生きる場/作業所

グループホーム問題

■これまでの経緯

知的障害者が親亡き後も地域で暮らせるようにと、グループホームを新設する団体が全国各地にある中、各自治体の建築部局が建物への適用基準を厳しくしたため、せっかく取得した物件が使用できなくなるという事態が起きています。

障問連としても、昨年のオールラウンド交渉においてグループホーム問題は紛糾しました。建築安全課からは文書で回答をいただきましたが、「建築主事個人に命の問題の責任をおわせるわけにはいかない」と、防火ばかりが問題にされており、議論が平行線のままになっていました。そこで、今回初めて建築部局との直接対話が設定されました。

 

■NPO法人チャレンジ東灘からの要望

5月18日(金)午前10:00から2時間ほど話し合われました。神戸市側からは都市計画総局建築指導部・建築調整課、建築安全課、安全対策課から計5名、そして障害福祉部自立支援課の塩見さん。こちらの参加者は社会福祉法人シティライト、NPO法人チャレンジ東灘から3名、社会福祉法人えんぴつの家の理事長・事務局長、そして障問連事務局である田中・星屋・十亀3名です。NPO法人チャレンジ東灘は今回初めてお会いしましたが、別掲の新聞記事に活動が紹介されており、当日、以下のように切実な実態を訴えられました。

「・・・メンバーの一人は親を亡くし、一人暮らしをはじめています。親は高齢者になり、知的障害者である子どもをかかえて不安です。すべて管理された環境で過ごす施設には入れたくない、自立生活ができるケアホームをつくりたいとの思いでいます。市営住宅には入れず、一般の物件を借りても住民の反対に遭って設立できず、3階建ての物件は寄宿舎用途にされて改修できず、計画はとん挫しました。そこで、土地空いてるんだから六甲アイランドでもいいということで、資金を集めて土地を購入しましたが、やはり資金不足で悩んでる最中です。挫折感をかみしめながら、それでもやってる現実があります。障害者が地域で普通に暮らしたいという気持ちを、神戸市としてどう考えますか?チャレンジ東灘は設立10年目を迎えました。神戸市の障害者福祉は、北区のしあわせの村に集約されるなど、東灘には行き届いていない状況です。それでも住み慣れた地域で、東灘で住みたいというのが、メンバー全員の考えです。お知恵を出して下さい。」

 

■交渉内容と今後に向けて

当日の話し合い内容を下記に紹介します。記録メモを下にまとめましたが、発言内容についてご本人に確認していないことをご了解下さい。

地域移行や地域生活の実現にはグループホームは不可欠です。しかし「東部問題」と同様に地域偏在があり、地域の中での小規模なホームの実現は必要です。何より神戸市の障害者計画や施策推進会議でもホームの不足は大きな課題として上げられています。施策を推進する神戸市として部局を越えた判断が求められます。

話し合いの最後、建築指導部からは1カ月後に回答すると約束され、6月末に事務局から連絡した所、「まだ回答できない」と言う。それではいつ回答できるのかと聞くと、「いつ回答できるかを部内で検討したい」とのこと。時間をかけ神戸市が前向きに検討する事を期待しますが、障問連としても今年度オールラウンド交渉の大きな課題として、要望書提出時に時間を取って話し合いたいと思います。

 

●「住宅」と「寄宿舎」の違いは人数?血縁?

建築安全課  

熊田課長

建築基準法の「用途」基準について、障害者グループホームに「住宅」を適用するなど柔軟に対応しているのは福島県のみ。他の都道府県・市町村を調べると、ほとんどは「寄宿舎」等の特殊建築物として取り扱っており、神戸市としても「寄宿舎」と考えます。「寄宿舎」は防火・避難の点で「住宅」と違います。「寄宿舎」は、学生寮を想像してみるとわかるように、いろんな人がいます。「住宅」よりも「寄宿舎」の方が人数が多いという規定もありません。 

 

えんぴつの家
神戸市でも、グループホームは定員4~5名という小規模が多く、とてもアットホームです。血縁関係がなくても家族のように共同生活をしています。 

 

 

神戸市におけるグループホームの定員数別件数 2011年(平成23年)4月

定員

知的障害 精神障害 知的&精神
2 1 1
3 2 4 6
4 26 5 15 46
5 8 4 2 14
6 2 2 5 9
7 1 1 2
37 14 27

78

 

