精神障害者

【精神障害】 病棟転換型居住施設問題について

【精神障害】 病棟転換型居住施設問題について

障問連事務局

ご存知のように、厚労省「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会」は、病棟転換型居住施設という名の「地域移行」を、基本合意してしまいました。今回改めて、その問題点について考えてみるために、以下の山本深雪さんの文章を転載したいと思います。

大阪精神医療人権センター発行『人権センターニュース』117号より、以下のブログでも読めます。

http://blog.canpan.info/advocacy-osaka/archive/559

 

長期入院の問題を患者のせいにするな!

 

5月12日、厚生労働省で開催された「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会(第2回)」ヒアリングに当センター事務局長の山本深雪が呼ばれ、発言をしてきました。議題は「退院意欲の喚起、本人意向に沿った支援等に関するヒアリング」となっていました。

 

会議での発言内容(概要)

 

 

■退院支援意欲の喚起

「退院意欲の喚起」という言葉は、入院されている方に失礼ではないかと思います。それは入院している立場である私だったかもしれない方、それをAさんとしてみると、Aさんは「お願いですから家に帰らせてください」と何度訴えられたことでしょう。何度扉を叩かれたことでしょう。その上で、何度戒められたことでしょう。その度に薬や注射が増えるということを体で学び身に付けていかれたことでしょう。そういう時間の経過の中で、訴えなくなることを医療従事者の方々は「沈静」と評価されてきたのではないでしょうか。刺激を避けることを良しとし、情報を遮断し続ける環境が提供されてきたのではないでしょうか。

私は、こうした退院を懇願した経験のある方が、検討会の委員の中で半数を占めていない状況があることに少し違和感を持っています。

大きな問題の解決を、患者さんの「退院意欲の喚起」に帰結していいとは思いません。国、あるいは病院、地域社会に向けた「退院支援意欲の喚起」が、本質的な焦点ではなかろうかと思います。

病床を削減して、仮設ではない、プライバシーの守られる、住居だと思える場所の提供が必要です。地域住民の一人としての暮らしを保障していただきたいと思います。

入院している空間の中では、持てないこと、してはいけないこと、たくさんの禁止事項がありました。その中で「退院できないんだよ。あんたは今はそういう時期ではないんだよ」ということを何年、何十年と言われ続けてきた方々に、「今は違うんだよ、すまんかったな」とお伝えしていただきたいです。そして「これから退院してあなたらしい暮らしを作っていこうね」という声かけを、時間をかけて、本人がそういう気持ちになっていくような関わりをきちんとしていくことが必要だと思います。

さらに、これまで退院できない理由として、そのための説得として使われてきた「家族が退院には賛成してくれないよね」「グループホームは今は空いていないからね」等のことに対して、予算計上が不可決だと思います。

 

■まだできることがある

この検討会の議論の中で、一部委員の方から、「地域移行が進んでいない」「残された時間がない」との発言がありました。しかしこれらは、病棟転換型居住系施設を認めるための根拠にはなりません。

病院の中でスタッフの働きかけとしてできることはしたと言える状況でしょうか。さらに、地域においてできることはしたと言える状況でしょうか。私たちの目から見れば、病院間格差が非常に大きくあります。地域間格差もとても大きくあります。また、地域コンフリクトの状況で、グループホームの建設反対運動などに手を付けられないまま時間が流れてきていることなどが先決課題です。

平均在院日数が33日という病院もあれば2,500日を超える病院というのもあります。果たして、毎年ある「(病院での)2万人の死」と言われるのはどこで起きているのでしょうか。これまでの退院支援員が多く活動してきた市町村でしょうか。

病棟転換により、「入院患者が減った」という数値をつくることはできるでしょう。病床削減指針も乗切れるでしょう。でも、その流れでいくと、これまでの「2万人の死」と言われるものは、「2万人の死」のまま続くことでしょう。こうした課題に対する近道はない。退院を支えていく本当の地域生活支援の人手への予算計上こそが、着実な成功の道であると思っています。

 

■すぐにすべきこと

本当の地域での暮らしを実現させていくために必要なことは、ご本人の不安の声に寄り添う人手、まだまだ足りていない地域生活支援に必要な人員に予算配分をすることです。地域移行と定着支援事業の人材を確保できるようにすることです。

