女性障害者/障害女性

【複合差別】 女性障害者の現状と求めているもの ~森崎里美さん裁判報告会を通して~

【複合差別】

女性障害者の現状と求めているもの ~森崎里美さん裁判報告会を通して~

自立生活センター神戸Beすけっと  藤原 久美子

 

8月31日(日)に里美さんを支える会が主催する『閉ざされた扉を開けるまで~JR西日本セクハラ裁判報告集会~』が開催されました

セクハラ裁判で一審敗訴となった後に関わった池田直樹弁護士からは、障害者権利条約や差別解消法のことにも触れながら、障害者の就労の現実を話されました。この集会には女性団体や労働関係のかたが多いと聞いたので、障害者就労の厳しい状況を知っていただける良い機会になったのではないかと思います。

次に島尾恵理弁護士から、セクハラ裁判じたいの難しさについて話がありました。

アメリカでは裁判官に対し、きちんとジェンダー教育をするというプログラムがあるそうですが、日本にはそのようなものが存在しないそうです。勉強会など開いても、「この人にはぜひ聞いてほしい」という人に限ってこないとか。どこの分野でも同じことが言えるようです。そのため女性側(被害者側)の心理がよくわからないということになり、例えば「迎合メール」を「好意がある」と捉えてしまうことになります。迎合メールは里美さんの裁判でも重要視され、これが決め手となって1審敗訴につながったのですが、職場など特に上下関係のある相手との間において、恐怖から相手に合わせてメールをしてしまうという心理が理解できないのです。

休憩と質疑応答の後、私はDPI女性障害者ネットワークの立場で、「障害者施策からも女性施策からも抜け落ちてしまう障害女性の現状。その理由の一つが表面化しないということ。表面化を阻む理由に、性別クロス集計をしないためデータがないこと、そして女性障害者自身がその困難さを個人の問題として表に出さない、と言うより出せないことだ」と問題提起し、複合差別実態調査報告書のことや、自分の体験も含め発言しました。

データがないことについてですが、実は先日私が凪委員の代理として出席した兵庫県の審議会の安心安全分科会でも指摘しました。すると分科会でだされた実態調査を、再度性別クロスで集計をとりなおしたところ、顕著に差が見られたということでした。このように実態調査の集計方法を変えるだけで、問題が浮き上がってくるのです。

一方、表に出さない、出せない状況について、特に障害のある女性の相談窓口体制は、至急整備されていく必要がある緊急課題です。里美さんは思い悩んだ末一大決心して、JR西日本の上司からセクハラを受けたことを、社内のセクハラ相談窓口に相談しました。でも「誰も聞いてくれなかった」と彼女は言います。これは何もJR西日本だけの問題ではありません。各地にあるDV相談窓口が障害のある女性からの相談を想定しているのか?第3次男女共同参画基本計画では障害のある女性にも言及されていますが、そもそも障害のある女性が相談にくるということを現場の人たちがきちんと認識されているのか、疑問に思うところはたくさんあります。電話応対しか受け付けない、エレベーターがない等々。ある自治体のDV防止計画では相談窓口の広報として「女子トイレの洗面台に点字の案内を置く」といのがありましたが、視覚障害の点字使用者は約1割、しかも点字はそこに点字があるということをあらかじめ知っていなければ、特にトイレは衛生上あちこち触らないのでわかりません。相談の窓口にすら辿り着けない現状があるのです。

実態が伴うためには、やはり当事者参画は欠かせないことなのです。

しかし、様々な負のメッセージを内面化してパワーレスの状況にある女性障害者が、施策の意思決定機関や相談機関の委員として参画していくことは厳しいものがあります。

そこで女性障害者への働きかけの一つとしてBeすけっとでは毎年夏に、「女性障害者のためのピアカウンセリング」を開催しています。

「ピアカウンセリング」はよく「相談」と混同されます。もっとも「カウンセリング」という言葉があるので仕方がないかもしれませんが、その本質は全く違います。また仲間同士の愚痴の言い合い、傷のなめあいとも違います。手法などを書くことはここでは省きますが、相談やおしゃべりと大きく違う事は、『エンパワメント』、つまりその人がもともと持っている力に自分自身が気づき、取り戻していくことにあるのです。

まずは自分たち障害女性が力を取り戻していくことが大切だと思っています、

里美さんは相談窓口で2次被害にも遭いましたが、その悔しさがこの裁判を闘ってきた原点だと、集会の最後のあいさつで語りました。ここで諦めなかったから彼女の問題は表面化し、多くの支援者を集めたのです。

ここにひとりの女性の文章を紹介し、最後にしたいと思います。

「これらの場面では、私は常に一人ぼっちだった。目は見えず、逃げることができず、言葉さえ奪われかけていた。立場は弱く、腕力もなかった。それにもかかわらず、私は持てる知恵と力の全てを使って、いくつもの危機を脱出してきた。私は決して弱くはなく、敗北もしなかった。私を侮り汚そうとした悪意を、力の限り跳ね除けてきたではないかと思えた。理解していただきたいのは、「私たちはこのような弱い立場にいます。保護してください」と伝えたいのではないということだ。どのような現実があったにせよ、私達の多くは、自ら立ち向かってきたのである。今後、明らかにし、解決の道を探るべきは、差別と抑圧の現実である。」

ある障害女性のメッセージから 複合差別実態調査報告書p38

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