国/県の制度 新聞記事から

【生活保護】 生活保護制度のここしばらくの動きに関して

【生活保護】 生活保護制度のここしばらくの動きに関して

野崎泰伸(障問連事務局)

10月の記事から、ここではとくに生活保護関連のニュースをいくつか抜き出してご紹介します。

まずは「生活保護費の住宅扶助、引き下げも 厚労省が年内に結論」という記事があります。「一般の低所得世帯の家賃より高い」という理由で、生活保護費の住宅扶助を引き下げる議論が、財務省でなされはじめました。けっして少なくはない障害者の生活と生活保護というのは、言うまでもなく不可分な関係にありますので、注目せざるを得ない事柄です。

この厚労省の議論ですが、生活保護問題対策全国会議が10月28日に開いた記者会見において、事実とは異なっていたり、恣意的な解釈をしたりしていることを指摘されています(記事のソースはみわよしこ「取材記録:生活保護問題対策全国会議 記者会見(2014年10月28日 於:厚生労働省)」(*)によります)。それによると、物価は下落せず、むしろ上昇していること、厚労省は面積基準などを挙げ住宅扶助の削減を言うが、生活保護受給者の住宅環境は劣悪であること、家賃は横ばい状態あるいは上昇傾向にあることなどが指摘されています。それらの理由から、住宅扶助を切り下げる必然性などどこにもないことが主張されています。

度重なる生活保護の切り下げ方針に追随するような記事も散見されます。神戸新聞には、神戸市における「生活保護費の不正受給、5年で20億」という記事の掲載もありましたが(10/4)、事実そうであるとしても、こうした時期にこのような報道がなされることは、生活保護制度利用者に対するさらなる圧迫を強いることになると思わざるを得ません。不正受給の告発よりも、生活保護の捕捉率を上げることのほうが重要であることは、方々で指摘されています。また、「“生活保護打ち切り理由は書面明記必要”最高裁」という記事ですが、最高裁の判決は常識的であるとしても、京都市行政が、指示書にも書かれていない車の処分を求め、制度利用者側が拒否したところ、生活保護を打ち切ったケースは、あってはならないことのはずです。さらに、「生活保護者に後発薬…「医療扶助費」圧縮へ」の記事へと続けば、いよいよ生活保護制度を利用している人から、医療費を抑えさせるような政策へと移行するのかと思わざるを得ません。ジェネリック医療薬は、自由な選択が可能な人たちが、そのもとで使うか使わないかの機会を選べるようにするべきであって、「生活保護を受けているなら、安価な薬でかまわない」というような差別的な風潮を起こさせるなら、問題であると言えるでしょう。和歌山では、生活保護の減額が憲法違反だとして裁判が開始された模様です。岡山や滋賀でも、同様の裁判がはじまりました。

いずれにせよ、生活保護制度の改悪をこれ以上許してはならないと思います。

(*) http://bylines.news.yahoo.co.jp/miwayoshiko/20141028-00040331/

 

 

■生活保護費の住宅扶助、引き下げも 厚労省が年内に結論

朝日新聞デジタル 2014年10月22日02時51分

http://www.asahi.com/articles/ASGBP5Q87GBPUTFL00D.html

 

生活保護費のうち家賃として支払う「住宅扶助」の基準について、厚生労働省が引き下げも視野に見直しの議論を始めた。一般の低所得世帯の家賃より高いとの指摘があるためだが、懸念も広がる。年内に議論をまとめ、来年度から実施する方針だ。

住宅扶助は、地域や世帯の人数などに応じて上限額が決まっている。この範囲内で家賃などの実費を支給する。最も基準が高い東京23区や横浜市などの単身 世帯で言えば、月5万3700円が上限だ。財務省は全国消費実態調査をもとに「一般の低所得世帯の家賃より2割ほど高い」と指摘し、見直しを迫っている。

背景には、生活保護費の増加がある。7月時点で生活保護を受けている世帯は約160万9千世帯で、09年度より26%増加。安倍政権はすでに、物価下落 などを理由に生活保護費の生活費部分(生活扶助)の大幅な切り下げを決定。昨年8月から来年4月までの3段階で計6・5%分の減額を進めている。住宅扶助 見直しはこれに続くものだ。

厚労省は今回、約10万の受給世帯の住まいの実態を調査。21日の社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の部会に、暫定的な集計結果などを示した。単身世帯で言うと、国が最低基準と定める面積(原則25平方メートル)や設備を満たす民間賃貸住宅(UR賃貸住宅含む)のうち、家賃が安いほうから13%の部屋 には生活保護基準で住めることがわかった。今後、この水準の妥当性などを検討する。

ただ、そもそも面積などの最低基準を満たさない部屋に住む受給世帯が約7割いる。審議会では委員から「全体の質を上げないといけない。(一般世帯の家賃 と)軽々に比較はできない」との慎重意見も。支援団体からは、厳しい低所得層の生活にあわせて国の最低保障基準を切り下げていく手法に批判がでている。

