【報告】 「障害者の介護保障を考える会」第1回例会報告
【報告】 「障害者の介護保障を考える会」第1回例会報告
障問連事務局
さる5月24日、「障害者の介護保障を考える会」第1回例会が、神戸市立心身障害福祉センターにて開かれました。16名(うち弁護士4名、介助者のべ4名)の参加者がありました。
はじめに、実態調査に向けた報告と話し合いがなされました。5月20日に、配布資料としても出された調査票、依頼文の印刷がなされました。調査の進め方、協力事業所一覧について、客観性を保ちながらどのように進めていくのかについて議論されました。事業所の全利用者分を配布するが、回収できる利用者のみでかまわない、また、訪問系/外出・移動支援に限った事業所で、会のメンバーとよく知った事業所に限定してもよいのでは、といったことが確認されました。さらに、配布・回収方法についても、面識のない事業所に郵送するより、すでに面識のある事業所に説明して利用者に回答していただけるようにお願いすることが確認されました。
当日、最もていねいに時間をかけたのが、個別事案の解決に向けた、個別ケースの議論です。プライバシーの問題もあるため、詳細に述べることはできませんが、たとえば、今回は弁護士の方々に以下のようなアドバイスを受けました。
①介護支給量に不服があれば、変更申請はいつでもできます。
文章で、変更申請の書類であることも明記すべき。本決定後であろうが、不服があれば申し立ててよい。
②非定型の支給決定について、市町村は「意見を述べることができる」となっているだけであり、そこに法的拘束力はありません。
③市と区があるところは、区に支給の裁量権があるため、区の担当者が慣れていないとしても、かならず区に説明させてください。
④インターネット上の「区分判定シミュレーションソフト」や「認定調査員マニュアル」を活用し、行政側が法の適用を誤っていれば指摘してください。
⑤全介助/一部介助/介助不要という場合、調子が悪いときに合わせさせてください。
たとえば、「手すりがあれば立位可能だが、外出先や体調が悪いときは立てない」といった場合、「立てない」とみなす。これは総合支援法の適用内。過去の名残で中間に判定している場合もあるが、それは法運用がおかしい。
⑥窓口の水際作戦(支給量の変更申請をそもそも受理しない、文書なしで申請を却下する、など)は違法なので、おびえることはありません。
⑦これは全体について言えることですが、行政も法律によって動いています。そのことをよく理解したうえで、更新理由などは、かならず書面を提出し、そして書面で回答させてください。この業務を、手間がかかるため行政側はやりたがらないのですが、これは行政手続法に記載されている義務なので、行政はしなければならないことなのです。
当日の議論でもありましたが、どこから弁護士の方々に応援いただくかは、当然個別によって違ってきます。支給量決定をめぐる行政交渉の段階から弁護士に入っていただく「弁護団方式」を採る方もあれば、当人と運動団体、行政との粘り強い意見交換をしているところなどは、弁護士が仲介することでの関係悪化を気にされる方もおられます。各々の事情を踏まえつつ、また、今後の議論の進め方も最後に話されましたが、いずれにせよ、介護保障問題で困っておられる当事者の方はおられますので、引き続き今後も弁護士の方々の協力を得つつ進めていくことが確認されました。
次回例会は6月27日(土)、13:30~16:30予定、場所は未定です。詳細は「障害者の介護保障を考える会」ブログでご確認ください。
・ホームページ:http://kaigohosho.jimdo.com / ブログ:http://kaigohosho.hatenablog.com
以下、札幌で介護保障訴訟を闘われている鬼塚さんの判決(札幌高裁で不当判決)に対する、「考える会」にもかかわってくださっている長岡さんのコメントです。
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4月24日、月720時間以上の重度訪問介護の支給を求める札幌鬼塚訴訟の控訴審判決期日がありました。結果は、札幌市の言い分をほぼ全面的に認める不当判決でした。
平成24年7月の一審敗訴判決以来、これを覆すべく、当事者、支援者、弁護団一丸となって頑張ってきましたが、力及ばず残念です。
高裁判決は、「総合支援法及び施行規則は、勘案事項のみを定め、これを考慮する以外には、目的(1条)及び基本理念(1条の2)並びに市町村等(2条)及び国民(3条)の責務を定めているのみであり、実際の支給量の決定については、市町村の裁量に委ねられており、そこにおいて、財政事情を全く考慮に入れないことは不可能」などとして市町村の広範な裁量を認めました。
また原告の鬼塚さんは、不随意運動、てんかん発作(毎日)、睡眠時無呼吸症候群などのため常時介護が必要なのですが、札幌市は一部の最重度障害者を除き、月330時間(平成25年4月以降は540時間)を上限とする基準を設け、これに従って鬼塚さんにも月330(平成25年4月以降は540時間)の支給量しか認めず、残りの時間は生活介護や短期入所で賄うべしとしてきました。
札幌高裁はこのような市の取り扱いについても、「当該障害者の生活スタイルの希望を常に完全に叶えることが総合支援法乃至自立支援法の趣旨目的であるとは解されないし、控訴人がどこで生活するかの決定を福祉サービスによって実現されることが常に保障される基本的人権であるとまでは解されない」などとして、市の裁量の範囲内であるとしました。
日本も権利条約を批准し、そこでは地域社会で暮らす平等の権利がうたわれ、障害のある人も障害のない人と同じように、どこで誰と生活するかを自ら決定できるとされています。しかし、高裁判決では、このような障害者の基本的人権に対する理解が全く見られません。弁護団の力不足であるといわなければなりませんが、残念です。嘆いていても仕方がないので、今後、このような札幌高裁判決を乗り越えていかなければなりません。
・上告
鬼塚さんは「あくまで地域生活にこだわり、裁判を続けたい」と言っており、本件は最高裁判所に上告予定です。
・個別事例を通じての巻き返し
支給量案件に関しては、今回の札幌高裁判決のほか、障害者の地域での自立生活を支援するという自立支援法の目的(1条)を重視し、支給量は一人ひとりの事情に即して決められるべきとし、個別事情を積み上げて支給量を導き出し、和歌山市の決定を取り消した和歌山石田訴訟大阪高裁判決があります。
不当な高裁判決と評価できる高裁判決が併存している形です。
今回のケースは今のところ残念な結果ですが、これも一つの事例判断に過ぎないともいえます。
大阪高裁判決のような判断こそをメインストリームにすべく、引き続き支給量案件に取り組んでいけたらと思っています。
・運動
今回の高裁の判断を見ると、改めて障害者の地域で暮らす権利は、現状の総合支援法の規定では十分保障されないということが明らかです。基本合意文書や骨格提言の趣旨を踏まえ、総合支援法の規定に「地域で暮らす権利」をはっきり明記することが必要です。
そのためには、当事者による大きな運動が必要であり、弁護士としてもそこへ連帯していきたいです。
弁護士 長岡健太郎
6月 1, 2015