労働問題 知的障害

【知的障害/労働】 成年後見制度を利用すると公務員をやめさせられるの?!

知的障害を持つ吹田市の職員、塩田和人さんは、父親が病気となったことが理由で、成年後見制度を利用し保佐人をつけました。しかし、保佐人をつけたことで、地方公務員法の欠格事項に該当するとされ、再任用を拒まれたのです。

塩田さんの障害に変化が起きたわけでもありません。昨今では、福祉のほうでは後見人制度の積極的な利用を呼びかける声すらあります。知的な障害のため、意思能力が低く、生活に不便を余儀なくされるなら、そのような能力を補うという支援を受けることは、当然の権利であると思います。それにもかかわらず、保佐人をつけたことによって「何もかもができなくなった」という偏見のため、塩田さんは失職してしまったのです。そのことで、塩田さんと支援者は、裁判を起こしました。以下がその記事です。

 

■「成年後見で雇用拒否は違憲」 元吹田市臨時職員が市を提訴

日本経済新聞 2015/7/25 1:57

http://www.nikkei.com/article/DGXLASHC24H6H_U5A720C1AC8000/

成年後見制度の保佐人を付けたことを理由に再任用しなかったのは「違憲」などとして、元吹田市臨時職員の塩田和人さん(49)が24日、同市に地位確認や慰謝料を求める訴訟を大阪地裁に起こした。保佐人が付くと職員になれないとする地方公務員法の規定は職業選択の自由を保障する憲法22条などに違反するとしている。

訴状によると、塩田さんは生まれつき知的障害を抱え、高度な判断を伴う契約などは困難という。2006年6月に同市に臨時職員として採用され、人事課でパソコン入力業務などを担当していた。身の回りの世話をしていた父親が重病となり、11年に保佐人を付けた直後に地方公務員法の欠格事項に該当するとして再任用を拒まれた。

その後、欠格事項に該当しない補助人に変更することで半年間だけ再任用されたが再び失職。塩田さん側は「公務員として働く機会は障害のない人と等しく保障すべきだ」などと主張している。

同市の岡本善則総務部長は「訴状が届いておらず現時点でコメントできない」としている。

 

以下、塩田さんを応援する集会報告、「サポートユニオンwith YOU」さんからの転載です。

 

■塩田和人さんの吹田市復職と欠格条項訴訟を応援する集会報告(2015/9/23@吹田メイシアター)/復職・欠格条項第1回裁判 2015/10/5 1310 大阪地裁

http://urx2.nu/oX71

吹田市への復職の思いを語る塩田和人さん

・今でも、朝夕の通勤のとき、吹田市役所のタッチしている。

・吹田市での仕事は楽しかったし、嫌なことは一つもなかった。

・仕事とは、お金をもらい自分らしく生きていくためだ

・吹田市で仕事をしスキルアップしていきたい。

 

〈塩田和人さんの雇い止めの経過〉

2006/6/1   吹田市役所臨時職員として任用(パソコン入力・6年間無遅刻無欠勤)

2011/4/19  吹田市のアドバイスで成年後見人制度の「保佐」開始審判確定(大阪家庭裁判所)

2011/6/1   吹田市任用更新をせず雇い止め

2011/10/28 欠格条項に該当しない「補助」開始審判確定(大阪家庭裁判所)

2011/12/1  吹田市臨時職員として任用(6か月期間限定)

2012/6/1   吹田市任用更新をせず雇い止めにより現在に至る

2012/7/24  大阪地方裁判所に復職・欠格条項憲法違反の提訴

 

〈公務員選考・欠格条項・地公法16条・地公法28条〉

「成年被後見人又は被保佐人」「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者」「当該地方公共団体において懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者次に該当する者」などは、条例で定める場合を除くほか、職員となり、又は競争試験若しくは選考を受けることができない。(16条)また、16条の事項に該当するに至つたときは、条例に特別の定がある場合を除く外、その職を失う。

※「欠格条項」・・・禁治産者(心神喪失によって家財管理できない者)とされていたが、2000年以降、成年後見人制度に改められた。どちらも差別的条項であり、憲法および障害者権利条約の違反である。

※「選挙権」に関して、裁判によって、2013年選挙権を回復することができた。(「ダウン症」である名兒耶匠さんの選挙権回復訴訟)

 

〈基調講演・・・障害者権利条約と欠格条項(東俊裕弁護士)〉

★あらたな視点(欠格条項を適用する行為が正当化される事由があるのか)

①成年後見制度において問題とされるのは財産管理能力。

②財産管理能力が不十分であったとしても、労働能力も同じであるとは限らない。

③労働能力について考査ぜず、「被後見人もしくは被保佐人」の審判を受けた者を一律に働く資格を奪うのは、適切な手段ではない。

④塩田さんは、これまで何年も働いてきた実績があり、被保佐人の審判を受けたからと言って、労働能力に変わりはない。

⑤成年後見制度を利用したのは、周囲の支援者(父親)の状況変化によるもので、本人の労働能力に変化があったからではない。

⑥そもそも障がい者の権利を保護する成年後見制度を利用したからといって、塩田さんの不利益になる手段として利用するのは制度の趣旨に反する。

⑦雇用促進法は、どのような障がい者であれ、公的部門には民間部門以上に障がい者を雇用することを求めている趣旨からしても、この件は正当な理由があるとは言い難い。

★障害者権利条約における労働・雇用のあり方

①権利条約は、障がい者にも労働の機会を権利としてあるということを確認している。これは、権利としての働く機会を積極的に否定するような法制度を禁止していると考えるべき。

②この権利を前提に、障がい者の就職、就労継続、職場復帰の求めているのであって、雇い止めを容認してはいない。

③民間部門とは異なり、公的部門においては障がい者を雇うことは義務となっている。このことからすれば、一定の障がい者を公的部門の雇用の機会から排除する欠格条項の存在は、権利条約に違反する。

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