【優生思想】 優生手術の国賠訴訟と兵庫県における優生手術
野崎泰伸(障問連事務局)
◎戦後日本の優生手術
すでに新聞報道などでご承知の通り、宮城県の障害のある女性が、過去に同意のない優生手術を受けさせられたとして、1月30日に国を相手取り賠償責任を求めて提訴されました。
優生手術とは、生殖腺を取り除かずに、生殖を不能にさせる手術のことで、具体的には精管や卵管をしばって、精子や卵子を通さないようにして、生殖の機能を奪う手術のことです。国の政策としては、ナチス・ドイツが遺伝病子孫予防法に基づいて行なった、障害者・遺伝病者・アルコール依存症患者等に対する強制的な不妊手術が有名です。しかし、日本においても同様のことが行なわれていました。戦後、1948年に国民優生法から優生保護法に変わっても、その目的は「不良な子孫を残さないため」という趣旨のものでした。そうした優生保護法の下で、日本においても障害者等に対する強制的な不妊手術が行われていたことは、一部の人たちには知られた事実でした。優生保護法は、その後約半世紀にわたって存続し、ようやく1996年に母体保護法へと改変され、不良な子孫の出生防止という目的が法律から消えることになります。基本的人権の尊重をうたう日本国憲法のもとですら、こうした差別的な法律が存在し、実際に障害者に対する同意なき不妊手術が行われていたのです。
■不妊手術強制で初提訴=旧優生保護法で人権侵害-宮城の女性、国賠請求・仙台地裁
時事通信社 2018/01/30 12:26
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018013000159
不妊強制手術をめぐる提訴のため、仙台地裁に向かう原告女性の弁護団ら=30日午前、仙台市青葉区
旧優生保護法の下、遺伝性精神疾患を理由に強制不妊手術を受け人権を侵害されたうえ、国が救済措置を怠ったとして、宮城県内の60代女性が30日、国に1100万円の損害賠償を求める訴訟を仙台地裁に起こした。日弁連の意見書では、同法に基づく同意のない不妊手術は全国で約1万6500件確認されている。弁護団長の新里宏二弁護士によると、不妊手術強制をめぐる国家賠償訴訟は全国初。
弁護団によると、女性は15歳の時に遺伝性精神疾患を理由に不妊手術を受けた。県に開示請求した資料から、強制手術だったとみられている。
女性側は訴訟で、不妊を理由に縁談を断られ、結婚の機会も奪われたと訴える。また、1歳の時に受けた別の手術が原因で知的障害になったのに、遺伝性精神疾患と誤診された可能性も指摘。子を産む自由を奪われ、憲法が保障する個人の尊厳や自己決定権を侵害されたと主張する。
また、国連機関から強制不妊手術の被害者に対する救済措置を何度も勧告されたのに国は補償制度の整備などを怠り、立法不作為の過失があったと訴える。
弁護団は2月2日に電話相談窓口を設置。同様の被害を受けた人々による集団訴訟も検討する。
〈続いて、上記の提訴に同行された藤原久美子さんからの報告です)
旧優生保護法国賠提訴に思うこと
藤原久美子(自立生活センター神戸Beすけっと/DPI女性障害者ネットワーク)
2018年1月30日に宮城県在住の60代女性が、国に対する告訴状を提出した。
国内外のメディアでも取り上げられ、ご存知の方も多いと思うので、法律そのものの説明は新聞記事を参照されたい。
私は自分に障害があることで、医者などに中絶を勧められた体験からDPI女性障害者ネットワークのメンバーとして関わるようになり、この強制不妊手術問題が、自身の体験に深く関係のあることだと気付いた。2016年2月に女性差別撤廃条約(CEDAW)の日本政府審査に向けて、『優生手術に対する謝罪を求める会』(求める会)と『SOSHIREN女(わたし)のからだから』のメンバーと共にロビーイングを行った。そこから求める会のメンバーとしても活動するようになって集会で発言したり、厚労省と被害者、支援者との面談にも同席するようになった。
提訴前夜に、原告の佐藤由美さん(仮名)の義理の姉・佐藤路子さん(仮名)を囲んで、求める会の女性たちが集まり、降りしきる雪を横目に翌日の打合せ&壮行会を行っていた。
