【報道】 新聞記事より
■精神障害者 職場広がる 企業の雇用割合、引き上げへ
毎日新聞2018年3月18日 東京朝刊
https://mainichi.jp/articles/20180318/ddm/016/100/043000c
企業に義務付けられている障害者の雇用割合(法定雇用率)が4月から引き上げられる。新たに精神障害者の雇用分も入れて法定雇用率を算出するようになるからだ。身体障害者に比べて安定して働くことの難しい精神障害者。その働く場を広げる取り組みが進んでいる。【鈴木直、下桐実雅子】
◎病院、適職探し支援
東京都八王子市の堀川正志さん(62)は、うつ病を抱えながら都内の大手スーパーに勤める。担当は、前の仕事の経験を生かせるポップ(店内に掲示する販売促進文)づくりやブログの更新。働き始めて5年半がたち、今では趣味の写真の腕前を買われて地域の風景写真のギャラリーも任され、客から好評だ。
「できる仕事は何一つないと思っていた。病気が治ってから就労を考えていたら、いまだに仕事はしていなかっただろう」。堀川さんは笑顔で語る。
49歳でうつ病を発症した。朝、布団から起き上がれず、家に引きこもる日々が5年続いた。「身も心もギプスで固められた感覚」と振り返る。
今の仕事に就いたのは、桜ケ丘記念病院(東京都多摩市)を受診したことがきっかけだった。主治医に「家族を安心させるために仕事に就きたい」と打ち明けると、就労支援を担当する精神保健福祉士、中原さとみさんにつないでくれた。
従来の就労支援は働くための訓練を重視する。だが、同病院は当事者の話を聞いて希望や特性に適した仕事をいち早く探した上で、職場に合わせてきめ細かくサポートする。この方法はIPS(個別就労支援)と呼ばれ、「働くことが回復につながる」という考え方だ。
具体的には、働きたい動機や興味、薬の副作用などを記載する「キャリアプロフィル」をつくり、主治医やスタッフで共有する。職場で必要な配慮を本人と確認し、ハローワークにも同行。履歴書を一緒につくり、面接の練習もする。
堀川さんも毎日の行動記録表をつけて生活リズムを整えていった。職場はハローワークで紹介された。今も月1回通院するが、仕事の進み具合で回復を実感するという。薬も減ってきた。
中原さんは「長所や興味を生かした方が就労を継続しやすい。難しいかなと思う人も、仕事が合えばうまくいく。本人の希望や意思を尊重しながら進めることが大切だ」と話す。
◎日報使い意思疎通
東京都豊島区のテレマーケティング会社「テレコメディア」では22人の障害者が働く。このうち14人が精神障害者だ。
その一人、30歳代のうつ病の女性は昨年5月から働き始めた。人事担当の部署で面接に来た人を案内したり入社する人の書類をチェックしたりしている。
採用が決まった時はうれしさでいっぱいだったが、仕事を始めると、緊張のあまり何を教えられても頭に入らなかった。何も見えず、何も聞こえない。落ち込む日々が続いた。
だが、2~3カ月たったころ、気づいたことがある。何をすればよいか、人に聞かなくても自分が書き留めたノートをみれば分かるようになっていた。
彼女が不安を抱えながら働き続けられたのには「日報」の存在がある。A4判の紙にその日の作業内容や思ったことを書き込む。業務に関係のないことを書いてもよい。
ある日、女性は日報に、こう書いた。「今朝は起きるまでと支度、出かけるまでが時間がかかり、いつもより20分くらい家を出るのが遅くなりました」。仕事に慣れたとはいえ、病状が常に安定しているわけではない。日報はそれを知るきっかけにもなる。
同社コーポレートデザイン本部の伊藤健本部長は「精神障害のある人は、『迷惑を掛けているのではないか』と思い込みがち。自分から話し掛けるのが苦手な人も多い。気軽に日報を書いてもらうことでうまくコミュニケーションを図れている」と話す。
女性がうつ病を発症したのは中学2年のころ。以来、「楽しい記憶」はあまりない。それが、今は休日に趣味のピアノや和太鼓を楽しんでいる。「自分らしさを少し取り戻したような気がします」。柔らかい笑顔で話した。
◎病状不安定、周りの理解必要
厚生労働省の調査によると、2017年6月1日現在で民間企業が雇っている障害者約49万6000人のうち、身体障害者が約33万3000人と7割近くを占める。知的障害者は全体の2割強の約11万2000人、精神障害者は1割の約5万人にとどまる。
現在、法定雇用率は精神障害者を除いて決めているが、企業ごとの障害者雇用率には含めて計算できる。それでも身体障害者の雇用が圧倒的に多いのは、バリアフリー化など職場の環境を整えることで受け入れられるからだ。
これに対し、精神障害の人は病状が不安定なこともあり、継続的に仕事をするのが難しい。だが、障害者雇用を増やしていくために精神障害者の雇用に関心を持つ企業が増えている。
人材サービス大手の「パソナ」東京本社(東京都千代田区)で2月22日、精神障害者の雇用に関するセミナーが開かれた。制度改正を控え、想定を大きく上回る約70人の人事担当者らが参加し、先進企業の事例などに耳を傾けていた。