●見解を求められたことがない

自立支援課  

塩見さん

そうは言っても、グループホームにも自立支援法の報酬があるんだから、何でもいいわけではありません。安全確保するべきです。 

 

建築調整課  

木下さん

グループホームに4~5名という小規模タイプのニーズがあるという認識がなかったし、そのことについての見解を求められることもなかったと思います。 

 

障問連事務局 一昨年までは「住宅」で通りましたが、去年から突然「寄宿舎」用途を求められるようになりました。せっかくおさえた物件も解約せざるを得なくなって、必至にまずいと思っています。おカネ貯めた、人育てた、やっとマラソンのゴールが見えてきたところで、はい、あと50km先なんて言われてるようなものです。命が大事だと言いながら、告知も経過措置もなくてひどい。モノサシの解説をしてください。国は自治体の建築主事に投げてる状態です。モノサシを公に示してるのは福島県だけです。なんとか知恵を絞りましょう。 

 

建築安全課  

熊田課長

ここを直したら認めることができるという相談になるので、いっしょに考えていきましょう。グループホームを「寄宿舎」用途とする見解を変えてくれという話は、いっしょに考える話し合いの過程で起きるかもしれません。 

 

 

戸建て住宅を活用する「グループホーム等」の建築基準法上の取扱い

福島県土木部建築指導課

平成21年7月1日より、戸建て住宅を活用するグループホーム・ケアホーム(以下、「グループホーム等」という。)の建築基準法上の取扱いは、当該建築物が一般的な住宅の形態となっており、以下を全て満足する場合において「住宅」として取り扱うこととします。

なお、この場合は、グループホーム等を計画する段階において、下記の建築基準法所管行政庁と裏面の「建築基準法上の取扱いに関する所管行政庁との協議書」により協議を実施し、当該協議書をグループホーム等の指定申請等に添付してください。

また、消防法、都市計画法等の他法令に基づく取扱いについては、当該法令の判断によりますので、関係機関と必ず協議を実施してください。

 

<住宅と取り扱う場合の基準>

ア 既存住宅を活用する際、当該建築物が適法な状態(既存不適格を含む)であること。

イ 既存住宅を活用する際、構造耐力上の危険性が増大しないこと。

ウ 階数が 2 階以下(地下を有しないこと。)で、延べ面積が 200 ㎡未満のものであること。(別棟を除く。)

エ 各寝室から廊下、階段及び屋外通路を経て道路等の敷地外の安全な場所に避難できる構造であること。

オ 原則として、定員が浄化槽処理対象人員を超えていないこと。

カ 消防法に基づき、住宅用火災警報器を設置していること。

 

●建物の構造上の違いは?

建築安全課  

熊田課長

「寄宿舎」用途となる条件は、建物の構造、食堂・浴室の共用なのであり、障害のない方でも「寄宿舎」と判断します。 

 

えんぴつの家 やはり見解を変えてもらいたい。「寄宿舎」ではなく、「専用住宅」にすべきです。えんぴつの家はこれまでにグループホームを5件設立してきました。直近のものは定員7名の「くにか」。用途は「住居」で1階は就労継続支援B型。鉄筋コンクリートで2010年10月に新築したものです。 

 

障問連事務局 「共同住宅」はどうですか?地域で暮らしたい障害者は、市営住宅や県営住宅でのグループホーム設立を夢みています。 

 

建築安全課  

熊田課長

「共同住宅」の部屋をグループホームにすると部分的に「寄宿舎」になるが、あまり変わらない。それに、公営住宅はほとんどの部屋が70㎡以下です。 

 

自立支援課  

塩見さん

居室の広さは最低7.34㎡ですから4畳半以上の広さというのが国の基準。神戸市の建築安全条例では、総面積100㎡以上で確認申請が必要とされます。廊 下幅は90cm以上、部屋の扉が両サイドにある廊下は120cm以上の幅が必要になります。公営住宅は共同住宅だから寄宿舎に近いものです。広さ70㎡以 下がほとんどですから、建築部局がOKなら自立支援課もOKなんですが。
 

 


 

 

 

●神戸市としてどうするか?

