【神戸市の制度動向】 神戸市障害者施策推進協議会の会議を傍聴しました
さる8月17日、神戸市障害者施策推進協議会の本年度第1回の会議が行われました。はじめに、相模原で起きた障害者殺傷事件を受けて、被害者への哀悼の意が示され、施設の安全管理の必要性が述べられました。この日の議題は、「介護給付費等と介護保険との適用関係(神戸市の取扱い基準)の見直しについて」を中心に議論がなされました。まず事務局より、適用関係の現状の説明があり、次に、適用関係の見直しにかかる検討経過が示されました。そして、適用関係の見直し(案)について、現基準と見直し案2つが示されたのち、議論が行われました。以下、配布資料の一部を抜粋して掲載します(*)。
■資料1:現基準 介護給付費等と介護保険との適用関係(神戸市の取扱い基準)
1.介護保険優先の原則
介護保険の被保険者である65歳以上の障害者が要介護状態又は要支援状態となった場合(40歳以上65歳未満の者の場合は、その要介護状態又は要支援状態の原因である身体上又は精神上の障害が加齢に伴って生ずる心身上の変化に起因する特定疾病によって生じた場合)には、要介護認定等を受け、介護保険法の規定による保険給付を受けることができる。その際、自立支援給付については、障害者自立支援法(平成17年法律第123号。以下「法」という。)第7条の他の法令による給付との調整規定に基づき、介護保険法の規定による保険給付が優先されることとなる。
したがって、介護保険のサービスにより必要な支援を受けることが可能と判断される場合には、基本的に障害福祉サービスを支給することはできない。ただし、介護保険の支給限度基準の制約から、介護保険のサービスのみによって必要と認められる支援が受けられない場合に限り障害福祉サービスを支給することができる。
2.居宅介護等と介護保険制度における訪問介護との適用関係における基本的な取扱い
(1)基本的な考え方
介護保険制度の対象となる65歳以上の者及び特定疾病(16疾病)による40歳以上65歳未満の者については原則として介護保険制度での訪問介護を利用することになるので、介護保険のサービスにより必要な支援を受けることが可能と判断される場合には、基本的に障害施策の居宅介護等を支給することは出来ない。
(2)具体的な運用
ア.要介護認定者
①居宅介護又は重度訪問介護を上乗せ支給できる場合
介護保険の訪問介護等のサービスを支給限度まで受けても、なお障害固有のニーズに基づく特に必要と認められる支援が不足する場合で、福祉事務所長が必要と認める場合に、居宅介護(身体介護、通院介助、家事援助)又は重度訪問介護を支給可能とする。
【要件】
次の全ての要件を満たすもの。
●身体障害者手帳:上肢2級以上かつ下肢2級以上又は体幹障害2級以上で総合等級1級
または、脳原性による上肢機能2級以上かつ移動機能2級以上で、総合等級1級
●要介護認定4以上
●介護保険の支給限度額までサービスを利用していること
●介護保険の利用サービスのうち50%以上、訪問介護を利用していること
●介護保険のケアプラン及び別表を提出すること
【支給量】
(障害程度区分の標準支給量に基づいた利用時間※)-(介護保険の利用時間)=居宅介護又は重度訪問介護の支給決定時間
※支給量の考え方については、通常の障害福祉サービスの支給量の考え方と同様とする。
②通院介助のみを上乗せ支給できる場合
介護保険の訪問介護等のサービスを支給限度まで受けても、なお障害固有のニーズに基づく特に必要と認められる支援が不足する場合で、福祉事務所長が必要と認める場合に、通院介助を支給可能とする。最大20時間/月を限度とする。
【要件】
次の全ての要件を満たすもの。
●身体障害者手帳:腎臓機能障害1級に加え、上肢3級以上かつ下肢または体幹障害3級以上で、総合等級1級または、脳原性の上肢機能3級以上かつ移動機能3級以上で、総合等級1級
●要介護認定3以上
●人工透析のため定期的な通院の必要があること
●介護保険の支給限度額までサービスを利用していること
●介護保険の利用サービスのうち50%以上、訪問介護を利用していること
●介護保険のケアプラン及び別表を提出すること
【支給量】