企業向けに障害者雇用のコンサルティングを行うパソナハートフルの坂口亨東京事業部長は「精神障害の特性を理解し、個性を把握することが大切。精神障害者が働きやすい職場になれば、どの社員も働きやすくなる」と話す。
◎未達成の6割、雇用ゼロ
障害者雇用促進法は事業主(国や自治体なども含む)に対し、一定割合の障害者の雇用を義務付けている。民間企業の法定雇用率(現在2・0%)は4月から2・2%となり、2020年度末までに2・3%まで引き上げられる。対象企業も「従業員50人以上」から広がり、2・3%になれば「43・5人以上」となる。
障害者の雇用者数は03年以降、増加を続けている。その一方で、法定雇用率を達成した企業は半数にとどまる。未達成企業の約6割は一人も雇用していなかった。
■65歳で無償打ち切りは違法 障害者支援法の介護、岡山
産経West 2018.3.14 18:27更新
http://www.sankei.com/west/news/180314/wst1803140077-n1.html
65歳を境として障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)に基づく無償の訪問介護が打ち切られ、介護保険の利用で一部の自己負担が生じたのは不当だとして、岡山市の脳性まひ患者浅田達雄さん(70)が市の決定取り消しなどを求めた訴訟の判決で、岡山地裁は14日、請求を認め、65歳時点にさかのぼって支援法に基づく給付を命じた。
原告側の代理人弁護士によると、介護サービスの給付に関し、介護保険の優先原則を定めた支援法に基づく自治体の運用の是非が争われた初の司法判断。既に厚生労働省は利用者の実情に応じて柔軟に対応するよう通知しており、この内容を追認した形となった。
判決によると、浅田さんはかつて支援法に基づいて月249時間の介護サービスを無償で受けていたが、市は平成25年2月、65歳になるのを理由に打ち切りを決定した。
浅田さんが従来通りの対応を求めたのに対し、市は同年7月に支援法に基づく月153時間の給付を認めたが、十分でなかったため、残る96時間分の給付を介護保険で受け、月1万5千円の自己負担が発生していた。
■知的障害者 再犯を防ごう 福祉関係者ら支援団体、環境作りを重視 研修会や啓発活動に力 /静岡
毎日新聞2018年3月6日 地方版
https://mainichi.jp/articles/20180306/ddl/k22/040/182000c
県内で、罪を犯した知的障害者を支援して、再犯させないことを目指す取り組みが行われている。活動をしているのは、福祉関係者らで作るグループ「静岡トラブルシューターネットワーク」(TSネット)。代表の高木誠一さん(65)は「罪を犯しても寄り添える仕組みを作っていきたい」と話す。【奥山智己】
「罪を犯した障害者のことを詳しく知って、繰り返させない環境を作ることが大事です」。1月下旬、浜松市内で開かれた会合で、高木さんは福祉関係者に訴えた。
法務省が実施した知的障害のある受刑者に関する特別調査(2013年)によると、刑務所の入所回数は平均3・8回。刑務所など矯正施設を出所した障害者らの社会復帰を支えようと、全国各地の「地域生活定着支援センター」は、地域で暮らすための相談などを受けている。しかし、職員数が不足するなどして、更なる支援が必要だという。
高木さんは13年、県内で支援センターの事業を委託されている施設から、知的障害を抱えながら窃盗罪で服役した70代の男性を勤務先の障害者支援施設で引き受けてほしいと頼まれた。この時に、犯罪を繰り返す累犯障害者の存在を強く意識するようになり、再犯を防ぐための支援の必要性を感じた。
福祉関係者とともにその年、TSネットを設立。知的障害者が逮捕された段階から関われるよう、刑事裁判の仕組みや、逮捕された障害者の更生に向けた支援計画の作り方などを学べる研修会を催したり、静岡刑務所を見学したりしてきた。
◎浜松で25日、フォーラム
県弁護士会とも連携し、福祉だけでなく司法の関係者への啓発活動にも力を入れる。今月25日には、一般社団法人「東京TSネット」の弁護士らを招き、浜松市市民協働センター(中区)で「罪に問われた障がいのある人への支援」をテーマにフォーラムを開く。
高木さんは「トラブルシューターと呼ばれる支援者を、一人でも多く育てていきたい」と話している。
フォーラムの参加には、事前の申し込みが必要。参加費は資料代1500円。問い合わせは、フォーラムを共催する浜松インクルージョン研究会事務局の鈴木さん(053・545・7107)。
■災害時の視覚障害者支援を強化 福祉避難所指定へ
神戸新聞NEXT 2018/3/10 05:30
https://www.kobe-np.co.jp/news/akashi/201803/0011053557.shtml
