差別問題一般

【裁判報告】改めて人権侵害救済法の制定~ネット上の差別に法規制~を求めます

栗山和久(障問連事務局)

9年前の2012年12月、国会では衆議院の解散、12/16総選挙の結果によれば、民主党政権が危うく政権が変われば、成立間近に控えた障害者差別禁止法がどうなるのか、強い危機感をもって12月9日、私たちは人権シンポジウムを開催した。そのテーマが・・・

「どうなる?? 障害者差別禁止法と人権侵害救済法~国政での動向と地域での取り組み/課題~」

DPI日本会議事務局長(当時)尾上浩二さんと部落解放同盟兵庫県連合会書記長の橋本貴美男さんをゲストに迎え開催した。その案内ビラには、こう記されている。

◆人権侵害救済法とは??

人権擁護に関する法律として、戦前の「全国水平社」から90年の歴史を有する部落解放同盟が長年の悲願として、政府から独立し充分な権限を持ち、差別/人権侵害の被害者が安心して容易に救済を申し立てることができ、迅速に適切な救済措置をとる事ができる人権機関を設置するため、「人権侵害救済法」の制定が求められています。障問連の加盟団体である部落解放同盟兵庫県連合会も尽力され、兵庫県ならびに県下22市19町の議会で同法の早期制定を求める議会決議が行われています。

1975年に発覚した部落地名総鑑事件は全国の被差別部落の地名を調べ上げ、就職差別や結婚差別に利用され、部落出身者が絶望し自死に追い込まれるなどの事件もありながら、国は差別身元調査や就職差別を禁止する必要性は認めながらも法整備はされていません。近年のネット社会の中でも悪質な書き込みが続発しており、また興信所と行政書士が結託して戸籍謄本の不正取得事件も何ら取り締まられることなく放置されています。自分の知らない所で戸籍謄本が勝手に取得され利用されているのです。

現在、障害者差別解消法、部落差別解消推進法がある。しかし国連からも勧告を受け設置が求められている独立した人権機関は設置されず、差別に対する実効性ある規制はされていない。その中、9年前には考えられなかった凄まじい差別がネット上で起き続けている。その一つが、かつての部落地名総鑑をネット上で公表し部落解放同盟役員の方などの氏名・住所までネット上で公表する悪質な差別事件があり、9月27日、その判決が下された。原告の訴えは概ね認められたが、下記社説にあるよう「・・・原告のうち、自らの情報を公表して活動してきた一部の人について、プライバシー侵害が否定」され、「地名リストのうち6県分については公開が禁じられなかった」という極めて不十分な判決であり、原告は控訴する方針。闘いはこれからも続きます。

明らかな差別事件を前にしても、当事者が声を上げることがどれだけ困難なことなのか。相模原事件でも被害者の実名を家族の多くが明かすことはできなかった。現在も、障害者問題において当事者の声が報道されるとネット上で読むに堪えない意見が溢れている。しかし何ら規制されていない。差別する自由などない。

以下、朝日新聞の社説を紹介します。

 

◆(社説)  部落地名裁判 差別許さぬ意思 共有を

朝日新聞(2021年9月29日)

出生地や住む場所で人を差別することを許してはならない。司法の判断を機に、この意思を社会で改めて共有したい。

被差別部落の地名リストをネットに公開し、書籍を出そうとした川崎市の出版社とその運営者に、東京地裁はリストの削除と出版禁止を命じた。部落解放同盟と被差別部落出身の約230人の訴えを大筋で認めた。

焦点は、地名の公表が人権侵害に結びつくかどうかだった。判決は、「個人の住所や本籍地の情報をリストと照合することで、被差別部落とされた地域にあることがわかる」としてプライバシー侵害を広く認定。結婚、就職での差別的な取り扱いや中傷など、重大な被害につながる可能性があるとした。

出版社側は研究や表現の自由をたてに反論したが、運営する男性の挑発的な発信を見ても、リスト公開は差別を受けてきた地域をたださらす行為でしかない。判決が公益目的は認められないとし、男性に賠償を命じたのも当然だろう。

一方、地名リストのうち6県分については公開が禁じられなかった。各地から裁判に加わった原告のうち、自らの情報を公表して活動してきた一部の人について、プライバシー侵害が否定されたためだ。

原告の背後には、名乗り出ることをためらう多くの人たちがいる。それを思うと地裁の判断は納得しがたい。原告側は控訴する方針で、高裁ですべて救済する手立てが探られるべきだ。

出版社側は今回、戦前に作成された「全国部落調査」の復刻版の発刊をうたった。1970年代には、地名リストの図書「部落地名総鑑」を企業などが購入し身元調査などに用いていたことがわかり、社会問題になった。これには政府が図書を回収、焼却して対処してきたが、ネットによる拡散という新たな課題が生じている。

東京法務局は16年、出版社側に掲載中止を「説示」。18年には法務省が各地方法務局に対し、被差別部落の識別情報について「削除要請の対象にすべきだ」と通知した。強制力はないが、通信事業者などの協力も得ながら、一つひとつ対応していく必要がある。

被差別地域の生活環境は、国が02年春まで33年にわたり行った同和対策事業などで、一定程度改善された。しかし、差別や偏見は根強く残っている。

16年末に成立・施行された部落差別解消推進法は、部落差別のない社会の実現をうたう。相談体制や教育・啓発の充実を掲げるが、現に起きている問題にどう生かすか。憲法が定める法の下の平等の実現へ、決意と行動が問われている。

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