(通院介助に要する時間数)-(介護保険の通院介助の利用時間)=通院介助の支給決定時間(最大20時間/月まで)
イ.要支援認定者
①通院介助のみを支給できる場合
障害固有のニーズに基づく特に必要と認められる支援が不足する場合で、福祉事務所長が必要と認める場合に、通院介助を支給可能とする。最大20時間/月を限度とする。
【要件】
●要支援1・2
●原則として、視覚障害者、知的障害者、精神障害者
●原則として、介護保険の訪問介護を利用していること
●介護保険のケアプラン及び別表を提出すること
【支給量】
(通院介助に要する時間数)-(介護保険の通院介助の利用時間)=通院介助の支給決定時間(最大20時間/月まで)
ウ.非該当者
①居宅介護を支給できる場合
介護保険サービスを利用できない場合で、障害固有のニーズに基づく障害施策での居宅介護等の支給の必要性が認められる場合について、障害福祉サービスを支給可能とする。
【要件】
原則として、視覚障害者、知的障害者、精神障害者
【支給量】
原則として、最大20時間/月を限度とする。
(3)経過措置
介護保険の適用以前から障害者施策のサービス提供を受けていた者については、介護保険の支給限度の制約から介護保険サービスのみでは、障害固有のニーズに基づく特に必要と認められる支援が受けられない場合に限って、社会生活の継続性を確保する観点から、介護保険では対応できない部分について、経過措置として、次の場合に限り障害者施策から必要なサービスを提供できるものとする。
①居宅介護又は重度訪問介護を上乗せ支給できる場合
②介護保険の訪問介護等のサービスを支給限度まで受けても、なお障害固有のニーズに基づく特に必要と認められる支援が不足する場合で、福祉事務所長が必要と認める場合に、居宅介護(身体介護、通院介助、家事援助)又は重度訪問介護を支給可能とする。
【要件】
●障害程度区分5以上
●支給決定期間:最大1年間。ただし、必要と認められる場合はさらに最大1年間。
●介護保険の支給限度額までサービスを利用していること
●介護保険の利用サービスのうち50%以上、訪問介護を利用していること
●介護保険のケアプラン及び別表を提出すること
【支給量】
(介護保険適用以前の居宅介護等の支給決定時間)-(介護保険の利用時間)=居宅介護又は重度訪問介護の支給決定時間
■資料2:介護給付費等と介護保険との適用関係(神戸市の取扱い基準)の見直しにかかる検討経過について
1.検討内容
平成20年1月に策定した介護給付費等と介護保険との適用関係(神戸市の取扱い基準)について、本市障害者福祉担当(障害者支援課)や介護保険担当(介護保険課)、区役所担当(障害者福祉、介護保険)、障害者地域生活支援センター職員により現行基準や給付調整規定に関して意見交換を行うと共に、関係団体にヒアリングを行う等して検討を重ねた。
2.主な検討項目
給付対象者、利用要件、支給量、手続き、その他
第1回検討会
対象者、利用要件について
第2回検討会
支給量、ヒアリング結果等について
第3回検討会
支給量、手続き、ヒアリング結果等について
3.検討会での主な意見
○対象者について
「重度の方は上乗せ要件を満たす場合がほとんどで問題になりにくい」「 中、軽度の方が上乗せ対象になっていない」「 要介護認定が非該当となった方が障害支援区分の認定を受けている場合、別に一定の標準支給量があるのに、現行基準で20時間が上限となるのはおかしい。」「『65歳を超えてからの加齢に伴う障害者』の相談が多い。障害福祉サービスの上乗せのために手帳を取得したいとの相談を受ける。」「要介護度別に細かい基準は設けないほうが良い。また、障害特性で対象者を区別すると制度の狭間ができてしまう。」など
○支給量、利用要件について
「訪問介護を50%利用するという要件はサービスを効率的に導入する上で壁となっている」など
4.関係団体へのヒアリング
結果
「障害者問題を考える兵庫県連絡会議」より
○要支援認定になったら一律20最大時間/月という時間数には根拠がない。
○訪問介護を50%以上利用するという要件については見直すべき。
○上乗せ基準の適用は障害種別に関わらず対象にしてほしい。