災害時に視覚障害者への支援を強化しようと、兵庫県明石市は東日本大震災から7年となる11日、国立神戸視力障害センター(神戸市西区曙町)と、「福祉避難所」の開設に向けた協定を結ぶ。同市では10施設目となり、目の不自由な人を対象にするのは初めて。避難所に掲示される情報が伝わりにくく、混雑の中では移動が危険な視覚障害者に対し、専門的な知識を生かして対応する。
市は昨年3月11日、地震などの災害が起きると状況把握が難しく、慣れない場所では介助者が必要になる視覚障害者らを対象に、初の避難訓練をした。訓練後の意見交換会で、参加者から福祉避難所設置の要望が出た。
同センターはマッサージやはり・きゅうなどの職業訓練や、歩行、点字、パソコンなどの生活訓練をしている。明石に近く、明石駅からバスを利用して通所する市民も多い。センターは神戸市とも同様の協定を結んでおり、備蓄や避難スペースなどの体制も整っていることから、明石市が協定を申し込んだ。
センターには小型発電機やプロパンガスのコンロ、食料などの備蓄があり、阪神・淡路大震災のときは約20人を受け入れたという。
センターの担当者は「専門性のある施設なので避難者は安心できる。万が一のときは受け入れの役に立ちたい」としている。(藤井伸哉)
◎福祉避難所、直行はNG
明石市の福祉避難所は、国立神戸視力障害センターで10カ所目となる。一方、利用する場合は小中学校など「1次避難所」で市の判断を受けることが必要となるため、直接福祉避難所に向かわないなどの注意が必要だ。
市は市立2施設に加え、社会福祉法人や医療法人の計5法人7施設と協定を締結済み。専門分野に合わせ、介護が必要な高齢者や知的障害者、身体障害者、医療的な措置を要する人らを施設ごとに分けている。
1次避難所は小中学校など42カ所で、空き教室などを活用した「福祉避難室」を設置。配慮が必要な人はまず、ここに避難した上で、保健師やケースワーカーらが聞き取りを行い、必要性や緊急性が高い人を福祉避難所に振り分ける仕組み。熊本地震では、一般の避難者が殺到し、福祉避難所を開設できなくなった自治体もあった。
市は幅広い要配慮者に対応するため、福祉避難所の指定を拡大する方針だ。「各施設と協議を重ね、実効性のある避難所にする。混乱を招かないよう避難の手順なども周知したい」とする。
【福祉避難所】 一般の避難所では生活に支障がある高齢者や妊婦、認知症患者、障害者ら「要配慮者」を受け入れる2次避難所。自治体が福祉施設や公共施設などをあらかじめ指定し、介護や生活支援を担う職員を配置する。長引く避難生活により、阪神・淡路大震災で「震災関連死」が相次いだことなどから必要性が指摘された。2007年の能登半島地震で初めて設置。16年4月の熊本地震では、施設の人員や物資が不足して指定施設の多くが機能せず、課題が浮き彫りになったになった。
■空席あるのに入店拒否 減らない障害者差別
神戸新聞NEXT 2018/4/3 15:00
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201804/0011129044.shtml
障害を理由とした差別的な扱いを禁じた障害者差別解消法の施行後、兵庫県や神戸、姫路、西宮市など計6自治体に障害者らから寄せられた相談のうち、差別の疑いがあり、自治体が事業者や施設に事情を聴いて改善を促すなどしたケースが142件あったことが分かった。同法は1日で施行から2年がたったが、件数は横ばいで、条文が定める「合理的配慮」の浸透には至っていない。(伊田雄馬)
同法は2016年4月に施行。自治体に的確な相談対応や紛争防止・解決に必要な態勢の整備を求める。神戸新聞社の調べでは、3月末現在で県内の中核市以上(4月に中核市に昇格した明石市を含む)の6自治体に寄せられた相談や問い合わせは計600件以上に上る。
法の趣旨などについて問う内容が多かったが、2割程度で差別的な扱いが疑われた。内訳は、兵庫県=24件▽神戸市=59件▽姫路市=8件▽尼崎市=17件▽西宮市=22件▽明石市=12件-だった。
内容は、車いす利用者が飲食店で空席があるのに「満席」と言われ、入店を拒否された▽電動車いす利用者がバスの乗車を断られた▽視覚障害者が銀行で書類の代筆を断られた▽研修を受講する際、手話通訳を依頼したが対応できないと言われた-など。
多くの自治体は内容によって双方から聞き取り調査をするが、罰則はない。姫路市では差別や配慮不足が確認された場合、法律の趣旨を説明し、パンフレットを送って改善を促すが、担当者は「人手や設備など物理的な制約もあり、強くは踏み込めない」と話す。
内閣府障害者政策委員会の委員で、同法の基本方針案作成に携わった筑波大学の柘植雅義教授は「障害者への配慮は『マナー』ではなく、義務を伴う『ルール』。差別が減ったかどうかを市民が監視し、障害者理解の機運を高めていく必要がある」と指摘する。
【障害者差別解消法】障害を理由とした差別の解消を目的に、2013年6月に制定され、16年4月1日に施行された。障害を理由とした差別的な扱いを禁止する。国や自治体に、場面に応じた「合理的配慮」を義務付け、民間事業者にも努力義務として課している。
4月 6, 2018