仙台、東京、大阪そして私は神戸から駆け付け、仙台名物のせり鍋や牛タンなど食べながら、やっとここまでたどり着いた思いと、これからの活動について語り合った。
1997年発足の求める会初期メンバーの人たちは、広島の故・佐々木千津子さん、宮城の飯塚淳子さん(仮名)と出会い20年来この問題に取り組んできた。飯塚さんは家が貧しく学校にも通えず、生活保護を受けていたというが、職親に何も知らされないまま手術を受けさせられた。知的障害がその理由とされたが、彼女は手帳も取得していない。福祉制度の恩恵を受けることもなく、ただ手術を受けさせられただけという悔しさを語る。子供が産めないだけでなく、体調不良にも苦しんできだ。ここ何年かは抗がん剤の影響もあり、何度か交渉に出ることを断念したこともあった。いつも支援者たちに何か食べるものを作ってきて、気遣いをする優しい女性。自分がなぜ、どのようにして手術を受けさせられたのかを独自で調べてきたが、彼女が手術を受けた昭和37年のみ資料がないと言われ、手術を受けたのかどうかも証明できず、裁判も起こせなかった。
2015年6月に日弁連に人権救済を申し立て、2016年3月にはCEDAWから日本政府に対する勧告も出て、NHKでも取り上げられた。放送を見て『義妹が受けさせられた手術と同じ』と知り、飯塚さんを支援したい気持ちで声を上げられたのが路子さん。由美さんの兄と結婚してから同居していて、手術の影響で腹痛に苦しむ由美さんの姿を見てきていた。「犬や猫でももう少しましな傷痕」と、由美さんの体に残る傷を表現するとき、私は同じ女性としていたたまれない気持ちになる。女性の身体は観賞される対象と捉えられ、そこには(男性から)選ばれる存在としての価値観がある。女性と美は切り離されないものとして、巷にはエステや化粧品、美容整形等によるメッセージがあふれている。
最近は男性もその対象になりつつあるが、男性もそういった抑圧を受けるようになっただけであって、女性の抑圧が解放されたわけではない。
「どうせ結婚することも妊娠することもないだろう」そういった差別意識が、施術した医師になかったのか?何も考えず、機械的に手術をしたという事なのだろうか?
そもそも医師法では、健康な身体に傷をつけてはいけないことになっていて、この優生保護法は医師法違反でもあることが今年1月の厚労省との交渉でもでてきていた。しかも由美さんはまだ中学生で、義務教育の就学期間中に行われている。学校もまたそこに加担していたのか?という疑念もぬぐえない。文科省からの出席も求め、この点を指摘したが明確なことはわからなかった。
2016年3月CEDAWの勧告を受けて、国会で福島みずほ議員(社民党)が質問し、厚生労働大臣が「被害者と面談する」と答弁したことで同年4月から始まったこれらの交渉は、当初母体保護法(旧優生保護法の優生条項を削除するなどして改正したもの)を所管する厚労省母子保健局が出席していた。(厚労大臣は未だ面談していない)何度目かの交渉の時、「障害者差別にあたる」と認識したようで、第4回目より障害保健福祉部もでてくるようになった。これまでどうしてこの問題が障害者差別として捉えられなかったのか、私達から見れば遅すぎる感じがする。そして出て来るのはいつも若い担当者ばかりで、また移動などで人も変わってきた。
彼らにすれば、「どうして過去の人たちがやったことを、今自分たちが責められなければならないんだ」という思いなのだろうという事が、物腰の柔らかさや丁寧さの裏にありありとわかる。これが過去の問題ではなく、障害者だけの問題でもなく、全ての今ある、そして未来の命につながっていることがなかなか理解されないもどかしさ。
「当時は適法だった。厳密な手続きを経ていた」と同じような答弁をくりかえすのみ。しかし2017年2月に出た日弁連意見書では憲法に違反することが指摘され、6回に及ぶ交渉の中で、手帳交付要件と優生手術要件の基準が別々に判定され、整合性がないことが発覚し、非常にずさんであったことも明確になってきている。また「国と自治体は対等な立場」と言い続けていたが、マスコミが独自に調査を進め、厚労省から自治体に手術数を競わせるような通達がてきたことも明らかにされてきている。