○例えば、聴覚障害者とのコミュニケーションには手話、言語障害の方の聞き取りには経験、知的障害者とのコミュニケーションは信頼関係の形成など、障害特性を踏まえた対応ができる施設や事業所が介護保険にはない。
○窓口では介護保険への移行について「絶対」という言われ方をするがおかしい。国通知文では障害者の抱える課題など、よく話を聞いて対応することになっている。
■資料3:介護給付費等と介護保険との適用関係[神戸市の取扱い基準]の見直し(案)
対象者
現基準
① 要介護4以上で身体障害者手帳が
・上肢2級以上かつ下肢2級以上又は体幹障害2級以上で総合等級1級
・脳原性による上肢機能2級以上かつ移動機能2級以上で総合等級1級
② 要介護3以上で腎臓機能障害1級に加え、上肢3級以上かつ下肢または体幹障害3級以上で総合等級1級又は脳原性の上肢機能3級以上かつ移動機能3級以上で総合等級1級
③ 要支援で知的・精神・視覚障害
④ 非該当で知的・精神・視覚障害
⑤ 移行時に支援区分5以上(最大2ヵ年)
見直し(案1)
65歳到達時点(第2号被保険者の場合は要介護認定申請時点)で障害者総合支援法第4条第1項に定める障害者である者又は65歳到達時点(第2号被保険者の場合は要介護認定申請時点)で障害者であった者(身体障害者、知的障害者、精神障害者、難病患者)
見直し(案2)
障害者総合支援法第4条第1項に定める障害者である者(身体障害者、知的障害者、精神障害者、難病患者)
障害者総合支援法に基づく支給量(居宅介護・重度訪問介護)
現基準
① ⑤移行前利用実績から介護保険による利用時間を差し引いた時間
② 通院介助最大20時間/月
③ 通院介助最大20時間/月
④ 居宅介護最大20時間/月
見直し(案1)
法令及び神戸市支給量基準に基づき算定した支給量(利用時間)から介護保険制度に基づき給付を受けることができる支給量(利用時間)を差し引いた時間
見直し(案2)
法令及び神戸市支給量基準に基づき算定した支給量(利用時間)から介護保険制度に基づき給付を受けることができる支給量(利用時間)を差し引いた時間
要件
現基準
① ②⑤介護保険は支給限度基準額を上限まで利用し、50%は訪問介護を利用
② 介護保険で訪問介護を利用(④は非該当)
見直し(案1)
・要介護認定を受けた場合は介護保険制度における支給限度基準額まで利用すること。
・要支援認定を受けた場合は介護保険制度における介護予防訪問介護又は地域支援事業を利用すること。
見直し(案2)
・要介護認定を受けた場合は介護保険制度における支給限度基準額まで利用すること。
・要支援認定を受けた場合は介護保険制度における介護予防訪問介護又は地域支援事業を利用すること。
見直しの経緯としては、昨年の12月市会において市長がこの問題に触れ、厚労省に沿った案を神戸市でも作っていく意向を見せたことにあるようです。見直し案1は、厚労省に沿った案のようです。障問連からは石橋委員が、見直し案2で行くようにと述べました。また、議論のなかでは、そもそも65歳になれば、介護保険を先に使わせて、障害福祉を補完的なものとみなす考えが出ていることに対する批判もありました。総合支援法を優先にすると、介護保険優先にしたときよりも25%超の財源が使われることになり、総合支援法に殺到すれば財政的に困る、といった意見もありました。
保健福祉局長が、「社会保険が優先されるのは、被保険者の利益のためだ」と発言していましたが、障害者にとっては、社会保険である介護保険よりも、総合支援法によるサービスの提供のほうが断然益になります。また、働くことから締め出された障害者にとっては、はじめからそもそも社会保険による相互扶助のシステムから零れ落ちています。本当に障害者の利益になるのはどちらなのか、今後も注視していかなければなりません。10月にはこの件でパブリックコメントを募集する予定であるとのことなので、ぜひ意見を送りましょう。
(*)資料の全文は神戸市のホームページに掲載があります。以下よりPDFファイルで見られます。
平成28年度第1回神戸市障害者施策推進協議会資料一覧
http://www.city.kobe.lg.jp/life/community/handicap/kyougikai/20160817siryouitiran.html
9月 1, 2016