えんぴつの家 基準をどう満たすかという話にしかなってない。国がOKしたら認めるでしょ?自分たちがどうするのかという基準がないじゃないですか。 

 

えんぴつの家 障害者制度改革推進会議第20回において、国土交通省に対して質問がなされ、同省からは、第21回会議資料として「建築基準法上の用途については建築主事等が個々に判断することになるが、食堂、便所、浴室等が1ケ所または数カ所に集中して設けられているグループホームやケアホームについては、原則として、寄宿舎として、取り扱われている。」旨の文書回答がなされた。それなのに、神戸市の建築主事は国の見解に合わせてるだけ。市はどう考えますか? 

 

自立支援課  

塩見さん

市職員としては、通達などではなくても国の見解は重んじられ、これと異なる態度を示すには勇気がいります。 

 

●告知も経過措置もないのは何故?

障問連事務局 火災で死者が出ると大きく報道されてしまう。常日頃から火災のほとんどは一般住宅で起きてるのに、グループホームだと例え小さな火災でも大きなニュースにされかねない。しかし、当事者たちは火事で死にたくないという思いだけではなく、一家心中で親に殺されたくないという切実な思いがあります。国の見解待ちどころではない、ヒリヒリした状況なんです。老々介護に疲れて一家心中という事件が後を絶たないのをご存じでしょう。グループホームに住みたいという夢と希望が、建築部局につぶされて結果的に死ぬかもしれないのです。どうして、告知も経過措置もなく昨年になって突然、グループホームを「寄宿舎」用途にされたのですか!?昨年から手堅くやりすぎじゃないですか?無難に切ろうという態度にしかみえない。 

 

建築安全課  

熊田課長

建築部局は、建築基準法、関係法令および条例を扱っている者の集まりです。どう扱うべきか検討しています。

 

●かつて神戸市はグループホームを「家」だとしていた

えんぴつの家 かつて厚生省が知的障害者のグループホームを4~7名程度の小規模なものとする規定を出す前に、神戸市は独自の規定をつくっていました。当時の担当者はツネミさんで、社会福祉法人まほろば、社会福祉法人えんぴつの家に対して、建物には「グループホーム」という看板もかけずに、そのまま「家」として居住してくださいと言われました。現在、厚労省は1ユニットあたり2~10名という規定を示し、2ユニットでも3ユニットでも認められるとしていますが、小規模グループホームについては緩和するという考え方でどうでしょうか?人数によって建築基準法の用途適用を緩和するということで。建築部局内部で考え直してください。 

 

建築調整課  

木下さん

建築基準法には定員で分ける考え方がありません。 

 

建築安全課  

熊田課長

従来から検討しています。引き続き検討していきますが、どうなるかは言えません。 

 

 

●障害者が「住宅」に住めるようにする努力をしてください

えんぴつの家 グループホームを見に来てください。鷲尾さんは見に来られたことがありましたが、どう思われましたか? 

 

建築調整課  

鷲尾さん

はい、4~5名の入居者がおられるグループホームを拝見し、一般住宅だなと思いました。しかし、内部での助け合いと外部サービスの利用という点で一般との違いが・・・・・・ 

 

えんぴつの家 それは居宅サービスを利用する在宅といっしょ。 

 

建築調整課
 

木下さん

もしも何か事故があった際に、どうして厳しく「寄宿舎」用途にしなかったのか?と問われるかもしれません。 

 

えんぴつの家 もっと厳しくすれば安全だという発想になっていきますが、そうすると障害者が普通の住宅で暮らすことができなくなります。 

 

建築調整課  

木下さん

障害者のみなさまが住宅に近いものに住めるようにする必要がありますね。 

 

えんぴつの家 そうです。地域で普通に暮らしたいと望む障害者が住めるようにする努力を問いに来たのです。 

 

建築調整課  

木下さん

建築部局としては安全を優先しますが、個人的には福祉のことも考えたいと思います。 

 

えんぴつの家 かつて神戸市バスが障害者の乗車を拒否した問題でも、同じことを言われました。どう思うんですか?はっきりしてください。 

 

建築安全課
熊田課長
わかりました。私が神戸市の建築主事です。結論はすぐには出ませんが、検討します。

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