優生思想

【優生思想】 相模原事件を考える・2

野崎泰伸(障問連事務局)

 

今月号は、障問連加盟団体「えんぴつの家」の山田剛司さん、全国手をつなぐ育成会連合会の久保厚子さんのインタビュー、国・県の動き、「やまゆり園」建て替え、書籍紹介の記事です。

 

 

■相模原事件1カ月 心の奥底には…コラムが波紋

神戸新聞NEXT 2016/9/5 16:25

http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201609/0009459104.shtml

 

神奈川県相模原市の障害者施設で19人が刺殺された事件から1カ月が過ぎた。障害者と共に暮らす立場から、事件の本質を問い掛けた一つのコラムが静かな波紋を広げている。

タイトルは「本来あってはならない」。知的、身体障害者の自立支援施設「えんぴつの家」(神戸市中央区)が月1回、関係者ら約千人に配る会報に掲載された。

8月17日発行の375号。書き出しはこうだ。

〈障害者は世間の嫌われ者です。胎児が障害児と分かれば中絶が実質許される社会。これだけで十分わかります〉

執筆したのは「えんぴつの家」事務局長の山田剛司さん(49)。脳性まひ者の自立生活を、本人の自宅に泊まり込んで支えるボランティアを大学時代に始めた。以来30年間、障害者福祉の最前線で働く。

えんぴつの家は通所施設やグループホームなど10カ所を運営。約100人が利用する。

事件は施設利用者にも衝撃を与えた。「障害があったら、この世に存在することが許されへんの?」「人間と認められるのは健全な人だけ?」とおびえる人もいた。重度の知的障害で事件があったことを認識できない人も多い。

山田さんは、容疑者の犯行を「許せない」とした上で、動機の異常性だけがクローズアップされる報道に違和感を覚えた。ふつうに暮らしている私たち自身、心の奥底に障害者への差別感情を抱いていないだろうか。コラムにこうつづった。

〈養護学校や特別支援学校に分けられ、就職できずに施設に行かされる。国も市民もこれが当たり前です。誰も障害者の介護なんかしたくない。家族や福祉職の人にお任せです。なるべくつきあいたくない。嫌われ者ですから〉

〈障害者なんていない方がもっといい世の中になる、と考えている人もいます。そういう人たちは「優生法」「尊厳死法」を求めます〉

優生法=優生保護法は1996年に改正されるまで「不良な子孫の出生を防ぐ」ための不妊手術を認めていた。尊厳死法は過剰な延命措置をせずに死ぬ権利を認め、オランダなどが施行する。

また、日本では障害の可能性を理由に中絶するケースは今も少なくない。

〈ですが、こちらは話題になりません。不思議です。日常的に存在を否定され命を奪われる障害者が多くいることを忘れてはいけないと思います。目的は同じ障害者の抹殺です〉

通信を読んだ数人から「よく書いてくれた」と反応があった。

山田さんは「あえて挑発的に表現した。自分の中の差別感情と向き合うきっかけにしてほしい」と話す。(木村信行)

 

 

■【相模原殺傷事件】「被害者の匿名報道は障害者への差別」 親の立場から育成会の久保会長が指摘

福祉新聞編集部 2016年09月26日

http://www.fukushishimbun.co.jp/topics/14277

久保厚子・全国手をつなぐ育成会連合会長

 

神奈川県立の障害者支援施設「津久井やまゆり園」(相模原市)で7月26日に発生した殺傷事件は、19人の死亡者、27人の負傷者を出した。容疑者が重度障害者の安楽死を容認する考えを持っていたことは社会へ波紋を広げており、福祉施設の防犯体制の見直しに向けた議論も進んでいる。事件に対する思いや今後の団体としての活動について、障害のある子を持つ親の立場から全国手をつなぐ育成会連合会の久保厚子会長に聞いた。

生きる価値は誰にでも

−−事件翌日、育成会が障害のある人に対して行った呼び掛けは反響を呼びました。

事件直後から、外出が怖いと不安を訴える声が多く寄せられたのです。そこで、「私たちは一人ひとりが大切な存在」「胸を張って生きて」というメッセージを出しました。

意見は身体や精神に障害のある方からも寄せられました。実は今でも毎日届いていて、300件を超えています。

中には「障害者に税金を使うのは無駄」という誹謗中傷もあります。しかし話をよく聞くと、その人も生活が苦しそうだったり、家に引きこもっていたりする。将来への不安からわざわざ連絡するのかもしれません。社会のゆがみのようなものを感じます。