飯塚さんや由美さんの事例だけでもこれだけの事実が隠されていたことがわかり、おそらく一人一人様々な状況が複雑に絡み合って手術に至っただろうと想像される。
被害者の中には9歳の少女もいることもわかり、彼女にどういう背景があって手術に至ったのか?現在どうしているのかもわからないが、彼女を含む全ての被害者の実態解明がなされ、裁判を起こさなくても真に救済されることを祈りたい。
優生手術は一方で母体保護の目的もあり、善意ともすり替えられてきた。「こんな障害があって、子供なんてできたら大変」と、だからこそ地域ぐるみで、民生委員や施設職員たちが積極的に関わってきた。つい先日もある集会で「施設に住む知的障害の女性がすぐ妊娠してしまう。これ以上中絶させるのはかわいそうだから、不妊手術を受けさせた方がいいのではないか?という職員がいて驚いた」という話があった。人権が、思いやりやマナー、優しさという言葉に置き換えられているうちは、こういうことが繰り返されるのだろうと感じる。私に中絶を勧めた医者も親族も、決して悪意からではなかった。
人々の心に巣食う誤った善意と優生思想にどう取り組んでいくのか?
この裁判により実態が明らかになっていくとともに、それらをどう捉えていくのかが今後問われることになると考える。母体保護法に変わっても、優生保護法の理念が残ってしまっているように、裁判で勝利を勝ち取って終わりではなく、その後の意識がどう変わっていくのか、そして私たちはそこにどう取り組んでいくのかを考え行動していきたいと思っている。
提訴当日、仙台市内では珍しく積雪が残る中、弁護団を先頭に路子さんが作ったピンクのカチューシャを腕に着けた被害者と支援者が仙台地裁に向かった。その後行われた記者会見では、200名収容の弁護士会館の部屋がいっぱいになるほど、各地から報道関係者や支援者が集まった。彼らの報道の成果もあり、その後の進展は目を見張るものがある。この原稿を書いている間にもどんどん新しい報道が舞い込み、全てを終えないほどである。
宮城県知事が「書類がなくても要件を満たせば告訴できる」といった発言をして、飯塚さんも訴訟準備を始めているという。2月2日から弁護団が開設したホットラインには相談電話があり、集団提訴の可能性もでてきた。
超党派で議連を作り、救済法を作る準備もしていく予定とのことだが、強制ではなく同意をした被害者や優生保護法によらない手術、佐々木さんのような放射線照射や、子宮摘出など優生保護法違反にも当たる手術など、すべての優生手術被害者に対してどのような謝罪と救済がされるのかが重要である。例え同意をしていても、本当にどこも悪くない手術を自ら望んでする人がいるだろうか?その背景にどのような圧力が働いていたかも検証され、救済されることを祈りたい。
佐藤さんの第1回目公判が3月28日の10:30から行われることが決まった。傍聴者79名収容の仙台地裁で一番大きな法廷を、支援者やメディアで埋め尽くし、関心の高いことを知らしめて行きたい。
◎全国で次々と明るみに
上記の提訴から、強制不妊手術をめぐる動きがにわかに活発化してきています。なかでも、各地での実態を知ろうとする動きが強く見られます。新聞記事のタイトルの抜粋だけでも、「9歳、10歳児に不妊手術・旧優生保護法の宮城県資料」(東京新聞1/31)、「中絶資料13人分現存・旧優生保護法・千葉と広島に」(東京新聞2/11)、「障害者に禁止レントゲン照射 強制不妊手術で厚生省容認」(京都新聞2/21)、「96年度まで強制不妊目標・北海道・事業方針に手術・人数」(東京新聞2/24)などとなっています。なかでも、北海道においては不妊手術の資料が1129人分も見つかり(東京新聞2/20夕刊)、1956年に道の衛生部が『優生手術(強制)千件突破を顧(かえ)りみて』という冊子をまとめ、「「他府県に比し群を抜き全国第一位の実績」とし、医療、福祉関係者に対して「新しい日本の再建への活路として積極的な協力を切に希望する」と述べ、手術の推進を求めていた」(朝日新聞2/21)とあり、優生手術を称賛していたことが見受けられます。今後、資料が発見されるにつれ、その実態が浮き彫りになってくるものと思われます。
