聴覚障害

【聴覚障害】 「手話言語条例」について

【聴覚障害】 「手話言語条例」について

自立生活センター神戸Beすけっと 松本誠

 

近畿で初、篠山市は、耳の不自由な人が暮らしやすい地域社会の実現を目指す「手話言語条例」を制定する方針を固め、5月28日には、有識者や聴覚障害者、手話通訳者らでつくる条例検討委員会が発足しました。まだ検討を始めたばかりですので、どのような条例になるのか、今のところはまだわかりません。

しかし、先立って制定された各地の条例からみると、「手話が言語であること」を確認し、「手話の普及に関し、自治体及び住民の責務及び役割を明らか」にするとともに、「ろう者とろう者以外の者が共生することのできる地域社会を実現すること」を目的とする内容になることは、ほぼ間違いないと考えられます。そこで、今回はこの内容に沿って検討してみます。

日本ではまだ、手話は法的には、言語として公式には認められていません。大まかに言うと、これを、公式言語として、認めてもらおうというのが、手話言語法制定に向けての動きです。

それに先駆け、現在、鳥取県や、石狩市、松阪市など、全国の各自治体では、「手話言語条例」が、採択され始め、手話やろう者を取り巻く環境も、少しずつ、変わり始めています。

2011年3月11日の震災報道以来、政府の報道会見に手話通訳もつくなどして、その存在が、より多くの人の目に触れるようになり、当時の官房長官が、「政府としては、手話を一つの『言語』として認めたい。」と、公の場での発言したこともあり、少しずつ、理解の輪も広がり、「手話は言語ではない」なんて言う人は、だんだん減ってきています。

この手話言語法が正式に制定されると、私は、教育現場が、大きく変わると思います。

現在、ろう学校(聴覚障害児対象の特別支援校)では、すべての先生が、手話ができるわけではありませんので、聞こえない子供たちが、必ずしも良質の手話による授業を100%受けているわけではありません。法の整備によって、この、学校内の手話環境が、ずっと良くなってくると思います。先生方に、『よい手話』が義務付けられることで、聴こえない子供たちが、手話で学べる場が、確保される方向へ向かうと思われます。

また、全国のろう学校では、現時点、「手話」という科目を、カリキュラム中に取り入れているところも、ごく少数です。日本人である私たちは、日本語を「国語」として学ぶ必須科目があり、誰もがその授業を受けますが、ろう学校の子供たちには、「手話」の文法や話し方を学ぶ科目が、文部省の正式カリキュラムの中にありません。こうした点も、手話言語法の制定で、子供たちが、より良い「手話」を、自分たちこそが、学べる環境へと、変わってくる可能性が高まると、考えます。

次に、最も大切な「ろう者とそれ以外の者の共生」について考えてみましょう。コミュニケーションの話である以上、ここでいう「共生」とは、基本的にはコミュニケーションツールの共有と習得を意味するものと考えられます。そして、仮に、ろう者が口話法の習得を強制されるのであれば、これは「ろう者」の側が「ろう者以外の者」のコミュニケーションツールの習得を強要されることを意味します。

しかし、改正障害者基本法や各地の条例はそのような態度を取っておらず、手話の使用しやすい環境の整備や、手話の普及に向けた取り組みを国や各自治体に求めています。これは、住民の側からみれば、「ろう者以外の者」が「ろう者」の方に歩み寄ってコミュニケーションを構築する努力をすることを意味します。

日本国憲法の理念「個人の尊重」(憲法第13条)とは、人をそのまま、ありのまま受け入れることをいいます。そして、それは言いかえると、多様な選択肢を社会でコストをかけて用意することです。特に身体の障害というのは、一定の割合で必ず出現するともいわれており、そうであれば、これを平準化するためのコストは、社会で負担するのに適したコストであるともいえます。

その意味では、「ろう者以外の者」にほんの少しの負担と配慮を求める手話言語条例は、基本的には憲法の理念に則ったものとして評価すべきであろうと考えています。

この条例のデメリットとしては、手話学習の機会が増えることで指導者不足があらわになると思います。手話でコミュニケーションを取る聴覚当事者でも、聴こえる人に手話を教えることができる人は、ごく少数です。

それに、全国的に手話通訳士が不足しているという問題もあります。建前では、すべての公共の場に手話通訳が設置されることになりますので、個人的に手話通訳を派遣されにくくなる危険もあります。また、手話通訳者も、本業の傍らで通訳を担っている人がほとんどですので、派遣依頼が増えることでの健康被害も懸念されます。

今回の手話言語条例と手話言語法により、手話を教えることができる聴覚当事者と手話通訳士が育ち、ゆくゆくは、これらの課題も次第に改善がなされていくことを期待して、今後の動向を見守っていきたいと思います。

 

 

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■「手話言語法」制定へ請願採択 加東市会常任委

神戸新聞NEXT 2014/9/4 18:30

http://www.kobe-np.co.jp/news/hokuban/201409/0007300630.shtml

 

兵庫県加東市会厚生常任委員会は4日、手話を言語として普及させる「手話言語法(仮称)」の制定に向け、同市会が国へ意見書を提出するよう求める請願を、全会一致で採択した。北播磨の市町会委員会で採択は初めて。意見書案は26日の市会定例会本会議で審議、採決される。三木市会と多可町会も今月の定例会で審議する予定。

同法は、手話が音声言語と対等であることを示し、聴覚障害者教育に手話を導入するなどの環境づくり推進を定めるもので、鳥取県や北海道石狩市などで関係条例が制定されている。近年、全国の聴覚障害者団体が地方議会に対し、国へ意見書を提出するよう働き掛けている。

加東市会へは、加東聴覚障害者協会が請願を提出。この日は井上智文会長らが参考人として出席し、意思伝達が難しい聴覚障害者らの実態や、自立した社会生活を送るために同法が必要であることなどを、手話通訳を通じて委員らに訴えた。委員からは「手話が通じないことで不自由を感じることは」といった質問や「受け入れ環境が整わないため、市内の中学生が姫路の学校へ通わざるを得ない例もある。同法は必要」などの意見が出た。

同市会委では通常、参考人らの退席後に議案を採決するが、この日は委員らが参考人らに傍聴を呼び掛けた。井上会長らは委員全員が賛成の挙手をする瞬間を見届け、拍手して採択を喜んだ。 (田中靖浩)

 

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