国/県の制度 介護保障

【報告/解説】 兵庫県「高齢障害者ケアマネジメント充実強化事業」について

栗山和久(障問連事務局)

 

別項でも触れたように、「介護保険の適用関係~65歳問題」が大きな課題になっています。

改めて経過をたどるなら、自立支援法違憲訴訟の政府と原告弁護団との和解文書「基本合意」の中で「介護保険優先適用は廃止する」とされているにもかかわらず実施されず、今回の総合支援法3年後の見直しの中でも再び見送られたことが根本の要因です。「生活や身体面も何も変わらないのに、65歳になった途端、なぜ利用する制度を変えなければいけないのか」が、当事者の当たり前の実感です。

そのような情勢も見据え、昨年度オールラウンド交渉での回答にもありましたが、兵庫県としても介護保険の適用関係については重点課題とし、昨年度、兵庫県相談支援ネットワークに委託して「高齢障害者ケアマネジメント充実強化事業」が実施され、その報告書が県ホームページに公表されています。以下、報告書の解説と課題を述べていきます。

 

■求められる「本人中心」のケアマネジメントの展開

同報告書の一貫した基調は・・・「『その人らしい暮らし』の継続のためには、障害があったとしても誰もが生きる主体として尊重され、誰とどこで暮らしたいか、どういう暮らし(生き方)をしていきたいかについて意思表明していけるよう、本人中心のケアマネジメントの展開が求められている」とされ、報告書をまとめた「一般社団法人兵庫県相談支援ネットワーク」の代表理事は西宮の玉木幸則さんで、検討委員には西宮や阪神間で活躍される相談支援専門員の方々が名を連ね、とりわけ西宮市総合相談支援センターによる「本人中心支援」の実践に裏打ちされた内容となっている。また「地域により異なるといった現状を是正していくことも必要である」とされ、同報告書の目的の1つとしてとして「地域格差の解消」があげられている。

 

■財政事情を理由に拒む事は許されない

別項の「介護保障を考える会」報告にもあるが、神戸市では65歳になり要介護認定の調査をして「要支援」や「非該当」になった場合は、それまでにどんな障害サービスでの利用があったとしても一律で最大20時間という支給決定になり65歳を境に介護時間数が減り生活が大きく後退するという問題がある。このような制度運用に対して、同報告書では、国の通知においても示されているが、「心身状況や理由は多様」であり、「全てのケースに“一律に”対応可能な支給決定基準は存在しない」と改めて指摘し、「65歳になり生活の激変はあってはならない」、「一般的に65歳を境にサービス量が大きく変化することはありえない」、また「市町の支給決定基準等において障害福祉サービスの併用が認められるものとして、要介護区分・要支援区分を特定することは許されない。このような(要介護区分を特定した)支給決定基準は裁量権の逸脱にあたる」と強く指摘し、さらに以下のように自治体の誤った運用を批判している。

「制度の運営主体たる市町のスタンスの差により、実際のサービス利用が不可能な地域もある。このような地域差は看過されるべきものではなく、また、財政事情その他の市町の説明は制度の趣旨に照らしても合理性を欠くものである。近年の訴訟にかかる判決においても、1990年代以前とは大きく方向が異なってきており、まず勘案されるべきものとしてニーズがあり、この時点では誰がこのニーズ支援を行うかは問題ではない。このニーズの測定に基づき、誰がこれを行うかを判断し、自助・共助のみでこのニーズが充足されない場合には公的支援がこれを担うべきという順序である。このことからも明らかなように、最も重要な要素は『支援の必要性・必要量』であり、次に『支援の担い手』を考えるが、その結果としてなお残る支援が必要な部分については、公的支援が担うこととなり、行政が財政事情等を理由としてこれを拒むことは裁量権の逸脱にあたることとなる」とかなり踏み込んだ報告となっている。

 

■多角的な検討と各種サービス毎の考え方

同報告書では、利用者のよくある不安な点、介護保険のケアマネージャーや障害福祉サービスの相談員の疑問点、また両者の連携の重要性を繰り返し述べられ、【連携シート「私のしょうかい(障⇔介)シート】を詳しく紹介し、現場での活用を勧められている。

また、基本的に「類似サービス」は介護保険優先するとの基本は踏襲しているが、例えば身体介護や家事援助等の「居宅介護」は一見類似サービスとみられるが、介護保険/障害者総合支援法の細則を見れば・・・

○居宅介護

・自立観・・・【介護保険の訪問介護=「能力に応じた」自立】に対し【障害サービスの居宅介護=能力を問わない自立】の違い

・給付目的・・・【訪問介護は自立した「日常生活」】に対し【居宅介護は自立した「日常生活又は社会生活」】の違い

・・・等を指摘し、介護保険に移行しても「居宅介護」の継続はありえるとしている。

○重度訪問介護

居宅内での介護には一定の共通部分があるが、重度訪問介護は外出時の移動支援を含めその範囲は広く、また食事介助や家事等の個々の行為に焦点化して行われる訪問介護とは異なり、長時間の連続支援を基本とするものであることなど、全てを訪問介護で代替できるものではない。

