【報告】 第1回インクルーシブ教育セミナーin西宮 「みんなと一緒に、楽しい春を迎えましょう~就学先決定にあたり大切に考えたい事~」
今年3月に設立された「インクルーシブ教育をすすめるネットワークin西宮」の主催により6月25日、西宮市こども未来センターにて、表記のセミナーが開催されました。障害児者、保護者の方を中心に、放課後デイサービスの職員さんや相談支援専門員や福祉関係者、教育関係者など約50人の参加でした。セミナーの内容は、前半の冒頭には、これから就学を迎える2人の子どものお母さんからの悩み、不安な思いをお話しいただき、続けて畑中さん、増田さんのミニ講演、そして今年4月から地域の小学校に就学されたKちゃんの学校の様子など、お母さんかに報告していただきました。後半は参加者とシンポジストを交えての就学相談を中心に行いました。以下、報告します。
■芦屋市での実践~地域の学校でその子の課題に応じた教育を~
畑中稔さん(元芦屋市特別支援教育センター長)
畑中さんは様々な障害種別の養護学校(特別支援学校)での教員、芦屋市教育委員会指導主事の経験を経られ芦屋市特別支援教育センターの立ち上げにセンター長として関わられてこられました。その経験から、特に芦屋市の就学にあたっての取り組み・仕組みを中心に話していただきました。
畑中さんは、最近の国際的な動向としても移民の排斥、異なる者を排除する風潮や国内的にも様々なマイノリティーに対する排除の動きへの危機感を語られながら、障害者に対してもてんかんの人が交通事故を起こすと運転免許のはく奪、発達障害者が何か事件を起こすと隔離すべしとの短絡的な論調など、「障害」というだけで排除の論理がまかり通っている事、「芦屋市でも長年の同和教育や障害児と共に学ぶ取り組みにもかかわらず、大きな声を出すと授業の邪魔になるから支援学級に行ってくれ、と通常学級から排除するようなことがあります」と実情を述べられ、差別解消法も始まっているが、いざわが身に関わると様々な形で排除へと向かう風潮があり、「地域で共に」がより一層必要であると、講演の基調として話されました。
○「適性就学指導委員会」は廃止すべき!
芦屋市では30年以上前から、「障害児童も全員地域の学校へ就学する」事を原則として確認され、就学通知は一斉に対象児童の家庭に送付されること、そして「就学基準に合わせた学校選択」でなく「就学児童の課題に応じた学校選択」の実践を芦屋市教育委員会として行ってきた経過を話されました。講演の中でも、「・・・今の時代、適性就学指導委員会なんて止めたら良い。止めなさいと芦屋市の教育委員会で言ったら否定されましたが・・・。適性就学委員会は振り分けではありません、子どもの成長に合った形でどのように支援するのか、どこが一番その子の成長する場なのか。障害があってもなくても関係ない。有名な専門家の著作にも『個別に指導しても成長はしません。みんなの中にいるからこそ、みんなと同じ行動がとれるようになる』事を実践として書かれています。人間は集団の中でこそ成長する。成長のポイントは何か、何がこの子の今の課題なのか、それがポイントになり、保護者も教育委員会も一緒になって、どの場所がふさわしいのかを考えるのが就学指導。障害を理由にここはあなたが行く場所ではない、はおかしい」と強く語られていました。
○芦屋市での就学指導
芦屋市では就学時健診も重視はせず、あくまでその子の障害の状態と課題を把握するためのものであり、振り分けのためではないこと。畑中さんが教育委員会にいた時代には、保護者の方と全員個別に会って相談した、そして受け入れる小学校は学校として幼稚園や保育所に見に行き、その子にはどんな環境が良いのかを考えてもらう事、幼稚園や保育所はどこの学校が一番その子が伸びると思うのか、この子の就学先はどこが一番ふさわしいのか、教育や保育をしてきた実績を基に教師・保育士としての判断を示してもらう、そして保護者も判断し、市は市で専門家の先生が見に行って判断する、それぞれが責任を持って判断し三者の判断をまとめ決めて行くのが、芦屋の適性就学のあり様だと説明されました。
