精神障害者

【2015年を展望する(『福祉新聞』1/5号より転載)】 ~ 地域移行 ~ 入院患者を主人公に ~

【2015年を展望する(『福祉新聞』1/5号より転載)】

~ 地域移行 ~ 入院患者を主人公に ~

山本深雪(認定NPO法人大阪精神医療人権センター副代表)

 

2004年に国の「精神医療保健福祉のビジョン」が出来て10年がたつ。受け入れ条件が整えば退院可能な約7万人の社会的入院を10年後に解消するという政策目標だったが、ほど遠い。14年には改めて地域移行策が議論されたが、データや検証は乏しい。

約20万人いる長期入院精神障害者の地域移行を本気で進めるにはどうすべきか、何が欠けていたのか、議論し直して欲しい。

その際に指摘したいのは、議論の基礎になる国の患者調査のデータは医師の主観で変動するという問題だ。

主治医が「この人は地域で暮らせる」と見る数が少なければ、社会的入院の数は低く見積もられ、障害福祉計画で見積もられる地域に必要なグループホームなどの数や予算も連動して減ってしまう。医師の物差しではなく、患者を主人公にした物差しに換えないと、あるべき政策の姿にはならない。

そもそも国は1960年代に精神病床をどんどん増やし、民間の精神科病院に患者を閉じ込めた。患者に対する医師数は他科と比べて少なくて良いという診療報酬上の差別も解消されていない。

歴史を踏まえ、「無策のまま閉じ込めてきてごめんなさい」という想いから政策を発想して欲しい。医師数に見合った病棟数に削減する計画が必要だ。

当センターは1997年から、大阪府内の全精神科病院を訪問し入院患者の声を聞くとともに、病院に療養環境の改善を求める活動をしている。私は入院体験者として活動し、入院患者から「話しを聞いて欲しい」「さみしい」という声をよく聞く。ホームヘルプサービスやグループホームなど、退院後の生活をイメージできる制度の情報も伝わっていない。

入院患者から「本当は退院したい」という声が出てくるのは、「あきらめなくても良いのかな」と思えた時。つらい体験をした者同士が出会い、なごみ、扉の開く瞬間がある。

重要なのは、利害関係がなく、家族でもない、外部の第三者が関わること。こうした活動は全国でもやれると思うし、この事業に予算を付け施策化するくらいの評価があって良いと思う。また地域のソーシャルワーカーはもっと病院へ出向き、入院患者と顔の見える関係になって欲しい。

まず、患者の声を聞き、人間として対応すること。医療計画に病床削減数と職員数の数値目標を盛り込むこと。障害者権利条約を批准した以上、「他の者との平等」が本筋だ。

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