○生活介護

基本、介護保険に移行するが、「生産活動を希望する場合には一律な移行は不適当」としているが、本人が希望するからと言って、「いつまでも生産活動に従事して良いのか」という観点からの検討が必要とされ、「65歳到達時の一律の移行はふさわしくないものの、時間をかけて本人の理解を求める等により、障害者である前に高齢者としてのふさわしい生活及び生活支援への移行を求めることが望まれる」とされている。

○短期入所

福祉型の短期入所については、ほぼ共通した内容であるが、医療型(病院・診療所・介護老人保健施設)の対象者のうち、遷延性意識障害者、筋萎縮性側索硬化症等の運動ニューロン疾患の分類に属する疾患を有する者及び重症心身障害者等に対する支援は短期入所療養介護では困難な場合がある。

また、全ての障害福祉サービスを列挙し介護保険制度との関係が表示されているが、就労系サービスや行動援護・同行援護は「明らかに介護保険には相当するサービスが無い」とし、グループホームは「外見上類似するが内容は異なる」とされ、さらに居宅介護・重度訪問介護・短期入所は「共通点はあるが障害の状況等により異なる支援が含まれる」とされている。

上記を基本的な考え方として示され、その上で、「介護保険事業所すべてが障害特性の理解や専門性があるわけではない」という環境面での実情も配慮すべきとされており、全般にわたって「一律」対応はすべきではないとされているが、具体的な運用面では「重度訪問介護」「生活介護」「短期入所」については、個別具体的なケースについては判断が分かれるだろうと思われる。

 

■残された課題

このように本人の希望や思いに寄り添った本人中心支援のケアマネジメントの重要性を繰り返し強調し、財政面を理由とした誤った一律の制度運用はあってはならないと厳しく指弾されており、障問連としても同報告書から多くを学びとって、加盟団体にも周知し、現場に反映して行きたいと思います。しかし、それでも、なお「利用者負担」の課題、冒頭に述べた根本的な問題については残された課題です。同報告書資料「兵庫県のリーフレット」には、以下書かれています。ぜひ優先原則を廃止し、選択制の実施を県にも求めたい。

 

〈兵庫県リーフレットQ&Aより抜粋〉

介護保険は保険制度なので、みんなで応分の負担をすることになります。制度維持のため必要ですので、ご理解下さい。なお介護保険を申請しない場合、障害福祉サービスを利用できなくなることもあります。


■最後に・・・

同報告書の「むすび」の言葉を抜粋して紹介します。思いが込められた文章です。

「・・・日々の業務の中で、相談支援専門員や介護支援専門員が誰の声に耳を傾けるかによって、目指す方向が変わってくる場合がある。もちろん、本人を取り巻く人たちや環境のことを知っていくことも大切ではある。

しかし、必ず本人の思いや希望を聞き、確認していくことで、何を大切にし、何をめざして行かなければならないのかということを忘れてはならないのである。こういう話をするときに、必ず言われることは、意思表示が難しい人の場合はどうするのかということである。しかし、生きている以上、意思表示をしていない人はひとりもいない。むしろ、周りがその人のことを意思表示のできない人と決めつけてしまったり、場合によっては、意思表示を感じ取る力のない支援者が、本人を蚊帳の外に置いたまま、支援を組み立ててしまうこともあったはずだ。しかし、これまで、結果的に本人不在の支援を行ってきたことに終止符を打っていかなければならない。そのためにも今後は、この反省に立ち、必要に応じて本人が主役の本人中心支援会議などを開催しながら、本人に関わっていく関係者で本人の思いや希望を確認しながら、その人らしい暮らしができるように応援していくことが大切である。

また、これまでは、障害のある人だけがエンパワメントしていくことが言われてきたが、本人が「地域で暮したい」とか「やってみよう」と思っているときに、相談支援専門員や介護支援専門員が「難しいよ」とか、「まだあなたを支えていく仕組みがないからもう少し待ってよ」とか「今の制度ではできないから・・・」などと言ってしまうと、折角の本人のやる気もそがれてしまうのである。しかし、これからは、本人中心の支援を進めていくなかで、本人が、「私はここにいてもいいんだ。このまちで暮していっていいんだ。私には、こんなに味方がいるんだ。」と思ってもらうこと。併せて、これからは相談支援専門員や介護支援専門員自身も「誰もが必ず地域で暮すことができる。私たちには、ソーシャルインクルージョンをめざしていく仲間がいる。だから、ひとりで抱え込まず、みんなで課題を解決していける。」という思いを持つことが必要なのである。本人中心の相談支援を展開していくためには、本人はもとより、相談支援専門員や介護支援専門員など他の支援者も共にエンパワメントしていくことが大切になってきている。」

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