○芦屋市特別支援教育センターの役割
また2007年から特別支援教育が始まり、発達障害児を通常の学級でどう受け入れていくのかが大きな課題になったが、芦屋市では上記のように通常の学級でそれぞれの子どもの課題に応じた教育の実践があったため、スムーズに実施できたと話されていました。
そして畑中さんがセンター長として立ち上げられた「芦屋市特別支援教育センター」では、「就学相談」も含め、中味の支援の充実に重点を置き、各学校がこども1人1人の教育課程を作る時の支援計画や指導計画にも参加し、センター独自にも検査し行き先をどうするではなくその子の課題を検査、観察からも見ていくこと、保護者からの意見も踏まえ、その子の課題を明確にしてセンターから学校に持ち込み、先生や保護者も同意してみんなでカリキュラムを作成するというやり方、そして継続的な支援や注意点も全部1人ずつ合意を取り、年度途中でもその子の教育環境に必要な物があれば学校長から市教委に要望し、環境をできるだけ良くする等の学校支援をセンターとして実施していると報告されました。
■相談支援の立場から見た西宮の教育~「普通に皆と一緒に暮らすこと」~
増田真樹子さん(障害者総合相談支援にしのみや相談員)
増田さんは元々、福祉とは無縁な場で生活、仕事をされていましたが臨床心理士の資格を持たれていたので西宮の砂子医療福祉センターで働き始められ、子どもの発達支援、この子どもにはどのような支援や関わり、どのような環境が必要なのか、家族や関係機関との協議の場にも参加され、その後、阪神南圏域の相談支援コーディネーターを経られ、平成25年から西宮市の委託を受けた基幹型相談支援の「障害者総合相談支援にしのみや」に現在、相談支援専門員として日々、奔走されています。そのようなご自身の歩みを自己紹介され、その中で「相談支援という立場で関わらせてもらう中で、お母さんが就学に当たってすごく悩んで来られた事や普通に暮らしていくのに、なんでこんなに悲しいしんどい思いをしないといけないのか」とずっと一緒に考えて来られた中での、増田さんから見た西宮の教育についてお話しをしていただきました。
○相談支援を通じた私の原点
福祉と無縁な増田さんにとっては初めて関わられた施設との出会いは衝撃的であったこと、劣悪な環境、なんで障害者だけが集まって生活しているのか、これが人の暮らしなんだろうか・・・という疑問が原点となり、「相談支援を通じて私の根本にあるのは、障害のある方が普通にみんなと一緒に暮らすこと。障害と言うだけで排除されないことです」と話されました。そして教育の中で「『通常学級では無理だが特別支援学校では1人1人の支援が提供され、この子はやっぱり専門的な教育をすることで、その子は成長していく』のように、ある意味専門職から見た専門性という言葉による隔離や排除が、私たち福祉職にある者自身も見直していかないといけないと思います」と、例えば施設に入所されている人に対しても「施設のような支援が無いとこの人は生きて行けない」と思ったり、障害がある子どもに対して就学前には、「○○園や○○センターで療育を受けるのが当たり前」とか、福祉職もそういう価値観に陥りがちなこと、保護者にもそんな価値観があること、そして「地域で生きて行くのがあたり前という事を、強く意識していかなければインクルーシブ社会は作られていかない、そんな事を地域の中で色んな機関に発信していく必要性を日々感じながら仕事しています」と話されました。
○計画相談と本来の相談支援