長期入院の方の退院支援については、長年、検討されてきています。しかし、必要なこと、具体的にはソーシャルワーカーやリハビリの支援のための人手。あるいはグループホームなどの人件費等に安定した予算が付けられてきませんでした。また精神障害者の特性として、サービスを利用する時と利用したくないと思う時の波があるという、障害の特性を理解した予算措置がされてきていないことも、支援センター等の利用数が思ったように伸びなかったことの背景としてあります。

精神障害者のホームヘルプサービス、グループホームなどの退院後を支えるサービスがより手厚くなること。そして、同じ病の体験や境遇を共有しているピアサポーターの関わりを継続して、充実させていく施策が必要です。これまで長期の入院により、退院後の暮らし、地域で暮らすことに対して自信が持てないと感じている不安の声を出しておられる患者さんが、人として地域で暮らしていくための自信を取り戻していく。そういう支援こそが充実させていかなくてはいけないと思います。

そうした問題を放置し、棚上げにしたままで病棟を住む場にすることでは、それは退院でも、地域移行でもない。やはり、利用者から見れば隔離と地域生活から閉ざされた場所での収容の延長線にある。そのことに国の予算が使われていくとすれば、それは1960年代に歩んだ同じ過ちの道に踏み出していくことにつながると強く感じています。

 

■病棟転換型居住系施設は反対です

医療機関というのは、地域社会の1つの社会資源です。病院敷地内での暮らしというのは、病院での暮らしであって、地域生活ではありません。病院は病気の治療の場です。

私たちは、地域生活というのは病者や障害者だけではない、あるいは施設職員だけに限定されない、様々な年齢の方、幼な子や高齢の方まで、そして属性も様々な方が住んでいる多様な住民世帯が生活する場での暮らしを求めています。

その上で、世界に障害者権利条約の批准を表明した日本ですので、有識者の代表が集まられているこの場で、院内退院という形を選択することがないように願っております。

 

■意見が言えない訳がある

長期入院の方とお話をしていると、「本当は退院したいんです」と言われます。「退院したいんです」とストレートに言わずに、「本当は」と言葉を付けなければいけなかった背景には何があるのでしょうか。

また、長期入院の方とお話をしていると、「退院が不安だ、このまま病院にいたい」という声を聞くこともあります。それらの理由を伺っていると、職員に対して、患者から相談をしていくという関係が築かれていないことが伝わってきます。聞くと「薬が増えるから」とおっしゃいます。また、「家族と暮らすんだ」という答えもとても多く聞かれます。それ以外にも方法があることを御存じでないことが伝わってきます。お金がないということもよく聞きます。そのためには生活保護や年金という制度があることも伝わっていないことも多いです。食事の心配もよくされています。それらには、地域活動支援センター、グループホームやホームヘルパーなどの社会資源や、お店で買うことができるような世の中になっていることを御存じでない方がおられます。

あるいは入院に至った家族との関係、近隣の関係のごみ出しなどに伴うトラブルを恐れる声も聞こえます。そうした日常生活に関する事柄も、ヘルパーさんに頼めることも伝わっていないんだなと思うことが多くあります。地域でのサービスの中身を知らない状態、情報を遮断された状態で、病棟で過ごしておられることが伝わってきます。

これらの話を聞いている中で、一人一人の患者さんに対して継続して関われる利害関係のない、医療従事者ではない、地域の第三者の権利擁護者の関わりがとても大事だと実感してきました。

 

■大阪での精神科病棟への訪問活動について

配布資料には、病院とのやり取りで変わってきた事柄を記載しています。例えば、「職員の名前や写真を掲示していただきたい」と伝えました。そのことに対して、病院から「詰所前に職員の写真と名前を掲示します」「担当医師の写真も掲示しました」というお返事がありました。

また、「退院のための相談窓口をきちんとしてほしい」「情報提供をきちんとしていただきたい」と伝えた際には、病院から「常勤の精神保健福祉士はより増員を図りたい」「地域の社会資源についての情報提供が病棟でできていなかったので、それらをできるよう努めてまいりたい。将来的に数字目標を上げながら、退院に向けての取組を行っていくという議論を行っています。退院の話をはぐらかされていると感じている患者さんの声をすくい上げられるような看護。生活支援を行っていけるよう、それらの内容を研修しながら検討して、職員の間に周知徹底していけるような機会を持つようにしていきたい」とのお返事でした。

大阪では、外部の訪問者と病院とのやり取りがこのようになされています。こうした活動が全国においてなされることを望んでいます。

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