−−今回の事件は被害者が匿名だったことも物議を醸しました。

警察から名前を公表するか問われれば、誰だって匿名を選択するでしょう。保護者を責めることはできません。

しかし神奈川県警が事前に保護者へ匿名にするか聞いたのは、障害者への差別的意識があるからではないでしょうか。通常の事件だとわざわざ確認しないでしょう。障害者はかわいそうな存在という偏見があるからだと思います。

育成会は60年以上前、障害のある子を持つ親の会として設立され「我が子にも人権と幸せを」と訴えてきました。そうして教育や移動手段、選挙権などの分野で権利を得てきたのです。

だからこそ、障害を理由とした特別な配慮を求めることはできないと思っています。今後、親も乗り越えなければならない課題です。

−−障害への理解はどう進めますか。

障害者への差別や偏見は、知らないからこそ起こります。地域の清掃でもよいのです。各地で障害者と社会がかかわる経験を積み重ねるしかないと思います。

育成会としては、会報誌の9月号で、障害のある本人と家族や仲間が笑顔で写った写真を200点ほど掲載しました。障害があっても充実した人生を送っていることを発信できればと思っています。

−−容疑者に言いたいことはありますか。

容疑者の発言は、とてもつらいものでした。障害があっても、親にとってはかけがえのない家族です。その子がいるからこそ味わえる楽しい時間もあります。

でも正直なところ、障害のある子を持つ親の気持ちは、他人に完全には理解してもらえないだろうとも思うんですよね。誹謗中傷を受けている人はとても多くいますし、家族が抱えるモヤモヤした気持ちは当事者でないと分からない部分もあります。

かといって、周りに何か特別なことをしてほしいわけでもないんですよ。近所に障害のある子いるよねと認識し、存在を認めてもらうだけでもいいんです。

そもそも障害に関係なく、人が生きる価値は、他人が決めるものではない。誰もがその人なりの人生を精いっぱい生きています。障害者の成長や可能性は強調されがちですが、それだと結局どこまでできれば価値があるのかという議論に引っ張られてしまいます。

生きる価値は自分が決める。それを皆が尊重する。そんな共生社会になればと思っています。

 

□国・県の動き

1.国の動き

厚生労働省は、「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム」を9月20日までに5回開催しています(*)。そのなかでも、9月14日に、「中間とりまとめ」が公表されました。そこでは「検証結果の概要」が示され、①措置入院中の診療、②措置解除時の対応、③措置解除後の対応、④社会福祉施設等における防犯対策、の4点について、それぞれ検証で明らかになった点および今後の検討課題が述べられています。

今後の検討課題について簡略に述べると、措置入院関連では、入院時の質の高い医療の提供、それを可能にする医学教育の充実、退院後の病院と自治体との連携の強化、措置権者である都道府県等と保健所を設置する自治体とが連携し、退院後に地域で精神科医療が受けられるようにする、といった具合です。また、防犯については、犯行時などの緊急時の対応や防犯の観点からの対策が必要であるということにとどまっています。

(*)http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syougai.html?tid=373375 で情報が見られます。

2.県の動き

兵庫県では、精神保健医療・継続支援に関して、今春から新しい制度がはじまっています。「措置入院した精神障害者らを退院後も見守り続ける兵庫県独自の支援制度」であり、「県内13カ所の健康福祉事務所に継続支援チームを設け、1人に対し保健師や医師ら複数で対応する」とのことです(神戸新聞2016年8月18日)。また「「措置入院」の解除について、兵庫県は26日、複数の専門家で構成する第三者機関が助言する仕組みを年内に設ける方針を明らかにした」とのことで、措置入院を解除する際に、「県は指定医による見極めが難しい場合、助言を受けられるよう精神科病院や介護施設の関係者、弁護士などで構成する第三者機関を設ける考え」であるとのことです(読売新聞2016年9月27日)。

兵庫県では2015年3月に、洲本市で5人が刺殺、容疑者に通院・入院歴があったと報じられました。同年12月には、「兵庫県精神保健医療体制検討委員会からの提言」がまとめられています(**)。そこではまず、「現状」として窓口体制、警察や市町との連携、専門職チームによる支援、医療機関との連携、普及啓発が述べられています。また、洲本の事件にかかわり健康福祉事務所の対応も述べられています。そののち、課題と今後の取り組みが説明されており、措置入院等継続支援体制の構築が目指されるとしています。

