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寅さんのパン屋:20年 おう長田の労働者諸君、おめでとう 障害者と奮闘努力の末

寅さんのパン屋:20年 おう長田の労働者諸君、おめでとう 障害者と奮闘努力の末

毎日新聞 2014年04月22日 大阪夕刊

開店20年を迎えた「くららべーかりー」の石倉泰三さん(3列目左)とスタッフや利用者ら=神戸市長田区で 

開店20年を迎えた「くららべーかりー」の石倉泰三さん(3列目左)とスタッフや利用者ら=神戸市長田区で

阪神大震災(1995年)の被災地を舞台とした渥美清さん(96年死去)主演の映画「男はつらいよ 寅 次郎紅の花」で、寅さんが震災ボランティアに励むパン屋のモデルとなった障害者共働作業所「くららべーかりー」(神戸市長田区)が今月、開店20年を迎え た。26日には「お祝い会」が開かれ、映画関係者も出席。幾多の難局を乗り越えた歩みは震災20年を迎える街の復興とも重なり、希望を失わない「寅さん精 神」が店や地域に息づいている。【桜井由紀治】

知的障害の長女(37)を育てる石倉泰三さん(61)、悦子さん(64)夫婦が障害者5人と94年4月、JR新長田駅北側の山吉市場で開店。9カ月後、震災で半壊したが「早くパンを焼こう」と障害者に励まされ、約1カ月後に再開した。

寅さんシリーズ48作目で最終作となった「寅次郎紅の花」は、地域住民らが山田洋次監督に働きかけてロ ケを誘致。悦子さんが書いた「明るく頑張っています」という手紙が決め手になり、「イシクラベーカリー」として登場した。夫婦を漫才師の宮川大助・花子さ んが演じ、95年12月に公開。翌年8月に亡くなった渥美さんの遺作となった。山田監督は手紙や電話などで夫婦と交流を続ける。

山吉市場は復興の区画整理で取り壊され、98年、長田区三番町2に移転。一時は存続の危機もあったが、2011年に生活介護施設も備えた多機能型事業所に移行して利用者を増やし、補助金を得て乗り切った。

泰三さんは困難にぶつかる度に「寅さんならどうするだろう」と考えた。「くよくよすんなよ。何とかならあ」という声が聞こえる気がしたという。

電動車椅子で店に通い、販売を担当する山本聖一さん(35)は重度障害をもち、市営住宅に1人で暮らす。震災翌年に母を、4年前に父も亡くし、姉夫婦宅に身を寄せていたが、泰三さんらの支援で自立。「好きな時間に寝られるし、楽しい」とほほ笑む。

パンは、地元の保育所や小学校、老人ホームなどでも販売している。26日のお祝い会には松竹関係者も出 席予定。山田監督は欠席だが「長年のご苦労に心からの称賛を贈ります。20周年おめでとう。これからも頑張れ」と直筆のはがきが届いている。泰三さんは 「人を思いやり、一緒に頑張ろうと励ます寅さん精神は、今も被災地に生き続けている」と話す。

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