そんななか、ようやく超党派で過去の優生手術の賠償のための議員立法をつくろうとする動きがあったり(毎日新聞2/16)、社民党の党首が過去の優生手術への謝罪を行なったり(毎日新聞2/22)という動きも一方では見られます。当事者や支援者たちの動きに対し、政治も無視できないかたちが作られようとしてきているものと思われ、引き続き当事者サイドの粘り強い運動が必要とされてきます。
◎兵庫県では
兵庫県でも、例にもれず優生手術が行われてきました。以下、年次別の兵庫県で行われた優生手術の実数を示します(優生保護統計、1987年度衛生統計年表)。
遺伝性疾患
昭和35年 5
36年 0
37年 1
38年 2
39年 3
40年 1
41年 0
42年 0
43年 12
44年 7
45年 7
46年 7
47年 1
48年 2
49年 0
50年 8
非遺伝性精神疾患
昭和35年 1
36年 10
37年 0
38年 0
39年 0
40年 1
41年 0
42年 0
43年 15
44年 18
45年 2
46年 7
47年 6
48年 10
49年 3
50年 5
51年 1
52年 2
53年 2
遺伝性疾患というのは、優生保護法第4条、非遺伝性精神疾患というのは、第12条にそれぞれ規定されています。この表には、1979年以降のデータはありませんでした。しかし、以下の新聞記事に掲載のあるように、それ以降も継続的に優生手術が積極的に推進されていたのではないかと推察されます。
とくに兵庫県では、1966年から「不幸な子どもの生まれない施策」を行政自らが展開しており、優生手術の件数はその2年後の1968年から急増しているのには注目すべきかと思われます。一方では障害者に子どもを産むことを許さず、他方では障害児の出生を防ぐ、微妙に異なることではありますが、障害者差別がここにはっきりと浮き出てくるのではないでしょうか。
以下、1989年、いまから約30年前の新聞です。
■優生手術の通知廃止へ 兵庫県 人権問題で「誤解招く」と
神戸新聞 1989年12月12日朝刊
兵庫県は11日、県内の精神薄弱者施設などに配布していた優生手術に関する通知を、廃止する方向で検討することを明らかにした。「手術を推進しているのではないか」との人権上の誤解を招く恐れがあるためで、この日開かれた県議会決算特別委員会で浜崎利澄委員(社会・神戸市須磨区)の質問に答えた。
優生保護法では、精神薄弱者や精神病者に対し「生殖を不能にする」優生手術を認めている。保護者の同意を得たうえで、医師が都道府県の優生保護審査会に申請し、その決定を受け、行う仕組みだが、障害者団体などが人権侵害の疑いがあると指摘している。
県によると、通知は保健環境部長名で「優生手術は法により審査会の決定が必要です」という内容で、昭和三十四年ごろから、申請書などを付けて県下の保健所や精神薄弱者施設、精神病院などに配っている。通知について浜崎委員は「暗に手術を推進しているようにとられかねず、障害者らから反発を招いている」と指摘。
これに対し県は「人権擁護の立場から、みだりに優生手術が行われないよう注意を呼びかけたもので、ここ十年間、審査した実績もなく、効果があった」としながらも「誤解を生み反省している。今後、周知のあり方を検討し直したい」と答え、廃止する方向を示した。
今回の方針について県は「人権上の配慮から、今年は通知文書の内容も変えたが、誤解を生んで残念だ。同法の長い歴史の中で実績が長期間ゼロということも考慮し、通知の所期の目的は達したと考えた」としている。
■配布中止を検討へ 優生手術の申請書 「人権侵害」指摘され
毎日新聞 1989年12月12日朝刊 こうべ版
県はこれまで優生保護法に基づく優生手術をするための申請書を県内の精神薄弱者施設や精神病院などに配っていたが、来年以降は中止の方向で検討することを十一日明らかにした。障害者団体などから人権侵害の疑いがあると指摘されていたもので、この日開かれた県議会決算特別委員会で取り上げられた。
