。夜中の介護は、排泄や体位変換、体温調整など必要な理由がいろいろあるが、今の争点は、鬱病なので夜に目が覚めた時に人がいないことで不安になると排尿障害もあるし、連絡も誰にもつけられないので、そのしんどさから鬱病の症状が重くなる点。精神科に行き診断書も書いてもらった。
弁護士からは、重度訪問介護で見守りも含め24時間必要、をどう突破していくかというのがこの考える会でも全国的にも大きな共通の課題になっている。重度訪問介護で24時間の支給決定を求めた和歌山での裁判例は570時間までは出た。全国の行政もそれは知っているので、その時間数が一つの指標になっている。570時間以上の時間数は未知の領域ですんなり支給しない。なので、不支給の理由を行政に文章で出させて、一方で介護の実態は実態で積み重ねておく。実態があるのならそれに対しては「どうみてもおかしい」という不支給の理由しか書けないと思う。そういう理由を1つ1つ潰していく。そこが一つの突破口にならないかと思っている、というお話でした。
参加者からは「5月から一人暮らしをはじめて、自分のことを一番よく知ってくれているのは、ヘルパー。ヘルパーからも必要性を言ってもらい、24時間介護の必要性を認められた」というご意見もあった。弁護士からも、介護日誌等の実態の積み重ねで、いかに必要かを出すのは大事だと思う。ヘルパーの意見も、もらったらいいと思う。というお話でした。
相談ケース4
考える会の事務局員と知り合いの支援者の方からメールを通じての相談。若年性アルツハイマーで50歳代半ばの障害者。今は親の介護で暮らしているが、親も高齢になり、今後どう生活していくかが課題になっている。サービス付き高齢者住宅のようなところしかないかと思っていたが、もし可能なら一人暮らししたい。ただ、そうなるとアルツハイマーの症状からいうと24時間介護必要になると思う。ケアマネは介護保険の利用メインで、障害制度の利用はピンポイントでしか考えていないよう。障害手帳としては精神2級のみ。どのような生活が可能だと思いますか、という相談でした。
弁護士からは、知的や精神も重度訪問介護が使えるようになったとはいえ、身体障害がなかったら、重度訪問介護の対象にはまだなかなかならない。重度訪問介護が難しければ、上乗せで身体介護、家事援護、移動支援は使えると思う。知的障害の人でこの組み合わせで500時間とか600時間とか支給決定している方は、少ないけれどいる。なので、精神で長時間の総合支援方法のサービスが不可能ということではないと思う。がどれくらいの時間数があれば一人暮らしができるかというその方の状況次第という面もあると思う、ということでした。
相談ケース5
深夜帯の時間数交渉をしてきて、深夜4.5時間抜きの支給しか認められない、ということで去年の秋から弁護団と一緒に交渉されている方の経過報告。「支給量変更の必要がある事案とは認められなかった」との区のたった2行の文書回答に対し,認めなかった具体的な理由と「重度訪問介護」について区はどんな解釈をしているのか、を開示するよう「求釈明書」を作成・提出。審査請求をする前に、8月の誕生月の更新時に、夜寝始める時間が当初プランよりも生活実態として遅くなっているということ、また生活介護を週1日減らすという具体的な生活状況の変化をあげて、変更申請を出した。行政交渉をなんとか進めていきたい。
相談ケース6
障害程度区分4だったが、最近目がほとんど見えなくなったこともあり区分6になった。320時間の支給決定が出たがそれはガイドラインそのまま。生活実態では1日11時間で、340時間くらいは必要なので、初めて役所と交渉してみた。でもガイドラインは越えられないままいったん終わった。ガイドラインを乗り越えるにはどうしたらいいか?というご相談。
弁護士からは、国が市町村に出している文書で、本人の希望と市町村の決定との差が大きい場合は、非定型として審査会にかけなさい、となっている。ガイドライン通りの決定が「定型」、ガイドライン通りではない決定が「非定形」。今回の相談でいうと、役所はガイドラインの定型320時間と、希望の340時間の差があまりないから、定型で充分と思っているのではないか。必要な時間を積み上げていったら340時間になる、定型で支給決定出来ないのなら、非定型で審査会にかけてくれと言ったら、無視できないと思う。非定型にするための手続きとしては、毎年の更新申請の時に支給申請書を書くと思うのでそこか、変更申請を出す時に、申請書自体の余白でも別紙でもいいから必要とする具体的な時間数を書き、ガイドラインではなく審査会にかけて非定形の決定をするよう希望しますと書いて申請してしまうのが大事、というアドバイスでした。
参加者からは、「自分の支給決定の審査会でどんな話しをしているか教えてもらえるのか」という質問には、議事録があれば個人情報開示請求をしたら、それを見られる。議事録がないのであれば、審査会の前に議事録作ってくださいと言ってもいいと思う。審査会に本人も行きたいと言ってみるのも一つの手である、義務ではないが法の趣旨に照らしても本人の意向を聞き取るという意味ではおかしくはない、という弁護士からの意見をいただきました。
参加者が増えるにつれ、様々な介護保障の課題が出てきています。考える会の事務局でも、どうしたものだろう、と考え込んでしまうこともしばしば。どうしても弁護士のアドバイスに頼ってしまっている現状です。事務局としても力をつけていかないといけないのはもちろん、参加していただいた皆さんで意見をどんどん出し合い、情報交換していければと思っています。
次回介護保障を考える会・例会のご案内
日時:10月30日(日) 13時半から16時半
場所:神戸市立心身障害福祉センター 大会議室
興味がある方、介護のことで困っておられる方はぜひご参加ください!
初参加、歓迎です(事前に連絡いただけますと助かります)。
10月 8, 2016