現在進められている「計画相談」は福祉サービスを利用している方にだけ実施され、福祉サービスの調整が主になっていますが、本来の相談支援は、「ご本人が地域の中で暮らしていくためのトータルな相談・コーディネート」であること、そしてその視点として、「人工呼吸器を使っていたら福祉サービスさえうまく行かない現状もあります。自閉症でも多動な子どもさんとか、こだわりが強くてパニックを起こすとか、その場合、生きづらくなってくる現状がある中で、『この子はそういった問題があるからダメです』でなく、『この子を受け入れるためにどういう支援が必要なのか』という考え方の切り替えを、誰かが言っていかないと進んで行きません。障害と言えば、その子のできない課題ばかりを取り上げて、対応できないという話しになりますが、そうではなくて、この子の可能性はどこにあるのか、この課題でもこんな対応をして行ったら進んでいくのではないか、そのように関係機関にも働きかけ、考え方を転換していくのを誰がしていくのか、それが大切なことだと思います。そういった関係機関とのやり取り、本来の相談支援の意義はそこにあります」と強く語られました。
○相談支援と学校/就学
上記の本来の相談支援のあり方として、現在、児童は家以外の主な「くらしの場面」は学校になるため、その子を支援するための学校場面での学校の先生の役割、放課後デイの役割、家庭での役割、それらが「障害福祉サービス等利用計画書」として互いに共有され、計画相談を通じて様々なコミュニケーションが図られつつあり、本人を中心とした支援が進められている、しかし就学先決定についてはなかなか相談支援の立場としては踏み込めていない現状があると話され、主に保護者の方に対して「計画相談は福祉サービス利用が中心なので就学は関係ない、ではありません。計画相談の場でも、総合相談支援センターでも子ども未来センターに対しても、ぜひ就学に関する相談を上げて欲しい」と強く語られました。
また増田さんは西宮市地域自立支援協議会の権利擁護委員会の事務局を務められ、障害のある人の差別事例に関するアンケート調査を行ったが、学校や教育に関しての事例が少なかったことに触れられ、「・・・お母さん達の意識の中で、何が当たり前なのか、地域の学校に行かせるのは、この子にとって無理させていないか、親のエゴなのかと悩まれるお母さんもおられますが、本来は普通の中で生きるのが当たり前。当たり前の中で、どうすれば子どもがしんどくなく教育を受け、みんなと一緒に遊ぶ環境が作れるのか、そんな支援を受けるのが当たり前なんです」と話されました。
○基準や枠組みよりも、地域で当たり前に暮らせる支援を!
「本来、相談支援と言うのは、その方が、その家族が普通に当たり前に暮らしていくために、教育や福祉、医療の場面でも、決まり、基準は必要とは思うが、そこを越えて支援していけるか、その土台を作って行く、それが本来の計画相談になって行かないといけない」と話され、例えば、障害福祉サービスの利用にあたり行政が「ガイドライン」を策定しているが、このガイドラインに示されているのは支給量の基準であるにもかかわらず、障害がこの程度だから、福祉サービスはこれだけしか使えない、との流れになっている面があるが、「・・・ご本人の生活実態やしんどさ、同じ障害程度でもその人の心や環境で変わってくるので、枠組みやガイドラインの中で相談できないことは沢山あります。そこを協議してどう突破していくのか、突破していくやり方はみんな違う。私は相談というツールを使ってこれまで相対する関係機関と協議したりお母さんを支えたり、お母さんが気弱になって諦めていると、『そんなことはないよ』『言い続けても良い事よ』とか『やっぱり、ここだけは絶対に許してはダメ』とか、話ししています」と話されました。
○西宮の教育を変えていくためには・・・