優生保護法によると、精神薄弱者や精神病者に対する優生手術は、医師が保護者の同意を得て都道府県優生保護審査会に審査申請をし、その決定に従うことになっている。県保健環境局の説明によると、昭和三十四年ごろから県の審査会前に県内九十一市町の担当課、二十六カ所の保健所、七十カ所の精神薄弱者施設、四十カ所の精神病院などに申請書、保護義務者の同意書など必要書類一式を配っている。しかし、このことが先月、大阪市で開かれた障害者団体の会合で「優生手術を推進する行為」と批判された。
この日の決算特別委で県は「決して推進目的ではなく、この手術は法令の要件に基づくことを関係者に周知徹底、みだりにされることのないように注意喚起するために配ってきた」と説明。しかし、安井博和・保健環境部長は「様々な問題を提起したことを反省している。今後は十分配慮して対応していきたい」と来年から中止の方向で検討する考えを示した。県内では医師の申請による優生手術は五十三年の二件を最後に実施されていない。
新聞記事にあるように、兵庫県保健環境部長名で、「優生手術の申請について」と題する文書および優生手術申請書・遺伝調査書・健康診断書・同意書を、保健所・精神薄弱者施設・精神病院に、1948年の優生保護法施行以来配布していました。兵庫県議会第215回(1989年12月11日)決算特別委員会において、浜崎利澄委員からの質問に、武田地域保健課長、安井保健環境部長が答える形で明らかになりました(兵庫県議会の議事録は、「議事録検索システム」で検索すれば出てきます。URLは http://www.kensakusystem.jp/hyogopref/index.html です)。
これに対して、障問連は1990年2月2日付けで兵庫県知事あてに「優生手術の申請書配布に関する質問書」を出しています。その概要ですが、1.事実経過について、2.配布文書の内容について、3.配布の意味について、4.優生保護審査会について、5.結果について、6.関連した内容について、それぞれ問いただしたものになっています。
◎優生手術がなくなったとしても
そもそも、強制的な不妊手術は、「不良な子孫の出生の防止」を目的として行われていました。すなわち、障害者や遺伝性の患者などに子どもを産ませないようにすることによって、次代における「不良な子孫」を減らそうとしていたわけです。
いまや、生殖に関する医療技術の進展によって、妊婦のお腹の中の子どもがどのような状態であるか、言い換えれば「不良な子孫」であるかどうかを簡単に調べられる技術があり、それを使えるような方向へ舵がとられるようです。以前には政府や行政の強制が必要であったり、民族衛生的な面を持つ優生手術が必要であったりしましたが、それにとって代わるのが新型出生前診断であると言えるでしょう。そしてそれは女性やカップルの自己決定の名の下に、個人の幸福をうたい文句にしながら喧伝されるため、批判しづらくなっていますが、これは間違いなく新しいタイプの優生思想であると言えるでしょう。
優生手術の核心には、端的に言って障害者差別があります。強制力をもって子どもを産ませないことがその中核ではなく、障害や疾患があれば「不良な生命」であるとし、そうした人たちを産まれないようにさせることにその中核があるのです。たしかに、優生手術は「障害者に産ませない」、出生前診断は「障害児を産まない」と、微妙にニュアンスが異なります。しかし、「障害をもつ生は不良な生命である」とする考えが社会にある限りにおいては、その2つはそれほど違ったことであるとも思えません。また、相模原事件において被告が語ったとされている「障害者は不幸しか作ることができない」というようなことも「社会通念」とされるような現実もあり、そのようなこととも関連すると思われます。
たとえ優生手術がなくなったとしても、障害者の生が障害があることによって疎んじられる現実の中では、形を変えて頭をもたげているのだと言えるでしょう。この、「障害があることによって疎んじられる現実」を変えていくために、みなさんとともに闘っていく必要を感じます。
3月 3, 2018