女性障害者/障害女性

【複合差別】 性暴力被害と女性障害者

【複合差別】 性暴力被害と女性障害者

藤原久美子(自立生活センター神戸Beすけっと)

 

性暴力とは、性的要素を含んだ暴力を使い相手を傷つけることで、DVや強姦といったものだけでなく、痴漢やセクハラ、ポルノなどもそれに当たる。

現行法では妊娠の可能性があるものは強姦、その可能性がないものはわいせつ行為となっていて、例えどんなひどい被害に遭っても、被害者が男性の場合は強制わいせつとなる。

被害者は身体的にもだが、何より尊厳を傷つけられ、その後の人生に大きな影響を受けることから「魂の殺人」とも例えられる非常に深刻な犯罪であるのにも関わらず、被害者が告発しにくい状況が更に問題を深刻化する(平成24年度被害態様別被害の過去5年間の申告率18.5%)。ゆえに時効があることや、申告罪であることに異論を唱える声も上がっている。告発しにくい原因として、一つは被害者側の落ち度ということがしばしば言われる風潮である。「挑発するような恰好をしていた」といった思い込みが社会にあることで、本人もまた「自分がうかつだった。悪かったんだ」と思わされてしまう。しかし、加害者がなぜ被害者を狙ったかについては「おとなしそうだった」つまり抵抗したり、騒いだりしないだろうという非常に冷静な判断があるわけで、挑発されて衝動的に犯行に至ったわけではないことがわかる。これはDVについても同じようなことが言える。妻子に暴力をふるう夫は普段から非常に暴力的な人というイメージがあるが、実は普段は立派な紳士が、見た目にわかるようなところに傷をつけない、言葉での暴力で尊厳そのものを傷つけ、被害者側がその場を立ち去る気力さえ奪ってしまうというものが多い。いずれの場合も加害者は冷静に計算し、コントロールしているのである。

そして被害者はそのことを一刻も早く記憶から消し去りたい思いから、証拠を自ら消してしまう。その時来ていた服を処分したり、すぐに病院や警察に相談に行かなかったりする。そして意を決して裁判に持ち込んでも、立証しにくいということが多い。

本人にとって非常につらい出来事を細かく聞かれて思いだし、精神的につらい立場に立たされていても、結局証拠がないという理由で不起訴となってしまう。被害者が抵抗したかどうかというのが問われることも問題だ。当時15歳だった少女が「声をあげて助けを呼ばなかった」ということで合意とみなされた事例がある。これをそのまま障害のある人に当てはめられたら厄介である。視覚障害者にとって、凶器をもっているかどうかもわからない相手に抵抗するのはかなり勇気がいるし、肢体不自由で抵抗が不可能ということもある。実際それが適用された事例もある。

最近は障害女性によらず敗訴となる裁判事例が相次いでいて、状況は後退している。

2011年の第2次犯罪被害者等基本計画において設置促進が明記され、大阪などに設置されてきた「性暴力被害者支援センター」は、昨年神戸市内にも設置されたが、今年4月名称を「性暴力被害者支援センター・ひょうご」として、尼崎市にある県立塚口病院の敷地内に設置されるとのことである。

ここは医療機関とも連携し、被害者が病院に駆け込んできたときに医者が証拠を採取し、また72時間以内であれば高い確率で避妊できるピルを服用してもらうようにできる。先駆けとして阪南市にあるSACHICO(サチコ)が有名だが、全国的にみても支援センターは少ない。「促進する」と書き込まれたが、そこに予算はつけられず、各自治体に任されていることが問題である。しかし被害者と支援者を守る意味でも、病院内にあるというのは重要で、全都道府県での設置が望まれている。

3月19日(木)に参議院議員会館で「性暴力被害の実態に即した法制度整備に向けて」院内集会が開催されたので参加してきた。

2014年11月に法務省内に「性犯罪の罰則に関する検討会」が立ち上がり、被害者に対する重大な被害と裏腹な罰則の軽さ(強盗殺人罪より強姦殺人のほうが罪が軽い等)、そのことが犯罪を野放しにしていること、そして包括的な法整備、例えば「性犯罪禁止法」といった法律の実現に向け企画された。被害当事者や支援者が集まり、議員の参加は7名、法務省の職員2名が熱心にメモを取りながら集まった人たちの声を聴いていた。