一方、厚労省は冬に暖房の燃料代などを上乗せする「冬季加算」の見直しも進める。11~3月に上乗せして支給される冬季加算は、実際の光熱費に対応していないとの批判があり、今後地域区分の見直しなどを検討していく考えだ。(中村靖三郎)

 

 


■“生活保護打ち切り理由は書面明記必要”最高裁

NHK News Web 10月23日 19時27分

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20141023/k10015644841000.html

 

生活保護の受給者が行政側が口頭で求めた指示に応じなかったことを理由に保護を打ち切ったことを巡る裁判で、最高裁判所は「受給者への指示は書面で伝えなければならず、書面に書かれていない指示を打ち切りの理由にできない」という判断を示しました。

京都市は6年前、生活保護を受給していた男性に対し「仕事の収入を月額11万円まで増やせ」と書いた「指示書」を渡したうえで、実際には口頭で求めていた所有する車の処分に応じなかったことなどを理由に生活保護を打ち切りました。

これに対し、男性は裁判を起こし、「車の処分は指示書に書かれておらず、打ち切りは不当だ」と主張していました。

これについて、最高裁判所第1小法廷の櫻井龍子裁判長は23日の判決で、「事前に指示書を交付するのは行政の恣意的(しいてき)な運用を抑制し、受給者が指示の内容を理解しないまま不利益な処分を受けるのを防ぐためだ。指示書に書かれていないことを生活保護を打ち切る理由にはできない」と判断し、男性の訴えを退けた2審に審理のやり直しを命じました。

生活保護の受給世帯数が過去最高を更新するなか、受給者の自立を促すことは行政の大きな課題となっていますが、23日の判決は、自立が見込めると判断した受給者には事前に書面という明確な形で指示を伝える必要性を示すものとなりました。

最高裁判所が審理のやり直しを命じたことを受けて男性側の石側亮太弁護士は「最高裁の判断は常識的で生活保護行政に与える影響は大きいと思う。実現不可能なことを求める行政に対して警鐘を鳴らすもので、やり直しの裁判では適切な判決になると確信している」と話しました。

◆生活保護の「指示書」とは

今回の裁判で問題となった「指示書」は行政側が自立が見込めると判断した受給者に収入を増やしたり生活の仕方を改善したりするよう指導するために渡す文書です。

その内容に従わなかったり、努力が見られなかったりした受給者に対しては生活保護の打ち切りや支給額の変更をすることができます。

厚生労働省によりますと、平成24年度に全国で4万444枚の指示書が受給者やその世帯に交付され、このうち3916世帯で生活保護が打ち切られたということです。

 

■生活保護者に後発薬…「医療扶助費」圧縮へ

読売新聞オンライン 2014年10月24日 07時34分

http://www.yomiuri.co.jp/economy/20141023-OYT1T50118.html

 

財務省は、生活保護受給者の医療に充てる「医療扶助費」を2015年度予算編成で見直し、処方する薬を価格の安い後発医薬品(ジェネリック)に切り替えることで約500億円の圧縮を図る方針を固めた。

27日の財政制度等審議会(財務相の諮問機関)で見直し案を示し、厚生労働省との折衝に入る。

生活が困窮している人に支給する生活保護費は12年度で約3・6兆円に上り、受給者は最多の約216万人(昨年10月末時点)に達している。受給者の医療にかかる費用は公費である医療扶助費で全額負担される。12年度は1・7兆円で、生活保護費の約半分を占めた。

後発医薬品は、特許切れの医薬品と成分や安全性が同等で、値段が安いのが特徴だ。現在、医療扶助の対象では48%しか使われていないが、財務省は全て後発医薬品に切り替えることで、医薬品にかかる費用を920億円から420億円程度に圧縮できると試算している。

■生活保護費:減額取り消しを 受給者9人、国と和歌山市提訴 /和歌山

毎日新聞 2014年10月28日 地方版

http://mainichi.jp/area/wakayama/news/20141028ddlk30040489000c.html

 

昨年8月に始まった生活保護費引き下げは生存権を保障した憲法25条に反するとして、和歌山市内の受給者の男女9人が27日、国と和歌山市を相手取り、減額取り消しと、1人あたり5万円の国家賠償を求める訴えを和歌山地裁に起こした。原告側弁護団によると、同様の訴訟は全国10例目で、近畿地方では初という。

国は生活保護のうち生活費に充てる生活扶助について、昨年8月、今年4月、来年4月の3段階で平均6・5%、総額670億円を減らす方針。和歌山市は国の方針に沿って保護費を算定している。

原告は41~78歳。訴状などによると、国が引き下げの根拠とした物価指数について「電化製品の下落が過大に評価され、生活保護世帯の消費実態とはかけ離れたもの」と指摘。保護費を引き下げられた原告の暮らしは「最低限度の生活を営むことができないような水準」と主張している。

同市福祉事務所は「訴状が届いていないので、訴状の内容を確認した上で対応していく」とコメントを出し、厚生労働省担当者は「引き下げの適正さを裁判で主張していく」と話した。【倉沢仁志】

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