女性障害者/障害女性 優生思想

【複合差別】 強制不妊手術問題が国連の委員会で取り上げられました

野崎泰伸(障問連事務局) 

すでにご承知の通り、国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)が、2月から3月にかけてジュネーブにある国連本部で開かれました。同委員会が日本に対して出した定期審査の最終勧告では、いわゆる「慰安婦」問題では前回勧告以上に詳細な記述があったのをはじめ、夫婦同姓や再婚禁止期間に対する民法改正を求めたり、マタハラやセクハラを防止する法整備を求めたりしました。

そのなかで、障害女性に対する複合差別問題も取り上げられました。下記記事にあるように、戦中の国民優生法、ならびに戦後の優生保護法下で「不良な子孫」を防止するための強制不妊手術に対して、日本政府に補償勧告がなされました。

また、3月14日付けのジャパンタイムスにおいても、英語で全世界に広く発信がなされており、非常に意義のある記事だと感じました。同記事は、DPI女性ネットワークの米津知子さんのインタビューも掲載しています。米津さんいわく、「いまだに本当に子どもを産みたいのかどうか尋ねられ、中絶を勧められすらする女性障害者がいる。障害者が子どもを持つべきではないと考える傾向を心に抱いている日本の人々もいる」と述べられています。優生保護法によって16500人が不同意のまま(強制的に)断種手術を受けさせられたこと、日本政府がこれらの被害者に対しなんら謝罪も補償もしていないこと、そしてこの最終勧告は、日本はこうした強制断種に関する調査を行い、実行した人々を罰するように命じたことが、インターネット上において英語で書かれています。

 

★胎児条項の導入も勧告されています

 

ただし、問題点もあります。CEDAWが出した日本政府への勧告のなかで、「胎児条項を設けろ」というものがありました。以下、関係する勧告文(*)を挙げます。

 

「女性と健康に関する一般勧告第 24 号(1999 年)、北京宣言及び北京行動綱領に則り、委員会は、締約国に以下のことを勧告する。

(a)妊娠した女性の生命及び/又は健康を害するおそれだけでなく、暴力、脅迫の行使や被害者が抵抗できたかにかかわらず、すべてのレイプの事案、近親かん、及び胎児の重篤な障害の場合に人工妊娠中絶を合法化すること、また、その他のすべての場合に人工妊娠中絶を非犯罪化すること。

(b)母体保護法を改正し、人工妊娠中絶を受けるために妊娠した女性が配偶者の同意を得るという要件を削除すること、及び、胎児の重篤な障害を理由として人工妊娠中絶を求められた場合には、妊娠した女性の自由かつ充分な情報にもとづく同意がなされることを確保すること。」

 

このように、人工妊娠中絶の合法化の要件として、レイプや近親かんと同列に、胎児の重篤な障害が挙げられてしまっています。もちろん、「望まない妊娠」の場合、妊娠した女性に産むか産まないかを決める権利があると考えられますが、障害の有無などのように、生まれてくる子どもの質によって産むか産まないかを決めることとは、また別のことであるはずです。

優生保護法の改悪、つまり、「胎児条項」の導入をめぐっては、70年代、80年代に、女性団体と障害者団体とが対立してきた歴史があります。結局は導入は見送られたわけですが、今回、CEDAWの勧告によって、政府が母体保護法に胎児条項を導入しようという運びになれば、また対立が再燃するかもしれません。私たちは、手を組むべき仲間であると考えます。胎児条項を導入させないためにも、こうした動きに注視する必要があるのではないでしょうか。

 

(*)女性差別撤廃委員会 第7次・第8次日本定期報告に関する総括所見(PDF)

http://imadr.net/wordpress/wp-content/uploads/2016/03/feb26fb505bc453e288142ef32582eb4.pdf

 

■<国連女性差別撤廃委>障害理由に不妊手術、政府に補償勧告

毎日新聞 3月12日(土)19時38分

http://mainichi.jp/articles/20160313/k00/00m/040/022000c

 

国連の女性差別撤廃委員会が今月公表した対日定期審査の「最終見解」は、優生保護政策で障害を理由に不妊手術を受けさせられた人への補償を日本政府に勧告した。国内の女性障害者や支援者は最終見解を歓迎し、政府に履行を求めている。

最終見解は「不良な子孫の出生防止」として障害者らの不妊手術を認めていた旧優生保護法下、約1万6500人が本人の意思によらず手術を受けさせられたとされるのに、政府が補償や謝罪をしていないことを問題視した。「実態を調べ加害者を訴追し、全ての被害者に法的な救済や補償を提供する」よう勧告した。

「DPI女性障害者ネットワーク」(東京都)のメンバーはスイスで、委員会の2月16日の審査を傍聴した。神戸市の視覚障害者、藤原久美子さん(52)は自身が医師に妊娠中絶を勧められた経験を踏まえ、今も月経や妊娠、出産を周囲から疎まれる女性障害者がいることなどを委員らに説明した。

この問題で国連組織が補償を具体的に勧告するのは1998年の人権委員会以来。優生保護法は96年に母体保護法に改正され障害者に関する規定は削除されたが、その後も子宮摘出などの例はあるという。藤原さんは最終見解について「98年勧告より踏み込んだ。政府は調査や謝罪、補償をしてほしい。そうでない限り障害者が安心して出産できる社会にならない」と訴える。

優生保護政策に詳しい市野川容孝(やすたか)・東京大教授(社会学)は「優生手術を当然視して携わった福祉関係者らが存命していることもあり、日本社会は問題と距離を取れずにいる。実態を調べ、国への働きかけを続けたい」と語った。【林田七恵】

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