(**)https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf08/syohuku/syohuku/documents/27teigen.pdf

 

【相模原殺傷事件】やまゆり園は建て替えへ 県の検証委員会もスタート

福祉新聞編集部 2016年10月03日

http://www.fukushishimbun.co.jp/topics/14362

神奈川県は県立の障害者支援施設「津久井やまゆり園」(相模原市)で7月に発生した殺傷事件を受け、同施設を現在の敷地で建て替えることを決めた。指定管理者として同施設を運営する社会福祉法人かながわ共同会(米山勝彦理事長)や入所者の家族会の要望を踏まえ、凄惨な事件現場となった現在の建物のままでは入所者や職員が事件の記憶にとらわれてしまうと判断した。しかし、建て替えには時間と費用がかかるなど、解決すべき問題が残っている。

黒岩祐治・同県知事は9月23日の会見で「再生のシンボルとなる全く新しいイメージの建物とすることができ、神奈川からこの理不尽な事件に屈しないという強いメッセージを発信できる」と意気込みを語った。

工事費は60億~80億円かかり、完成は4年後の2020年度となる見込み。県は補正予算を組み、16年度中に基本構想を固める。現在の入所者約90人が工事期間中に暮らす県立施設を確保したことも明らかにした。

しかし、工事期間中の居住環境が今よりも良くなる保障はない。また、同施設の関係者の間では、定員規模を減らして再建すべきだとする意見、逆に、入所待機者がいるので定員を減らしては困るという意見がある。

「防犯」と「地域への開放」をどう両立させるか、そもそも山奥の大規模な入所施設で障害者が暮らすことが妥当なのかも問われることになる。県は建て替え費用の一部を国に求めようとしているだけに、基本構想を練る議論は県や法人内にとどまらなくなる可能性もある。

県の再発防止委発足

9月21日には、弁護士や防犯の専門家など第3者で構成する県の検証委員会の初会合を開いた。11月中に再発防止策を報告書にまとめ、県は17年度予算に反映する。委員長には障害者福祉が専門の石渡和実・東洋英和女学院大教授が就いた。

かながわ共同会が9月13日に県に提出した中間報告(非公表)をもとに事実関係を検証し、なぜ事件を防げなかったのか、今後どのように対応すべきかを中心に議論する。

犯行予告を書いた容疑者による手紙をめぐり、その内容の詳細が施設側に伝わっていなかったことがかねて問題視されており、委員会は10月上旬に神奈川県警の担当者を呼んで報告を求める。

この点は黒岩知事も重視する。厚生労働省の再発防止検討チームの中間報告(9月14日発表)は警察の対応の検証が乏しく、容疑者の措置入院歴をめぐる検証が中心だったことを念頭に「国は中間報告をまとめたが、県は県として情報共有の在り方などをしっかり検証する」と話した。

なお、同県は事件の犠牲者を追悼する県主催の「送る会」の開催を断念した。死亡した19人のうち10人の遺族と面談した結果、「内輪でささやかにやりたい」との意向が強いという。9月15日の会見で明らかにした。事件後、19人の氏名は遺族の希望により非公表とされている。

ピープルファースト 全国大会で黙とう

9月21・22両日に横浜市内で開かれた、知的障害者らで構成する「ピープルファースト」の全国大会は、相模原事件の犠牲者を追悼する集会になった。21日は参加した約1000人が黙とう。事件後に考えたことなどを発言し、花や折り鶴を壇上にささげた。

ピープルファーストジャパンの中山千秋会長(大阪府)は、「これだけの事件が起きても私たちの声が聞かれることはないので、もっと社会に届けないといけない。私たちは入所施設を求めてはいない」などと話した。

19人の犠牲者が匿名とされている点については「亡くなっても一人の人間として扱われていない。差別されていると感じるし、一番つらい」(土本秋夫さん・北海道)といった意見が上がった。

大会には黒岩知事が出席したほか菅義偉・内閣官房長官がビデオメッセージを寄せた。

ピープルファーストとは「障害者である前に一人の人間だ」という意味で、アメリカの知的障害者が発信。世界各国に当事者活動が広がり、日本では1994年に第1回大会が開かれた。

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