自分も被害に遭い、これ以上被害者を増やしたくないという思いで、フォトシャーナリストとして社会に訴え続けている女性は、「子供の時からずっと、『痴漢に注意』ということを言われてきた。一方、短いスカートをはいて戦うプリキュアを可愛いと観て育つ女の子たちがミニスカートを着て歩いてるとそこを責められる。最近はやっと『痴漢は犯罪です』と言われるようになったが、被害にあうほうが悪いのだという風潮を変えていかなくてはいけない。」また「処罰を重くすればそれでいいのか?重くして刑期が長くなればなるほど社会復帰の機会が奪われ、結局再犯に至ってしまう。それよりアメリカのように、加害者を公表し、GPSをつけるなど管理するようにしたほうがいい。人権の問題も言われるが、それは一生涯続くものではなく、3~5年の期間が設定される。被害者は一生傷を負い続けるのだから」。またSACHICOで支援している方からは、「本人は夜中や休みの時に電話をかけてくるので24時間対応にしている。家族からの相談も多く、68%が未成年の被害者の親族、また被害者が高齢者の場合もある。認知症などで本人が被害を忘れてしまう。認知症によらず、1回だけの被害なら思い出せるが、日常的に繰り返されている場合、被害に遭った回数や細かいことは思い出せない」。そして若い女の子たちを支援している方からも報告があった。「彼女たちは被害に遭っているということもわかっていない。特に性風俗の世界では法律と実態が違う。調査したところ369人中249人が恋人など顔見知りからの被害である」とのこと。また別の婦人養護施設で支援している人からは、「子供の時から成人近くまでずっと親族から性虐待を受け、その親族が決めた別の男性と未成年で結婚させられた女性は、最初支援施設に来たときは、もう『人間』ではなかった。その人を社会復帰させるまでに15年8か月かかった。現在は売春防止法の範囲でやっているが、急性期だけでなく、中長期で支援が必要な人の予算もつけるべき。」等々貴重な現場の声が聴かれた。

前述の検討会で今後も審議されていくそうだが、参加した高木美智子議員によると、夏までにとりまとめを行うとのことで、これらの声を踏まえ、真に被害者が救済される仕組みを伴った早期立法や刑法改正が望まれる。と同時に司法の側にも改革が必要である。

最後に会場発言も許されたので、私からは障害のある女性の現状について話した。

現在の救援施設を障害のある女性や少女が活用できるのか、という視点で見た場合、まず相談窓口が電話か面接のみとなっている。これでは聴覚障害者はアクセスできない。面接の場合も、手話通訳者は待機させていない。自分で連れていくとなると大概顔見知りの通訳者となる。こういった犯罪はあまり人に知られたくない、恥ずかしいという気持ちがあるので、単なる通訳者と利用者の関係で知られてしまうのは、女性にとって高いハードルになる。加害者が親族や知人の場合、通訳者が加害者の側も知っているという可能性もある。せめてFAXやmailでの相談も受け付けられるようにしてほしい。当然相談窓口設置場所のバリアフリーも必要である。またこういった支援があるという情報提供の方法も考えてほしい。点字で書いたものをトイレの個室に置かれても、点字はそこにあるとわかっていないと触らない。特にトイレなど、不必要に触ったりしない。そもそもこういった女性救済のための施策に、障害のある女性が想定されていないことが問題である。一般的に障害者は性のない存在のように考えられ、このような犯罪に巻き込まれることはあまり想定されていない。しかし2011年にDPI女性障害者ネットワークが行った聞き取り調査では、実に35%の女性が何らかの性被害に遭っており、実際に性暴力に合った事例も明らかになっている。しかもそれは彼女たちが容易に立ち去ることのできない生活の場で起きていることが多く、日常的に繰り返されていることもある。例えば、やっと契約社員として就職できた職場の上司からとか、普段介助してもらっている義理の兄からとか・・・。意を決して上司と会社を訴えた女性は、最終的には会社を解雇され職を失った。障害のある女性にとって職を失うということがどれほど重大なことか、容易に想像できる。だからほとんどの人は口外すらしない。自分が話せば家族が崩壊する、自分を介助する人がいなくなるから自分の居場所もなくなってしまうという恐怖がある。特に地方に行けば例え名前を隠していても、○○障害で○○に住んでる人というだけでも、誰なのかすぐ特定できる。このような環境では安心して被害を口にすることすらできない。加害者の側もそういった弱みに付け込みエスカレートする。

また法律や基本計画に書き込まれるだけではだめで、実態に即した運用がなされるようにしないといけない、といった趣旨の発言をした。発言者の中で、障害者のことに触れた人は他には一人もいなかったというのと、この問題に関心を持って集会に来られた議員の名前には、障害関係で聴いたことのある議員も多かったからである。私の発言は最後のほうだったので、最初にあいさつした議員が最後までいたとは考えにくいが、それでも秘書の参加などはあったように聞いている。

法整備の見直しが検討されているこの時期に、意見書をだすなど声をあげ、障害のある人も救済されるしくみにしていくことが今後求められる。

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