事務局より

編集後記

『現代思想』の2019年11月号で、「反出生主義を考える――「生まれてこないほうが良かった」という思想」という特集が組まれました。デイヴィッド・ベネターという哲学者が『生まれてこない方が良かった――存在してしまうことの害悪』(原著2006年)のなかで現代風に提唱しました。生まれた人と生まれなかった人とを比較して、生まれてきたらよいこともあるが悪いこともある、よいことの快楽は悪いことの苦痛より常に小さい、だから生まれないほうが常によい、とする考え方です。ここから派生して、子どもは生まないほうが常によい、人類はゆるやかに滅亡するのが望ましいということが導かれる、としています。自殺に関しては、ベネターは「生きている間の最大の苦痛のひとつ」として否定しています。この考え方自体は古くからあり、日本でも芥川龍之介や太宰治などの小説にも見られます。現在は、ツイッターの「メンヘラカテゴリ」などで話題になっています(このことは人から教わりました)。生きるうえで快楽や苦痛は重要な要素だと思いますが、快苦だけに人生を二分するような考え方は疑問に思いますし、生まれることそのもののよし悪しと生まれてきて経験することのよし悪しとは別物のはずで、「反出生主義」は、さらなる批判的検討が必要ではないか、と思っています。(NZ)

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