保護者が就学先を決める、それには「・・・きっとその親御さんが出されるまでの悩みとか決めてきた事は計り知れないものがある」、しかし「聞いた所によると、西宮の適性就学指導委員会は、その子どもの事を全く知らない人が協議し、『支援学校希望』だと1~2分で決定されるそうです」と話され、畑中さんが話されたように、この子どもにとって何が課題で成長のためには何が必要なのか、までは議論されていない現状があり、まずそのような西宮の就学のあり方を変えていく必要性を話されました。そして「・・・この子がまず地域の中で、学校で生きていくことが当たり前なんだという考え方が気薄だということと、その子にどんな支援が必要なのかということを考えていく協議体が無いということと、あえて言えば、本人の事を多かれ少なかれ就学にあたって支援が必要な子どもに、どんな支援が必要なのかを考えて行くのであれば、普通なら就学前の年小さん年中さんから、ずっと保護者と専門職と呼ばれる人たち(隔離のための専門職でなく地域で生きていけるためには何が必要なのかを考える専門職)が寄り添い、幼少期から提案できる仕組みが必要なのかと思います」と話され、最後には「ぜひ、お母さん方もこのような勉強会に参加したり、意識を持って就学の事を考えて欲しい」と締めくくられました。
■特別報告/Kちゃんの学校生活~通常学級も当たり前になるように・・・
今春、西宮市の小学校に入学したKちゃん。お母さんから写真も用いて4月入学式からの学校生活を報告していただきました。医療的ケアを必要とするKちゃん、身体にも知的にも障害がありますが、看護士1人、学校協力員3人(交代)により登校してから帰るまで支援体制が組まれ、トイレなどの設備面、給食時、席替え、プール、校外学習、学習面、体育会そして情報共有など全般にわたって様々な配慮を常に保護者の意向を汲んで前向きに学校が実施している事、他の生徒ともしっかり交流でき元気に通学されている嬉しい報告がされました。その最後に、今後就学を迎える保護者に向けて話されましたので、以下要約して報告します。
○私もそうでしたが、「通常学級に行けるかな・・・」と考えてしまいますが、「行けるかな?」でなく、「どこに行きたいか」が重要です。まずどこに行きたいかを考えること。
○ついつい「ここに行ったら迷惑じゃないか」と思ったりしましたが、他人がどう思うかでなく、まず子ども本人の幸せを考える、子どもがここに行ったら輝かを一番に考えることが大切。
○早めに腹をくくって道を決める、そしてそれをみんなに言う。教育委員会の方向が違う場合にはすごい話し合いが必要になってくるので、時間が必要なので、早めに決める。
○周りの人に言いふらすと助けてくれる人がすごく来てくれる。迷っていると、1人だと流されてぶれるんですが、人に相談する。
○言いたい事は教育委員会や学校に伝える、言わないと伝わらない。私たちは障害児と共に暮らしているので、当たり前になっている事も学校は知らない、分からないことがたくさんある。伝えるとすぐ解決することも多い。
○権利条約や法律の知識を最低限、身に付けておく。これは本当に大切で、教育委員会に行った時も、「こう決まっています」と言われますが、そうじゃないことが結構あるので、それを条約や法律の事が分かっていたら、「それ違うんじゃないですか」と言える。言いくるめられる事が多いので、最低限の知識は要るかなと思います。
「・・・・最後に、色んな方々のお陰で子どもは楽しく学校生活を送る事が出来、本当に日々感謝しています。忘れてはいけないことがあって、今この時も希望する学校や幼稚園に行けていない子がいます。親の付き添いを求められている子もいます。希望する配慮が受けられない子もいます。今回のうちの子どものケースが小さな一歩になって、声を上げればちょっとは変わるんではないか、希望がかなう事もあるよ、という事を感じていただければありがたいなと思います。
他の人から『支援学校に行くの?支援学級に行くの?どっち?』と聞かれます。『通常学級に行く』と言う、『えっそうなん、すごいな』と言われます。子どもたちからも『この子、なかよしさん?』と聞かれます。私たちも子どもたちも心の中に、障害児はそういう所に行くものと勝手に思っている。そういう世の中です。通常学級も選択肢の一つだと強く言いたいし、何年後か何十年後かは分からないけど、通常学級も当たり前の選択肢なるような社会になればいいなと思います。そのためには子どもの事例を発信していきたいし、これからも頑張って行きたいと思います」と締めくくられました。
9月 1, 2016